ご注文は日常です!   作:お団子うまし

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どもどもたいちょうです。

文がスラスラと出てきたので連続投稿です。

何だか最近クッパ姫なるものが話題になっているようですね。
私も見てみたのですが、途轍もなく良いっ!(語彙力皆無)

自分もtwitterにクッパ姫描いたので是非見てみてください~!

それではどうぞ~!


第29羽 蟠りと消えたパズルのピース

「なぁ、奏斗」

 

「なんだ?」

 

「チノ、いつもより機嫌悪く見えないか?」

 

「それについては俺も気になってたんだ」

 

 

 周りには聞こえないように耳元で言うリゼに、奏斗は飲んでいたオリジナルブレンドが入ったカップをソーサーに置きながら答える。

 奏斗がそのことに気づいたのは、ラビットハウスを訪れてから間もなくだった。些細なことだったが、チノのお皿の置き方に少々雑な感じが垣間見えた気がしたのだ。リゼも同じ意見ということで大方合ってるのだと分かったが、奏斗もリゼも普段感情をあまり表に出さないチノだということもあり驚きが隠せなかった。

 ココアも奏斗達の並々ならぬ様子を感づいたのか、此方へと近づいてきていた。

 

 

「二人とも何話してるの?……あっ、もしかして作戦会議かな?」

 

 

「「ココアのことだよ」」

 

 

「あれ、そうなの?」

 

 

 リゼと二人で綺麗なツッコミを入れた後、ココアにも先ほど話していたことを告げるが――――

 

 

「え?いつもと変わらずツンツンしてるよ?」

 

「……念のために聞くが、普段がどんな感じか言ってみろ」

 

「え~っと……もふもふしようとしたら直ぐに逃げられちゃうし、仕事中だと『ちょっと邪魔です』って言われたりだよ?」

 

 

「「一体何をした!?」」

 

 

 ココアは普段の生活でもそういうあしらわれ方をされているらしい。ある意味それも一つの能力と言っても過言じゃないのだろうか。それよりも、本人に自覚が無い以上チノにも聞いてみる必要があるだろう。

 奏斗はリゼ達にチノから話を聞いてくることを伝え席を立った。

 

 

「チノちゃん、ちょっと良いか?」

 

「…はい、別に構いませんが」

 

 

 その何ともピリピリとした声色からチノの機嫌の度合いが計れた。

 今は奏斗が話しているから良いものの、ココアだったら直ぐに断って話も聞いてくれないのではないだろうか。

 

 

「ココアと何かあったのか?」

 

「………昨日のことです」

 

 

 しばらく口篭った後、ようやくチノの口から理由を聞き出すことができた。

 話によると、毎日少しずつやるのが楽しみだったパズルをチノがお花を摘みに行っている間に、ココアがいつの間にかほとんど完成させていたらしい。それに加えて1ピース足りないというおまけも付いてだ。

 奏斗はリゼ達にそのことを話すと、全く予想通りの反応が返ってくる。

 

 

「凹むなそれは…」

 

「で、でもパズルのピースは元々一つだけ足りなかったよっ!」

 

 

 あたふたと身振り手振りをして必死に弁明をするココア。

 流石にココアがそんな非道な事をする人間じゃないということは、チノも勿論奏斗もリゼも十分に理解している。

 

 

「でもチノちゃん、楽しみがとられてショックだろうな」

 

「そうだろうな」

 

「わ、私……お姉ちゃん失格だぁ~~!!」

 

 

 そう叫んだまま、ココアは外へと出て行ってしまう。

 

 

「お、追うか?」

 

「大丈夫です、その内帰ってきますよ」

 

「しかしなぁ……」

 

 

 チノが問題ないと言っても、リゼはどうも納得がいかない様子だ。

 どこまでも過保護なリゼに奏斗はつい笑いを零すと、リゼは顔を少し紅潮させて頬を膨らませた。

 

 

「な、何笑ってるんだっ!」

 

「心配なら行ってきたらどうだ?客が少ない今の内だと思うけど」

 

 

 見回してみると客はまばらにいる程度だったので、今行くのには絶好の機会だと言えるだろう。

 リゼもそう考えたのか、顔を明るくさせて店のドアへと走っていった。

 

 

「それじゃあ行ってくる!」

 

「ああ、いってらっしゃ……ってもう行っちゃったよ」

 

 

 まるで我が子を心配するお母さんみたいだな、と奏斗は思ったがリゼに聞かれてはきっと怒られるのが目に見えたので心の中に閉まっておいた。

 

 (さてと、俺もするべきことをしようか)

 

 ドアの方を見つめ浮かない顔をしているチノへと体を向ける。

 

 

「ココアのこと許してやったらどうだ?あれでも反省…はしてるみたいだし」

 

「変な間が空きましたね?」

 

「こら、いらんこと言わない」

 

「あうっ」

 

 

 誤魔化しも兼ねてチノのおでこに軽くデコピンをすると、可愛らしい声を上げて両手でおでこを押さえる。

 

 

「ふふっ」

 

「ははっ」

 

 

 あんまりにも可笑しくなって二人で顔を見合わせ笑い合う。

 笑い声は暫く続いたがやがて収まり、チノは少しずつ話し始めた。

 

