Fate/DARK Order   作:えんま

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なんか続いた。
とりあえず「ぼくのかんがえたさいきょうのだくそしゅじんこう」を書きたかった、それだけ。




進撃

彼女は突如召喚された、リンカーと名乗った男の慈愛に満ちた言葉で一挙に緊張が解けてしまった。

全身を強張らせていた力が抜け、ヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。

リンカーはまっすぐと魔術王を見据えていた。

若々しくも老いた声音とは裏腹に、その立ち居振る舞いは悠然と、覇気に満ちている。

 

「愚かしくも人類から不死を奪った俗物が、今更のこのこと……」

 

魔術王は憎々しげに口を開いた。

その言葉にリンカーは別段反応を返さなかった。

言葉を返す代わりにリンカーは一歩、前へ踏み出した。

玉藻前は思った。まるで太陽のごとき男だと。まるで底知れぬ深淵のような男だと。

相矛盾するような印象に、彼女は自分自身で困惑した。

 

「おいおい、あいつぁなんだ?まるでゴールデンみてえじゃねえか……だってのに……」

 

とんでもなくヤクいぜ…、と坂田金時は口の中でつぶやいた。

誰もが男の存在感に気圧されていた。

唯一、リンカーと霊的パスの繋がっている彼女だけが、暗くて冷たい、けれど温かな優しさに包まれたような安心感に浸っていた。

 

「おい、てめえ…今人類から不死を奪ったって言いやがったか?」

 

魔術王の言葉にまず反応したのはモードレッドだった。

気圧されながらも、魔術王、リンカーどちらにも警戒をあらわにしながらの言葉だ。

 

「貴様らとて座に至ったならば知っているだろう。この地球(ほし)が始まる前の時代……火の時代を」

 

「火の……時代……?」

 

今戦場に立つサーヴァントの中で唯一デミサーヴァントであるマシュは疑問符を浮かべて魔術王の言葉を反芻した。

だがその他の英霊の反応は知ってはいるが信じられぬ、といったものだ。

 

「座に至ればすべての英霊がその存在を知ることになるのですよ……とは言ってもわたくしたちも半信半疑でしたけど…」

 

マシュの呟きに言葉を返したのは玉藻前だった。

未だ顔には困惑が浮かんでいるものの、魔術王を除いたこの場の誰よりも神秘に造詣が深いのは彼女だ。

その玉藻前の言を引き継ぐように、アンデルセンが口を開いた。

 

「ふん……もとは霧に覆われた灰の時代だったが、はじめての火が起こり差異がもたらされ、火の時代となったんだったか?その間血みどろの戦争なんぞもあったらしいが、全く、どこの三流ファンタジーの設定だとはじめて知った時は思ったものだがな!しかも火の時代に定命だったのは神々の方で、不死なのは人間ときた!不死なんぞ糞食らえ!文字通り死ぬまで書かされるではないか!!」

 

「人間が、不死、ですか……」

 

まるでその言葉を噛み締めるようにマシュはつぶやいた。

 

ー左様……

 

そこで初めて、リンカーが言葉を発した。

 

ー不死とは、すなはち、地獄である

 

その一言には、誰にも異を唱えさせない重さがあった。

だが魔術王はそのようなものに囚われることはなかった。

侮蔑するようにリンカーを見下しながら口を開く。

 

「それで、貴様は己の為した火継ぎに後悔でもしたか、俗物。その復讐に火を消すとは、なんとも愚かしい限りだ」

 

その言葉に、リンカーはかぶりを振った。

 

ー否、我が火継ぎは、正しく我が最大の偉業であり、我が誇りである

 

「なに……?」

 

リンカーは思う。

あの時、己が献身で世界にあまねく存在した人々は安寧を取り戻したはずだと。

神々の庇護は強まり、世界は暖かさに満ち、不死の呪いを発現するものは減っただろう。

それは、きっと正しいことだったと彼は思う。

誇るべきだと。

 

ーだが、火の消えかけていたあの時代、数多の不死の英雄の犠牲の上に成り立っていたあの死に体の時代

火継は延命でしかなく、そして延命は所詮延命でしかない

もはや再びの安寧が得られぬのならば、それ以上の犠牲はただただ無駄死にである

故に、不死人最初の薪として、その責任として、私が終わらせたのだ

火も、闇も超えたその先に、新たな火が芽生えることを信じて

 

