Fate/alternative   作:ギルス

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数多の魔術師が求めたモノ。

数多の人が識らず触れるモノ。

それは、原初の光なれば。

それは、終の闇なれば。



第41話『 「 」 』

──普遍的無意識。

或いはアカシックレコード。

 

創作の世界では手垢のついた表現ではあるが、事実それに類するものは絶対の法則、神如き何者かの意思であるとすら言える。

 

それはこの世界に於いてはこう呼ばれる。

 

「根源」或いは「 」。

 

魔術師の目指す最終目的であり、且つ魔術師はまずこれについてこう習う。

 

「 」を目指せ。

 

されど

 

「 」は人にはたどり着けない。

 

なんたる矛盾。

なんたる無意味。

 

しかし、逆しまに考えるならば。

 

それは、人の身ではたどり着けない ( 、、、、、、、、、、)

 

ただ、それに尽きる。

 

ならば、人を逸脱すれば良い。

宝石の翁、万華鏡の様に死徒になるか?

 

否、半端な死徒になってしまえばあらゆる意味で存在が格落ちしてしまう。

万華鏡は遥かに高みにいるからこそそこに至った、前提から違う。

それに、他者に寄りかかって世界の枠組みから外れた者が、世界の理を変えられる道理もない。

 

元来私は半ばとは言え人から外れていたのだから。なれば、至るために我が身を捧げるか?

 

否。

それでは見届けることができぬ。

 

ならば。

創れば良いのだ。

 

我が身、我が魂、我が力を継いだ私を超えた人形を。

 

「…そうだ、貴様が望むままにすれば良い…力を貸そうではないか、私が。」

 

黒い法衣 (カソック)

いつの間にやら私が創り上げた結界を音もなく踏み越えてこの工房の最深部にたどり着いたその異端者、三日月のように裂けた微笑みを浮かべ、舐める様にこちらを見下すその視線。

 

「ああ、悪いがこの工房の魔術的な結界は少々乱暴に扱ってしまった、いぃやぁ、参った参った、まぁさか私が手ぇずぅから引き千切る羽目になろうとは、流石は神代に近い古代から生きた者なだけはある。」

 

「……神の下僕が何用か。」

 

「信心せぬ輩には罰が下るぞ魔龍公 (アジ・ダハーカ)。」

 

「心にもないことをよくほざく。」

 

「──私ほど敬虔な神の使徒は居らぬとも。」

 

確かに、この男の眼は狂気さえ伴う盲信した者にも見える。だが。

 

致命的に何やらズレている様に思えてならないのだ。

 

「…ふん、貴様が敬虔かどうかなどどうでも良い事だ、まして私が基督教の神に迎合すると思うか?」

 

「…いぃや?思わんね。」

 

殊更に理解ができない。

そう答えながら彼はまだ私に何かを見出している様子だが、こちらからすればこの様に芯がない癖に変容を良しとせず、あからさまな程に全てが己が思惑通りに進むと信じきった眼。

 

「ならば失せるがいい、私としてもなんの得もないと言うのに貴様の様な化け物を相手にする気もない。」

 

「…それはそれは、だぁが!だがっ、しかし!お前はいずれ識る。いかに貴様が竜に連なる先祖返りであろうと、神代の魔術を体得しているとしても!たった一人、孤独な貴様には何一つなし得ないと…いや?気づいているのだろうぅ、気づいたからこそ…今更に、今の今まで考えもしなかった行為に手を!染めっ…」

 

バシャ!

 

水音と共に首が落ちた。

苛立ちとともに放った不可視の刃が法衣の男の頭蓋を宙に飛ばす。

それが落ちた先には水槽があった。

二人の子供が薬液に浸された、透明な棺桶 (コフィン)が。

 

「…け、けひひひ!図星かね、魔龍公 (アジ・ダハーカ)。」

 

「黙れ、(めくら)が。」

 

長く伸びた爪が、紅い鱗に覆われた半竜の足が見える。

それが、瞽の狂信者を踏み砕いた。

 

 たまたま、その位置にあった水槽に映る我が姿。端が擦り切れた魔獣の皮でできたローブ。

そこからはみ出した半人半竜の脚。

顔は齢を重ねた年経てなお厳つい皺が。

紅白入り混じる、肩甲骨辺りまで伸びた髪と、胸元まで伸びた髪と色彩を同じにした髭。

 

数多の排斥と絶望を受けてなお諦めきれぬ愚かな願いを抱いたその決意の証。

金の瞳を怒りと、憐憫と、悲しみと愛憎に染める己が身を見やる。

 

「…なんとも、浅ましい貌だ。」

 

血に汚れた足下を見れば、断たれてなお嗤っていたそれは既に消えていた。

 

「──ああ。やはり…ワシは醜いか?」

 

その問いに答える者は、居なかった。

 

 

──────────────

 

 

「これは…なんだ?」

 

