Fate/alternative   作:ギルス

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嵐が来る。
空を揺るがす嵐が。

静けさは鳴りを潜め、
徐々に風が吹き始める──



第29話 『凪』

「嵐が、来る。」

 

 嵐?

 

「ああ、世界を揺るがす大嵐だ。」

 

 怖いの、いや、だよ。

 

「なに、心配はいらん…何の為にこの様な極東の地にまで出向いたと思うておる?」

 

 早く、出たいよ。

 

「暫くかかるな、だが──必ず元凶は取り除かねばな…黄昏を見る前に世界がなくなってしまうのでは…我々が今までなにをして来たかわからなくなるでは無いか。」

 

 じゃあ、元凶を、喰えばいい?

 

「お前は──すぐそれだ、少しは考えてものを言わんか、全く。」

 

 難しいこと、ニガテだ、よ。

 

 兄者、は狩の事しか、考えてない、よ

 …ととさま。

 

「まるで犬の様な事を言うでない…誇りを持たんか…誇りを。」

 

 おいしくない、から、いらない。

 

「しようのない奴じゃな…はあ。」

 

 ──兄者…とと様、呆れてるよ…

 

「しかしまあ、あやつがまさか地上に干渉しようとはな…まずはお手並み拝見かの?」

 

 

****************

 

囲まれている。

四方八方から感じる気配、禍々しい力。

 

「まずいな、想定外だ…これは尋常ではないぞ…バーサーカー、離れてくれるなよ…僕だけでアレを突破するのは不可能に近い…」

 

愛用の銃器を構え、しかしサーヴァント相手にはなんの意味もない事を考えれば牽制になれば良いところだろうと周りを見渡す。

 

見えるだけで数騎。

 

「馬鹿な、何故サーヴァントが群れをなしてるんだ…しかも、基本ステータス以外が見えない…クラスすらわからないだと?」

 

第四次のアサシンの様な特殊な存在?

それにしても一騎一騎のステータスが高すぎる…!

 

「────ウ、ァ■■──…」

 

バーサーカーもまた、本能から忌避したか、警戒心を露わにして周りを睨む。

 

どうすべきか判断もつかず様子を見ていると、やがてセイバーらしき影が見えた。

身の丈に見合わぬ大剣を構えた少女らしき影。

 

「あ、あ、ア──■■ォォ■■■!」

 

「ど、どうした…バーサーカー、落ち…!」

 

制止も間に合わぬまま、バーサーカーが弾丸の様に飛び出した。

勢いのまま少女へと躍りかかると、その両手を振りかぶり、ハンマーの様に叩きつけた。

 

「──!!」

 

言葉はなく、しかし少女は大剣を横に構え、腹を片腕で支えてその一撃を受けきって見せた。

なんと言う膂力か、少女の外見をしてもそこはやはり、サーヴァント。

 

「■■ォ!■■!■■──!!!」

 

聞き取り辛いが、心なしかバーサーカーは同じ単語を繰り返し叫びながら拳を振るい続けている様に聞こえる。

 

その猛攻を受けながら、少女もまた口を歪めて笑っている様に見えた。

 

「バーサーカー、奮起するのはいいが飛び出しすぎだ、このままじゃ…っ、クソ!」

 

バーサーカーと少女を中心にサーヴァントが円を描く様に包囲し始める。

まずい。

 

バララララ、と手にした機銃を連射する。

だが。

 

「、やはり無駄か…!」

 

弾丸は着弾したものも軽々と弾かれ、鎧や皮膚を貫けない。

そもそもほとんどが回避されている。

 

「バーサーカー!退がれ、宝具を用いて離脱を

──!?」

 

ドフ、っと。

軽い音がして身体が浮き上がる。

殴られたのだ。

サーヴァントからしたらほんの軽い一撃っ、しかし人の身には…

 

「げ、あ…!!」

胃液を吐き散らして崩れ落ちる。

 

目の前には、杖を構えたキャスターらしきサーヴァント。

キャスター?キャスターの一撃で自分は悶絶していたのか。

 

「な、さけなくなるな…クソ!」

意地で身体を起こし、振るわれた杖をかいくぐり、唱えた。

 

「──time alter double accel ‼︎」

 

固有時制御。

人の身には過ぎた力だが、体内に限定する事でその影響を最小限に。

世界に咎められずに時空を歪める特異な魔術。

 

一瞬、2倍速に加速し、キャスターの視界から逃れ、頭に懐ろから取り出したもう一つの銃器を向ける。

トンプソン・コンテンダーカスタム。

大口径の一撃のみを射出する携帯できる拳銃としては最大威力を発揮する改造品。

弾丸には30ー06スプリングフィールド弾。

本来は対応しない口径だが、カスタム時に無理に作らせた銃身はそれを吐き出した。

 

