Fate/alternative   作:ギルス

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──深い孔の底。

それは、覗き返してきた。

紅い、燃える瞳で────。




第42話『仇 〜アダ〜 』

 

 

「────不覚、」

 

「……え?」

 

一瞬の静寂。

ネメアの獅子による破壊は周囲の対象のみを砕き、敵を捉えた。追い打つ様に放たれたヘラクレスの斬撃は確かに目の前の神父を捉えていた。

燃え盛る炎の刃は情け容赦なくその法衣ごと体を引き裂き、灼き尽くし、悉くを真っ黒な塊に変える。

 

だが。

 

「ひ、ひはははっ可愛い、可愛いねぇ大英雄!ワタシが、ワタシタチが、この程度で亡びると…思ったのかね!?」

 

炭化した塊に三日月のような裂け目が開く。

それは歪な震えを声のごとくして空間に伝えていた。

 

「…きさ、ま…ことに人を外れた化外(けがい)であったガ…ゴフッ!」

 

口から盛大に血を吐き出しながら眼前の黒い塊を睨みつける。

炭の様だったそれはいつの間にかタール状の粘性を持つナニカに変わり、ウゾウゾと蠢きながら形を変える。

そこから伸びた長い、金属にも見える闇色の錐がヘラクレスの腹を抉っている。

 

「ああ、ああっ、やはりいつ如何なる時代も綺羅星の如き輝きを放つ貴様らをこうして嬲り尽くすのは甘美にすぎるな!」

 

「セイバー!?」

 

「…大事ないイリヤ、たかが命を一つ持っていかれただけの事──ヌゥン!」

 

バギン!、と乾いた音を立てて錐がへし折れて細かな破片となって散った。

 

「嬲るなどと言わず最大の一撃を持って俺を殺し尽くすべきだったと後悔するがいい…得体の知れぬ亜神めが!」

 

ゴウッ!

 

神剣から迸る焔は苛烈さを増し、今度は炭化何処か一切焼滅させてやろうと燃え盛る。

 

「怖い怖い、は、ははは助けておくれよ、クロウくん!」

 

タールが形を成し、今度は女の姿を見せた。

かと思えば次はスーツ姿にサングラス、その下には痛々しい傷跡が刻まれた眼光鋭い男に成り替わる。

 

「…貴様の思い通りに全て運ぶと思うなよ、愚物が…ああ──、おまえならば如何する、このシステムですらない幻想の坩堝を──」

 

誰に向けたかすらわからない要領を得ない独白を吐き出し、男から再び神父の姿に戻る。

 

「ヌウァ!!」

 

轟。空を引き裂き唸りを上げるヘラクレスの丸太の様な蹴りが、神父の体躯を捉える。

紙木細工の様に吹き飛ばされるかに見えたその身体はしかし、ふわり、と音も立てずに地に降りた。

 

「──っはぁ、やはりこの姿が一番安定するな、───や、──イアの姿ではここは位相がズレすぎているか。」

 

岩をも砕く様なヘラクレスの蹴りをこともなしにいなし、呟くナイン。

 

「何を訳のわからない事を…っセイバー!令呪を以って命じるわ──宝具の全力での限定空間への開帳を…このバケモノを跡形もなく消し飛ばしなさい!」

 

本来、この閉所で宝具の開帳をしようものならば天井を崩してマスターであるイリヤ諸共に生き埋めである、故の…令呪。

 

令呪による奇跡を用いて宝具の破壊を巻き散らさずに余さず敵へと安全に叩きつけるために空間を操作する。

 

「…火を呑め、獣を屠れ──そは、荒々しき牙、吠え、猛れ!」

 

吹き出した焔が百蛇の如く伸び上がり、鎌首をもたげる。

 

「剛なる者──!」

 

剣のしなりに合わせる様に炎の蛇は敵をその蛇体の檻に囲い込む。

 

百蛇屠る灼熱の檻 (マルミアドワーズ・ナインライヴズ)────!!!」

 

音が、消えた。

闇が、失せた。

ホワイトアウトした視界の中でイリヤは確かに見た。

 

身体、そして魔力の流れが千々に絶たれて尚、悍ましい笑みを浮かべる…顔。

その額に燃える真紅の瞳を──。

 

 

*********

 

 

「燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃え尽きなさい!!」

 

ジャンヌ・ダルク・オルタ。

黒い聖女は怒りに任せて炎を繰り出し続けるも、先から一向に当たらない。

 

「ふははは、甘い甘いそんな事でワシに当たると思うか、幼いのぅ、身体以外は!」

 

「やかましいこのセクハラサーヴァント!?」

 

…本当に神だろうか、このアーチャー。

ちょっぴり本気で自害させた方が全国の女性のためなんじゃないかなとか思う。

 

「アーチャー、あまり巫山戯ているとお仕置きしますよ?」

 

「気持ち良いので頼む!」

 

……殴っていいだろうか?