リンカーの体から火の粉が舞う。

王たちの化身のソウルさえ飲み込んだ彼のそれは、正しく不死の英雄たちの残り火である。

 

ーたとえすべての薪の王から恨まれようと

それこそが再び蘇った私の使命であったと私は信じる

我が生涯は常に使命に縛られてきたものであったが……

 

リンカーは再び歩みを一歩進めた。

その総身から熱波が迸る。

 

ー我が生涯に一片の後悔も、憎しみもない

 

魔術王はその様を、何の表情も見せずに見つめていた。

そして、突然、表情を一変させた。

まるで、悪鬼のような形相である。

 

「で?だからどうした?貴様が人類に死などという手に余る代物をくれてやった愚行は消えんぞ!」

 

魔術王が4柱の魔神柱に命を下す。

4柱もの魔神柱が、リンカーただ一人に向かって攻撃を繰り出す。

多くの者がそれに焦りを見せた。

実力はわからずとも、せっかくの増援である。

この状況では一騎のサーヴァントを失うことすら惜しい。

誰もがそう考えた時、平静だったのはリンカー本人と、彼のマスターたる彼女のみだった。

 

リンカーが右手を前に出せば、気づけばその手には螺旋の剣ではなく巨大な剣が握られていた。

リンカーはサーヴァントである。

それもアラヤの後押しによって召喚されたサーヴァントだ。

サーヴァントはその英霊の全盛期の姿で召喚される。

彼はアラヤによって、全盛期ではなく、最も彼が強くなる姿で召喚されていた。

火を継いだ英雄としての彼、火継ぎを終わらせた英雄としての彼。

その2つの側面の、両方の全盛期でもって彼は召喚されていたのだ。

彼が取り出した武具は、火継ぎを終わらせた英雄としての彼は持ち得なかったドラゴンウェポン。

灰の湖に座す岩の古竜の尾より作り出されたその特大剣、古竜の大剣。

彼は魔神柱たちの攻撃に対して、その特大剣を両手で大きく振りかぶり、振り下ろした。

瞬間、その刀身に秘められた古竜の力が解放され、力の奔流が地を砕きながら突き進む。

その斬撃は魔神柱たちの攻撃を食い破り、リンカーに進むべき道を開ける。

リンカーはその道を走破しながら、左手にとあるタリスマンを取り出した。

握るだけで、何か熱いものが胸にこみ上げてくるそれ。

 

ーいざ()こう、戦友(とも)よ!

 

かつて幾度となく窮地を救ってくれた、熱く、偉大な戦友の用いたタリスマンを掲げる。

詠唱するは、偉大なりし太陽の光の王の物語。

あまりに早すぎるその詠唱を聞き取るものはその場にはいなかったが、しかし誰もがその物語が、偉大な物語であることを理解できた。

手に握るタリスマンを中心に顕現する長大な雷槍。

それは火の時代の始まり、太陽の光の王が岩の古竜の鱗を穿ったそれの再現である。

そこで再び彼の身を魔神柱の攻撃が襲うも、彼の体は小揺るぎもしなかった。

彼の、そして彼の戦友の、断固たる祈りでもって彼は決してその体勢を崩すことはない。

宝具もかくやと言う神秘を発する雷槍が、渾身の力でもって投擲された。

狙うは魔術王。

リンカーが召喚される以前の戦いでも一切防ぐということをしなかった魔術王がここで初めて防御行動を取った。

魔術王と雷槍の間に魔神柱が2柱、身を滑り込ませる。

雷槍の直撃とともに身を弾けさせる魔神柱。

2柱目の魔神柱が弾け飛んだところで雷槍はその力を失った。

 

「すごい……」

 

マシュは思わず、声をこぼした。

サーヴァント複数がかりでやっと倒せるか否かという敵を、一撃で2柱撃破したのだ。

それだけではない。

魔術王は確かに彼の攻撃を防いだ。

それは逆に言えば、リンカーの攻撃は魔術王に届き得るということ。

今度は魔神柱がリンカーを押し潰さんと全身を振るった。

その時リンカーが担っていたのは、罪の都と呼ばれた国の巨人の王が民を守護するために振るったという大盾。

守るべき民を失った後、その大楯は振るわれなくなったという。

だが……

 

