Fate/alternative   作:ギルス

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山門には雅なるサムライ。

復讐者と暗殺者。

無間地獄は続く。
ああ、そこに慈悲は、無いのか。


第33話 『雅、翳りて。』

「……もう、やめてください…。」

 

やめる?ナニを?

 

「何度、こんなことを繰り返すんですか?」

 

……ガ…、……ルマデ。

 

「我儘を言わないでください、桜。」

 

ヌウ、と伸び上がった影の両手が、少女の頬を慈しむ様に撫でた。

 

「──やめて!ライダーの顔で、声で…私を呼ばないで!!」

 

黒く歪んだタールのような影から這い出た、上半身だけのメドゥーサ。

その身体は衣服もなく、豊満な乳房が溢れでる様にして見えている。

顔は右半分が赤黒いラインに侵され、目は白眼が黒く、黒目が真っ赤に染まっている。

 

バシ、ッと。

平手がメドゥーサの手を払いのけた。

 

虚数、ノツカイテ、ヨ…汝ハ、貴重、ダ。

ユエに、コソ、キオ、く、を残した、ニ。

 

「…いっそ、何も知らないままなら…よかった…先輩が何度も何度も何度も何度も何度も、殺されて行く様を、見せられ続けなければならないのは何故っ、私が、先輩が、何をしたの!?」

 

────、ナニ、モ。

 

「なら、放っておいてよ!なんで!なんで!」

 

其処に在るからだ。

 

唐突に、理性的な声。

しかし、直ぐにそれは影の海に消えて行く。

 

アア──、ソコ、ニ、アルノダナ。

アルノカ?ナケレバナラヌ、アルノダ、ハズダ、アレバ、アルノカ、アレ、アルヨウニ…ararararararararararararar──

 

「もう、嫌…誰か、私を、先輩を、皆を…、この無限螺旋から…解放、してください…死んだっていい、むしろ、せめて、死んで終わらせて…もう、繰り返し絶望するのは…嫌なの…」

 

儚げな少女の願いは、虚しく響く。

此処は蟲蔵。

既に主人も居ない、蟲の巣窟であった場所。

 

パッ、と。

脳裏によぎるのは大聖杯を前にしてその身体を影に貫かれる赤毛の少年の姿。

 

「先輩、先輩、先輩…もう、死なないで、生きて下さい、生きて、生きて…うぁーーああああああああああああっ!!!」

 

 

もう、少女を蹂躙する悍ましい蟲も、翁も居ない、だと、言うのに。

 

少女は──ちっとも、幸せになれはしなかった、自由すら、無かった。

 

 

 

 

赤い月の浮かぶ空。

冬木旧市街の武家屋敷の庭に、三人のマスターとサーヴァントは集っていた。

 

「さて、士郎に、アーチャー。」

 

「なんだね、ア…セイバー?」

 

「なんだい、ア…セイバー。」

 

「二人してアサシンって言いかけるのやめてもらえますかっ!?泣きますよ、私!?」

 

抗議するアサシンなアルトリアはもう半泣きである。

 

「い、いやすまん、何故か口走りかけた…」

 

「え、俺はアル──って、いや真名言いそうになって真名はまずいかな、と…」

 

「士郎は許します、アーチャーは後でカリバります、確定です、むしろ確変からの大フィーバーです、二本でぶった斬ります。」

 

「な、アルトリア!?やめたまえ、本気で死んでしまうではないか!?」

 

おい弓兵、真名、真名!!

 

などと、漫才をしているとそこに新たに突っ込みが加わった。

 

「なにしてんのよ、あんた達…あとセイバー…

も何時迄も拘らないの、話が進まないじゃない。」

 

凛の呆れ顔に、続くは浅黒い肌の筋肉巨人。

 

「そうだな、夫婦喧嘩は俺も食わねえぞ?」

 

──それで良いのか、クランの猛犬…。

 

「バーサーカー…冗談とか言えるんだ…しかも自虐ブラックジョーク…」

 

とは、朔弥。

 

「まあ、兎に角皆準備はよろしいですね?」

 

「ああ、ばっちりだ」

アルトリアの言葉に答え、投影したサバイバルナイフと、強化を施した数種類の拳銃類をホルスターに収める士郎。

 

「…投影品でないとはいえ結局銃を使うのか、貴様…。」

 

もうどうでもいいか、と投げやりながら苦い顔のアーチャー。

 

「そもそも最初からいつでも臨戦態勢よ、私は?」

 

と、腰に手を当てながらふふん、と言い放つ凛。

 

「俺としても早いところ現状を打破したいところだな、敵を抉るなら早い方が、いい。」

 