ガオン!、と拳銃にあるまじき音を立てて弾丸が吐き出され、慌てて身体を捻ったキャスターの頭を掠め、肩を撃ち抜く。

本来ならば、例え肩を砕かれようと即座に治癒をかければ問題ない程度の傷。

弾丸が自身を貫いた事に驚きこそするが、キャスターは魔術を用いて──

 

その、肩が爆ぜた。

 

「──!?!?」

 

キャスターは訳も分からず、混乱しながらのたうち回る。

 

「君が魔術師で無ければ僕がやられていたよ…いや、それも最早時間の問題、か?」

 

取り囲まれたバーサーカーも、暴れまわりはしているが徐々に追い詰められていく。

 

「諦めが早いのですね…貴方?」

 

鈴を転がすよう様な、可愛らしい声。

どこか冷たく話しながらもその澄んだ声はそれが女性だと感じさせた。

 

そして、立ち塞がるのは巨躯。

異様なまでの魔力を漲らせた、鎧の隙間からでも解る、筋肉の塊の様な立ち姿。

 

「な──に?」

 

後に、あの声の後にあの姿で一瞬我が耳を疑ったとは彼の言葉。

しかし、現実にはその後ろに女性が控えていて見えなかっただけなのだが。

 

「先の一撃は見事だったがな、あまりに冷静にすぎやせんか…少しは足掻いて見せよ、人間?」

 

漆黒の鎧に身を包み、両手に青白い雷を纏う大男。

 

「アーチャー、やりなさい!」

澄んだ声が、放てと叫ぶ。

 

「ハッハー、是非もなし!!」

 

豪雷一閃。

光が瞬いたかと思えば、次の瞬間には辺りに気配は皆無。

バーサーカーと、アーチャーを除いた気配は根こそぎ消滅していた。

 

「──アー、■、ロ──」

 

悲しげに呟いたバーサーカーを背に。

堂々と此方を向いたのは、大神ゼウス。

現状、此度の聖杯戦争に於ける最大最古の英霊であった。

 

*************

 

 

高く、高く。

天に聳える山が見えた。

 

その頂に、一人の男が磔にされている。

その肉は、岩肌に張り付き、半ばが石のように変質してしまっている。

 

腸が露出し、鎖に繋がれた姿は明らかに生きているとは思えない。

 

だが。

動いた。

男は呻きながら涙を流しているのだ。

 

「何故、解放した──何故、私はここを離れてはならないのだ、罪は罪、罰は罰──償う事で私は…まだ、■■でいられるのだから…忘れないで…ああ、忘れないで…母様──」

 

「原初の火を与え給うた神ともあろう者が、なんと情けない…さあ、泣いていないでここから降りるのだ。」

 

「──巫山戯るな!巫山戯るな?誰が望んだ、誰が頼んだ!私はこのまま朽ちてしまいたい!消えてしまいたいのだ!人は、栄えた、栄えて、堕落した!私が招いた、私が犯した罪だ!」

 

「──だが、お前のその罪が、人を生かした、人を…確かに救ったのだ。」

 

むせ返るような、嫌な臭気が漂う山肌。

その臭いと、足元には犬面鷲身の異形が、矢に貫かれて横たわる。

 

「ああ、ああ──お前が来たことで、私の唯一の理解者が、死んでしまった…死んでしまったのだ…」

 

「正気か、それは貴様の腸を啄ばんでいた化け物ではないか。」

 

男──プロメテウスの言葉に。

解放者、ヘラクレスは眉間に皺を寄せて唸った。

 

「だが、私はこの鷲に啄ばまれ、しかしこの鷲に生かされていたのだ…」

 

この男は、底なしの馬鹿か。

自分を苦しめ続けた畜生が、事もあろうに自分を生かした?

 

ヘラクレスは知らなかったが、彼は三千年もの間、この異形の鷲の糞尿を糧に生き続けていたのだ、不死故に死ぬことは無いプロメテウスだったが、もしも腹を満たす事がなければ。

如何にそれが汚物だったとしても彼の精神を辛うじて繫ぎとめたものでもあった。

 

故に、辛苦に晒された彼にしてみれば、何時しか鷲は彼の唯一の理解者となり得ていたのだ。

鷲には、ただ栄養ある岩肌にぶら下がった便利な餌場にしか思われずとも。

 

彼が狂った親愛を抱いたのは、無理からぬ話であったかもしれない。

考えてもみれば、三千年だ。

三千年の間誰と話すこともなく、ただただ腸を抉りだされる日々…

この男は狂う事で唯一、自我を残したのだ。

 

「哀れよな…だが、私にも、人々にとっても貴方は恩ある神だ──」

 

やがて、無言のまま泣きじゃくるプロメテウスを胸に抱き、山肌を降り始めるヘラクレス。

 

