月よりの旅路。
少女は、再び黄金に出会う。
はくのん、やっと参戦!!
「…あれ。」
岸波白野。
緩くウェーブのかかった肩甲骨辺りまで伸びた薄明るい茶髪、それなりに出るところも出てくびれも有る身体。
何処にでもいる、平凡な女子高生。
私は無個性で、特に目立たず、いつもクラスで三番目くらいにいた。
秀ですぎず、馬鹿でもなく。
ただ、埋没している。
だと、言うのに。
何故か努力しなくちゃいけない様な焦燥感にかられて、気がついたら努力している。
どうでもいい筈なのに。
世界も、自分も、強いて言えば気に入った人を見て…その人達がしあわせならそれでいい。
私の心は。
未だに不完全だ。
何かが、足りない。
欠けているのだ、大切な、大切な何かが。
月明かりが見える、仄明るい夜に。
何故か急に目が、覚めた。
時刻は、遅いとも早いとも言えない時刻。
夜には違いないし、うら若い女性が外に出る様な時間では、決してない。
「……なんで、かな…呼ばれてる様な、そんな気がする……。」
不思議とそれは、確信があった。
確かに、誰かが私を呼んでいる。
「…待ってて、今、行くから。」
ぎゅう、と握りしめた手の甲には、消えかけた痣。
手早く制服に着替えて上からダッフルコートを羽織る。
「誰が、居るのかな──。」
赤い背中。
青い和装。
燃える剣。
──燦然と輝く、黄金。
それらが脳裏をほんの一瞬だけ過り、消えた。
ああ、私は今から、運命に出会うんだ。
何故か、嘘偽りなく私は。
そう、確信して自宅の玄関を出た──。
=
「…おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ、おの、れ────っ!!」
呪詛を吐き出すかの様に怒鳴り散らす英雄王、その怒声に合わせる様に飛び交う剣、槍、斧。
「うわははははははっ、悔しいかね、悔しいかね英雄王っ!?」
ナインが腕を振るう度に宝具が掴まれ、砕かれて行く。
既に言峰は虫の息だ、もはや助かりはしないだろう。
このままでは魔力不足と、あの黒い触腕に翻弄された挙句に──負ける。
それがわかる程度にはギルガメッシュは馬鹿ではなかったし、言峰がやられた時点で慢心も無かった。
にも、関わらず。
人類最古、最強の英霊の力を目の前の黒人は易々といなして見せた。
「悲しいなあ、英雄王…最初から全力で抗えば…まだしも勝ち目があったろうにな、今回の聖杯戦争…私を殺し得るモノが複数居る──貴様まもまた、可能性はあったのだが!」
人間。
ただの人間が、英霊相手になんと不遜な事か。
本来ならば人間が英霊にスペックで上回る事は不可能に近い。
ごく稀な特殊例を除けば…命懸けで漸く傷つけ、或いは滅する「可能性」を持てる程度。
が、この男の言葉は真逆。
全くおかしな物言いなのだ、普通ならば。
「貴様、一体…“何” だ?」
「言峰が言ったろう…私は第九秘蹟会…九人の筆頭騎士が一人──第九鞘、ナァイんん…だ、とも。」
会話の最中も触腕はギルガメッシュを捉えようと蠢くが、複数の銀の円盤が雷鳴を鳴らしながらそれを阻んだ。
この力、アンリ・マユに近しい、だが…
違う。
原初の泥…ケイオスタイドを煮詰めて固めたかの様な凶悪なまでの混沌の力。
此れ程の狂気に等しい力を人間が?
