Fate/alternative   作:ギルス

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大変遅くなりました。




第34話『悪夢』

 

「…おかしい。」

 

「なによ、藪から棒に?」

 

黒化英霊の群れは確かにこちらを押しとどめようと動いている。

 

アサシン…あの長刀、アーチャーとアルトリアが言っていた「佐々木小次郎」に違いはあるまい。しかし解せないのはソレが黒化しており更に他の黒化英霊を呼び寄せた事だ。

 

「…キャスターの陣営はまだ黒化したりしてないと思ってたんだけど…」

 

「それだけ今回の聖杯に異常があるって事でしょう、益々冬木のセカンドオーナーとしては見過ごせないわね。」

 

「…そうじゃない、そうじゃないよ凛ちゃん。」

 

何かがおかしい。

うまくは言えないが──

 

「くっ、この男っ…黒化しながら此れ程に巧みな技を──」

 

アルトリアが僅かながら押されている。

魔力放出こそ行えるがセイバークラスで現界したわけではないからかその押しが弱い。

 

「…フ。」

 

ニヤ、と口元を歪めて刃を構え直す佐々木小次郎。

 

「…私の技、通じないと思うなら受けて見なさいっ…シロウッ、宝具を使います!」

 

「ああっ、存分に持っていけ!」

 

両手で握っていた黄金の聖剣を片手持ちに、片手を空けて後方に飛ぶ。

 

「…サ、セヌ!」

 

まるで、アルトリアの宝具が対城宝具と知るかのように距離を詰めて発動させじと迫る佐々木。

 

だが。

 

「飛んで火に入る夏の虫──と、言うのでしたかっこの国では!?」

 

叫び、構えた両手に有るのは。

黒鋼と、黄金。

 

「──!?」

 

二刀を構えたアルトリアを見て面食らうアサシン、佐々木小次郎。

 

「ふ、その一瞬、命とりですよっ…星の息吹…宙(ソラ)の黒渦──相反し、喰らい合う──星を屠れ…宙(ソラ)を断て…エックスゥ!」

 

飛び込んでしまった小次郎には最早刀を受け流すしか手はなく。

しかし、それは受け流せるような刃でも無かった。

 

全てを忘れて魅入ってしまう黄金の聖剣と。

全てを飲み込む虚無の様に黒く反転した魔剣。

 

どちらも銘は「エクスカリバー」。

 

「カリ、バァァー!!」

 

交差した刃が、長刀を易々と断ち切った。

そのまま光と闇は同時に小次郎を捉え…

 

「ガハッ…、み、ごとなり!」

 

その絞り出す様な声と共に、アサシン佐々木小次郎は光となって消えていく。

 

「…九重朔弥ぁ!」

 

凛とした、声を聞いた。

多分これがアサシン本来の声なのだろう。

 

「…な、何!?」

 

「…託す、メディアを、救ってやってくれ…囚われた多くは助からぬ、斬れ。」

 

私に今、したように、と。

 

「な、なんで今そんな事言って──」

 

「朔弥、聞いてやってください。」

 

アルトリアが神妙な面持ちでそう促す。

 

「…セイバー、君は…」

 

傷を治療し終えたエミヤもまた似たような面持ちで。

 

「わかったわよ…」

 

「死の間際にようやく自由になるとはな、抗うにも限度があったわ…聖杯に気をつけるがいい、あれは最早…人類悪、そのものだ。」

 

「…人類悪?」

 

バーサーカーが苦虫を噛み潰したような顔で呟く。

 

「私の口からは…ここまで、だ…」

 

これ以上は言えぬのだ、と自嘲気味に笑うアサシン。

 

「──ではな、マスター(、、、、)。」

 

え?

マスター?