 

「……このままではいけないということは分かっているんです。でも…その、あんな態度をとってしまってどう接すればいいのか……」

 

「そうだなぁ、そういう時って気まずいよな」

 

「きっと奏斗さんなら直ぐに解決してしまうんですよね」

 

 

 不貞腐れたようにそっぽを向き、先刻とは全く種類の違った“怒り”の感情を見せた。正しく言うならば“嫉妬”だろうか。

 数秒前にも見せた笑顔もそうだが、チノにしてはころころと表情を変えてくるのが多くなってきている。これは段々と打ち解けてきている兆候なのではないか、と奏斗は推測していた。

 

 勿論それもあるのだろうが――――――――答えとしては、チノは今のところティッピー(叔父さん)とタカヒロ、そして奏斗だけにしか自分の本当の気持ちを曝け出していない。最もそれは無意識にではあるが。

 

 

「チノちゃんの俺に対しての評価どうなってるんだ?」

 

「それは、もう――――」

 

「チノちゃぁぁぁぁぁあん!!」

 

 

 その先の言葉が聞けるかどうかの間際に、ドアから突然ココアが手に何かを持ってやって来た。その後ろから息を切らしたリゼが続いて入ってくる。チノが何を言ったのか気になる奏斗だったが、今はリゼの介抱を優先する。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「大丈夫か?」

 

「止めようと思ったんだが、無理だった」

 

 

 リゼが指をさす方向に目を向けると、自然とココアの持っている箱のような物に目が行く。奏斗は近くまで寄って行き概要を読み上げた。

 

 

「木組みの街のジグソーパズル………8000ピース!?」

 

「やめとけとは言ったんだが全く聞かなくて…」

 

「新しいパズル買ってきたから、これで許してぇ!」

 

 

 チノは困った顔をしながら奏斗達を見るのだが、当の二人もどうしてよいか分からなかった。

 皆で一緒に固まっていると、気まずそうな声で「あの、お会計お願いします」と店内に響きラビットハウスの店員三人はバタバタと仕事へ戻っていった。ココアに渡された無駄に大きいパズルの箱を奏斗は静かに、自分が座っていた席に持って行ったのだった。

 

 

 

 

「あの、これはどういう……」

 

「見ての通り、パズルをやってるんだが……」

 

「多すぎて終わらないのね?」

 

 

 結局あの後、ココアとチノの二人で8000ピースのパズルをやることになったのだが当然の如く終わらず。奏斗とリゼも参戦し、一丸となってパズルをしているのだが一向に終わる気配が見えない。そんな時にココアが「千夜とシャロにも手伝ってもらおう」という提案を出し、精神的に参っていた三人はその案に賛成して今の状況になっている。

 

 

「もう私疲れちゃったよ~」

 

 

「「言い出しっぺはココアだろ!」」

 

 

「先輩方は案外平気そうですね」

 

「まぁ」

 

「慣れてるからな」

 

 

 こんな時でもツッコミする気力は相変わらずある奏斗とリゼ。

 リゼは軍事的な訓練で精神力も鍛えていることもあって、長時間の作業は屁でもないだろう。一方奏斗も、父の趣味(プラモデル)の関係上こういった作業的な事に慣れていた。今になって、手伝っていて良かったと感謝している奏斗であった。

 

 千夜とシャロも黙々と作業する二人に感化されてか、床に腰を下ろして作業を始める。初期メンバーの二人もあと一息、と気持ちを入れ直して再開する。

 

 

「ジグソーパズルなんていつぶりかしら」

 

「端っこからやっていくと楽でいいよね!」

 

 

 そう言った後、ココアは自分が作っていたパズルをリゼが作っていたパズルと合体させる。シャロもチノが作っていたパズルと合体。その合体したものが奏斗の作っていたものと再び合体。

 一気にパズルが進むが――――

 

 

「役立たずでごめんなさいっ…!」

 

 

 1ピースも合わせることができない自分に絶望する千夜。

 

 

「ほ、ほら千夜ちゃんの作ったパズル、ここと合体できるよっ!」

 

「あら、本当♪」

 

 

(((感情の起伏が激しすぎる)))

 

 

 その後も黙々と作り続けた一同だったが―――――

 

 

「皆、集中力が無くなってきてますね…」

 

 

 時計を見れば、もう開始から既に丸一時間が経っていた。

 一度休憩することを伝えるためにその場を立って呼びかける奏斗。ココア、リゼを除いた人はそれを聞くや否や楽な体勢をとり始める。

 

 

「おいリゼ、休憩だ」

 

「あはは~見ろ~ハートマークが出来たぞ~!」

 

「ジグソーパズルでここまで壊れるのかっ!?」

 

 

 終始笑顔のままであることに少なからず恐怖心を抱いた奏斗は、肩を揺さぶることでリゼの意識を取り戻させる。

 

 

「ん?」

 

 

 ここで、リゼがある違和感に気が付く。その様子に気が付いたシャロや奏斗もどうしたのかとリゼを見る。

 

 

「これ、下に何も敷いてないんだけど完成したら一体どうするんだ?」

 