あり得ない。
「…図に、乗るな!!」
先ほどから真正面からの宝具射出を繰り返していたギルガメッシュ。
しかし、唐突にナインの周囲を囲む様にして宝具が射出された。
「ぬぅ!?」
緩急を変えた一撃に一瞬、対処が遅れる。
とは言え、難無く迫る宝具群を叩き落としたナインが見たのは、光学、魔力迷彩宝具──ハデスの隠れ兜で姿を消すギルガメッシュだった。
「──この、屈辱…忘れぬぞ……!」
ナインを睨みながら徐々にギルガメッシュの姿が消えていく。
追撃を仕掛けようと思えば出来ただろう。
しかし、ナインはただ鼻で笑う。
「くく、再戦を楽しみにしていますよ…精々、良いマスターを探して見てください…フワハハハハハッ!」
=
走る。
ただ、導かれる様に走った。
予感が、ある。
きっと、この先に。
私が出会うべき誰かがいる。
冬木のベッドタウン──その道を抜け、山あいに近づく途中にある冬木教会、そこへ続く道からほど近い、西洋墓地。
夜間の其処は不気味なほど静かだったが、不思議と怖くはない。
一歩、また、一歩。
近づいているのがわかる。
「…ああ、そうか、私がいつも感じていた焦燥感は──」
黄金の夢。
かつて歩んだ月の記憶。
そう──私は貴方に出会う為に。
故に、この世に生を受けたのだから。
「……ギル。」
墓石の一つに息も絶え絶えといった程で寄りかかる、常ならば決して見せない弱々しい姿。
それでも、その姿は眩く、私を照らす黄金だった。
どこまでもどこまでも──
果てなく遠いこことは違う月の裏側で。
出会った時のまま。
「はく、の──貴様なのか?」
キョトンとした顔。
珍しい。
鳩が豆鉄砲食ったみたいな顔をしたギル。
レアだ。
「く、くくくく…唐突に貴様を思い出した…今この我は関わらぬ筈の貴様を──何故かと訝しんで見れば、そうか、そうか…居たのだな。」
「貴方の眼、使えばすぐわかったでしょう?」
「ハ、未来がわかりすぎてはなんの面白みも無いわ…言峰は哀れであったが…おまえが居るのであれば此度の恥も、苦痛も耐えてやろうではないか…なあ、白野。」
「ギルをいじめた奴は、何処?」
キ、と前を見据え、虚空を睨む。
「戯け、油断したばかりにこの体たらくではあるが…我を誰と心得る…王の中の王、ウルク王、ギルガメッシュであるぞ?」
「ふふ、ギルはやっぱり──そうでなきゃ。」
ああ、欠けていたパズルのピースが埋まった様な充足感。
ふわり、と。
優しい匂いがギルガメッシュの鼻腔をくすぐった。
「ふん──待って、おったか?」
「ふふ、たった、17年程しかたってないよ、ギル…おかえり。」
「──ふん、よくぞ待ち、我を見つけ出した…褒めてやろう、白野。」
ひし、と抱きしめて。
そして、ギルの顔を確かめて──
キスの一つもしてやろうか、と身構えたその時、気づいてしまった。
「あれ…あれ…ギル…腕、腕が無いよっ!?」
「騒ぐな、片手がもげた程度。」
「や、だって、腕が、痛い?大丈夫?あ、あわわわわわわっど、どど、どうしよう!?」
涙目であたふたしていると、ギルに小突かれた。
「あ痛!」
「落ち着けと言うに、戯け。」
そう言って、ギルは金の波紋に手を突っ込み、小瓶を一つ取り出し、一気に中身を飲み干した。
「ん、ぐ…相変わらず不味い霊薬だ…」
と、そんな呟きをしたかと思えば。
腕が見る間に生えた。
「う、うわ…」
正直肉が盛り上がり、腕を形成する様はキモイ。
「ふう、これで…お前を抱けるぞ白野。」
ぎゅ、と。
不意に抱きしめられた。
そのまま。
このままに…時が止まれば良いのに、なんてセンチメンタルな気持ちになった。
…私らしく無いな、コレ。
「このままお前を押し倒したい所ではあるのだがな…今は些か事情がある、とりあえず離れるとしよう。」
4次元ポケッ──もとい。
それに乗せられ、ナイトフライトと洒落込む。
「ねえ、ギル…私ね…ギルの気配を感じてただ走ってきたから…周り、見てなかったんだけどね…アレ、何かな?」
御山、円蔵山から立ち昇る光の、柱。
山裾付近で閃く爆光。
「──聖杯に、何かあった様だな。」
「えっ、聖杯、聖杯あるの!?」
「…白野、再会そうそう慌ただしい事ではあるがな──再び我と契約を交わせ。」
と、そう言ってギルが私の顔を引き寄せた。
「へ、ふぇ!?」
「アーチャー、ギルガメッシュ──これより貴様は我が主にして半身、命を分かつ者だ…簡易ではあるがココに契約を交わす──岸波白野…覚悟せよ、貴様は我の、モノだ。」
唇を強引に奪われた。
「ん、んーー!?」
「暴れるでない、コラ!」
身体の芯から溶かされてしまいそう。
「ん、んふ、は、ぁ…ちゅ、ふぁ…」
甘い痺れが、全身を侵す。
「ギル…ん、はぁ…!」
「ふ、がっつくでないわ白野。」
唇が離れ、糸を引く。
「あ、やぁ…ギル…いじ、わる。」
ス、と。
右手の中指に何かが通された。
指輪、だ。
「左はそのうちにはめてやる…今はこれで許せ。」
「にゃ、にゃ!?」
見る間に顔が熱くなる。
「令呪を封じたモノだ…しばらく身につけておけば貴様に再び令呪が宿ろう。」
「──相変わらずなんでも出てくるね、ギル…やっぱり貴方はギルえも──」
「……。」
睨まれた。
うぬぬ、解せぬ…!
