みなさん気になるじいじとリンカーの邂逅ですが、曲がりなりにも最初の死人であり墓の王を殺してしまっているリンカーは死の化身のようなじいじと会うのを遠慮しました。
力を貸してくれるよう頼みに行くのに、仲が険悪になるのかもしれない要因を排除すべきというリンカー自身の判断です。
ガウェインの空気の刃をハベルの大楯の戦技や呪術の鉄の体でドヤ顔防御するリンカーさんを書こうかと思いましたがやめときました。
カルデアの一行が太陽の騎士ガウェインを降し城を駆け上がっている時だった。
『待つんだ!その先に新たな霊基反応!これは……なんだ?今までに見たこともない反応だ!』
ロマンの声が広間に異様に反響した。
誰もが言葉を失っていたのだ。
ーな…ぜ……
リンカーが呆然と呟いた。
リンカーの記憶を知る彼女もまた、その目前に立ちはだかった存在に言葉をなくした。
マシュはその圧倒的な存在感にただただ立ち尽くした。
「あれは……」
カルナはその姿、威容に己が父の面影を見た。
「ほう……」
スカサハはその存在が、リンカー同様己を殺しうる超常の者であることを見抜き口元を歪めた。
ーなぜ……そこにいるっ……グウィン!!
彼らの眼前に在ったのは、筋骨隆々の偉丈夫。
豊かな白髪に冠を乗せ、同じく髭を豊かに蓄えたその姿はまさしく偉大な大王そのもの。
床に突き立てた大剣の柄尻に両の手を重ね、全身より太陽の威光を振りまいていた。
かつて、はじめての火より王のソウルを見出し、不滅の古竜たちを撃滅した神々の軍勢、その王にして原初の薪の王。
さらに彼が世界蛇とともに作り出した火継ぎのシステムはその後遥かな時を経て、とある不死に終止符を打たれるまで火の時代を延命せしめた。
その為した偉業並ぶ者なく、火の時代最大の英雄にして神。
すなわち、太陽の光の王、グウィン。
神々の大王である。
それが、獅子王の元へ向かう彼らに対峙していた。
リンカーの問いに、大王からの返答はなかった。
その瞳に、リンカーは妄執を見て取った。
よもや、今になってなお火の時代の存続を、復活を望むか、グウィン
ーなぜ、そこまで……
リンカーが呻くように呟いた。
「どうやら、この特異点がほとんど人理崩壊してしまっているのを利用してあの旧時代の神様は出てきてしまったらしいぞ」
ダヴィンチちゃんがその顔を強張らせて己の分析を口にした。
それを補足するようにロマンが口を開く。
『こちらでも霊基の解析が完了した。どうやらクラスは一応セイバー、だがその霊基の格が問題だ。ほとんど英霊の霊基だが何割かが神霊に近しい。それも時間が経つにつれ、つまりその特異点が崩壊に近づくたびに神霊としての霊基が増えていっている!早くしないと手がつけられなくなるぞ!!』
そのロマンの警告にその場の全員が身構える。
かつて幾度か神霊に相見えたことはあれど、彼女らは皆英霊の霊基にその規格を落とし込んだ者達だった。
それでもなおある種一般の英霊とは一線を画す能力を持っていたというのに、今、神代より以前の時代の神霊が顕現仕掛けているとなれば、その脅威は想像を絶するものになるのは疑いようがなかった。
しかし、事態は一刻を争う。
ここでグウィンに時間を取られれば、この特異点は最果てへと飲み込まれ永久に人理定礎の復元は叶わなくなるだろう。
そうなる前に、獅子王の元に辿り着き、打ち破らなければ……
リンカーは、おそらく自らの因縁が呼び寄せた大王の相手は己がするべきだろうと考えた。
今までもリンカーは幾度も殿を請け負ってきた。
今回ばかりはさしもの彼も帰還はかなわないやも知れぬが、それも問題はない。
すでに、彼のマスターと、その相棒たるマシュは十二分に成長を遂げている。
リンカーが決意を固め、一歩を踏み出そうとした時だった。
誰よりも早く、一行の前に進み出た者がいた。
