この作品の投稿にかなり間が空いてしまいましたが、今回はココアのオリジナル回です。
ココア推しの方々、またそうでない方もココアの声を脳内再生しながら読んでください。
それでは、お楽しみください!
父の日から既に数週間が経った頃。
朝のラビットハウスで、一人の女の子の相談を受けていた。
「今日は奏斗君に、相談があって呼んだの」
いつもとは違って、真剣味を帯びた様子で言うのはココア。
ココアが相談なんて珍しい、とチノ、リゼを含めた俺たちは心の中で思う。
「どうぞ」と、気を利かせてオリジナルブレンドを淹れてくれたチノ。
その声色は心なしか緊張している気もする。
彼女も心の何処かで、今度のココアは何かが違うと感じ取っているのだろう。
一方リゼは、腕を組みながら俺とココアを見守っている。
表情では隠しているが、地味に目線が右往左往していて忙しない。加えて、腕組みをしている手にかなり力が入っている。
そんなチノとリゼに見守られながら、チノから頂いたオリジナルブレンドを一度啜り、張り詰めた空気を破るように言った。
「それで、今日は一体どうしたんだ?」
「単刀直入に言うね?
私と…………
………私と恋人になって欲しいの〜〜〜っ!」
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
「………は!?」
「「なっ!?」」
ココアの口から放たれた予想外の言葉で、俺は唖然とし、チノとリゼは遅れて驚嘆の声を漏らす。
いまいち状況が掴めないまま、ココアが言ったことを繰り返す。
「ココアの、恋人になる!?」
「うん……」
「ちょ、ちちちょっと待ってくださいココアさん! じょ、じょじょ冗談も大概ですよ!?」
「そ、そそそうだぞココア。冗談でも言っていい事とわ、わわ悪い事があるぞ!?」
「……? そのまんまの意味だよ?」
「「なっ!?」」
嘘偽りのない言葉だと知り、さらに驚嘆するチノとリゼ。
だとしたら、今の状況はココアに告白されてると同義ーーーー
「それで、ここから本題なんだけど……」
「いやさっきのが本題じゃないのかよっ!」
「あはは、実はねーーー」
「つまり何か。ココアは、カップル限定のパフェである『苺とチョコのパフェ〜恋は二人のように甘々〜スペシャル』なる物が忘れられなくて……」
「今すぐにでも食べたい、でもそれはカップル限定だから食べられない」
「だから奏斗さんに
「勿論無理にとは言わないよ?」
俺、リゼ、チノの順でココアの言ったことを要約する。
ココアが一言加えて大きく頷くと、俺たちは呆れ果てて、こめかみに手を置いて溜息をつく。
「びっくりして損しました………でも、そういうことなら」
「そうだなぁ」
「……いや待て、二人は何でそれで納得してるの? 流石にそれはむ「ダメ……かな?」……ぐっ」
ココアの頬染め上目遣いに思わず唸る。
この方、分かっててやってるのだろうか。だとしたらそれはもう、小悪魔的センスがある。
だがしかし、ココアが忘れられないほどのパフェ。どんな味なのか気になるのも事実。
ここはもういっそのこと乗るのも手だ。
パフェを食べるために
なら、俺の答えはーーーー
▼△▼△▼△▼△
「さぁ、着いたよ!」
目的の場所に着くと、ココアがそのお店を指差しながら言った。
見た目は普通だったが、窓から見える店内には普通の客の他にカップルの客がちらほら見えた。
「じゃあ早速入るか……って、どうしたココア?」
お店のドアを開けようとするがココアはついて来ず、その場に表情を隠しながら立ったままだった。
「……手、繋がない?」
「え……」
「ほ、ほら……私達って………一時的だけど恋人同士、だし」
消え入りそうな声で、頬を真っ赤に染めながらココアは言う。そして、また顔を俯かせる。
足を震わせているのを見れば、ココアがいかに勇気を振り絞って言ったのかが伺えた。
そんな彼女の気持ちを無下に出来るだろうか。
「ごっごめんね? 変なこと言って、今のは忘れーーーー」
ギュッと。返事をする代わりに力を込めて、でも優しく手を握った。
「ーーーあ」
今日、パフェを食べるための大前提は俺とココアが恋人同士であること。
そしてそんなココアのお願いを承諾したのは、俺だ。
「…今日だけはココアの恋人だからな。出来ることなら、何でもするよ」
恥ずかしくなって、空いた手で頰を掻く。
その様子を見たココアは、静かに笑って言った。
「ふふっありがとう」
「じゃあ…行くか」
「うんっ!」
「奏斗さんとココアさん、手繋いでますよ……!」
「ちょっと本格的すぎないか!?」
その一方、奏斗とココアの様子を見るために尾行してきたチノとリゼは、二人が手を繋いで店内に入っていくのを目撃していた。羨望の目で見る二人だが、奏斗とココアの雰囲気を壊したくないという気持ちもあった。
それは、互いに同じ人を好きになったことで通ずるものがあったから。
「店内に入ってしまったことですし、私たちもそろそろ戻りましょう」
「そうだな……そういえばチノ、ココアの仕事はどうするんだ?」
「大丈夫です。父には、今日はココアさんが抜けることを伝えておきました」
「あ、相変わらず仕事が早いな……」
「それほどでもありません」
▼△▼△▼△▼△
「ご注文は何になさいますか?」
「え〜っと、この苺とチョコのパフェ、恋は二人のように甘々……スペシャルを……」