円蔵山、柳洞寺大空洞──本寺建立の際に既にあった天然の洞穴。

 

約200年の昔にそこに設置された巨大な魔法陣…アインツベルンの悲願、第三魔法を再現するための器、始まりの回路。

 

『大聖杯。』

 

「──これが大聖杯、アインツベルンの誇る大魔術式よ…けれど、おかしいわ。」

 

「うむ…これは最早高々魔術式には到底見えぬ代物よ…イリヤよ、此度はここまでにして引いた方が良い…」

 

「何を気弱なことを言ってるの、セイバー、ギリシャ最強の英雄が──」

 

ぱち、ぱち、ぱち。

両手を打ち合わせる、控えめな拍手。

そこに立つのは黒い法衣に身を包んだ長身の男。

 

「おや、おや、おや、敗退したが故にその理性を取り戻し、剣の英雄として現界した大英雄様ではないか、ふ、ふはは!」

 

「……貴様は、そうか……」

 

「気づいたかね、気づいたのかね?そう、そうともさ…狂化を持ったままのシャドウなど相手にもならなかったな、セイバー。」

 

「…なんなのあなた?」

 

「は、はははイリヤスフィール、イリヤスフィール!貴女は私、私は貴女だよ!いや、あえて今、この姿の私の名を語るとすれば…ただ、こう呼びたまえ…第九鞘 (ナイン)、と!」

 

「イリヤ、とりあえず殺すが構わんか?」

 

「やっちゃいなさい、セイバー!!」

 

「──応!!」

 

一瞬、膝がたわんだかと思えば、次の瞬間にはドンッと音を残してその鈍色の巨躯が跳んでいた。

 

「は、流石に早い!」

 

笑いながらも手を振ったナインの影から伸びたのは闇の触腕。

 

「虚数魔術…っ!?」

 

その状態に気づいたイリヤが叫び、セイバーに回避を促す。

 

「セイバー、それに触れてはだめ!」

 

1を0に還す。

稀なる魔術属性、虚数。

 

それはおよそ真っ当な人間に使えるものではなく、素養を持つものはごく僅か。

しかも、アレは不味い、あの虚数の内包する魔力は、私に匹敵する…!

 

そう感じたイリヤは即座に反応し、魔術を飛ばしてナインを牽制する、が。

 

「ははは、針金細工かね、他愛無いな!」

 

腕の一振りで渾身の魔術は無効化され、地に堕ちる。

 

「やっぱり、あいつ…魔力を喰ってる!」

 

魔力を喰らい、とりこむ。

その性質にしてあの力量は不味い。

 

恐らく使い方次第でサーヴァントの霊体すら貫通、切断せしめる魔技だ。

 

「…人の域を超えているな、ナインとやら!」

 

ヘラクレスがその手に顕現した炎剣を振るえば、九つの斬撃が火の粉を散らしながら影の触腕を断ち切っていく、が、敵もさる者。

触腕は数を増してヘラクレスを四方から追い詰めようと包囲を狙いう。

 

「は、はは!貴様こそ…流石ギリシャの大英雄、この私をして動きが、把握しきれぬとは、化け物め!!」

 

「…人の身で英霊の動きについて来る貴様が言うか…最早呆れるな。」

 

しかしそこはギリシャ最強。

数々の武勇を残した偉業は伊達では無い。

 

「──ッ、オォ!!」

 

彼が着込んだ獅子の毛皮、其れが姿を変えて鎖に繋がれた獅子の顔を象った。

ガチィン!と音を立てて触腕を噛み、止める。

 

「は!触れたな、ヘラクレスゥ!!」

 

「…我が名を知りながら我が宝具には疎いと見える、故、狂者たる私を操りながら敗北するのだ…人間!!」

 

触腕は触れた。

ヘラクレスの纏うネメアの獅子に。

 

虚数魔術の特性上、魔力さえ潤沢であるならばサーヴァントすら崩壊するのが真理である、が。

 

「…何?何故崩れぬ、いかな宝具とて魔力で編まれているならば崩壊せぬはずが…」

 

「やはり、そう思いこんでいたか…戯けめ…この獅子は生きている ( 、、、、、)…生きた神獣を相手に魔力を散らしてなんとする?」

 

そう、人であれば引き裂き、耐えても魔力を吸い尽くす。

しかし、神獣。

かの獅子は神獣なのだ。

 

神秘の塊でありながら生きた存在。

その纏う魔力は計り知れず。

その四肢が生み出す膂力もまた天井知らず。

 

「第一拘束解放…枷は外れたぞ、ネメアよ、さあ…叫べッ、吠え猛る不滅の獅子 (Barking, άγριο αθάνατο λιοντάρι)──!!」

 

ヘラクレスの胸で獅子が啼いた。

その咆哮は空間を伝播し、周囲に見える己が敵──この場合は触腕のみを音の波が震え砕く。

 