 

どういう意味かと問いただす前に、アサシンの姿は月光に溶ける様に消えていった。

 

「人類、悪…だと?」

 

エミヤもまた、苦々しい顔で呟く。

 

月にかかる翳り。

黒く影を落とすそれは──

 

 

 

 

「クソ、なんなのだこの街は…異常だ、異常しかない!だと、言うのに誰一人としてそれに気づきもしない…こんな馬鹿な話があるか!」

 

ロードエルメロイII世、本名ウェイバー・ベルベットは口にゲソ…イカの足を加えながら毒づき地面を蹴飛ばした。

 

イライラしながら考えごとをしていたら眉間に皺を寄せていたらしく、通りすがりのガテン系のおっさんに同情された。

「にいちゃん、カルシウムたりてねえのか?やるよ。」──と。

メザシならともかく、イカの足にカルシウムは無い…多分。少なくとも豊富では無い。

 

いや、そうじゃない。

そうではなくて…この現状だ。

 

時空間系パラメータはてんでバラバラ。

道から道へでは無く、街の境目付近で数歩歩いたらいきなり壁に囲まれていた何て事も。

時間感覚自体が曖昧で、油断すると意識が持っていかれそうになる。

ともすればそれに抗わない方が甘美だとばかりに意識に、ナニカが働きかける。

 

「…何故かはわからないが…私にだけ加護のようなものがあるのか…街にいる人たち、皆が時々搔き消えるように居なくなる…その次の瞬間には日が落ちたり昇ったりするなど…」

 

ある時には、目の前で談笑していた学校帰りの女子高生らしき一団が唐突に、まるで夢遊病者の如く瞳の色を失い立ち尽くしたのを見た。

そして、日が落ち、昇っていったかと思えば踵を返して…学校へと引き返していく様を見た。

 

在野の魔術師を訪ねた時には、その姿毎消え失せ、次の瞬間には日が昇って朝になり、寝室らしき場所から寝ぼけながら現れた。

何故貴方は結界にかかりもせず私の工房にいるのか、と激怒された。

当然だろう、招いたのはそのもの自身…

しかるべき連絡手段を用いて時計塔のロードであると名乗り、招き入れさせたのだから。

 

魔術抵抗を持つものはおそらくそうして大規模な仕掛けにより誤認し、ないものは深度の深い催眠の様な状態に落とされ、操られる。

 

…ここはまさに「鳥籠」或いは「箱庭」とでも呼べる場所だ。

最早、人の業ではない。

 

その中で自分だけが夜を、昼を…おそらくは「正確」に過ごしている。

はじめに意識が飛んだ時にどの程度時間感覚が狂わされたかわからないが、それ以降はまだ2日と経ってはいない。

 

しかし、実に数度日が落ち、昇ってをこの眼にしかと見た。

まるでビデオの早回しの様に──

 

「やはり、あの時の老人…あの老人に『おまじない』とやらをされてから、だ…」

 

そう、あれ以来異常を異常だと認識し始めた気がする。

それまでは自分も街の人々の様になっていたのだろうか?

 

「ゾッとしない話だ…しかし鍵はあの老人が握っているに違いあるまい…見つけねば…」

 

どういうわけか争う魔力などは感じるというのに、サーヴァントには一向に出会えない。

今の自分が出会ってどうするという話はあるが、そもそもどの陣営にも出会えないのが最早異常である。

 

出向くたびに、まるで意図したかの様に場面が変わる。

日が落ち、昇って…「何もなかった」かのように。

ただ、破壊跡などがあるのだ、或いは修復された破壊跡が。

 

「…本当に、私はいつもいつも貧乏くじばかり引いている気がするな…」

 

今この場にとある人物がいればさも嬉しげに笑うだろう。

…思い出したら腹がた立ってきた。

 

「ファアッ◯!!!」

 

唾とイカの足を空中に浮かせながら叫ぶ長髪のイギリス人紳士。

…否、もう立派に不審者である。

少なくとも…紳士たるものが叫ぶ様な内容ではなかった。

 

 

 

 

月明かりを遮るのは影。

蝙蝠の翼の様にマントを広げた、キャスターの姿。

 

「油断が過ぎるのではなくて!?」

 

その一言と共に特大の魔力弾がまるでレーザーの様に高速で幾つも降り注いだ。

 

石段が弾け、周りの木々が抉り穿たれる。

 

「きゃあ!?」

 

悲鳴をあげた朔弥をバーサーカーが抱えて避けた。

矢避けの加護を持つ彼には飛び道具の一発や二発では当たりはしない。

 

「…キャスターか!」

 

アーチャーもまた、即座に凛と、ついでに士郎の襟首を掴んで回避行動に移っていた。

 