「品名読んで照れるなっ! その気持ちはわからんでも無いけど!」
店内にて、早速お目当ての物を注文しようとするが、聞いているだけでも恥ずかしい品名。
ココアも途中から言葉が途切れ途切れに。
周りの目もあるため、羞恥心はMAXに。
さらに追い討ちをかけるように、店員の口から再び告げられる。
「苺とチョコのパフェ〜恋は二人のように甘々〜スペシャルですね。こちらはカップル限定の物となっております、お二人様はカップルの方でしょうか?」
「は、はぃ……」
「承知いたしました。それでは少々お待ち下さい」
店員が行ったことで、二人は安心して大きく息を吐く。
「ふぅ、なんとかパフェにありつけそうだね」
「それにしても、どんなパフェかと思ったら結構でかかったな」
「これは絶対に美味しいに筈だよ!」
カップル限定とされるほどには、このパフェのボリュームは凄かった。
その特徴はなんといっても真ん中に盛り付けられた巨大なハート形のチョコレートと、大量の苺だろう。
ただ、そのボリュームを二人で食べきれるかが心配ではあるが。
「………えと」
どうしたのか、とココアを見る。
キョロキョロとしていて落ち着きがない。
しかしすぐに、何かを決心したかのように椅子をこちらの方に寄せてきた。
一瞬。
肩が触れて、俺とココアはビクッとなる。
何事もなかったかのように、会話を進めるが。
「は、早くこないかなっ」
「そ、そうだな」
沈黙。
聞こえるのは周りの人の談笑する声、食器のカチャカチャとなる音だけ。
ここの空間だけはまるで別世界のように静かだった。
どうにかして話題を振りたいところだが、どうにも話し出せそうにないこの状況。
誰か助けて下さい。
「「あのーーー」」
「ご注文の苺とチョコのパフェ〜恋は二人のように甘々〜スペシャルです」
「「うわぁ!?」」
最高の、最悪のタイミングで店員がやってくる。
驚く二人に首を傾げる店員だったが、何かを察して、すぐに品を置くと綺麗なお辞儀をして戻っていった。
顔がニヤついていたのは、気のせいだ。
「…パフェ来たねっ!」
「よーし食べるか!」
気持ちを切り替えて目の前のパフェに意識を向ける。
苺をメインに、真ん中に大きなアイスとブルーベリー、トッピングチョコなどがトッピングされており、アイスの上には大きなハート形のチョコ。
だが、そこで二人はあることに気づく。
「スプーン………一つしかない?」
「お店側のミス、ではなさそうだな」
「………奏斗君」
流石にここまで来たら何が来るのかは読めるだろう。
カップル限定、その意味。
「はい、あ〜ん」
「やっぱりそう来るか……!」
頬を赤らませながら、苺を一つスプーンで掬って俺の前に持ってくる。
その姿に、俺以外にも、周囲の人が魅了されていた。
いつまでたっても動かないので、ココアは頰をぷくーっと膨らませて不満を表した。
「早くしてくれないと恥ずかしいな……」
「わ、悪い……あ〜ん……んむ」
甘い。美味しい。恥ずかしい。
「うん、美味しい」
「よかったぁ〜!」
「…じゃあ、次は俺だな」
「ふえぇ!?」
「当たり前だろ、ココアがやったんだから俺がやらないでどうする」
「そ、それだと……間接キスになっちゃうよっ!
それに、ココアにやらないと俺だけが恥ずかしいままだ。
ココアからスプーンを貰って、アイスを一掬い。それをココアの口元にまで持っていってやる。
「それじゃ、あ〜ん」
「あ、あ〜ん………んむっ」
「どうだ?」
「うん、凄く美味しいよ!」
さっきまで恥ずかしさはどこへいったのか、はたまたもう吹っ切れたのか。それともパフェの美味しさが上回ったのか。
もう一口、もう一口とパフェを要求してくるココア。時々交代して、今度は俺の番。
周囲の人達は、その光景を見て何を思っただろうか。
嫉妬、或いは羨望か。
二人が恋人同士のフリをしているなんて思いもよらないだろうが、何にせよその目に映っていたのは紛れもなく、微笑ましいバカップルが映っていたに違いない。
▼△▼△▼△▼△
パフェをあっという間に食べ尽くし、現在はラビットハウスへの帰路についている。
あの後の事だが、お店から出る時に他の客から何故か慈愛の目で見られていて、二人で困惑していた。店員には「ラブラブでしたね」と持て囃される始末。
「今日は本当にありがとう、感謝してもしきれないよっ!」
「こっちこそ。おかげさまで、美味しいパフェが食べれたよ」
互いに感謝を述べ合う二人。
恥ずかしい事は沢山あったが、それは同時に楽しい思い出として残っていくだろう。
それに今回の件を通して、ココアとまた一歩仲が深まったような気もする。
「もしよかったら、またこういう機会があれば行きたいね!」
「ま、待て。それは結構しんどいぞ!?」
「ふふっ、冗談だよ?」
ココアは立ち止まり、でも、と言葉を続ける。
「奏斗君と過ごしたこの日は、絶対に忘れないよ」
「俺も、忘れない」
「ねぇ奏斗君」
「ん、どうした?」
「ーーーだよ」
その瞬間風が強く吹き、ココアが何を言ったのか聞き取れなくなる。
何を言ったのか聞こうとした瞬間、頰に柔らかい感触が伝わる。
「……じゃあまた明日!」
気づかないうちに、いつの間にかラビットハウスの前にいて、頰に柔らかい感触を残した本人は逃げるようにその中へ入っていった。
俺はその間暫く、その場に動けないまま頰に残った感触の余韻に浸っていた。