Fate/DARK Order   作:えんま

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大変長らくお待たせしました。え?待ってない?すみません……

まだDLCやってないです…タイタンフォール2買っちゃって……
なのでネタバレなしで!
七章はクリアしました!面白かった!

不死の(非)日常

不死対不死
神殺し対神殺し
怪物殺し対怪物殺し
影の国の女王対薪の王



不死の日常-影の国の女王-

地下深く、大樹の根が這う遺跡の中にその男はいた。

 

ーああ、友よ、許してくれ、許してくれ、私にはこうするしか……

 

それは慟哭だった。

枯れ果てたはずの涙をプレートヘルムの中で流し、男は悲嘆にくれていた。

その声に応えるものは既にない。

 

ーなんと悍ましい……この身に友のソウルが駆け巡りそれを食い散らす感覚なぞ……ああ、ああ、この不死の身のなんと忌々しい…っ

 

自らの身体を掻き毟るように抱きなおも慟哭を上げる。

胸中にあるのは怒りと、悲しみと、自らへの嫌悪だった。

妄執と奇怪な虫に囚われた友を救えなかった自身への怒りと、その無二の友を失った悲しみ、そしてその友のソウルを浅ましくも糧として取り込んだ自身への嫌悪だ。

 

ー私は、私は、どうすればよかったのだ……こんなことが……おお……

 

男の慟哭はそれからしばらく止むことなかった。

その日、彼は最も尊敬すべき偉大な戦士であり、そして唯一無二の戦友を失ったのだ。

他でもなく、彼の手によってその者を殺める形で。

 

この出来事は、男に火継ぎを為させる一因となる。

友のソウルすら見境なく貪る不死の呪いを、彼はこの時誰よりも憎悪したのである。

故に、彼はたとい一時の安息でしかなくとも、不死無き世界を望んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

訓練室に、幾たびも剣戟の音が響いていた。

一方は全身を煤けた鎧で包んだ男、一方は対照的にその艶めかしい体に張り付くような軽装に身を包んだ絶世の美女。

双方ともに尋常の使い手ではないことは明白な動きで肉薄し得物を振るいあっていた。

男はカルデアにおいてリンカーと呼ばれる火の時代の不死の英雄であり、女はランサーとして召喚された影の国の女王にして、これまた不死の英雄たるスカサハであった。

2人はスカサハがカルデアに召喚されてからこのかた、定期的に手合わせを行っていた。

主にスカサハたっての望みで。

それをリンカーが鍛錬、ケルト流ならば修練か、としてならば良いと返事をした結果である。

不変のサーヴァントである2人に本来鍛錬も修練も不必要ではあるものの、何事も建前は必要なのである。

一歩間違えれば殺し合いであるがゆえに、なおさら。

 

「ふーむ、やはりやるな、リンカー」

 

スカサハはそのゾッとするほど美しい顔に汗を浮かべながら、それでもなお涼しげに呟いた。

ケルトの勇士たちからすれば驚愕であろう。

あの影の国の女王が、軽い手合わせ、それも訓練という名目のもので全身から滝のように汗をかいていると知ったならば。

そもそも軽い手合わせだけで我慢できていることに驚愕かもしれないが。

 

ー貴公ほどではあるまい、スカサハよ……数千年磨かれた武に、そうそう比肩することはできまい

 

対するリンカーもまた、鎧の中の体に汗を滴らせながらも余裕を持ってその得物を振るっていた。

すでに幾度か手合わせを重ねた2人にとって、互いの力量はすでに認めるところである。

故に双方ともに、殺し合いにならないレベルの手合わせのラインを心得ていたし、そのためにこうして軽口を挟む暇もあった。

それから少しして、ピタリと2人の動きが止まった。

 

「ふむ……此度は私の負けか…勝ち越されたな」

 

ーこれでようやっと五分かね……追いつくのに随分とかかったことだ

 

おそらく当人同士でなければ基準のわからぬ勝敗が付き、その日の鍛錬は終わりを告げた。

そこでスカサハが、その蠱惑的な肢体をリンカーへとしなだれかからせる。

両腕をその首に回し、熱い吐息とともに言った。

 

「どうだ、この後互いの熱を褥で晴らすというのは」

 

男であれば誰であっても陥落しそうなその誘いをリンカーは

 

ー不死人に生殖機能はない、すまんな

 

素気無く切って捨てた。

途端につまらなそうな表情を浮かべると、スカサハはリンカーから離れた。

 