「好戦的ですね…まあ、先ほどの新都心側からの発光現象は異常な魔力量でした…間違いなく特大の力がぶつかり合いをした余波…おそらく宝具でしょう。」

 

「ああ、真昼かってくらいに空が白くなってたからな…騒ぎにならないのは人払いや認識阻害の結界でも張られていたんだろう。」

 

「今こそ動く時でしょう…大聖杯が収められた円蔵山の洞穴…そこを打破するには絶好のチャンスです…キャスターが巣食っているのはわかっていますが…われわれ全員がかかれば楽に勝てます。」

 

「…確かにキャスターが想定通りコルキスの魔女であれば負ける道理は無いだろう…門番にアサシンが居たとしても大丈夫だ、しかしな…今回は君が経験した聖杯戦争のどれとも違う…いかなるイレギュラーが存在するかわからんぞ?」

 

「…その時はその時でしょう、最早躊躇っている場合でもありません。」

 

「そうだな、確かに急いだ方が良かろう。」

 

アーチャーが同意し、そのまま全員で柳洞寺へと歩き出す。

 

「士郎、私が抱えて走る方が早い…行きますよ?」

 

と、アルトリアが士郎を軽々と持ち上げ、横抱きに抱えた。

お姫様抱っこである。

 

「ちょ!これは、幾ら何でも恥ずかしい!?」

 

「「「……っっ!」」」

 

当人二人以外の全員、笑いを堪えるのに必死であった。

 

 

 

 

「…とうとう来ましたか…さて、全力で迎え討たねばいけませんね…此度もあまり長い蜜月は続きませんでしたわね…。」

 

山道を登る複数の気配。

山門に守りは無く、このままいけばいかに彼女に有利な場とは言え数に負けるだろう。

 

破格の霊格を備えた二人に、あの厄介なアーチャー。

3対1では如何に神殿化したこの境内であれ敗北はほぼ確定。

 

「宗一郎様…今迄お世話なりました、今宵、この時を持って契約を破棄させていただきます。」

 

そう独りごちコルキスの魔女、メディアは自身の胸に歪な短剣を突き立てんと、逆手に構え。

 

その手にスウ、と伸びた掌が重ねられた。

 

「…宗一郎様、何故…」

 

「キャスター、いや…メディアよ、仮初めにとはいえ夫婦の契りを交わしたのだ、独り逝くなど許さん。」

 

「…何を、貴方からしたら私はただの、行きずりでしょう?」

 

「…いいや、おまえは…何もなかった俺に熱を灯した、生きる意味をもたらした。」

 

「…罪なお方、私はこれでも王女でしたのに。」

 

「…なら、どうしたというのだ?」

 

「…この私をこうまで骨抜きにするなど…本当に、罪なお方です事…」

 

そのまま二人は身体を重ね、抱きしめ合う。

長い口づけを交わし、確かめるようにした後は…山門に目を向けた。

 

立ち昇るのは影。

幽鬼のように立ち昇る人形は、長い刀を背にした羽織を着たサムライであった。

 

『最早、自我など殆ど持って行かれたのだがな…残滓に過ぎぬこの身で良ければ…使い潰すがいい。』

 

と、声は無く念話だけがメディアの頭に響く。

 

「…アサシン…パスも無く、貴方は最早聖杯の傀儡でしょうに…何故?」

 

『さてな、まるでこれこそが役目だと言われた気がしてな、気がつけば立っておったよ。』

 

ふふ、と笑いを零しフードを取り払うキャスター。

 

「…オヌシ、ヤハリ、顔…出した、ガ良い」

 

それだけを絞り出すように肉声にして伝えて、アサシンは念話すら通じなくなった。

 

「…最後にそれ?本当に気障ね…貴方…残念、宗一郎様がいなければ少しぐらついていたかも知れませんが…けれどそうね、せっかくの厚意ですから…遠慮なく使い潰させてもらうわ、アサシン。」

 

にい、と口元を歪めて笑うアサシン。

「こころえた」とでも言いたげに。

 

 

 

 

「そろそろだ、もしも私とセイバーが覚えている通りなら…山門にはアサシンがいる筈だ。」

 

アーチャーの言葉に頷き、見えた山門には…

黒い影が佇んでいた。

 

「あれは──アサシン!?」

 

「邪魔をするな、シャドウ!!」

 

アーチャーが弓を構え、矢を放つ。

が、一瞬閃いた刃がそれを斬り落とした。

 

「…ココ、トオサヌ。」

 

その間に山門前にたどり着いた面々に伝えるように声を一つ絞り出す、アサシン。

 

「その様な姿になってなおこの山門を守りますか、アサシン。」

 