「え……」
それまで霊体化し、意思疎通が可能で連携の容易いマシュを前線で戦わせる代わりに、マスターの最後の守りとして控えていた理性なき彼。
その男が、敢然と太陽の光の王を睨み据えていた。
その大斧を握る手は武者震いに震え、総身に闘志を滾らせている。
他者に自らの因縁を押し付けるわけにいかないと彼を止めようとしたリンカーが、その足を踏み出せぬほどの気迫であった。
「ヘラ…クレス……?」
彼女の呼びかけに、ヘラクレスは低い唸り声で以って応えた。
意味のない声、そのはずだというのに、古今東西あらゆる英雄反英雄と縁を紡いできた人類最後のマスターはそれに込められた意志を汲み取った。
「……そう……さあ、みんな行こう!ここはヘラクレスに任せて」
「で、でもマスター、いくらヘラクレスさんでもあのサーヴァント相手では…!」
マシュの言葉に、彼女もそれもそうか、と呟く。
何せ相手は太陽の光の王、最初の薪の王。
燃え滓でありながら神すら屠ったリンカーを圧倒した正真正銘の化け物である。
さしものヘラクレスであっても、狂戦士として
そこで、彼女ははっとしてカルナを見つめた。
見つめられたカルナは静かに口を開いた。
「俺も残れと言うのであれば従おう。たとえ敵が太陽であったとしても」
カルナのその言葉に、しかし彼女は即座に首を振った。
そしてすぐに通信機に口を寄せる。
「ドクター!今この特異点は崩壊しかけているんだよね?」
『ああ、そうだ!もはや修正力もクソもない!砂上の楼閣の方がまだ保つだろうさ!そのせいで目の前のあのやばいお方がどんどんやばくなってるんだ!!だから急いでくれ!!』
そう、と彼女は静かに呟いた。
彼女はかつての第5特異点でのことを思い出した。
彼女はリンカーの渡した武具とカルナの縁を頼りに、一時的にカルナの霊基を操作したことがある。
自身の手の甲に刻まれた3画の令呪を見つめる。
ある策を思い付いた彼女は、しかしそれを実行するか迷いを抱いていた。
その意図にいち早く気付いたのはリンカーであった。
彼女の迷いを悟り、彼は自らの迷いに決着をつけた。
己はすでに死した身。旅路を終えた身。
因縁などと今更気にするべくもない。
それよりも、後に続く者を後押し、先導することこそ己の役割である。
彼はそっと彼女の肩に手を置いた。
その手を見つめ、リンカーを見上げ、そして彼女はリンカーのそのヘルムのスリットの奥にある双眸を見つめた。
「……」
そこに何を見て取ったかは、彼女しか知りえないことであった。
すぐに彼女は前に向き直り、自らの魔力を
敵が神霊になりつつあると言うならば……
「令呪3画を以ってヘラクレスに命じます」
こちらもその土台に上がればいい。
「最強であれ」
3画すべての令呪が魔力へと変わり、パスを伝わりヘラクレスへと殺到する。
光が満ちた。
彼女は、彼に勝利を願うのではなく、彼が全力で戦える舞台を用意した。
彼の霊基が押し上げられる。拡張される。
削ぎ落とされたものが還り行く。
狂化の戒めが解かれる。
それを押しとどめる修正力は、抑止力は今や最果ての彼方。
その存在が確たるものになるにつれて誰もがその武威を感じ取る。
スカサハが、カルナが、リンカーが、そして大王が、感嘆した。
彼こそ最強。
彼こそ大英雄。
その名を
光晴れたそこに、巌のような偉丈夫がいた。
獅子の毛皮に身を包み、聖大剣をその手に、弓を背負ったその大男は理性と闘志を燃やした瞳を大王に向けた。
「主命、受託した」
今、大英雄と大王の戦いの火蓋が切られた。
いい引きだったでしょうか。
パーフェクトヘラクレス……ではさすがにないです。
さすがに生前よりは型落ちです。
さらに言えば神霊のヘラクレスというより、英霊としてのヘラクレスが完全に近い形での現界と思っていただければ……。