Fate/alternative   作:ギルス

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その槍は、拳は──
生涯コレ修練と、激しく走り抜けた。

神に届くその槍は。
生涯見つけられなかった「望み」に出会う。
壊れぬ敵、胸躍る、強き者──。
我は、戦に生きる修羅。
今一度の生は、義と、拳に…捧ぐもの也。




第30話 『絶招』

「どうした、綺礼?」

 

カソックを首元まできっちりと閉め、暑苦しい程に厳格に着こなし。

男…言峰綺礼はいやに嬉しそうに肩を震わせていた。

 

「く、ククク…ククク、あっはっはっは!」

 

使い魔が齎した映像。

そこにはくたびれたレザーコート、煙草を咥えて銃器を手にする一人の男が映っていた。

 

衛宮切嗣。

魔術師殺し──

 

「生きていたか、戻ってきたか、信じていた、ああ信じていたとも!」

 

「その顔、覚悟…ようやく10年前と同じ貴様に戻ったな、待ち侘びたぞ!」

 

喜色に満ち満ちたその顔は、常の神父を知る者からしたら驚きだろう。

 

無感動、無表情なこの男が、あまりにも、あまりにも活き々きと、饒舌に喋るのだから。

 

「…………」

 

背後に立つ紅眼の美丈夫はその口元を笑みに変え、ただその背を見つめていた。

 

****************

 

あの、昏い影の様なサーヴァントの襲撃から1時間程。

正面からでも、搦め手を使おうともあちらがこちらを認識した時点で詰んでいる。

それほどにこのアーチャーの力は群を抜いている。

 

その主従に促され、今僕らは冬木ネオハイアットホテル──10年前自分が爆破したホテルの後継にあたるホテルのスイートに通された。

 

第四次のケイネス・エルメロイ・アーチボルトと言い、魔術師然としたマスター達は危機意識は無いのか、こんな空中に居を構えて…爆破しろと言わんばかりだ。

いや…この主従ならば力ずくで全て弾き返してしまいかねないが。

 

「で、僕をこんな所に連れてきてどうしようと言うんだい。」

ケイネスの時の様にフロアが異界化していたり、工房になっていたりはしない様だが、敵の拠点だ、警戒して悪い事はあるまい。

 

「…意外に臆病なんですね、貴方?」

 

「慎重だと言ってくれ。」

 

白衣に、ボルドーカラーのネクタイ、パンツスーツに身を包んだ知的な美人。

アーチャーのマスターで、名前は知らない。

声は鈴の音のようで、その容姿は100人いたら99人は振り返るであろう程に異性からも同性からも羨まれるであろうほど整っていた。

 

──いや…何を考えているんだ、僕は。

とか考えながら、視線はつい、豊かに実る一部分を見てしまうのは男のサガか。

 

「…気のせいかのお…そいつの背後に…わしが妻に睨まれた時みたいな言いようが無い怖気が見えた気がするんじゃが…」

 

腕を組みながら呟くアーチャー、どこか第四次で見た征服王に似ている。

 

言われた途端、怖気を感じた。

嫌な事を言わないで欲しい。

お前みたいな神気溢れるサーヴァントが言うと洒落にならない。

 

「…なんだろう、嫌な予感しかしないんだが。」

 

「■■■…」

バーサーカー、哀れむような目で見るな、後なんでお前アーチャーに平伏してるんだ、負けを認めたみたいになるなよ、おい。

 

後に、彼が大神ゼウスであると聞いて納得した、バーサーカー…カリギュラが治世していたローマは彼らギリシャの神々を呼び名こそ変えつつも崇拝していたのだから、最早最初から屈していた様なものだろう。

 

****************

 

「は、手応えのない──さて。」

 

湧き出した黒化英霊を一息に葬り、キャスターと葛木に向き直るランサー。

 

「中つ国由来のサーヴァント、かしら…貴方、私達の側につく気は無いかしら…正直なところ私達の願いは半ば叶っているのよ、だから聖杯が要ると言うなら貴方に渡しても構わないわ…マスターには死んで貰いますけど。」

 

このランサー、武人気質であるのは明白、加えて理不尽な願いなど持ち合わせていないのは問わずと知れた。

ならば、この優秀な前衛を手放すてもあるまい、人間であるランサーのマスターは信用など出来ないから死んで貰うしかないが。

 

「は、生憎よな…マスターに恵まれたとは言わぬが儂は強き者と死合いたいだけでな──」

 