だってどうみてもドラ◯もんじゃないか!
「ふ…先ほどまで屈辱に腹わたが煮える思いだったのだがな…貴様のアホヅラを見たら笑えてきたわ、ふ、ふははははははは!」
「酷っ!?」
「さて──令呪が馴染むまでは傍観するとしようか…あの痴れ者を裁くのはそれからだ…」
うやぁ…ギルが本気で切れてる…まあプライドの高いギルが片腕もがれて黙ってるわけがないよねぇ…どうしてここにいるとかいろいろ聞きたいけど、聞いたら怒りそうだなあ。
月明かりに照らされ。
闇を裂く光の柱を見下ろしながら──
何故かギルはワインを取り出し、私を膝に抱き抱えだした。
「あの…ギル?」
「なんだ。」
「──あれ、なんか大変な事が起きてない?」
「だろうな。」
「…いいの?」
「ふん、業腹だがフェイカーに、騎士王…その上あの女がいる様だ…我が出ずともあちらは構うまいよ。」
「フェイカー、無銘がいるの!?」
「…なんだ、まさか彼奴が良いのか、白野?」
──あ、拗ねた。
「なに言ってるかな、私がギル以外興味を持つわけないでしょ…それでも一度は命を救ってくれた相手だから、お礼くらいは言いたかっただけだってば。」
「…お前がそういうのであれば…今度あの赤いのには高級ハムでも送りつけておこう。」
「…お歳暮じゃないんだから…。」
…喜びそうだけど。
「白野。」
「ん?」
「──此度の聖杯戦争…一筋縄ではいかぬ…この我をして脱落の危険性があるだろう…死なずにすむ様、ゆめ、警戒を怠るなよ。」
「…ありがと、大丈夫だよ…ギルがいるんだもの、私達が負けるわけないでしょ?」
「…ふ、そうであったな…お前の戦術眼は我が眼をも超えたある種の予知の様なもの…ふふ、また、我を使いこなしてみせよ。」
「まーかせて!」
満面の笑み。
自信たっぷりの顔、できたかな?