「なんとも、難儀な呪いを患っているものだな、お前も」

 

ー呪いであれば、幾分かマシであっただろう

 

「それも、そうか……」

 

リンカーが肩を竦めて言えば、スカサハも同じように肩を竦めた。

2人で並んで訓練室の出口に向かえば、ちょうどよくマシュがその扉を開けた。

 

「あ!お二人とも、夕食の時間ですよ!」

 

それを聞いてリンカーは言った。

 

ー食事も必要なくてな

 

それに、スカサハが心底呆れたように応えた。

 

「全く、難儀なことだ」

 

 

「ああ、だがその呪い、それは私をー」

 

 

 

 

 

 

それから幾日かが過ぎ、その日はマスターたる彼女とマシュも連れ、訓練プログラムを起動してリンカー、スカサハは訓練を行っていた。

その日の訓練は2人、というよりスカサハの熱を冷ますものではなくどちらかといえば彼女のためのものだった。

 

『いやー影の国の女王にリンカーに指導してもらえるなんて、贅沢この上ないことだよね』

 

森林の中での戦えないならば戦えないなりの身の振り方や、指示を出す上で重要な点などなど、スカサハとリンカーの思うマスターに必要な知識、技術を彼女へと伝授する。

さらにリンカーはマシュに盾としての役目を全うする上でのノウハウをマシュへと指導していた。

そんな中、ロマンがひどく陽気にそう呟いた。

 

『何せ2人ともあらゆる人外を殺し続け、その技量を極めてきた英霊だ。それでいてスカサハなんてあのクー・フーリンも含めたケルトの勇士達を育て上げた英雄の師の代名詞だもんね』

 

「ええ、ドクター、本当にお2人にはお世話になってばっかりです」

 

マシュもロマンの言葉に同意を返す。

おー、すごいことなんだなーと呑気な反応を返す彼女に苦笑したところで、マシュはスカサハが黙りこくっていることに気がついた。

スカサハは、その形のいい顎に指を添え、何事かを考え込んでいるようだった。

 

「スカサハさん……?」

 

「ああ、リンカー、1ついいか」

 

マシュの声に応えることなく、どこか神妙にスカサハが自身に背を向け周囲を警戒していたリンカーに問いかけた。

それが聞こえているのか、いないのか。

リンカーは返事をせず、背を向けたままだった。

まるで、何かを察知したように体を微動だにさせないリンカーに、しかしスカサハは構うことなく言葉を続けた。

 

「お前の生きていた時代、当然、お前以外にも不死人はいたはずだ。それらと、敵対したことはなかったのか?」

 

その問いに、ゆっくりとリンカーが振り返った。

相変わらずその頭を鎧が覆っているために、その表情をうかがうことはできない。

何か、不穏なものを感じた彼女が口を開こうとしたところで、リンカーが答えた。

 

ー無論、ある

 

表情を隠す鎧のように、その声は硬質で感情を感じさせることはなかった。

スカサハの瞳が、爛、と瞬いた。

 

「それで、どうした」

 

スカサハは言葉を尽くすことも惜しいと言わんばかりに、急いて言葉を紡いだ。

対照的に、リンカーはゆっくりと、言葉を返す。

 

殺した(・・・)とも

 

その一言、その一言で、彼女はスカサハの中の何かが壊れたことがわかった。

抑えようもない欲望が、その双眸から溢れ出る。

その身のうちから、闘志が、闘争本能が、噴火のごとく迸る。

 

「ならば」

 

気づけば、スカサハはその両の手に朱槍を一本ずつ、握っている。

 

不死()を殺せるか、不死」

 

サーヴァントしての消滅という死ではなく、真の意味での死を与えられるか。

まるで、恋する乙女のような、裸の美女を前にした男のような、ご馳走を前にした肉食獣のような、そんな飢えた顔を見せるスカサハ。

そのスカサハが、返答を待たずして前傾姿勢となる。

背を丸め、膝を折り、その身に力を蓄える。

さながら、獲物に飛びかかる寸前の獣のように。

 

ー我が呪いは、際限なくソウルを奪い尽くすだろう

 

ソウルを失えば、たとえ不死だろうと死ぬ

そう続けた彼の言葉は、事実上スカサハの問いへの肯定を意味していた。

 

瞬間、朱い死の風が吹いた。

 

甲高い衝突音とともに、リンカーが木々の間を裂くように吹き飛ばされた。

 

「リンカー!スカサハ!!」

 