唯一、宝具を撃ち込んだ直後のアルトリアだけが魔力弾の直撃を受ける。

被弾した場所から土煙が上がり、視界を塞いだ。

 

「!」

 

だが、舞い上がる煙が晴れた先には無事に立つアルトリアがいた。

 

「…キャスター、確かにタイミングだけを見れば危なかったですが…あの程度の物量ならば直感だけでも対処可能ですよ?」

 

「…シングルアクションの魔術としてはありえない速度と威力だったけど…流石はキャスターのサーヴァント、規格外ね…」

 

凛が呆れ混じりに抱えられたまま唸る。

反対側の手で襟を引かれて宙を舞った士郎はといえば投げ出されて激しくむせていた。

…気道が潰れなかっただけマシだろうか。

 

「ガハ、あ、ゲッホ、アーチ、ャーてっめえ!」

 

「だ、大丈夫、士郎?」

 

凛がいささか間抜けに、脇に抱えられたまま士郎を心配する、と。

 

ドサリ、といきなり手を離された。

 

「あ痛っ、アーチャーッ、何するのよ!?」

 

「…知らん、着地くらい自分でしたまえマスター。」

 

不機嫌さを隠しもしない声に凛が立ち上がりながら不服を訴える。

 

「な、なんなのよもう!」

 

***

 

 

「…はあ!」

 

アルトリアが木を蹴り飛び上がり、キャスターに斬りつける。

空中故に魔力を放出する事で軌道修正しながら弾幕を避ける。

 

「やっかいね、まるで先読みをされたみたいに…ならば!」

 

ブワ、と多量の積層型魔法陣が複数展開され、さらに弾幕の量が増えた。

 

「…くっ!?」

 

流石にかわしきれなくなり剣を交差して弾くも勢いを殺されてアルトリアが地面に落とされた。

 

「ラチがあかねえな…なら…これでどうだ?」

 

クーフーリン・オルタ、バーサーカーが魔槍を構える。

グ、と踏み込んだ足に爪に似た装甲が現れ、地面に突き刺さる。

固定したのだ、放つ為に。

 

「…我が槍は因果を逆しまに──全てを穿つ朱(あけ)の棘──その心臓、貰い…っ」

 

「させんよ、狂戦士。」

 

その槍が放たれるまさに寸前。

横合いからヌルり、と気配無く現れた男。

葛木総一郎。

その手は鎌首をもたげた蛇にも似た動きでクーフーリンに迫る。

 

「ぬっ!?」

 

ガイン、と慌てて引き寄せた投擲寸前の槍を無理やり拳と体の隙間へ捩じ込む。

ブチブチと筋肉が千切れる嫌な感触。

 

「あの体制から…槍を捩じ込むか──面白い、流石というところか。」

 

口では驚きながら身体は微塵も動きを止めず、葛木の手足はまるで鞭の様に不規則な軌道を描いて迫る。

 

刹那に叩きこまれた手数は実に十八。

 

人体の急所や関節を破壊にかかる一撃一撃は情け容赦無くクーフーリンに群がり、噛みつこうと殺到する。

 

「…チィッ、おかしな技を!」

 

足の固定を外し槍を強引に振り回して葛木を飛び退かせた後、向き直る。

 

「…仕留めきれんか…。」

 

葛木の拳は確かにバーサーカーの身体を幾度も抉り、打ち据えた。

だが、足らぬ。

 

「…は、最初の数度は加護のおかげだがよ…その後にテメェ、矢避けの加護に護れない殴り方に…触れる様な打撃に変えやがったな?」

 

そう、矢避けの加護は、矢を避ける。

飛び交う矢弾を、あるいは拳もまた「飛んで来た」と認識すればそれを反らす。

 

だが。

緩やかに、触れた箇所から浸透する様な打撃では反らせない。

 

「厄介な力を持っているものだ、しかしその頑丈さも規格外だな。」

 

「はっ、生憎…生き汚いのが取り柄でな。」

 

口の端から血を流しながら悪態をつく。

ダメージは決して軽くはない。

 

「…てめえこそ、本気でただの人間、か?」

 