やがて視界は霞み、ぼんやりと意識が覚醒しだす。

 

「ああ──光、光が見える…雷火に怯える必要も無い、寒さに凍えることも無い…人に希望を与えたのは確かに、貴方なのだから──」

 

背後に聞こえた声は、どこか異質で、今ここにあると思えない。

しかし。

 

優しく、悲しく、苦しそうな──

 

 

 

***********

 

 

目覚めたそこは、自分のベッドだった。

 

「イリヤ、おはよう。」

 

「──リ、ズ?」

リーゼリット。

自分の一部、アインツベルンのホムンクルスで…そして、妹のような存在。

 

「お嬢様、ご無事でなによりでございます。」

 

「セラ…」

同じくアインツベルンのホムンクルスであり、魔術師としての自分の師でもある、姉の様な、存在。

 

はたと気がつき、飛び起きる。

 

「そう、そうだわ…早く…あの不埒な神を跪かせなきゃ…私を、アインツベルンを侮った事を悔やむ様に──」

 

「落ち着け、イリヤ──今のお前の精神状態で逸るのは得策ではない。」

そう、制止したのはセイバー、ヘラクレス。

 

「夢を、見たわ──セイバー、貴方が…鳥葬の磔刑にされていたプロメテウスを助けた時の夢を…貴方、プロメテウスに向けた目と同じ目を今、私にも向けたわね?」

 

「プロメテウス…懐かしい話だな。」

 

「私を、憐れまないで。」

強い拒絶、強い、悲しみと怒り。

それは人の強さで、弱さだ。

 

「全く、強がりを──」

嘆息しながらも、ヘラクレスは否定はしない。

 

ベッドからよろめきながらも起き上がるイリヤを支え、その丸太の様な腕に抱え上げた。

 

「アーチャーを、探すわ。」

 

「承知した、マスター…アインツベルン。」

わざわざ家名だけで呼んだのはヘラクレスなりの皮肉と、ある種の優しさではあったが。

イリヤは答えず、行きなさい、とだけ命じる。

 

「行ってらっしゃいませお嬢様…ご武運を。」

セラの台詞に頷き、ヘラクレスが同時に足に力を込める。

もう日が沈んだ空に、砲弾の様な速度で飛び出していく。

 

「イリヤ、もう、行っちゃった…」

 

「お嬢様、でしょう…リズ。」

 

「セラ、は…硬すぎ。」

 

「貴女は柔らかすぎるのです、メイドとして少しは自覚なさい…ですが…今だけは許しましょう…イリヤ──無事に帰ってきてくださいね。」

 

それが、例えほんのひと時であっても。

聖杯戦争が終われば消えゆく自分達には、貴重な、貴重なひと時なのだから。

 

もしも。

幸せな、唯人に生まれていたら。

自分達は、笑いながら生を謳歌しただろうか?

 

そんな事を考えるほどには、彼女もまた、人であった。

 





【後書き的なもの】

はい、皆さんこんばんは、こんにちは、おはようございます。

今回は本当に話が進んでません…書いていてちょっとスランプを感じました。

しかし、やっとあの方が出てきました。
前回出た時には正体は伏せていましたが…

今回は流石にお分かりですよね?
あの方です。

それと、ゼウスが絡み。

雁夜とアヴェンジャーが。

ぐだ子と士郎、凛が。

湧き出す黒化英霊…今回はネロさんがゲストでした。
ヘラクレスの12の難行の一つを夢に出しました。
プロメテウスはこれ、本当に狂ったかの様な言動をしているんですよ。
私的にはプロメテウスは人類に貢献し、なおかつ自身を顧みない愛をもって救おうと言う姿が何処か、士郎やエミヤに重なるんですよね。
だから、結構好きな神様でもあります。

自身を犠牲にすらしながら与える無償の愛情。
もしかしたらエミヤは時代が時代なら聖人に認定されていたかもしれませんね。
ジャンヌダルクがそうであった様に。

まあ、彼は宗教家ではありませんが…村娘だったジャンヌダルクがそうなった様に、後世に神の言葉を聞いたのだ、と解釈されて聖人に認定される──エミヤはそれを聞いたら激怒しそうですが、時代時代を作ってきたのはそうした思想に利用された英雄の道標。

生きているうちにそんな英雄になりたい、そんなある意味厨二病ですが、今はゲームと言う仮想現実や読み物でそういった存在になった様に感じ、浸ることができる。
便利で、ある意味怖い世の中ですね。

いつか…非現実と現実の境が解らなくなる様な時代が、来るかもしれない。

そんな厨二病代表の英雄願望に取り憑かれた衛宮士郎。
さてはて、これから彼はどうなるのか。

今回出番なかったからよいしょしてみました。(口に出すなや

それでは皆様、また次回の更新でお会いしましょう!!

しーゆー!!

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