Fate/alternative   作:ギルス

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神に見捨てられ。灼熱に巻かれ。
黒い聖女は猛りくるった。

そんな過去の己に感じいるものはあるのか。

だが、そんなことはもうどうでも良かった。
今、この時、このピュトスの中で。

神ならざる身は、神に怨嗟を告げる身なればこそ──

今、己が信ずるは神では無く。
自分でも無く。

ただ、無償の情をくれた彼らに他ならないのだから。

故に、小賢しく考える事などしない。
ああ、あんたに敵対する者を焼けば、あんたはかえってくる?

だから、邪魔するなら、焼いてやる。




第39話『昏き聖女』

 

 

「…この、魔力…魔神柱!?」

 

 かつての時間神殿で感じた魔力。

人類史を焼き尽くさんと画策した◼︎◼︎王。

その眷属が、確かにこの山の麓に現れたのを感じる。

 

「…マキリ…そうか、最後の殻を脱ぎ捨てたか。」

 

ふ、と。

音もなく現れたのは遠坂時臣。

 

「…お父様…」

 

息も絶え絶えに、膝をついたままの桜が呻く。

 

「…桜、無理をしてはいけません…貴女は今、何者かの侵食を受けている…」

 

そう、間桐桜と言う個人は崩れる寸前だった。

幾たびも死を見た。

 

 大切な人の断末魔を聞いた。

忘れることも出来ず。

告げることも、助けることも許されない。

ただ、見る事だけしか許されない。

 

「…救国の英雄、ジャンヌダルク。」

 

杖を突きつけ、ルーラー、ジャンヌダルクを睨みつける時臣。

 

「…。」

 

「貴様は何をせんと現界した?そのモノを護る為か、或いはクラス通りに聖杯戦争のバランサーとしてか?…半端なものよな、そ奴を護るが故に貴様はそこを動けない、役目を果たせないわけだ?」

 

ニヤ、と笑う。

それはやはり時臣ではなかった。

 

「…貴方、やっぱりお父様、じゃない…」

 

「……ふん、言ったであろう桜、私はお前の父であった、ものだと。」

 

今はもう、ベツモノだと。

 

『全く…魔神柱?もしくは使い魔?なんだか知らないけれど──私を ( 、、)悪し様に言って許されるのは私と、マスターだけよ…燃やしてあげる!』

 

それは、内から響く声。

 

「──ま、待ちなさい…ジャンヌ!」

 

ジャンヌダルクが、ジャンヌを止める。

影を割って飛び出した…「黒い」ジャンヌダルクを。

 

「…残念、私は私に言われても止まってなんか──あげないわっ!」

 

「ぬっ新手のサーヴァントだと!?」

 

「…汝が路は──すでに途絶えた!」

 

黒いジャンヌが手を翳し、振り降ろす。

黒く燃え盛る鉄の杭、復讐の炎を纏う槍群が時臣に迫る。

 

「があ!?」

 

あっさりと貫かれた時臣が痙攣したかと思えばドロリ、と黒いタールの様になり大地の染みと化す。

 

「…何を、貴女は!」

 

「は、まだ姿を晒す時でないとでも?」

 

「…あな、たは?」

 

桜が呆然としたまま黒いジャンヌダルクに問う。

 

「私はジャンヌ、ジャンヌ・ダルク・オルタ…救国の英雄などではない…全てを怨み、呪い、焼かれて死した反英雄──復讐者 (アヴェンジャー)クラスのサーヴァントよ…可愛らしいお嬢さん?」

 

ジャンヌ・オルタが強く、嗜虐心を満たした目で桜を射抜く。

 

「さあ、そろそろ頃合いでしょう…動けない貴女の代わりに引っ掻き回して来てあげるわ、私。」

 

「…あまり無茶をしないでくださいね…本当に。」

 

諦めた様にため息を吐くジャンヌダルク。

ニヤ、と唇の端を吊り上げるジャンヌ・オルタ。

 

「見てなさいよ…黒幕気取りの三下…本当の悪とは、黒幕とはどんなものか教えてあげるわっ…あーははははははっ!」

 

そうしてオルタはひとしきり笑い、暴風の様に洞窟を飛び出していく。

 

「…貴女方は、一体…」

 

「…言ったでしょう、私は調停者 (ルーラー)、ただし今の私は…人類史の、と前置きがつくかもしれませんけど。」

 

くすり、となぜだか本当に嬉しそうに微笑むジャンヌダルク。

背後に護る翡翠の結晶に向けた視線は…慈愛に満ちたものだった。

 

「…桜、安心してください貴女もまた…私達の腕に抱かれ護られるべき…魂ですよ…この言葉は受け売り、ですけどね?」

 

慈愛が、確かな愛情を含んだ声音に変わる。

 

ああ、きっとその言葉を贈ったのはその視線の先の──

 

 

 

 

 

 

 

