唯一にして最大のダンジョン都市オラリオ。
そこで何でも屋を経営している一人のモンスターが居た。
人型だが顔が最悪な彼は、モンスターであることを隠し、今日も金と甘いものを報酬にダンジョン、またはバベルへと急ぐ。
今日は月に一度の相場確認の日。
「おーう、『腐り仮面』久しぶりだな!」
「腐ってない、苔むしてるだけダ」
「似たようなもんだろぅが!」
顔見知りの八百屋にあっはっはと豪快に笑われた。
まあ確かに俺の顔は苔むしてるし腐ってるように見えても仕方無いが、それとこれとは別だ。
「んで、今日は何の用だい?」
「ただの相場確認ダ」
「そうかい。何でも屋ってのは野菜の相場まで覚えなきゃならんのか。あれだな、子持ちの主婦みてぇだ!」
「うるせェ」
軽口を交えつつ相場確認。
「ふーン。全体的に安くはなってる、がなァ。質が悪くなってねえカ?」
「んー? 気のせいだろ。俺は何時もと同じようにしてるぜ」
「そうか、なら良いガ」
りんごを一つ買ってバベルを出て、自分の店に帰る。
オラリオの西の方。
少し古ぼけている木造建築。少し暗めの木材を使用してあり、三角屋根が特徴と言えば特徴か。
看板は無いが、扉に『閉店』と書かれたプレートがかかっているのでかろうじて何かの店だと分かる。
プレートを取って中へ。一つだけ置いてある机……大きめの机の引き出しから『オープン(何でも受け付けます)』と書かれたプレートを取りだし、扉にかけて戻る。
オラリオの『何でも屋』の一つが開店した。
ー ダ ン ま ち ー
俺は『何でも屋』を営んでいる。ちょっとした理由で何処かのファミリアに入る訳にはいかないからな。
その理由ってのは…まぁ、簡単に言えば俺が『異端児』だからだろうな。
ここ、オラリオにはどでかい『ダンジョン』が存在する。
文字通り『ダンジョン』だ。モンスターが大量に住んでいるうえに、無限に湧き出てくる。
んで、『異端児』ってのはその『ダンジョン』で産まれたモンスターの中でも人間のように理知があるモンスターのことを言うらしい。
そう、俺はモンスターだ。正式名称は知らないがな。
けどまぁ、『異端児』ってのは珍しいのかどうなのか、少なくともオラリオの中では見たことが無い。
そもそも俺が本当に『異端児』なのか分からないけど……な。
カランカラン
「いらっしゃイ。ここは……ってなんだ、あんたカ」
「せや。神様自らやってきたんやもっと嬉しそうな顔してもええんやで?」
「イェーイやったぜ金ずるが依頼をもってやってきタ」
「大正解や」
客である神、ロキがポイッと丸めた紙を投げ渡してくる。
「神が紙を投げるってカ? どれどレ」
なんやそれおもし下らないやないかとか聞こえてきた気がしたけどそれどころじゃない。
「おいおい、あんた、これ本気かヨ」
「あぁ」
「あー、ギルドに無いのかヨ」
「あったらそっちで買ってるわ」
「だよなァ」
今回の依頼、楽と言えば楽。面倒と言えば面倒でしかない。
「金は言い値で払うから、よろしゅうな」
「あーはいはイ。明日の正午にここに来てくレ」
しっかし、何でこんなもんが必要なのかねぇ。
紙に書かれた依頼内容。それは、『ミノタウロスの魔石で直径15センチ以上のやつ、頼むで』と書いてあった。
ー オ ラ リ オ ー
服はいつも通り、音がならない生地で出来たもの。
その分耐久性は一切無いが、まぁダメージを喰らわなければ良いだけだし。
その上から薄茶色のフード付きローブを着る。そしてフードを深くかぶる。
ローブの内側には大量のポケットがあり、そのにマイナスドライバーやらナイフやらペンやら店のカギやらなんやらかんやらどうたらこうたら沢山入っている。
それとフードの内側にも左右に二つ、ポケットが付いてる。今回は何も入れてないけど。
後は白の軍手つけて黒のゴムブーツを履いて完了。
まぁ、着替えて無いけどな!
つまりさっきバベルに行った時と同じ格好ってことだ。
仮面? つけてないぜ。…あぁ、苔むしてるとか腐ってるとかが腑に落ちないってか?
あれだ、そもそもの顔が、な。
少し嫌だが、細かく描写するぞ。
顔には皮や肉が無く、頭蓋骨をそのまんま浮き出させた感じ。しかも軽くひび割れてるらしく、緑の苔みたいなのがひびから増殖、今では目と口と……多分耳以外は緑の苔に覆われてる筈だ。
オラリオの人たちは俺がそういう仮面をはめてるものだと思ってくれてるから良いけどな。んじゃなきゃとっくに討伐されてるわ。
さてと、そろそろダンジョンへ行きますか。
ミノタウロスの出現階層ってどのくらいだったかねぇ。
なお神の恩恵を受けていないのでくそ弱い。
弱いのを逆手にとることでダンジョン内では(一人でいるときに限り)安全に進める。勿論例外はあり。
何でも屋……オラリオなら上手くいけばかなり儲かりそうだな。