Fate/alternative   作:ギルス

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干渉するモノ、正すモノ。
世界の意思を超えて世界を歪め続けるナニカ。

人理は狂い、再び人の世を壊しにかかる。
恐怖の大王は、世を壊すモノ。
無かったはずの脅威。

なればこそ、英雄豪傑の魂、英霊よ。
世界を、救うべきモノ達よ──

戦え。



第28話 『アンゴルモア』

「さて、アルトリアには夕食はとりわけ多めに用意しておかねばな…」

 

誰にともなく言葉を紡ぎながら、台所で我が家の様に手慣れた作業をする弓の英霊。

いや、真実それは…、そんな彼の元に、意外な人物が声をかけてきた。

 

「よぅ。」

 

現れたのは、冬だと言うのに袖もないレザージャケットを素肌に羽織っただけの、しかしフードだけは室内にもかかわらず外さない。

狂戦士のクラス、それも特殊な霊基を備えて現界した、アイルランドの大英雄。

 

「クーフーリンか、どうした…賄いならば今しばし待てと君のマスターに伝え給え。」

 

「ハ、そんな雑事にわざわざお前さんを訪ねて来ねえよ、それより…「君のマスターに」たあ…随分とよそよそしいもんだな、え?」

 

「何が言いたい。」

 

「どこまで、思い出した?」

 

「どこまで?平行世界の記憶、いや…座の記録と言う意味ならばあまり芳しくはないぞ…きっかけがあればもう少し思い出せるとは思うが…」

 

「そうじゃ無ぇ。」

 

「では、なんだと言うのだ?」

 

「惚けてるのか、或いは制限されたのか…お前さんやはり…違うのか?」

 

「だから、貴様は何が言いた…」

 

「人理焼却。」

 

「──な、に?」

視界が揺らぐ。

 

「九重朔弥、九狼。」

 

「九、狼?」

聞いた覚えが無い/聞いた覚えがある。

 

「人理継続保障機関──」

 

「やめ、ろ…何を、言って…ぐ!?」

頭に、魂に、異物が──

 

「カルデア────」

 

観測/特異点/人理/炎上都市/人理継続・焼却/オ■■ノス/■■王/■■■■■■■■■

 

「っ、がああっ!?」

 

恐ろしいまでの情報が雪崩の様に頭に流れ込んでくる。

わからない、私は、何時の、何処の、どんな立場の、如何なる「エミヤ」であったのか──

 

視界がグルグルと回り、膝をつく。

 

「どうやら思い出したか…てめえの記憶が垣間見えちゃいたからな…賭けだったが。」

 

世話の焼ける野郎だ、とお手上げのポーズをするバーサーカー。

 

「お、思い出したぞ…クー・フーリン・オルタ…貴様が誰か、朔弥が…私にとっても…いや、今は違う…彼女にあの時と同じ「盾」の令呪は無い──もう、彼女は全ての英霊のマスターでは、ない、のだな?」

 

「ああ、契約と言う意味じゃ俺だけのマスターだ、だがな…こちらの存在であるからか、記憶こそ無いが──あいつはあいつだよ、お前さんにも…あの小僧にも知らずに惹かれてやがる…いいのか、あのままいけば過去に…お前さんの大事なマスターを盗られちまうぞ?」

 

「今、この時の私は遠坂凛のサーヴァントだ…如何にこの冬木の聖杯が異常をきたしていようとも…彼女に聖杯を捧げるが契約…サーヴァントである以上それを履き違える事は…」

 

「馬鹿が、この冬木の聖杯に詰まってるのは…憶測だがてめえが知る災厄じゃあねえぞ…杯の破壊だけで止まるようなヤワな代物じゃねえ、なんでこの俺が──こんなもん抱えて召喚される様、わざわざ仕組んだと思ってやがる?」

 

腕を組み、柱に寄りかかっていた身体をこちらに向き直し、その胸元を晒す。

三つの巴が輪を描くその刺青の中心から浮かび上がる、五つの輝き──

 

「待て、それは真逆!」

 

「ああ、そうだ、ホーリーグレイル…イ・プルーリバス・ウナム──それを核とした五つの力の塊…この異常を引き起こした、冬木聖杯を中心とした計測不明の異常力場…アンゴルモアの牢獄──それを打破すべく送り込まれた切り札だ。」

 

「アンゴルモア、だと…?」

 

「ああ、ことの発端はここ、特異点Fじゃあ無い…1999年、7月──外宇宙より飛来したたった一つの隕石…それが聖杯の中に居たこの世全ての悪──アンリ・マンユを侵食し、中に巣くった。」

 

「っ、馬鹿な…そんな馬鹿な…確かに人理は修正されたはずだろうっ、ならば何故この様な異常を引き起こした、最早■■王の介入も無い、歴史は正され、全ての人の記憶から我々のした事は消えているはずだろうっ、何故、何故今更──いや、待て…ならば特異点より生まれ、カルデアのみに繋ぎとめられていたはずの貴様が座に存在し、召喚されて…いや、カルデアがあの時と同じ目的を持って動いているのは何故だ、人理は修正された、ならば観測する為の機関に戻っていなくてはおかしい!」

 

「ああ、そうだ…本当ならば、な。」

 

「教えろ、私にカルデアを思いださせ、なおかつ貴様が存在する意味を!」

 

「冠位指定──グランドオーダーは、真の意味で完遂されていなかったのさ、正直言って俺の記憶もまだ穴がある、この冬木に来た時点で随分と封鎖をかけられた…聖杯を五つ抱えた俺でこれだ…聖杯を持たない…聖杯再臨を終えていない面子は送り込まれたはなから聖杯に巣食う何者かにこの牢獄の中の一存在として取り込まれたよ。」