「…無茶をするからじゃよ。」

 

「…全くね、幾ら何でもあんなものを自分の心象風景の具現に取り込むとか正気の沙汰じゃないわ、幾らサーヴァントでも病むわよ…」

 

「…この馬鹿の自己犠牲癖は今に始まったもんでもねえからな。」

 

と、クー・フーリン・オルタと凛の視線が士郎に向いた。

 

「…ああ、確かに。」

 

「なんで俺を見るんだよ…」

 

「「そりゃ…ねえ。」」

 

凛と朔弥が倒れて朔弥の膝で眠るアーチャーと、士郎を交互に見やる。

 

「だからなんでさ!?」

 

「んん〜お主とそのアーチャー…ああ!」

 

目を細め、二人を見比べたグランドキャスターさんもまた納得する。

 

「だからなんなんだよ!?」

 

はあ、と盛大なため息をついて凛が口を開く。

 

「聞いてなかったの?さっき…朔弥がこの馬鹿の真名を零してたわよ…エミヤ、ってね。」

 

「……は、はああああ!?」

 

魔神柱が葬られ静寂の戻りつつある夜空に、士郎の叫びが…盛大に響き渡った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…神気を辿ってきてみたはいいが何だ今のは。」

 

 士郎が叫んでいる開けた場所から数メートル離れた木々の合間、鈍色の肌をした巨漢と、藤色のロシアンハットと白いフリルをあしらったショートラインのドレスに、肩には帽子と同じ藤色のケープを羽織った少女が先の戦いを眺めていた。

 

「…まさか遠坂のアーチャーが禁呪の使い手だとは思わなかったわ。」

 

「…ああ、私を一度殺したあの攻撃も先の固有結界の派生技能だった様だな…おそるべき使い手よ。」

 

「どうする、セイバー?」

 

「…いや、彼らの相手をしても仕方あるまい…先ほどの異形の柱と言い…やはりこの聖杯戦争は狂っている…確信したよ、此度はまともな願いなどまず叶うまい。」

 

「…どう言う意味よ、それは?」

 

返答次第では許さない、と視線にその気持ちを察したセイバーは自らの主人に跪き、答える。

 

「どうもこうも…先ほどの異形は明らかに英霊ですら殺す類の災厄だ、そして神霊の降臨…それもゼウスだけでは無い、あのキャスターらしき老人…あれもおそらくは神に類するモノだ。」

 

そう、此度はイレギュラーが多すぎる。

 

「…正直わけがわからないわ…」

 

「だろうな、今は静観するべき、かもしれぬ…一度監督役とやらに問いただしてはどうだ。」

 

「…あの神父、私苦手なのだけど仕方ないわね。」

 

今は自体の把握が急務か、と納得しその身を翻すアインツベルン主従。

…まさかそこに、恐るべき災厄が座しているとも知らずに。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…ねえ、ギル。」

 

「なんだ、白野?」

 

「…本当に放置してて大丈夫なの?」

 

「は、構わん構わん…見ればフェイカーだけでは無くいろいろと居るようではないか…一人は気にいらぬ気配を纏うておるようだが──まあ、今は良かろう…暫しはお前との逢瀬を堪能しようではないか、ん?」

 

くい、と白野の顎を持ち上げて見つめる英雄王の視線に白野の顔がさあ、っと赤みを帯びる。

 

「ちょ、すとぷ、すとぷ!どうどう!すていすてーい!」

 

英雄王の頬を両手で挟み込むようにしながら慌てて顔を逸らす。

くきゃ、とか音がした気がするが気にしないでおこう、そうしよう。

 

「…照れ隠しにもほどがあるぞ?」

 

ちょっといけない角度にそらされた首をコキコキと鳴らしながら戻すギルガメッシュ。

ちなみに今は、空中に展開された彼の宝具…とある小説にも登場した有名な空中の城、その原典の一部である黄金の庭の上、やたらふわっふわのクッションを敷き詰めた場所で二人は抱き合い…いや、白野が一方的にギルガメッシュに抱き締められていた。

 

「ギルとイチャイチャしたくないわけ、ではないんだけどそろそろやめやがれください…私は貴方と違って人間なので!そう何度も何度も体力が持たないのですよ!?」

 

真っ赤に茹で上がったみたいに上気した彼女の首筋や横腹には赤い、小さな花びらの様な跡がいくつもつけられていた。

 

「…ふむ、まあ仕方ない。」

 

と、言いながら片手に持っていたピンク色の小瓶が黄金の波紋の中へと投げ入れられた。

 

「…ギル、今のナニ?」

 

「媚薬だが?」

 

「ニャ〜〜〜〜/////!?」

 

スザザ!

と、白野が飛び退く様に後退した。

 

「…その反応はいささか傷つくのだが?」

 

「やかましい!さっきあれだけ、あれ…だけ…うにゃああああ!?」

 

ジャラララ!