今度は声は無く、ただ構えた刀がその返答だった。

 

「ならば、私が相手になりましょう。」

 

アルトリアが、青いジャージ姿に燐光を零すマフラーを首になびかせ、その手に輝く聖剣を構える。

それを見たアサシンが感嘆した様に息を漏らす。

 

「皆、手出しは無用…さあ、行きますよ!」

 

金の輝きがアサシンを斬り伏せようと幾度も閃き、それを流麗な動きを持って受け流すアサシン。

 

力と疾さでねじ伏せにかかるアルトリアの剛の剣、対するアサシンの柳の如き柔の剣。

 

「凄い…なんなのあれ…刃が見えないんだけど…」

 

「楽しそうな相手を独り占めか…俺の分はあるんだろうなあ…あ?」

 

「出番まで待っててよ、バーサーカーが暴れたら私が疲れるんだから…」

 

凛の声に被せるようなバーサーカーの声、それを嗜める朔弥。

 

「力や速さは完全に上なのに…全て軸をずらして刃を逸らしてる、しかも──あれ、宝具じゃない…ただ長いだけの刀だぞ!?」

 

「ほう、あの動きの中それが解るか…小僧、やはり貴様は…」

 

「は?何だってアーチャー?」

 

「いや、気にするな…それより今ならば走り抜けられよう、行くぞ!」

 

「トオ、サ、んと、いッ…た!」

 

掠れた声でアサシンが叫ぶと、そこに複数の影が立ち昇る。

 

「ち、デミオルタを呼びやがった。」

 

バーサーカーが呟き面倒そうに槍を構える。

 

「何、嬉しいんじゃないの?」

 

さっきから闘いたがっていたバーサーカーはあまり嬉し気ではない顔で朔弥に返す。

 

「自我もない奴を相手にしても面白かねぇ。」

 

「まあ、なんにしても…先生!出番です!」

 

いきなり腰に手を当て、胸を張りながら何かのたまう朔弥。

 

「誰が先生だ用心棒か、俺は!」

 

「にゃはははっ」

 

「戯け、来るぞ!」

 

二人のコントを待つほど影達は優しく無かった。

アーチャーの指摘通り一斉に獲物を構えて走り寄り、斬りかかってくる。

 

双剣を投影したアーチャーが最初に、矛を構えた大柄な影と切り結ぶ。

 

「ぐ、この膂力…体格、武器…呂布か!」

 

「呂布って、三国志の英傑じゃない!なんでそんなのが影化してるわけ!?」

 

凛が悲鳴みたいに叫ぶ。

それはそうだろう。

何せ冬木の聖杯で東方の英霊は呼べないはずなのだから。

 

「私が知るか!だがこの奉天牙戟はどう見ても、呂布のそれだ!」

 

矛を弾き、いなしながらアーチャーが怒ったように返し、次に走り寄る影を一度に二人。

バーサーカーが足止めた。

 

片側は槍を、片側には長い尾を叩きつける。

 

「ーー◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」

 

影達の声なき叫びが響く。

バーサーカーが相手にする影の後ろから、フードを被り片手に括り付けた簡易クロスボウを放つアーチャーらしき影。

影はすぐに薄い皮膜に包まれて姿を消した。

 

(ち、あの馬鹿緑まで取り込まれてやがるか!)

 

「ちょ、何今の…アサシン!?」

 

凛は勘違いしているようだがアサシンだと言われても違和感は無いものの…あれはアサシンでは無くアーチャー、ロビンフットだろう。

カルデアでの記憶を少なく無い量保有するバーサーカーにはそれが理解できた。

もしも、カルデアの英霊の大半が相手に奪われているとすればかなりまずい。

 

「ぬうっ…ああ!!」

 

呂布の矛を弾き、がら空きの胴を斬りつける。

痙攣するように跳ねた後に呂布の影は崩れて消えた。

 

「…ぐ!」

 

だが、アーチャーもまた少なく無い傷を負ったのか肩口を押さえてよろめいた。

 

「アーチャー、大丈夫!?」

 

凛が慌てて治癒の魔術を使い治療にかかる。

 

「流石に三国志に名高い豪傑…理性をなくしながらこれ程とはな…無傷の勝利とはいかなかったか。」

 

「…よく言うわよ、呂布奉先って言ったら無敵の代名詞みたいな英傑じゃない…それを一対一で宝具もなしに倒して、それ?私にしたら貴方こそびっくりよ…本当、どこの英霊よ貴方。」

 

「さて、そこは何故か記憶が曖昧でな?」

 

「……そう言うことにしておいてあげる、でもいつか教えなさいよ?」

 