森の暗闇に溶けて消えた両者を彼女が呼ぶも、返答はなかった。

聞こえるのは、激しい戦闘の音のみ。

それも、どんどんと彼女とマシュの元から離れて行ってしまっていた。

 

「ど、どうしましょう、先輩っ!!あのお2人を止められる方なんてそうそういません!」

 

「あ、あわわわわ…ロマンが余計なこと言うから……」

 

『ええっ!?僕のせいなのかい!?』

 

「とりあえず!!とにかくおいかけよう!」

 

「はいっ、マスター!」

 

『りょ、了解だ!』

 

マシュと彼女はひとまずリンカーとスカサハを追いかけ始める。

すでに戦闘音はかなり遠くから聞こえる。

訓練プログラムは実際には怪我を負ったり死を迎えたりすることはない。

そうではあっても、それを覆しうる2人であるために、彼女の胸中には不安が募った。

 

 

 

 

 

 

地響きが鳴り響き、両者の間には一切の”生”がなかった。

空気すら切り裂かれ、死を迎える戦いが繰り広げらていた。

 

彼女とマシュが、リンカーとスカサハに追いついた時、そこはすでに戦場と化していた。

森を抜けた先にあったはずの平原は、今や草木が薙ぎ払われ地がえぐれ、激しい攻防により撹拌された大気が唸りを上げていた

見れば、2人の間には砕かれた朱色の武具がすでにいくつも散乱していた。

同じように、彼らの見たことのない意匠の武具も複数転がっている。

あらゆる武具を、術を使いこなす両者が戦況に合わせてその得物を取っ替え引っ替えした証左だった。

 

「これは……先輩、スカサハさんは、その、なんというか、ランサーとしての霊器の範疇から逸脱しているように感じますっ」

 

『じ、自分で自分の霊器をいじったってことかい!?いや、影の国の女王ならできそうだけどもデタラメだな!!』

 

槍が朱い死風となって瞬きのうちに無数にリンカーへと襲いかかる。

それを左手に持つカイトシールドと、右手に持つ取り回しのしやすいショートソードでもって受け、逸らすリンカー。

そのまま前進しスカサハの間合いのうちに入れば、リンカーは絵画守りの短剣を両手に一本ずつ構えて切りつける。

その時にはすでにスカサハも朱い双剣をルーンで呼び出し迎撃に移っていた。

いくつもの甲高い音が、重なるように鳴り響く。

スカサハの胸部に薄く縦に切り傷が走った。

スカサハが頬を紅潮させて叫ぶ。

 

「ふふ、いいぞ、もっとだ!」

 

突如、リンカーの体が炎に包まれる。

発動の予兆すら見せずにスカサハがルーン魔術を発動したのだ。

そのままスカサハは大斧を取り出して振りかぶる。

そのしなやかな身体を引き絞り、大上段で振り下ろす。

それに合わせるように、あまりに巨大すぎる剣が爆炎の中から切り上げられた。

衝突が大気を震わせる。

しかし、双方ともに体勢を崩すことはなかった。

スカサハはその数千年積み上げられた技術によって打点を調整し、さらに重心移動を駆使して。

リンカーはその身に宿る規格外な筋力で無理矢理。

杖に持ち替えたリンカーはファランの速剣のスペルを使用する。

横薙ぎに振るわれたそのソウルの剣を、身をかがめてスカサハは回避した。

そのまま暗器を手元に呼び出しリンカーに肉薄した。

もう一度ファランの速剣を発動して迎撃を行うも、身をよじり紙一重に躱したスカサハに、その鎧の右腕の付け根の隙間へと鎖帷子を貫通するように暗器を突き刺された。

 

ーぐっ

 

苦悶の声を上げたリンカーはしかし、体の動きを鈍らせることなくスカサハの腹部へと蹴りを見舞った。

蹴られたボールのように吹き飛んだスカサハを追撃すべく、リンカーはスペルを詠唱した。

ビッグハットローガンが開発した、かの大王グウィンの雷槍にも例えられるソウルの槍。

それが未だ蹴り飛ばされ宙に舞ったままのスカサハに迫った。

そのスカサハの周囲に突如朱槍が6本現れ、射出された。

3本がソウルの槍を迎撃し、もう3本がリンカーへと迫った。

ハベルの大盾を取り出したリンカーは朱槍を弾き、すぐさま盾を収納しその中の一本を地に落ちる前に左手でキャッチすると逆にスカサハに渾身の力で投げ返した。

宙で体勢を立て直し、両足で地面をこすりながらも着地したスカサハはその勢いのまま上体を大きく後ろに反らした。

 