ギラギラとした目は、葛木に向いている。

最早言葉は要らぬとばかりに、葛木、己がマスターまでが薄く笑いながら構えをとる。

それも、本気で殺すための型を。

 

「殿方の考えることは今も昔も解りませんね…さりとてマスターがそう考えたならば、異論を挟みもしません、残念ですよ、ランサー。」

 

「は、厚遇の申し出感謝する、しかしこの身は武に捧げたものなれば──いざ、尋常に。」

 

そして、思い通りに運ばないのが人生と言うものか。

最早1度目の生は終わった身でありながらも、矢張り運命と言うものからは逃れ得ぬのか。

 

「この、後に及んで──戻れ、じゃと!?」

 

「…貴様のマスター、無粋が過ぎるな…」

これ以上は言葉には出さない葛木であったが、その表情は明らかに気の毒だ、と語る。

 

「…地獄に堕ちろ、マスター…。」

血が流れる程に唇を噛み締め、己がマスターに恨み事を吐き出す。

 

「野暮用を申し付けられた、業腹だがこの様な些事で令呪を使われても叶わぬ故な──勝負は預ける。」

 

《毎度毎度良いところに水を差しよって…狙っておらんだろうな、貴様…》

 

《真逆、優先事項が出ただけの事よ。》

──どうだかの。

まあ、今は仕方あるまい…先ほどの申し出を袖にしたのは誤りであったか?

否、この機会は正しくあの男が儂を呼び寄せた故の付録の様な第二生よ──なれば、ある程度は従うが義と言うものであろう、間違いでは、無い筈じゃ。

 

「…ランサー、いつでも歓迎するわ?」

魔女が、見透かした様に笑みを向けてくる。

 

「は、身に余る評価、痛み入るがな…二言は無いとも。」

 

そう言い残し。

ランサーは未練を振り払うかの様に激しい音を立て、境内の石を蹴り割る様にして離脱して行った。

 

「あら、私がキャスターでなければ後始末に困る所よ、全く。」

 

す、と手を翳しただけで巻き戻しの様に境内の荒れた様子が消え、半壊していたものも全て綺麗に元どおりになる。

 

「…やはり、幾度見ても不思議なものだ、我が目を疑いたくなるな。」

 

常ならば黙って見ていたであろうマスターも先のランサーの熱にあてられたか、いやに饒舌だ。

 

「私は──魔女ですから。」

他に言われればけして許さぬ蔑称を自ら皮肉気に口にする。

 

「…お前は、お前だろう、キャスター。」

 

──そこは、メディアと呼んでほしいのだけど。

この方にそれを求めるのも違うかしら。

 

などと思考しながら、コルキスの魔女、メディアは思う。

こんな形でなく、生前に出会っていたなら、自分はあの様に悲惨な人生を送らずに済んだのだろうか、と──…

 

****************

 

「ランサー。」

と、目を剥く様に語るのは言峰綺礼、己がマスター。

 

「なんじゃ、マスター。」

物凄く微妙な顔で、生暖かい視線を送るランサー。

 

「この男を追い詰める…貴様好みではあるまいが、存外しぶとく、強かな男だ…少しは楽しめると保証しよう。」

 

「…構わんが、なぜ今なのだ?」

 

「殺さず、生かして捕らえろ…サーヴァントがいる様だがそれは完膚無きまでに殴殺して構わん。」

 

答えになっておらんぞ、と言う顔ながら渋々と出て行くランサー。

 

「…良いのか、令呪で縛らなければ面白がって殺しかねんぞ?」

 

「…あんな猪武者に、あの男がやられるものか…だが、仮にもランサーが聞いた通りの漢であるなら奴を間違いなく追い詰めるだろう。」

 

ただ、それと「殺せる」事は同義では無いが、と薄ら寒い笑顔で、自分が笑みを浮かべたことにも気づかずに答える綺礼。

 

 

その台詞を聞いた英雄王は、とうとう堪えきれずに笑いだした。

 

「ふ、ふははは、綺礼…お前笑っているぞ?矢張り面白い奴よな貴様は…見ていてまるで飽きぬ。」

 

精々、己が成したい事をするがいい、と。

綺礼の肩を叩いて退室して行く。

 

「…そうか、私は──笑えて、いる、か。」

己が顔を、その無骨な手が包み、口の端と目だけが覗く。

 

それは、酷く歪な…人らしい感情を真には理解できぬ彼が唯一理解した命題 (こころ)