「なっ、私の…無貌の腕がッ!?」

 

ねじ切れるように砕かれていく触腕。

そしてその一瞬の動揺はヘラクレスにとって十分すぎる隙だった。

 

 

「終わりだ、人間──」

 

 

肉を斬り裂く音が大空洞に、響いた。

 

 

──────────────

 

 

「おるくー。おーるくー…ば〜さ〜かぁ〜。」

 

「…んだ、情け無い声出すんじゃねえよ朔弥 (マスター)。」

 

「エミヤんが目覚まさない…」

 

と、涙目で訴えて来るマスター。

…正直うざったい、と適当な対応をするクーフーリン・オルタ。

 

「あ?知るか、そりゃアレだけやりゃ疲弊するだろう、暫くすりゃ復活するからそこらに放り投げとけ、だいたい今のそいつは他所のマスターのサーヴァントだろうが。」

 

「だってエミヤんだよ!?」

 

「だから知るかよっ!?」

 

などと戯れていたら冷たい視線がこちらに向いた。

 

「……ねえ朔弥…それ、ウチのアーチャーなんですけど…ねえってば。」

 

「エミヤんはあげないよ!?」

 

「だからウチのアーチャーなんですけどっ話聞いてよこのスゥイーツ脳!?」

 

御三家の一角がご立腹だった。

さもありなん。

 

「…しかし聞くだに壮大な話だな…グランドオーダー?…レメゲトンの七十二柱の魔神だと?」

 

「ええ。信じられないでしょうが事実よ。そしてこの特異点の元凶は…多くの英霊を擁し二度にわたりビーストを討ち、人理を救済したカルデアさえも壊滅寸前に追い込んだ。」

 

メディアから事情を聞いたロードエルメロイ二世が呟き、メディアが補足する。

 

「しかしおかしくはないか…何故それほどの存在が冬木に唐突に現れた?」

 

「…唐突ではないわ、カルデアの事前の観測によれば1999年にはその前兆は確認されている…だからこそこうして今、この2004年の冬木に我々が送り込まれたの。」

 

「それだけでは無い、お前さんがたは知覚できていないかまだ体験しておらんようじゃがそこな小僧とその騎士…いやアサシン?…他にもおるが…この閉じたピュトスの中で繰り返し聖杯戦争に駆り出されとるぞ?」

 

「…そう!それですよ、おじいさ…い、いやグランドキャスター!貴方がかけた呪いとやらで私は見たんだ…幾度も夜が、昼が、瞬時に明けては沈む…異様な光景を…っ!」

 

「ちょっと待って…今あなた、ピュトスと、言ったかしら?」

 

「…おっと口が滑ってしもうたな…」

 

「やっぱりあなた、黒幕を知ってるわね?グランドアーチャーの方が良く知っているとか言っていたけれどあなたも十分に知っているのではなくて?」

 

「…お主には今の一言でわかったやもしれぬがな、今はまだ伏せておけ。」

 

「何故!」

 

「ここは奴の腹のなかに等しい…今はまだ微睡んでおるが、もし奴の真名なぞ口にしてみよ、やっこさん飛び起きてしまうぞ?」

 

「…そう、今は寝た子を起こす時では無いというのね?」

 

「寝た子と言うより眠れる厄災とも言えるがな…なんにせよそう言うことじゃ。」

 

あごひげを撫で付けながら答えるグランドキャスター。

目頭を抑えて天を仰ぐメディア。

 

「あは、あはは…洒落にならない…もし予測通りの相手ならカルデアが情報不足で壊滅寸前に追い込まれりわけだわよ!」

 

「……そんなにヤバイ相手な訳?」

 

「ええ、今はまだ明かせませんが…下手な破壊神よりある意味で厄介極まりない相手だとだけ言っておくわ…。」

 

神代の魔術師たる彼女がこうまで畏れる相手。

一筋縄ではいかないだろうなあ、と…

 

 

 

───────────────────

 

 

その頃のはくのん。

 

上空高く浮かぶ黄金の船。

そこには黄金の王と、不屈の契約者が居た。

 

「あっ、ちょっ、ぎる!」

 

「なんだ、はくの?」

 

「……だからっ、本当にいいの、こんな?」

 

先ほどから感じる大きな不安。

あの戦いの最中身についた獣じみた第六感がこの地が危険極まりないと告げていた。

 

「…我に今、お前を愛でる以外に大事があると思うか?」

 

などと、危険を危険とも思わぬ唯我独尊。

 

「〜〜⁉︎///////」

 

結局。

…王様はどこまできても我様だった。

 

 

 




金ピカ、働け。
はくのんセクハラ?され続けるの巻。

次回…「 仇 」…。
フランシス・ドレイク──吼える。




なんかもう、大変お待たせしまして…覚えてくださってるかな、かな…コソコソ (穴に隠れながら

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