 

「私を無視してイチャつくな!」

 

「あ、そういう感情一切合切金輪際、未来永劫過去現在全てに於いてありえませんので。」

 

「マスターが酷い!?」

 

私の言葉に涙目になりながら、器用に炎をかわし、更にはまた背後に回り込んで後ろから抱きしめる。

 

「ちょ、早っ…はなせ!?」

 

「わはははは、やはり良い乳じゃ!」

 

またもやその豊満な胸を好き放題にされて顔を真っ赤にしながら暴れるジャンヌオルタ。

 

「やっ、んっ…こいつなんなの妙に上手い…は、あっ!やめっ…このぉ!?」

 

手から発した黒い炎、宙空から放たれた槍がゼウスを襲うも全てひらひらと、ジャンヌオルタを抱きしめたまま避け続ける。

 

「けしかけてなんですけれどコレ、矢張り止めるべきでしょうか?」

 

つい、勢いでお灸を据えろなんて言ったものの早々に罪悪感が込み上げてきた。

 

「…あの猛攻を避けながらよくあんなコントをしていられると言うか、最早呆れを通り越して畏敬の念を抱けるレベルだな…」

 

などと言いながらありありと呆れを含んだ物言いの切嗣。

 

「あのいやらしさが無ければ文句なしに最強のサーヴァントの一角なんですが…はあ、残念でなりません。」

 

返した言葉に苦笑いしつつもそれ以上言わないあたりは切嗣も似たような事を思ったのか。

 

いよいよ持ってジャンヌオルタが組み伏せられそうになったのでゼウスに待ったをかけようとした、刹那。

 

地面が、激震した。

 

「ちょ、なんなの今の!?」

 

とてつもない魔力の奔流。

それが先ほどジャンヌオルタが後にした大空洞の辺りから迸る。

 

「…こりゃあ急いだ方が良いかのぉ…。」

 

「え!ちょ、やめなさいこの!」

 

ひょい、と軽々とジャンヌオルタを担いだゼウスはこちらに向き直る。

 

「マスター、遊んでいる暇は無くなった…残念でならんがここからはしりあすだ。」

 

「…そこはかとなく発音がおかしいのは突っ込むべきなのかな?」

 

担いだジャンヌオルタの臀部を撫でながら尻…、もとい。

シリアスとか言われても台無しである。

 

「…聞かないでください。」

 

「…そうだね、うん。僕が悪かった。」

 

神様は自由。

自由すぎるのがギリシャである。

 

 

────────────────

 

 

「…なんなんだここ、おかしいってレベルじゃないぞ。」

 

「そうだね、嫌な気配がぷんぷんするよ、鼻が曲がりそうだ。」

 

異変を察知し、大空洞に踏み込む。

その入り口は間桐に残っていた資料から突き止めたいわば裏口だった。

莫大な魔力の流れ、光の柱。

その上先ほどの激震。

 

「あの化け物どもをどうにかできないかと探りを入れに来れば何だいこの展開は、聖杯戦争なんだろうがこいつは?なら勝ち抜き戦になるもんだろう、普通。」

 

「いや、聖杯戦争ってのはバトルロイヤルだろう何言ってんのさおまえ。」

 

「…まあ、以前経験したのは勝ち抜きだったのさ、慎二…ところでライダーとは呼んでくれないのかい?」

 

悪戯っぽい微笑みに思わずたじろぐ慎二だが、そこは虚勢を張った。

 

「…は、実力も示さないうちからこの僕のサーヴァント気取りかよ、安くないんだよこちとらさあ…第一、あの神様だかにビビってたくせによく言うよな全く。」

 

「は、言うじゃないか…別に勝ち目が絶対にないとまでは行かないよ、切り札も無いでもない…少なくとも一対一ならなんとか、ね。」

 

実際は口とは裏腹に認めてはいた。

あの破格の力を持った黄金のサーヴァントを出し抜いてみせたその手際、力押しだけで勝てない相手とみるや観察に徹し、しかし勝ちを諦めてはいないその貪欲な精神を。

 

「はは、しかし寂しいもんだねぇ…月でのあんたはもっと素直だったのに。」

 

とはいえ、それを言えるほど素直でも無い。

 

「ハ、それならソイツは僕じゃないな。」

 

それは暗に自身が捻くれていると認めたようなものだが気にしたら負けだ。

 

「いいや、やっぱり似てるよ。」

 

フランシス・ドレイク。

稀代の海賊が何故女の姿などしているのか。

…年上ぶってくるこの態度も気にくわない。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」

 

「ああ…もうすぐ最深部だ、資料通りならこの先に大聖杯がある筈。」

 

「全てを適える願望機、その大元かい…そんなもんに願っても碌なことにゃなりゃしないんだけどねぇ。」

 

とてもじゃないが召喚に応じたサーヴァントのセリフでは無い。

 

「いや、だったらおまえなんで召喚に応じたんだよ?」

 

「ああ、そりゃそうだけどね…月じゃああたしは単にそれが、お宝としか思えなかったからさ…でも今は違う、聖杯を持ってみて、いや…グランドオーダーなんてものに関わって知ったんだ。」

 

やけに優しい顔で語るドレイク。

まるで誰かを想うような女の顔。

 

「…はん、グランドオーダー?なんだいそりゃあ…そもそも答えになってないぞ。」

 