愉悦と言う感情の魔物…。

閉じた街、閉じた空。

それを知るでもなく、しかし彼は嗤う。

 

それは、紛れもなく。

彼にとっては「希望」であったのだから。

 

**************

 

妙な悪寒、風邪でも引いたのかと仕方なく携帯のナンバーを交換し、断りを入れ、彼らが拠点にしているホテルから出て近くのコンビニへと歩いて来た。

 

簡単な栄養材を購入し、店先で飲み干してダストボックスに放り込む。

ガタン、と音を立ててそれは箱を揺らし。

 

確認して直ぐに公園を散策する様にして煙草を吸いながら歩いた。

 

「出てきたらどうだ…サーヴァント。」

 

「ふ、気づいていたか…中々に戦慣れしている様じゃな?」

 

「褒められて嬉しいものでもないが、な。」

煙草を踏み消し、懐の得物を握る。

 

「声をかけた、ならば抗う気はあると言うことじゃな…行くぞ!」

 

ドカン、と空気が爆破されたかの様に激しく震え、ランサーの姿が一息に迫り、直前で鋭角に角度を変えた。

 

「ぶ、物騒な奴じゃな!」

 

木には、ピンと張られた鋼。

足裏から送られた魔力で起動した、予め街の各所に仕込んでおいたトラップの一つ。

細く、束ねた女の髪と撚り合せて洗礼を施した魔力銀──ミスリルの鋼糸だ。

 

「そのまま首が落ちてくれれば楽だったんだけどね、残念。」

 

「なんと…追い詰められたのはわしの方、か…?」

 

辺り一面に張り巡らされた鋼糸の網。

ランサーの最大の長所である「速度」は封じた。

 

後は、力で捻じ伏せるだけだ。

 

「バーサーカー、やれ!」

糸の無い、狭い範囲にバーサーカーを実体化させて、視野を共有してこれ以上は動くな、という範囲指定のみを簡潔に念話で指示を出す。

バーサーカーの怪力を生かし、連撃を加えるも、ひらひらとかわされる。

しかし掠めた拳は木の幹を粉砕し、破片が辺りに降り注いだ。

 

「は、ほっ、こいつはたまらんな…だが、速さだけで武を誇ったわけでない事を教えてやろうか!」

 

槍を投げ捨てダン!と脚を踏み、地を揺らす。

本来ならばこの様に強く踏み込むのは震脚としては間違いなのだが、敢えての派手なパフォーマンスだ。

 

力で勝るバーサーカーに対し、まるで柳の様な体捌きでゆるり、と先ほどの音と反対に。

揺らめく様に傍に滑り込み。

バーサーカーの胸に、トン、と。

 

──拳が触れた。

 

「絶招──猛虎・硬爬山…!」

本当に軽く、ただコツンと当たるだけの拳が、バーサーカーの逞しい胸を、軽鎧ごと陥没させた、常人ならばそれだけで命絶たれていた事だろう。さらには、そこに追い討つ様に肘が衝撃が消える「前」に吸い込まれた。

 

バガン!!!

鉱石をハンマーで叩き割る様な音。

 

吹き飛んだバーサーカーの身体が、鋼糸に絡まり、ズタボロになりながら止まる。

酷い有様だが、なんとか霊核は損傷していない、慌てて治癒の為の魔力を流す。

 

「なっ──バ、バーサーカー!?」

 

なんと言う事か。

槍を手放してなおあの戦闘力。

桁違いの技術、そしてあの技──

 

「真逆、貴方は…!」

 

「ほ、知っておったか…人はワシを…『神槍』…などと呼ぶらしいな?」

 

やはり、サーヴァントとは面白い…ワシの本命の一撃を受け…なお生き足掻くものがいようとは──

そう呟く顔は喜びに染まる、まるで子供みたいな…無邪気な笑顔で。

しかし、その手に死を乗せたまま……

 

稀代の格闘家が、手を伸ばす──

 

「迂闊だね、神槍…、李、書文!!」

そう、迂闊だ。

槍を手放さずに鋼糸を切断しながら戦われれば今頃詰みだったかもしれない、しかし…その格闘家故の矜持が、自信が。

彼の判断を過たせた。

 

言葉と同時に懐で握っていた得物。

それを、抜く───フリをして。

 

逆手で隠し持っていたもう一つを放り投げる。

 

 

キュア!!