「…黙秘権は無しかね?」

 

「当然♡」

 

「あかいあくま」め、とアーチャーが心中毒づいたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「…さて、マスター、アヴェンジャー、どうするよ?」

 

「…どうもこうもあるか、なんだアレは…本当に同じサーヴァントか。」

 

「同感だね、俺は魔術師でしか無い、が…あれらが如何に規格外かくらいは解る。」

 

ビルの一角から双眼鏡でゼウスとギルガメッシュの激闘を見守っていた雁夜、アヴェンジャー、アサシン。

真昼のように明るく光ったかと思えば、公園の木々は薙ぎ倒されてミステリーサークルみたいになっていた。

 

「…あれ、どう誤魔化すんだ教会の連中。」

 

「…さあね、地盤沈下だとでも報道するんじゃないか、後は不発弾の誘爆とか。」

 

「…しかしあの力…アレがギリシャの主神だというのも頷けた、奴の宝具も確認できたのは上々だ。」

 

「…いや、あれは一端だと考えたほうがいいぜ、アヴェンジャー…あんな剣はゼウスの逸話には無い…借り物くさいんだよな。」

 

と、灰藤色の眼を細めてアヴェンジャーに注意を促すアサシン。

彼らからは流石に開放した際の真名は聞こえておらず、その色形を目視したのみではその正体も見破れなくても仕方ない話だ。

 

「ほう、根拠は?」

 

「…むしろあれがゼウスの主武装だと思う根拠こそないだろ。」

 

「…一理ある。」

 

シャポーの鍔を直しながら納得するアヴェンジャーを横目に、雁夜は考える。

 

「俺達に勝機があるとすれば…アサシンによる陽動と、アヴェンジャーによる一撃必殺を狙うより無いだろうな。」

 

「…最善手としてはそうだろうな。」

 

淡々と、それで足りるとも足らないとも言わずそう答えるアヴェンジャー。

 

「もしくは逆に、あんたらに陽動させて俺が敵マスターをBANG、ってのは?」

 

「先の敵マスターの不可思議な防御を見ただろう、おまえの攻撃が通るかも怪しかろう。」

 

「辛辣だね、俺にも切り札の一つくらいあるんだぜ?」

 

軽口を叩きながら、三人は闇に消える。

聖杯戦争は、未だ混迷の中に。

 




【後書き的なもの】

はい、皆様おはようございます、こんにちは、こんばんは。
皆様のお茶受け的なもの、名状しがたいライダー/ギルスです。

はあ、ナーサリー、はい、ナーサリー…術ギル、アタランテ…

☆5がこねえっ!?
血の涙が出そうです。(現在210連敗)

なーんて話はどうでもいいですか、そうですね…山の翁…じいじ、欲しい(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
万象の鐘は…金がないから鳴らない…
運も今の所ない…

ウッ(;ω;)

エミヤ「落ち着け、馬鹿者。」

朔弥「はい、再起不能な筆者は置いておいて…現状の生存確認をば。」

カキカキ。

生存サーヴァント/マスター

赤の令呪

セイバー(ヘラクレス) /イリヤ
アーチャー(エミヤ)/遠坂凛
バーサーカー(クーフーリン)/九重朔弥
アサシン(アルトリア)/衛宮士郎
キャスター(メディア)/葛木宗一郎

青の令呪

セイバー(未召喚?)
アーチャー(ゼウス)/エレイン
ランサー(フィン・マックール)/バゼット
バーサーカー(カリギュラ)/衛宮切嗣
アサシン(???)/間桐雁夜
キャスター(未召喚?)
ライダー(フランシス・ドレイク)/間桐慎二


前回生存サーヴァント

アーチャー(英雄王ギルガメッシュ)/言峰綺礼

特殊クラス

ルーラー、アヴェンジャーはマスター無しで限界可能。

ルーラー 聖女????

アヴェンジャー 巌窟王エドモン・ダンテス

脱落者

赤のライダー(メドゥーサ)
赤のランサー(李書文)

朔弥「と、こんなですねえ…以外に脱落者少ないなあ…。」

虎「筆者がキャラ殺すの躊躇うんだよ、後伏線張るだけはっていまだに出てないキャラとかね、もうね、回収できるのかしら…」

エミヤ「そこは筆者が気合いれるしかあるまい…根性出せよ、書けば出るかもしれんぞ?」

か、書く!書くよ!☆5おおおーー!?

イリヤ「物欲センサーバリバリね、ダメだこりゃ。」

ヘラクレス「煩悩があっては運も味方せんからな。」

九狼、筆者「ふぁ(;ω;)」

てなわけ?で、また次回更新までしーユー!!

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