「い、イナバウアー!」

 

どこかのマスターの声とともに、身を反らした姿勢のまま、スカサハは自身の上を通り過ぎようとした朱槍を掴んだ。

あまりの勢いで、手のひらと槍との間で摩擦が生じ、スカサハの手のひらを焼く。

ここにきて、2人の間に初めて剣戟の音が響かぬ時間がやってきた。

姿勢を元に戻したスカサハと、リンカーが無言で見つめ合う。

 

「ゴフッ」

 

スカサハが吐血した。

腹部に食らった蹴撃は、スカサハの内臓をめちゃくちゃに痛めつけていた。

リンカーは右肩の腕の付け根に突き立ったままの暗器を抜き、投げ捨てた。

 

「手合わせで私の動きを学ばれたのはいささか失策だったな」

 

スカサハは自己修復のルーンによって傷を癒しはじめる。

リンカーもまたエスト瓶を取り出し、中のエストを飲み傷を回復させる。

リンカーはスカサハの言葉に何も返すことなく、じっとスカサハを見つめていた。

 

「ああ、やはり、お前は私を殺せるな」

 

スカサハが、熱に浮かされたように溢す。

 

「だが、まだ殺されんさ……死力を尽くしてこそ……」

 

スカサハが、もう一本朱槍を呼び出す。

そして、爆発的に高まるスカサハの魔力。

 

『ま、まずい!宝具を使う気だ!!この反応……どうやらスカサハは自身の霊基や訓練システムに何らかの細工を施してる!!このままじゃ彼女は本当に彼を殺しかねないぞ!!』

 

ロマンの悲鳴じみた叫び声が上がる。

彼の背後からは訓練プログラムがシャットダウンできないというダヴィンチの声も聞こえてきた。

 

「マスター、どうしましょう!このままじゃ……!」

 

ことここに至っても、しかし彼女は自らに刻まれた令呪を行使しようとは思えなかった。

客観的に見ればそれはあまりに愚かに思われる選択である。

それでも彼女は不安とともに確信も抱いていた。

 

「大丈夫……だってリンカーが……」

 

スカサハが地を蹴った。

 

「さあ、死を乗り越えて見せよ、不死!!」

 

因果逆転の呪槍が、リンカーへと襲い掛かる。

 

二度も(・・・)同じ過ちを犯すはずがないもん」

 

彼女のその言葉の直後だった。

2本の朱槍が突き刺さる。

そのまま中空へと肢体を固定された彼に、スカサハは渾身の力で投擲を行った。

 

「『貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)』!!」

 

その投槍は寸分違わずリンカーを刺し貫いた。

皮、肉を穿つ音と。飛び散る血。

 

「リンカーさん!!」

 

マシュが叫んだ。

その声にかき消されるように、何かが砕ける音が草原に響く。

地に落ちた彼の身体が霞み、消えゆく。

それを、どこか悲しげに、そして失望したように見つめるスカサハと、表情を変えずに見つめる彼女。

 

「ああ、やはり、私を殺せる者はいないか……」

 

スカサハが構えを解き、ポツリとつぶやいた瞬間だった。

 

マシュと、マスターである彼女の前に、突如として灰が渦を巻いた。

迸る魔力。

ロマンのモニターに、忽ちリンカーの霊基反応が表示される。

 

『な!?蘇っただと!?あり得るのか!?そんなサーヴァントが…!?』

 

猛然と灰の渦より人型が飛び出した。

煤けた鎧そのままに、彼は一挙にスカサハとの距離を詰める。

しかしその奇襲にも、さすがと言うべきか、影の国の女王は対応して見せた。

それでこそ、と笑みを浮かべてすぐさま射出される6本の朱槍。

それらの着弾の瞬間、彼は太陽のタリスマンを握りとある物語を詠唱した。

一瞬で為されたそれは、正しく奇跡を呼び起こした。

彼の身体を中心に、全方位に発せられた衝撃波。

フォースと呼ばれるその奇跡は、飛び道具を跳ね返す能力を持っていた。

 

「ほう!」

 

今度は6本の朱槍が、スカサハへと襲い掛かった。

それらの迎撃のため、スカサハが新たな朱槍を構えた時だった。

 

「なあ!?」

 

