彼は人間で
彼は実験体だった。
彼は五人目だった。
彼は逃げ出した。逃げ切れなかった。
でも、足掻いた。
そんなお話かもしれない。
僕は人間なの?
「いいえ、違うでしょう」
なら、僕は何者なの?
「今は何者でもありません」
僕は生きてるの?
「生かされています」
なら、僕は何のために生きてるの?
「『
僕の名前は?
「ありません」
僕の友達は?
「知りません」
僕は……………………。
「……きなさい。じゅ……だぞ! 起きろ!」
「ん。あ、おはようございます」
「おはようじゃねぇ!」
武骨な先生に拳骨を貰った。うーん、デリシャス………違うか。
「まったく。この授業は卒業試験の実技で試される術なんだぞ! 実技だからと言って座学をおろそかにしていいという訳じゃないからな!」
「はい、すみませんでした」
機械的に言う。
まぁ先生の言う事は分かる。
「で、だ! この『分身の術』は比較的簡単な術……ではあるが、チャクラコントロールが出来てないと上手くいかないからな!」
「せんせー!」
隣の男の子が先生に質問する。
「なんだ?」
「なんで『分身の術』が卒業試験の実技なんですか?」
「ふむ、それはだな。先程も言った通り簡単な術だからだ!」
うーん、と男の子は理解できていないようなので横から口を出す。
「それなら『変化の術』とか『口寄せの術』とか出来るの?」
「え? いやいやいや、どっちも難しい術なんだろ?」
「そうだね。なら火遁、土遁、水遁らへんは?」
「出来るわけ無いだろ!」
「でしょ? なら『分身の術』は?」
「それくらいなら、まぁ」
「そう言うこと」
と、終わりのチャイム。
先生に礼をしてさっさと教室を出ていく。
「んー。つまんない夢を見た気がしたけど」
ま、いっか。
俺の名前は
忍者アカデミーの最高学年。卒業試験が目の前で手招きしている歳だ。
学校を誰よりも早く出て、ふとブランコの方を見る。
今は誰も居ない。誰も座っていない。誰も漕いでいない。
………去年まではあそこに……忌み嫌われし狐、それを身に受け入れた…いや、封印された、忌み人が居たのだけど。
ちらほらと噂は聴こえてくる。
けど、そこに九尾の狐は出てこない。だから、俺も気にしない。
たらたらと歩き始める。
……人工尾獣作製プロジェクト『
俺の存在理由であり、生存理由であり、そして死亡理由にもなる。
内容は簡単、っていうかそのまんま。
『尾獣を人工作製出来れば、そしてそれを
当然、非公式。今の火影である綱手様に知られたら、きっと多分確実に潰される。そんなのは思考するまでもなく分かる。
……ま、どっちにしろ未だに上手く言ってないのだけど。
先生どもは俺が零尾になれると期待しているようだけど、俺としてはそんなこと無いだろう、と思う。
ただ他人より大量のチャクラを保有できただけなんだから。
「ん……」
研究所から指定されている家を通り過ぎる。
「ふっふふふーん♪」
そのまま歩くこと数分。
「ただいま」
火影の住居、その地下。出入り口は外にあるゴミ捨て場の扉。
中に入る。
俺が掃除を欠かさないおかげで、元ゴミ捨て場とは考えられないほどこざっぱりしている。
「水は……おぉ、二日分も溜まってる」
飲み水は上から垂れてくる水滴を集めてどうにかしている。
今日は何時もより多く垂れてきたみたいだ。
焼却炉が隣にあるおかげで比較的暖かい。
そこいらから拾ってきた毛布を集めた布団も上々。誰も入ってきていないみたいだね。
バックを置く。さぁて、分身の術の練習だ。
調べてみたら
うぅむ、考えることは同じか。無念。