ー今は守るべきもの(マスター)がいるのだ、偉大なる王よ……借りるぞ、この盾を

 

リンカーは全身に力を込めて、魔神柱の体を受け止めた。

リンカーの体から火の粉が散る。

魔術王はその火の粉に、勇猛に雄叫びをあげる巨人の幻影を見た。

明らかな体格差があるにもかかわらず、若干の後退のみでリンカーは踏みとどまる。

そのままリンカーは右手を数多の目がひしめく魔神柱の体に触れさせる。

その右の掌には、すでに呪術の火が宿っている。

彼はその身に宿る、莫大なソウルを糧に、最も禁忌に近い呪術のうちの一つを放った。

魔神柱を食い破り、侵食し、蹂躙したのは黒い炎。

人間性、ダークソウルを持たぬ存在にはまさに心身を蝕む猛毒となる深淵の業。

それを宿した呪術が魔神柱を襲ったのだ。

 

特大剣を振るい、最上位の奇跡を放ち、大盾でもって巨体を受け止め、禁忌に近い呪術を操る。

それらが全て、宝具としてではなく振るわれる。

それを可能にする、リンカーの固有スキル『ソウルの業』。

特筆すべきは、そのランク。

実にA+++。

つまるところ、完全に窮めきっている(ソウルレベルカンスト)ということだ。

 

「ちっ」

 

魔術王が自ら魔術を放った。

その尋常ならざる一撃を、金翼紋章の彫られたブルーシールドで弾いた。

魔法、現代で言う魔術を弾く性質のあるその盾でパリィを行ったのだ。

魔術王の目前まで来たところで、最後の魔神柱がリンカーの前に立ちはだかった。

それは一瞬のことであり、魔術王の魔術に少なからず気を割いていたリンカーは数瞬反応が遅れた。

先ほど雷槍を放つ際にも一度攻撃を受けており、すでにリンカーは深手を負っている。

そこへ、二度目の直撃がリンカーを襲った。

 

「っておい!俺たちは何ボーッと見てんだってんだ!ここであいつが死んじまうのはゴールデンじゃねぇだろ!」

 

金時の言葉に慌てて各々が動き出そうとした時だった。

雄叫びだった。

烈火のごとき雄叫びが、魔神柱の攻撃の奔流の中から迸った。

 

ーこの身はもとより不死

 

左腕はちぎれ飛び、両足も今にも四散しそうな、そんな死に体で、彼はいまだ前進していた。

 

ー痛みなど既に忘却の彼方

 

その双眸は魔神柱を超え、その背後にいるであろう魔術王を見据えている。

 

ーこの心は折れはしない

 

右手に螺旋の剣を、火継ぎの大剣を持ち、高々と掲げる。

彼女は自身を通してカルデアの魔力が大量に彼に供給されているのを理解した。

この感覚は、今までの特異点修正の戦いの中で何度も経験している。

すなはち、宝具の真名解放の前兆。

 

ー貴公、宝具開帳の許可を

 

不思議と、その声は彼女の耳にはっきりと届いた。

彼女は一つ、はっきりと頷き、言った。

 

「やっちゃえリンカー!」

 

その声を聞き届けたリンカーは、火継ぎの大剣に炎を纏わせた。

自身の身に溜め込んだ膨大なソウルを燃料に、火継ぎの大剣を炉心とし、撃ち放つのは世界最古の不死の火継ぎの再現。

彼のその生涯における、最大の偉業の具現。

それは、薪の王になるということが、何を意味するのかを世界で最初に知ることになった不死である彼だからこそ持ちうる宝具である。

全てを焼き尽くし、世界の遍くものを温めた、かの最初の火のごとき炎が螺旋の刀身に宿った。

そして、その火継ぎの大剣は振り下ろされる。

 

ー”王たちに(ザ・ローヅ・ゴー・)玉座なし(ウィズアウト・スローンズ)

 