 

 これを聞いて一同固まる。

 千夜は涙目になりながら、ガタガタと体を震わせる。

 

 

「わ、私怖くて言えなかったのっ!こんな空気になるのが分かってたからっ……!」

 

「それ言うと余計にシリアスになるからやめような?」

 

 

 とは言うもののあれだけ必死になってやってきたものが全部蔑ろになったという事実は変わらず、周りに重い空気が圧し掛かる。

 そんな空気を察知したのか、ココアは突然立ち上がり手のひらをパチンと合わせる。

 

 

「そろそろお腹空いて来る頃だし、みんなの分のホットケーキ作ってくるよ!」

 

「あっ、私も手伝います」

 

 

 チノもあとに続いて二人が部屋から出ていくのを見送ると、リゼは安堵のため息を漏らす。

 

 

「チノとココア、自然と仲直りしててよかったよ。ギスギスしてた時はどうしようかと思った」

 

「本当、労力掛けてジグソーパズルやってよかったな…」

 

 

 口々にこれまでの苦労を吐き出す二人。

 その発言にシャロと千夜は意外、というような顔をする。

 

 

「えっ、あの二人喧嘩してたんですか!?」

 

「私にはいつも通りに見えたわよ?」

 

 

「「えっ」」

 

 

 思いがけない反応に思わず狼狽する二人。千夜とシャロが鈍いだけなのか、はたまた自分たちが勘繰りすぎているだけなのか。その答えを知るのはチノとココアしかいない。

 そんな二人の反応を見たシャロはクスクスと笑いながら、これまでに思ってたことを言った。

 

 

「先輩方って結構過保護な所ありますよね」

 

「そ、そうかなぁ?」

 

「でも、ココアとかは特に子犬って感じで保護欲そそられないか?」

 

 

 奏斗の意見に言葉より先に笑いが起こる。ちょっとの言葉で次々と表情を変えたり、その破天荒な性格で彼方此方に振り回していく姿はまさにといった感じだからだ。

 

 

「まぁ何にせよ、あの二人がまた仲良くなってくれれば――――」

 

 

 奏斗が次の言葉を紡ぐ前に、ドアがいきなりバタンと勢いよく開かれる。皆してドアの方を見れば涙目のココアが。この瞬間、四人は嫌な予感しかしなかった。

 

 

「チノちゃんが口聞いてくれなくなったよぉっ!!」

 

「自分で何とかしろ!」

 

 

 無慈悲なリゼのツッコミの後、ココアはシュンとしながら再びキッチンへと戻っていく。

 ココアの登場によりすっかり話の腰を折られてしまった四人だったが、気を取り直して話を再開する。

 

 

「俺達ってかなりココアに振り回されてると思わないか?もちろんいい意味で」

 

「ほとんど日常みたいなものですよね」

 

「けど、ああいう所こそココアちゃんの長所じゃないかしら?」

 

「度が過ぎると大変だけどな」

 

 

 半ば呆れながらも、結局のところココアのことを快く思っている。その不思議な性格が自然と人を引き寄せるのか、彼女の周りにはいつも人が集まっている。そうしてココアが中心になって物語が展開されていく。奏斗は今になって、そのことに気が付いたのだった。

 

 

「さてと、そろそろパズル再開するとしよ――――」

 

 

 雑談もこれまでにして、またパズルを再開しようとするが再びドアが勢いよく開かれる。今度は焦ったような顔をしたチノがそこに立っていた。

 

 

「な、何かあったのか!?」

 

 

 これにリゼが対応する。

 この時、奏斗は頭の中で先程のココアの時の対応の仕方と、チノの時の対応の仕方を密かに比べていた。そして少しばかりココアに肩入れをしたくなる気持ちになった。

 

 

「コ、ココアさんがケチャップで死んでいますっ!」

 

「……それはただ構ってほしいだけだから気にするな」

 

「くっ、涙が…」

 

「奏斗先輩?」

 

 

 最後までぞんざいな扱われ方をされるココアに、奏斗は心の中で涙するのだった。

 

 

 

 

 ホットケーキも食べ終わり、8000もあったジグソーパズルは無事完成してひと段落。完成したパズルは、また今度店の壁に飾るとココアが話していた。

 

 

「結局消えたパズルのピースは何処へいったんだろうな?」

 

「そういえばそんなこと言ってたな」

 

「そういうのって忘れた頃とかに出てきたりしますよね」

 

 

 ココアが言っていた消えたパズルのピース。話には出てきてはいたものの、ついに見つかることはなかった。

 

 

「意外とベッドとかに落ちてるものなんだよな――――って」

 

「あ!」

 

 

 奏斗が冗談でベッドに置かれていた枕をどけると、ポツンと一つ。パズルのピースがあったのだ。

 ほんの気まぐれにより、今日は運よく二つのジグソーパズルを完成させることができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話は、地の文を一人称から三人称に変えてみたのですがお気づきになりましたか?
初の試みでしたが、違和感なく書けてたのではないかと思います。

これからも文の練度をちょっとずつですが進化させていきたいなぁ、と考えております。
それではご観覧ありがとうございました!

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