と、鎖が波紋の中から伸び、白野を拘束し、引き戻す。

 

すぽん、とギルガメッシュの胸に収められた白野は観念したかの様に大人しくなった。

 

「…うう〜、再会数時間でどんだけさ!ケダモノ!ビースト!?」

 

「ふはははは、我は人類悪にはならんから安心しろ!」

 

「意味わかんない!?」

 

王様は絶賛ストレス解消中でした、まる。

え?生贄にされた私はどうなるって?

…ナレーションに突っ込むなよう。

 

まあ、人間諦めが肝心ですよ、リア充モゲロ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

山道を走り抜ける。

元々農家の出であった彼女は生前から荒地を走り回るのも大して苦にはならなかった。

 

「…この気配…大空洞内部にあった気配とはまた別の…」

 

街中へと降りた彼女の足は自然と元来ルーラーであった時の感覚を頼りに、今は薄れたそれを絞るようにして感じ取る。

 

「…こちら、かしら…」

 

やがて見えてきたのは一台の車。

新都側から橋を越え、住宅街へと入り込んできたワゴン車をとらえた。

確かに、その車から感じるのは巨大な力。

 

「…先手必勝!」

 

地についた手が、暗赤色の輝きを放つ。

アスファルトを透過し、伝わった熱が形を成し、土砂を伴いながら車の直下から噴き上がった。

 

「あははは、脆いわね!」

 

ドガン!

 

ワゴン車はその勢いに負けて横転し、地面を横滑りしながらガードレールに激突してようやく停止する。

 

 

「…あら、確かに貫いた筈なんだけど…無事みたいね、おかしな話だわ。」

 

ワゴン車を突き上げた一撃は、先の時臣を貫いたのと同じ黒い槍。

炎熱を纏うそれが確かに貫いたと思ったが、ワゴン車は横転したもののその車体は無事である。

 

「…なんと手荒い歓迎か…しかしワシは気の強いおなごも嫌いでは無いがな。」

 

シュン、と霊体化を解いて現れたのはグランドアーチャー、ゼウス。

 

ワゴンからはなんとかドアを開いて二人の男女が這い出してきた。

 

「あいたた、確かに荒い歓迎だね…」

 

「…下からだなんて…しかも不意打ちですか…全く、相変わらず (、、、、、)ですね…」

 

頭を左右に振り、そう呟く切嗣とエレイン。

 

「…私、貴女に会ったことあったかしら…?」

 

「…この姿ではわからないでしょうけれど…会ってはいますよ。」

 

不意に睨み合う女性二人。

 

「…まあいいわ、貴女は今私の敵ではあるのでしょうし…あんな汚らしい存在にいいようにされている時点で…ね!」

 

踏み込み、エレインに突進するジャンヌ・オルタ。

 

「…ワシを忘れとらんかお嬢さん!」

 

横合いからまさに雷速で迫るゼウス。

 

「なっ、早っ!?」

 

バチ!、と火花を散らして炎と雷が弾け合う。

一瞬にして後退を余儀なくされたジャンヌ・オルタ。

 

「…楽しませてくれそうね…おじさま?」

 

暗い炎がジャンヌ・オルタの足元から噴き上がる。

 

「…マスター、ワシ…あの手のおなごはちょっと苦手かもしれん…あやつを思い出すんじゃが…逃げたら怒るか?」

 

自分の妻を思い出したのか微かに震えを覚えるゼウス。

 

「当たり前ですちょっとお灸を据えて上げなさい、多少セクハラしても許します、あのダーク聖女にだけは。」

 

「…ちょっとあなた、なんだかわからないけどそれ、明らかな私怨よね!?絶対!」

 

意味もわからないながら何かを感じたジャンヌ・オルタが叫ぶ。

 

「……承知した、マイマスター!!!」

 

このゼウス、先程の気後れなど無かったかのような…満面の笑みである。

 

 





【あとがき的なもの】

はい、この作品では久しぶりで御座います、皆様の心の影に忍び寄る…這い寄る物書き。
ライダー/ギルスです。

いや、いろいろ手を出し過ぎて停滞して申し訳ないです。
しかしながらちゃんと書いてますから…見捨てないでね?(キャロン!、とつぶらな目)

朔弥「キモイ。」

筆者を前に随分な言い草!

朔弥「キモイ。」

…心の中でスパさんが目覚めたらいやだから冷たすぎるその目はやめろ。

朔弥「まあ、とりあえず久しぶりの復帰ですね…エターナってないかとヒヤヒヤしたわ。」

士郎「…実際危うかったんじゃないか?」

オルク「…こいつ一丁前にスランプだったのか?」

そんな大層なものではなくて、単に忙しかったり浮気していろいろな作品書いていたからなだけかなあ…w

とりあえず、ごめんなさい、そしてまたゆるゆる書いていきますから!

次回まで…しーゆーあげーん!!

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