本当は、泣き出したい。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。
大事な大事な、私の欠片。
それが、見つかったから──。
おかえり、ギル。
もう一度、心の中でそう呟き。
私は…待ち望んだ黄金に包まれ眼を、閉じた。
=
「…バゼット。」
「なんでしょう、ランサー?」
金糸の様な美しい髪を手で梳きながらランサー、フィン・マックールはマスターであるバゼットにたずねる。
「どうにも浮かない顔だね。」
「…今回の聖杯戦争…わからない事だらけです、あのバーサーカーのマスターの顔、見ましたか?」
「…いや…見ていないが?」
「あの周到な手管、覚えがあります。」
「ふむ…魔術師同士そういうこともあるだろう。」
「…いえ、そのモノは既に故人であるはずなのですよ。」
考えこみ、空を見上げる。
「第一、私にしても──、一体いつここに来たんでしたか…確かに長髪の誰かと来た様な気はしますが…あれはもっとこう…?」
「…何を言ってるんだい、君とはこの冬木で出会い、契約を結んだろう。」
それだ。
そもそもその状況からしておかしな話で。
野良サーヴァントなどあり得ない。
ましてや此れ程の大英霊が。
「く、考えれば考える程に頭に霞みがかった様に…ッ!?」
ぐわん。
大地が、揺れた。
冬木全体が振動し、夜空に光柱が伸び上がる。
「…あれは…!」
そちらに駆け出そうとした、瞬間。
ドズン!、と。
巨大な何かが空から降ってきた。
「──アーチャーを探していれば…妙な異変もあったものだ…その上探してもいないものは見つかるときたか。」
鈍色の体躯、首筋に這う、後ろに撫でつけられたうねる様な髪。
その眼は理性を宿してはいるが、何処か狂気を孕んでいるようにも感じた。
その腕は人ではないかと思ってしまうほど人形じみた美しさをした少女を抱いていた。
「…探しものでないのであれば失礼、しかし──英霊と英霊、出会ったからにはする事は決まっていよう…違うかね?」
槍を構え、ランサーがバゼットとの間に入った。
「ふん、身の程知らずね…見逃しても良かったのだけれど…そうね、夜空をセイバーに抱えられて跳ぶのも飽々していたもの…いいわ、セイバー、やってしまいなさい!」
「…了解した、イリヤ。」
「…イリヤスフィール・フォン・アインツベルン──セイバーのマスターよ、以後、お見知り置きを…ランサーと、そのマスターさん?」
「…バゼット・フラガ・マクレミッツ…ランサーのマスターだ、アインツベルン。」
「よろしくね、最もあなた方とはこれきりになってしまいそうだけど…それと。──家名だけで呼ばれるのは好きじゃないわ…」
セイバーがマスターの少女、イリヤをそっと地に降ろす。
「では、ランサー。」
「ああ、セイバー。」
ランサーの手には水を纏う魔槍、
セイバーの手には炎を纏う神剣──
互いの獲物が、切っ先を光らせる。
「「いざ!」」
跳躍は、同時。
一瞬の交差で互いに放つ一撃一撃は、刃を介してその腕に衝撃を伝える。
「ぐう、なんと重い…!」
一撃の重さが半端ではない、それはケルトの英雄達を知るフィンにしてそう思わせるだけのもの。
「…なんという上手さか…私の斬撃を枝分かれする前に止めたか。」
今の一撃で、セイバーとしては残り八の斬撃を以ってして一息に葬るつもりであったのだが。
ランサーはセイバーの膂力を。
セイバーはランサーの技術に。
互いが舌を巻く。
「さぞ、名のある大英霊と見たが…名乗りを上げられぬのが惜しい限りよな…」
「…なあに、ランサー、貴方私のセイバーの真名が知りたい?」
「ふん、此れ程の手練れ…せめて名乗りを上げたいと思うが騎士と言うものであろうよ。」
「いいわ、ヒントを上げる…セイバーはギリシャ最大最強の大英霊…それだけ聞いたら後はわかるでしょう?」
息を飲む、バゼット。
神代から受け継がれた古き家系である彼女には、その一言で十分すぎるほどに想像できた。
あの剣は、生半な宝具ではあり得ないのは一目で見てとれた、その上でギリシャ、そして彼が纏う獣皮、恐らくは獅子、…それを主としたその防具。
