エポット山に一人の男が落ちた。
彼は滅多に人の話を聞かなかった。
彼は幾つもの名前を持っていた。
時に、逃げ出し。時に、話し合い。時に、助け合う。
時に応援し、時に買い物し、時にドラムになり、時に一番いいのを頼む。
「またPAPYRUSに負けたのか?」「大丈夫だ、問題無い」
あなたの名前は?
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E n o c |
これでいい?
*はい
Loading……
それは雲の上に存在した。
巨大な手のひら……指が六本あるが。
そんな不思議な建造物(?)の上に、男が二人。
「Enoc・・・あー、そんな装備で大丈夫か?」
彼の名はルシフェル。時空を駆ける大天使だ。
「大丈夫だ、問題ない」
そして、Enocと呼ばれた男が自信満々に返事をする。
「………本当か? もっと良いのがあったろう?」
ルシフェルが心配するのも無理はない。Enocの格好は……
「そうか? 僕はこの、シャツ、というものが気に入ったんだ」
青に紫のストライプのシャツ。ジーパン。彼の見事な金髪は何故か茶色に染められている。
「そ、そうか」
この装備()を用意したのが自身ということもあり、説得を諦めるルシフェル。
「あー、まさか気に入るとは思わなかったな。光栄だよ」
皮肉を交え遠回しに『違うのにしろよ』と伝えてみる。……が、このEnoc、至極真面目。
「あぁ、そう言って貰えるなんて、この装備も嬉しがってるさ」
その癖少しばかりユーモアがあるから厄介だった。
「それじゃあ、行ってくる」
「あ、おい」
制止の声も届かず、巨大な手のひらからEnocは飛び降りる。
「……ふっ。人の話を聞かない奴だな」
そして、ルシフェルは指を鳴らす。
「……ここは?」
「おっと、これはしまったな……Enoc、ここはエポット山。一度登ったら降りてくる事は無いと言われている」
「つまり、『知恵』を持ち去った堕天使達が居るかもしれない」
「あー……どうだろうな」
ルシフェルが言葉を濁すが、既にEnocの意思は固まっている。
「よし、行こう」
ストライプのシャツのまま、その山を登り始める。
「『そこに山があるから』、か。……あぁ、気にしないでくれ」
ルシフェルはEnocから少し離れ、携帯電話を取り出す。
「やぁ。……ああ。今のところ順調さ。あいつは人の話を聞かないが……まぁ、良い奴だからな。ん? …………ははは、君には負けるさ。……ああ、もしもの時は何とかする。じゃあ」
通話を切る。周りを見回すが、既にEnocの姿は見当たらない。
「おっと、見失ってしまったか……私には関係無いが、な。Enocが泣き出してしまうかもしれない」
誰かにウインクし、指を鳴らす。
エポット山の山頂。
「ルシフェル、これは……」
「噴火口だな。Enoc、落ちないように――」
「うわっ」
Enocは足を滑らせ落ちていった。
「…………全く、何時になったらあいつは話を聞くんだ?」
四羽の鳥がEnocの後を追うように噴火口の中に飛び込む。
「あれは大天使の……いや、紹介は後にしようか。それに、
そして、指が鳴らされる。
個人的に発想は良かった。ただ、明らかに面倒。悲しいな。