 

 

光が迸り、ランサーの眼を灼いた。

 

「ッガ、小癪な──!」

 

至近距離でのフラッシュグレネード。

相手が、人であったならばまさか爆薬を投げつけられたか、と目を閉じて伏せただろう。

 

だが、ランサーはそうはせず、爆破前に投げ返す自信があったが故の過ちを犯した。

確かに彼は疾い。

着火前に掴み取り、投げ返そうと手首のスナップのみで投げ返した。

が、切嗣がそれを見越していないはずも無い。

投げ返すか、蹴り飛ばすか、或いはそのまま突っ込んでくる、と予想し、既に爆破寸前まで待ってから投げていた。

 

結果的にソレは、ランサーの掌を離れ、彼の顔面の高さで起爆した。

切嗣は既に背を向け、目を閉じたまま記憶した地形を思い出しつつ疾駆する。

 

「バーサーカー、霊体化して付いて来い、逃げる!!」

 

流石に目を灼かれ、涙を流しながら一瞬躊躇うランサーを背に、とにかく逃げた。

このままでは拙い。

決定打が無いのだ、そもそも自分には聖杯など必要無い、寧ろ破壊しなければならないからこそ病んだ身体を押して参加したのだから。

 

「ならば…誰かと手を組むのも…妙手かもしれないな。」

 

10年前なら、考えもしなかったであろう思考。

 

舞弥がいたら、言うだろうか。

──切嗣、貴方は弱くなった、と。

 

 

************

 

 

「は、なんだありゃあ…」

 

黒づくめのマスターとバーサーカー、それを追い詰めたランサーらしい相手の戦闘を影から見ていたのは雁夜が召喚したアサシン。

 

「バーサーカーもとんでもないパワーだったが…槍を手放してからの方が強いんじゃないのか、あのランサー…」

 

槍をまともに振るう場面こそなかったが故の誤解であったが、彼のランサーはその槍の手腕は正に神域。

それを鍛錬する為の前段階に習得したものこそ八極拳であり、後に李氏八極拳と呼ばれ数少ない弟子によって伝えられている、現代に残る数少ない実践派の武術。

しかし、その気性から「手を抜く」などと言うことが一切無かった彼は、生涯実践派の技術を錬磨し続け、無駄の無い…実戦において見た目が派手なだけの技術など意味は無いと地味であろうと意味のあるものを突き詰めた。

 

結果として生まれたのが先に挙げた李氏八極拳でありその中心にあるのが彼自身の生涯そのもの──『六合大槍』である。

つまりは先に見た拳打は彼にしてみれば敵に、状況に合わせたに過ぎない。

 

「にしても…あのバーサーカーのマスター…そうか、そうかよ…皮肉な運命ってものかな?やっぱりマスターの話通り…イレギュラーの多い聖杯戦争、なんだな…」

 

一人納得する様に呟き、アサシンは闇に、消えた。

 




【後書き的なもの】

はい、みなさまおはようございます、こんにちは、こんばんは。
貴方の暮らしを見つめるネコカオス的なものがいたらどうしよう。
ライダー/ギルスです。

今回、本来ならカオスな愉悦劇場を書いていましたが戦闘シーンを書いていたら真面目なシーンになり、流れ的には本編の流れだから、とまずはきちんと本編を書いてからと踏みとどまりました。

いや、まだ書いてる途中ですが麻婆と慢心王とネコがハッスルしているとかいないとか。
(予定は未定)、この話の時間軸から派生はしますが、ありえない登場人物とかいろいろ盛る予定。
ギャグって意図して書くの難しいよね、本当。
でも化学反応起こした時は我ながらどうなんだこれ、ってくらいのものが生み出されたりします。

…うっかりシリアスにぶっ込んじまったエックスとか、エックスとか、エックスとか。

物語的には一進一退していますが、ゼウスと切嗣に同盟?フラグが立ちました。
いや、士郎達と同盟するのが一番良いんですが彼は士郎が参加したのを知りません、むしろ避けて避けて、遠ざける気満々ですので衛宮邸にすら近づくのを避けるでしょう。

すれ違いの極致。
ブキヨウのキワミッ──ッア──!!

さて、複雑なこの話。
マジで収拾つくの?バカなの?筆者死ぬの?

ごめんなさい、頑張るから見捨てないで下さいマジで、マジで((((;゚Д゚)))))))

と、言うわけで震えながら次回更新まで頑張ります、しーゆー((((;゚Д゚)))))))((((;゚Д゚)))))))

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