「…ギリシャ…獅子…炎を纏う剣…まさか、まさかそれは──マルミアドワーズ…?」
「…正解だ、この剣は銘をマルミアドワーズ──我が友、ヘパイストスが打ち鍛えし神の剣…そこまで看破したならばもう名乗りを上げて差し支えなかろう。」
「は、ははは、ならばその防具、ネメアの獅子か…正に、正にギリシャ最大の英雄よな…」
「改めて名乗りを上げよう、我が名はヘラクレス──ギリシャに生を受けた古めかしい武人…さて、後世の騎士よ…貴殿の名は教えてもらえるのかね?」
「…ああ、ああ、光栄だ、ヘラの栄光──十二の難行を成し遂げた勇者ヘラクレス…相手にとって不足なし…我は、フィオナ騎士団が長!」
「…へぇ、貴方が…」
「強く!気高く、美しき智慧者──フィン・マックールとは私の事だ!」
「自分で美しいとか恥ずかしいからやめてください…後勝手に真名を名乗らないでください、全く…」
「騎士として、応えぬわけにいくまいよ?」
…貴方にそんな矜持があったのに驚きですが。
「面白い、あの嫌な光も、アーチャーも気にはなるけど…音に聞いた赤枝の団長の槍…へし折ってあげなさい、ヘラクレス!!」
「やれるものなら、やってみるといい!」
再び構え、槍を繰り出すフィン。
それを一瞬遅れたというのに難なく捌くヘラクレス。
どちらも恐ろしい程の技術と力。
本来なら人の身に介入など、不可能。
だが、バゼットは違った。
「フッ──はぁ!!」
硬化のルーンを刻んだグローブと靴が斬り結び、飛び退いたヘラクレスに追い打ちをかける。
「ぬ!」
激しく打ちあった直後故に、まさかのマスターの乱入に対処が数瞬遅れた。
「はああああ!!」
乱打がヘラクレスの肌に叩きこまれ、僅かに脚を踏ん張り、顔が仰け反る。
──が。
「馬鹿な、無傷だと!?」
「なかなかの拳打だが…私にその程度の攻撃は意味を成さんよ、猛々しきマスターよ。」
「なっ──」
「返礼だ、受け取りたまえ!」
ボッ。
空気を裂く音と共に衝撃を受けた。
全身に響く重い衝撃。
二度の衝撃でガードがこじ開けられた。
三、四、五度目でルーンの護りが吹き飛んだ。
七、八度目で肋骨がへし折られ。
九つ目の衝撃が身体を天高く打ち上げた。
「があっ、カハ!?」
それは、軽く打ち出されただけ──剣から離れた右手の、腰すら入らない体制からの牽制程度の拳だった。
体内に治癒を施しながら、空中で身をひねり、着地する。
「──わざと見逃した、なセイバー、いいや…ヘラクレス…。」
「貴公では…私に傷一つ負わせられぬからな…わざわざ殺す意味があるか?」
悔しいがそれは事実。
あの一撃を意にも解さない防御に、あの技術、あの力。
かなう、道理がなかった。
「へぇ…セイバーの一撃をもらって生きてるだけで凄いわよ、貴女?」
「…想像以上の化け物を従えている…流石はアインツベルンということか。」
打撃に吐いた血反吐を拭い、答える。
「では、幕だ…ケルトの英雄、誇り高き騎士、フィン・マックール…もう少し刃を交えたいところだが、いささか急ぎの事情があってな。」
そう前置いた後、ヘラクレスは今迄片手で振り回していたその神剣を両手で握り、構えた。
「──火を呑め、獣を屠れ──そは、荒々しき牙、吠え、猛れ…」
刃に、恐ろしいくらいに魔力が集まって行く。
「宝具を、解放する気か!!」
フィンが慌てて、自らも槍を構え──
「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃…!」
「剛なる者──」
「その身で、味わえ…!」
『
槍に満ちた水が、全てを穿つ光となり。
『
剛剣に宿る猛々しい炎が、あらゆる邪悪を、獣を屠る斬撃と化す。
圧縮された水の槍と、超高温の炎。
それらがぶつかれば、水蒸気爆発が起こる。
熱された水は気化し。
炎により急激に気化した水の、その体積は実に1700倍にも膨張する。
爆散した水は辺りの物体を薙ぎ倒し、その高熱は人の肺腑を焼く。
「──!!」
慌ててルーンによる護りを展開。
(これでは…、あれを使えない!)