本来であれば全世界に広がる灼熱が、一方向に向かってのみ収束されて撃ち放たれる。

世界を照らす最初の火の具現は、一瞬で魔神柱を灰にし、地下空間に激震が走る。

その火力は、最大出力では容易く特異点を破壊してしまうために大幅に抑えられているとはいえ、それでも閉鎖空間で解放していいものではなかった。

空気が熱で一斉に膨張し、取り返しのつかないことになりそうになったところで、彼女が慌ててリンカーを止めた。

 

「わー!やめ!やめ!令呪を以って命じますぅ!リンカー!宝具の解放をやめなさーい!!」

 

令呪で。

 

突如として何事もなかったかのように業火の放出が止まった。

リンカーは彼女の方を向くと、それは見事な土下座を果たした。

 

「え、火の時代っていうのにも土下座があるんだ……じゃなくてリンカー!魔術王、魔術王は!?」

 

リンカーはゆっくりと立ち上がると、首を左右に振った。

 

ー直前で逃げられたようだ

 

そう言って指し示すのは、魔術王がこの特異点にやってくるときにも使っていた空間の裂け目。

それでその場にいた全員が、魔術王がリンカーの宝具から逃れたことを悟った。

 

ー無論、無傷ではなかろうが……

 

閉じ行く裂け目を見やるリンカー。

その背には、どこか哀愁が漂っていた。

 

ー無知蒙昧なる者よ……人を滅ぼしたとて、その先にあるのはまた新たな人の誕生であろうに……

何も変わりはせんのだ……死があろうと、死がなかろうと…

 

ゆっくりと彼はその双眸を閉じる。

まぶたの裏に浮かぶのは、長きにわたる旅路の中、出会い、別れて来た者たちの姿だ。

彼らは皆、生きていた。

そしてその果ては、理性なき亡者へ堕すことか、あるいは使命を果たし、灰と帰るかであった。

結局、人はその性質を異にしても、その本質は変わってはいない。

すべからく、自らの終わり()に恐怖し、そしてそれからは逃れられない。

きっと、何度人類を滅ぼしても、何も変わらないのであろう。

あるいは、その因果から逃れる(すべ)を探る探求者もいるかもしれないが、しかし、その目的を果たすのに、その者はどれだけの絶望をその探求に焚べるのか。

 

リンカーは頭を小さく振り、意味のない考えを振り払う。

そして再び、もはや閉じてしまった空間の裂け目のあった虚空を見つめる。

 

ー無知蒙昧なる者よ……その先は地獄だぞ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




宝具の真名はダクソ3オープニングから。
英語を耳で聞いて書いたので、英語に自信ニキで耳コピ間違ってるよ!って人は連絡よろしくお願いします。
あえてダクソ無印の主人公の偉業なのに3のキャッチコピー使ってます。
多分あの言葉の意味を誰よりも早く、正確に理解できるのはダクソ無印主人公だと思う。
使命使命言われて最初の火の炉行ったら燃えかすおじさんと一騎打ちして勝ったら薪とか、それまでの旅は一体何のために、ってなるでしょ。
不死の呪い解きたかったのにって。
それでもそれを誇ってる主人公を書きたかった所存。

多分、ソロモンがやろうとしてることと、ダクソ3主人公の火継ぎ終わりエンドって大体やってること同じじゃないかな?って思うんだよね。
一つの時代というか、もはや世界を終わらせてるじゃん、あれ。
結局、ダクソ世界も今の世界も誰かを犠牲にして回ってるのは変わらないんじゃないかな、とか、よくよく考えると不死人も今の人間も変わんないじゃんとか色々思ったから、エミヤさんリスペクトでその先は地獄だぞって言わせました。
それでも本作主人公は現代を生きる人間が大好きだよ、だって息子娘みたいなもんだし?え?違う?

大人数のキャラを回すのにはちょっと力不足感が否めない。
いや、台本形式みたいになっていいなら喋らせられるんだろうけど……難しいなぁ。


誰か自分の他にもダクソ2が一番好きって人はいないかな。なんか不評だよね。
自分は特にクズ底が好きだったんだけど……誰か同じように思ってる人いないかなあ。

ソロモンに関して、無知蒙昧はおかしくね?とか思うかもだけど、いろんな鯖のソロモン評を見てると、ダクソ主人公(理力99)から見たらこんな感じかなって


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