いかにキャスターの魔術強化があるとはいえサーヴァントを打撃で痛めつけられるなど。

もはや人外の領域だろう。

 

「…身体能力の高さだけが戦いの全てではなかろう、現に私は力も、速さも──貴様に遠く及ばない。」

 

「ああ、だがその奇妙な技と…異様な先読み…まるでサーヴァントを相手にしてる気になってきたぜ…あんた、アサシンじゃねえのか?」

 

と、どこか喜色を滲ませ、笑うクーフーリン。

 

「違うな、…だが、次で終わりだ。」

 

ス、と再び双蛇が鎌首をもたげる。

 

「…おい、アーチャー、手を出すな。」

 

不意に背後に言葉を投げかける。

 

「…今ならば簡単に撃てると思うのだがね。」

 

赤いアーチャーが、弓に矢を番えていた。

 

「俺の楽しみ…奪うなよ。」

 

ニイ、と口を裂けた三日月の様に吊り上げ、答える。

 

「…了解した、ならば早々に決めたまえ。」

 

「ありがと、よっ!!」

 

轟、と空を裂いてバーサーカーの巨体が飛び出した。

 

「く、やはり前衛をつとめられるのが総一郎様だけでは…出なさい、竜牙兵!」

 

キャスターの左手からばらまかれた骨片が地に触れると同時に骸骨兵となり、セイバーと、飛び出したバーサーカーの眼前に群がり始めた。

 

「は、有象無象が幾ら出ても、なあ!」

 

槍の一振り毎に数鬼が砕かれ、青白い火を残して消えていく。

だが、地面からは湯水の様に骸骨兵が湧き出しつづけていた。

 

「く、大した強さではないが…なんと鬱陶しい!」

 

アルトリアが忌々し気にそう言い放った、その時。

 

大地が、揺れた。

 

 

 

 

 

「…胎動が…始まった?」

 

大空洞内に響く微振動。

──ソレは、目覚めの予兆。

 

「嘘、早すぎる、まだ数日しか経っ…あれ?」

 

聖杯戦争開始からほんの数日。

頭ではそう認識していた、今の今まで。

 

だが。

 

あらゆる光景を見せられてきた彼女、桜は悟る。

 

日付けが、合わない。

起きた出来事に対して明らかに日付けが経っているのに。

 

本来終わるべき──日目の夜を超えていない。

 

「…何を、何をしたの!っねぇ、▲@#◼︎ッ、教えてよ!?」

 

名前が、音にすらならない。

告げることを咎められたかの様に頭が、痛みを訴える。

 

「は、ぐっ…!?」

 

よろめき、壁に手をついて耐える。

そもそも何故こらえたのかもわからないが、しかし。

 

疑問を持つことを諦めちゃダメだ。

そう、ただそう感じた。

 

虚数、ノ、使い手ヨ。

抗ウナ。

 

「…いや、です、先輩を、姉さんを…皆を絶望に落として喜ぶあなたのいうことなんか、聞いてあげません!」

 

沈黙。

微振動だけが感じられる薄暗い洞の中で、ふいに声が聞こえた。

 

「…やれやれ…強情な。」

 

「え。」

 

そこに見えたのは、あり得ざるモノ。

赤いスーツにステッキ、紳士然とした佇まい。

 

「…う、そ?」

 

「久しぶりだな、桜──元気にしていたか、などという気はないが…やはり感傷的な気持ちは拭いきれないものだな…人の心とはかくも面倒なモノだ。」

 

「…お、父様…?」

 

「ああ、そうだ…おまえの元、父親だった人非人だよ、私は。」

 

皮肉気に口角を吊り上げ、自虐的に呟く男。

先代セカンドオーナー。

 

遠坂時臣が、そこに──居た。

 

悪夢は、まだ始まった、ばかり。

 





【後書き的なもの】

はい、だんだんと現状が明かされ始めました。
人間どころか、サーヴァントすら化かしてしまう仕掛け。
繰り返す朝と夜。
さて、いかなる存在がコレを引き起こしているのか。

そして。
遠坂時臣は、「何」なのか。

ここからは段々と謎を明かしにかかります。
はくのんは…もう少し、待ってね?

ではでは、また、次回更新で!
しーゆー!!

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