スカサハが驚愕の声を上げた。

致命打になりうる朱槍、それの迎撃と全く時を同じくして、彼女を朱くない槍の穂先が襲った。

一度も彼女はリンカーから目を逸らしてはいなかった。

ゆえにしかと認識していた。

たといリンカーが武具を振るおうとも、まだ届きえぬ位置に彼がいたことを。

しかし、その認識を覆される。

リンカーがその手に呼び出した、極めて長い槍によって。

 

その武具の名を、パイクという。

 

例によって例のごとく、その実用性に欠けるような長大な槍もまた、神造兵装もかくや、というほどの神秘を内包している。

完全に虚を衝かれ、さらには他の朱槍の迎撃とタイミングを合わされた結果、彼女の腹にパイクの穂先が突き刺さる。

 

「ガァっ」

 

さらに迎撃に失敗した朱槍の幾本が彼女の四肢に突き刺さる。

リンカーはそのままスカサハを突き上げると、今度は穂先を地に向け突き刺した。

パイクの長い柄の半ばまで貫かれていたスカサハの身体が重力に従い地にずり落ちた。

 

「が…ぁ、ゴフッ……」

 

スカサハの口から血が溢れる。

その顔はどこか満足げに微笑んでいた。

 

「み、ごとだ……ふ、ふふ、やはり、お前は私を……」

 

そのスカサハをじっと見つめ、彼は口を開いた。

 

ー私は貴公を殺さん

 

そして、彼女の腹からパイクを抜き、ソウルへと収納する。

 

「な、」

 

スカサハが驚愕を露に飛び起きた。

パイクの突き刺さっていた腹部から、また未だ朱槍の突き刺さっている四肢から血が溢れ出ていることも厭わずに。

 

「なぜだ!!私はお前を殺そうとしたのだぞ!?おい!待て!!私を殺せ!!リンカーっ!!!!」

 

傷などないかのように彼女は去りゆくリンカーに迫った。

腕に刺さっていた槍を一本抜き、それでもってその背を穿とうと襲い掛かる。

 

「あっ……」

 

リンカーはくるりとそれを振り向きざまにかいくぐり、スカサハのその細い首を掴んで地面へと押し倒した。

スリットから覗く瞳が、スカサハの瞳と重なった。

 

「なぜ……」

 

スカサハは最後もまで言葉を紡ぐことはなかった。

問うには、あまりにもリンカーの瞳が悲哀に濡れていたために。

何を問おうとしていたのかも忘れるほど、その悲哀は深かったのだ。

 

ー私に……

 

スカサハが、ひいてはおそらくカルデアの誰もが聞いたことないほどにその声は震えていた。

 

ー私に……もう二度と友を、同胞を殺させんでくれ……

 

激しい怒りと後悔、そして悲哀。

あまりに多くの感情が渦巻いたその言葉の重みを正しく理解できるのは本人か、あるいは本人のその一生を追体験した彼女のみだっただろう。

それでも、その言葉はスカサハの闘争意欲を、被殺害願望を鎮めるのに十分であった。

 

「……すまない……」

 

ポツリと、スカサハが呟いた。

ゆっくりと、リンカーはスカサハから離れると彼とスカサハの戦いを見守っていた彼女の元へと歩み寄っていった。

 

残されたスカサハは訓練プログラムの仮初めの青空を茫洋と見つめていた。

その心中にあるのは、また死ねなかったことへの悲しみか、それとも全く別の感情なのか、誰にも推し量ることはできなかった。

 

 

 

 

……その後の一幕

 

 

『ちょ、ちょっとリンカーくん!?君、確実に一回死んだと思うんだけど!?』

 

ーああ、この尊い犠牲の指輪というものを装備していたのだ

 

『ゆ、指輪かい?』

 

ー然り…数は限られているが、死んでも何も失わずに済む……無論、一度死ねば壊れるし、恩恵に与れるのは不死者に限定されるが、な

 

『ち、チートだ!そんなんチートだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リンカー「まさかネタで鍛えたパイクが役に立つとは……」

犠牲の指輪の効果が果たしてサーヴァントでも発揮されるのかは賛否両論だとは思いますが、ここのこの話に限っては発揮するということでお願いします。


七章が完全にリンカーさんお得意案件で早く七章の話書きたくなってしまった。
正直六章は完成度高すぎるので、六章舞台だけど本編に全く関係ない人(?)同士の戦いを一つ書いて終わりにしようかと。
いや、あの話は二次創作とか無理ゲーだと思うんよ。

というわけで、次回予告。
ずっと戦わせたかった組み合わせです。

次回ー

ギリシアの大英雄vs太陽の光の王



……頑張ります………



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