本来ならばセイバーの宝具開帳は絶好のチャンスだったのだが、これでは切り札を切ることも叶わない。
「ぬ、うううーー!!」
「おおぉーー!!」
炎と水は、未だせめぎあいを続けている。
大量の水蒸気が晴れた時。
両者は共に立っていた。
但し、フィンは満身創痍。
護りを抜けた熱波に焼かれた肌は灼け爛れ、その美貌が損なわれている。
人であるならショック死しているであろう重度の全身火傷だ。
対するヘラクレスは、無傷。
先にこちらの拳を防いだ護りは威力を削がれた
「く、くく化け物、め…我が神霊を穿つ一撃を…完封してのけるかよ。」
「相性も悪かったな、フィン・マックール…火と水では、威力を発揮しきれまい。」
「…だが、我が槍は…折れてはいないぞ大英雄…!!」
灼け爛れ、掠れた声を張り上げるランサー。
「ふ、マルミアドワーズを受けて立っているだけで貴様は十分すぎるほど強い。」
ならば、それを蹂躙する貴様は一体なんだと言うのか。
「は、はははは、は!」
一声笑い、そして焼けて白く濁った眼で睨む。
なんとか自己修復し、視界が戻ってきた。
「正真正銘、我が最後の一撃…受けよ!」
振り絞り、抉りこむ槍の一刺し。
「疾い、が、哀しいかな…刺突では…読み易すぎる。」
僅かに身体をずらし、その刺突を躱し。
マルミアドワーズが閃いた。
「終わりだ、フィオナの長よ。」
ナインライヴズ。
ヘラクレスのその究極の武技が形を成した、獲物次第で形を変える概念宝具。
一瞬にして放たれた九つの斬撃が、ランサー、フィン・マックールを引き裂いた。
「ランサーッ!!」
バラバラと、地に落ちたフィン「だった」モノ。
それが一瞬遅れて、金の粒子と化して消えて行く。
「……あ、ああ!」
崩れ落ち、涙を見せるバゼット。
「…いくわよ、セイバー。」
興味をなくしたとばかりにまだ蒸し暑い蒸気が纏わりつくのを嫌う様にイリヤが告げた。
「ではな…強きものよ…さらばだ…女、諦めるな…この街は、狂っている。」
「…セイバー、何を言ってるの?」
「…なんでもない、それではアーチャーを探しにいくとしようか…この惨劇…奴を殺して終われば良いのだが。」
再びイリヤを抱え上げ、跳び上がる。
後には、膝をついたバゼットが一人残されるのみであった──。
*******
──ステータス情報が更新されました。
◯
ランク:EX
種別:対獣、対神宝具
レンジ:???
最大補足:1〜???
鍛治神、ヘパイストスが鍛えた神鉄の剣。
その剣は獣を屠り、炎の如く美しい刃紋を持つ神器名剣。
今作では火属性を帯びており、対獣、「人類悪」にも特攻を発揮する。
元来通常の刃や、エクスカリバー(カリバーンであるという説もあるが)ですら傷つかない怪物をも斬り裂いた名剣で、一時はアーサー王が所有する事もあったと言われる。
真名解放時にはエクスカリバーにも匹敵する炎の帯を放出するが、ヘラクレスが使えばそれを斬撃として放つことができ、もちろんナインライヴズによる九連撃も可能。
単体を対象とした斬撃から、大軍を想定した一撃まで幅広い運用が可能な神造兵器。
鍛治神が鍛えたこの剣は、エクスカリバーをも純粋な格としては上回る。
ただし、星を護る、と言う条件下であれば、エクスカリバーに対してはその限りではない。
【後書き的なもの】
はい、皆様のお越し(閲覧)をお待ちしております、しがない二次創作家、ライダー/ギルスです。
はい、駆け足な感が否めないフィンさん退場…すまない、すまない…だがしかたないんや。
セイバーの化け物ぶりを再認識させてくれた◯リーマン的立ち位置になってすいません。
バゼットさんにはまだ役割があるので生き残りました。
最近いろいろ書きすぎて更新遅くて申し訳なし。
とりあえず忘れたわけじゃないよ更新。←
話が進んだようで進まない!
はくのん可愛いよはくのん。
うちのはくのんはギル様大好きはくのんです。
ギル様もはくのん大好きです、コトミーは犠牲になったのだ…!!
参戦予定キャラがようやくほぼ出揃いました、まあ…黒幕やらぐだおなど一部はまだアレですけど。
あとお父ちゃん(アジダハーカ)の話とかまるで置き去り感。
少しづつ進めていきますが、これ完結何話になるやら…下手したら100とか行く…?
が、頑張って書きマッス!w
ではでは、なんかビィビィちゃんの逆襲とか公式発表ありましたね…サクラファイブとか来るのか…ビーチ、なのは水着鯖?
もしくは前貼りだけとか際どいサクラファイブの為の理由付け?
いろいろ気になるFGO。
それでは、また次回更新で!
しーゆー!!