「ああ、悪いねぇ、そいつは企業秘密って奴かな、ははは!」

 

快活に笑い飛ばすドレイクだがぴたり、とその笑いを止める。

 

「どうやら此処が事の中心のようだね。」

 

その声に、反応する者がいた。

鈍色の巨躯と、視線だけを投げかけてくる紅い瞳の少女。

 

「新たなサーヴァントか、或いは再び湧いて出たか、ナインとやら?」

 

「ナイン…なんの事だいそりゃあ?」

 

大空洞の中心にほど近い開けた空間、そこには凄まじい破壊痕があった。

不可思議なのはそれが綺麗に一定の範囲だけを抉っている事。

 

「……お前は…、見つけたぞライダーの仇…セイバー!!」

 

知らず、そんな言葉が口をついて飛び出した。

 

「これは異な事を、仇だと言ったか小僧。」

 

「…ああ、そうさ…お前は僕から、ようやく見つけた小さな感情の元を奪った!」

 

自分でも思いもしなかった言葉が後から後から湧き上がる。

 

「…若いな、そうは思わんかそこの女サーヴァント。」

 

そうだ、確かにあのセイバーの言う事は正しい、これは殺し合いの奪い合いだ、勝者はただひと組のバトルロイヤル。

仇だなどと言い出すのが烏滸がましい、ただ弱かったことこそ罪なのだ。

 

「…否定はしないさ、だが若さってのもいいもんさ、いくら一度は死んだ身とはいえ年寄り染みた事を言いなさんな。」

 

だけど、それを否定はしないで、それでも背中を押すように理屈じゃない、心を認められたみたいでどこか照れ臭いが、認めたくはないが嬉しくなった。

 

「…まあ、なんであれ貴様らは敵だ、小僧…小物と思い見逃したが二度はないぞ…逃げるならば最後だ…さあどうする?」

 

「…クソが!今更逃げられるかよっ、これでも間桐の後継なんだよ、僕はぁ──行け、ライダー ( 、、、、)ッ!!」

 

「あいよマスターッ、いっちょ[[rb:英雄 > 怪物]]殺しと洒落込もうか!」

 

勝ち目など薄い事も解っていた、それでも引けない戦いだった。

 

「ああ、証明しろ、ライダー…一対一なら勝てるってのを!」

 

応えてくれた彼女に、密かに感謝しつつ。

 

「あいよっ、少なくとも負けない戦をしてやろうじゃあないか!」

 

拳を、握りしめた。

 

 





【あとがき的なもの】

はい、なんか投稿自体がお久しぶりです、最近どうにも自分が書いたものが微妙な気がしてならない、ついつい他所様の面白い作品と比べてしまう負のループなライダー/ギルスです。

慎二「暗っ!筆者暗っ!」

ワカメに言われたかないやい!

慎二「誰がワカメだ!?」

畜生!なんでワカメの癖にカッコイイんだ!ワカメの癖に!

士郎「スランプらしいんだ、まあ優しくしてやってくれよ慎二。」

慎二「いや、男の僕に優しくされて何が嬉しいのさ、そもそも他人への理解も自分の事すらおざなりないい子ちゃんのお前が言うなよ衛宮!」

桜「兄さん…素直じゃないんですから…」

慎二「あ?桜、お前何言ってんの!何言ってんの!?」

桜「だって映画(HF)の兄さん完璧にツンデレじゃないですか。」

慎二「な、ばっ、馬鹿言うなよ、馬鹿言うなよ!」

ドレイク「あははは、語彙力が溶けてるよ慎二!」

慎二「やかましいわ!?」

…HF最高でした。
だからこそ自分の、作品が!!

士郎「あ、筆者がまたダークサイドに…」

ゼウス「めんどくさいやっちゃのう…」

士郎「ところでなんでいまさらHFの話なんだ、公開されたのかなり前だぞ?」

桜「はあ、このあとがき自体かなり前に書いたらしいですからねぇ。」

虎「シブでかなり前にあげたくせにこちらにあげないから…」

ゼウス「それ、言っちゃダメなんじゃないかのう?」

桜「だからって話ではないですが、2話一度にあげたらしいです。」

虎「気力がなくてこちらにあげ忘れていただk」

ゼウス「いやだからそれ言っちゃダメなんじゃないかのう?」

士郎「ま、まあ兎に角、一応今筆者の頭にある話的には次回またいろいろごちゃごちゃするらしい。」

エレイン「物語のキーになる人が出るそうです、後、繰り返しの中で何があったかにもーー?」

虎「次回!大聖杯に潜む闇、桜ちゃんの見た真実に!レディーー」

ブルマ「師匠、それ以上いけない!」

オルク「GO」

全員「「「言っちゃったよ!?!?」」」

※ 作中、ナインが変えた女と、サングラスの男は実は違う作品からの時空を超えた友情出演です、なので特にFate関連の人…ではないかもしれないかもしれなくなくない。

虎「どっちだよ。」

ブルマ「まあまあ、とりあえずまたお会いしましょうね!」

次回に、続け…!

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