 

「真逆──」

 

「ああ、そうだ…お前さんもまた、異変解決にとマスターと共に数多くの英霊と共に送り込まれた一人で間違いない、記憶が戻ったのが何よりの証だろうよ。」

 

「いや、そうとも言い切れない…おそらくだが私はこの冬木に元から呼ばれる筈のアーチャーでもあり、同時にカルデアのエミヤでも、ある様だ…意識して初めてわかるが…融合した様な感覚があるのだ。」

 

「ほぉ…そうか、聖杯が無いお前さんは霊基を喰われたか…それを、補う為にこちらの自分自身に、そういう事か。」

 

「ああ、おそらくだがそれで正解だろう。しかし、ならばマスター…いや、朔弥は…こちらの存在と言ったな…カルデア側の彼女は、いや…彼女の兄も…どうなった?」

 

「────死んだよ。」

 

「な、に?」

 

世界が、凍りつく音が聞こえた気がした。

聞いてはならない、聞きたく無い。

護ると誓った、抱きしめ、手を握り締め、決して離すまいと──それが。

 

「だから、死んだよ。」

 

冷徹に、突き放す様に、言い放たれた。

 

「う、嘘を言うな!彼女が、あの男が!死んだなどと戯けた嘘をよくも、よくも吐いたな貴様っ、貴様──!!!」

 

胸倉を掴み、引き倒す。

抵抗も無く、されるがままオルタが倒れて。

 

「あ、あああああ──っ!!」

 

マウントをとった格好から、殴る。

殴る、殴る、殴る、殴る──────。

 

「は、はぁ、はぁ、はぁ…何故、抵抗もしない、貴様…巫山戯て…」

 

「巫山戯て、この俺が無抵抗に殴らせてやると思うか?」

 

「馬鹿な、ならば…本当、に?」

 

「はっきり、確認できたわけじゃあねえ…だが、レイシフトを用いた一度目の干渉に於いて…彼奴ら二人を含むほぼカルデアの全戦力を投入しての殲滅戦、その開始と同時に、敵が牙を剥いた、その時に大規模な力場の干渉に飲み込まれて大半の英霊が存在ごと削りとられ、二人も光に呑まれて消えた。」

 

「殲滅戦だと?」

 

「ああ、言っただろう…ここは特異点F──炎上都市冬木になる筈の場所…修正され、真っ当な聖杯戦争が行われる筈の冬木だった。」

 

「炎上都市──あの、惨劇がここで起こる?」

 

「ああ、故に大規模な戦闘を予測し、送り込まれた大部隊だったんだがな、結果は先も話した通り、挙句再び歪み始めた歴史は、冬木を火の海に沈めるに留まらず…繰り返し、繰り返し人々を殺し続ける蠱毒の壺と化した。」

 

「既に数度、この冬木は聖杯起動と同時に炎上都市と化している…そして、暫くの間を空けて、巻き戻る。」

 

「なん、だと…何故?」

 

「知るかよ、俺が聞きてえ…その上、僅かずつ変化している、前回にいなかった人物が増えたり、減ったり、な。」

 

「何故、今それを私に話す?」

 

「こいつを通じてお前さんが時折カルデアの記録を垣間見ていたのは察してたよ、だからこその賭けみたいなもんだ…もはや停滞していて良い状況には無いからな。」

 

「昨日の、黒化英霊、か…シャドウサーヴァントとは違うのだな、あれは。」

 

「シャドウより厄介だな、稀に意思を持つタイプもいる上に宝具を使いやがる奴もいる様だ…昨日やられかけてヒヤっとしたぜ…」

 

「それに、死んだと言ったが…お前さんの話を聞いて少しだけ希望も出た、朔弥だがな…彼奴も時折カルデア側の記憶を見てるかもしれねえ、いまいち干渉されているのか判然とはしないがな…小僧を「エミヤん」とか呼んでいたからな。」

 

「────っ!」

 

それは、その呼び方は…知人を思い出すから止めろと何度言っても、彼女がしつこく呼ぶので諦めがちに許した、愛称。

不意打ちだ、不意打ちにも程がある。

絆は途切れていないのだと、希望はあるかもしれないのだと、落としておいて持ち上げて…この、バーサーカーが…っ!

頬を、一筋熱いものが流れる。

 

「ハ、泣いてやがるよこいつ。」

雫は、バーサーカーの顔に落ちて。

 

「五月蝿い、人の恥を愉しむな…英雄王か、貴様は…!」

 

「まあ、今はお前さんと俺の中にしまっとけ…まだ誰が敵で誰が身内か判別できん。」

 

「…そう、だな…ああ、そうしよう。」

 

涙を拭い、立ち上がる寸前。

がらりと戸が開いた。

 

「ヤッホー士郎っ、美味しい匂いに釣られたトラー!」

酒瓶片手に。

虎が桜を伴い、上がりこんできた。

 

「あり?」

 

何この状況、と呟くは冬木の虎。

だが、それはアーチャーとバーサーカーこそ言いたい台詞だった。

何故貴女はこのタイミングで入ってくるのかね!?、と喉元まででかかった言葉を飲み込んで。

 

(クール系×ワイルド系…もしやこれは…)

などと言う腐女子脳がはたらいた人が約一名いたのは、本人だけの秘密である。

どちらの、とか聞いてはいけない。

 

 

****************

 

 

円蔵山、柳洞寺。

その境内にて、絶世の美女と言われてもいいほどの美しい女性が、普段のフード姿では無く、こちら側の人らしい服装で御山を見上げていた。

 

「どうした、キャス──いや、メディア。」

 

「いえ、戴いたこの服…気に入りましたわ、流石、宗一郎様。」

 

「仮にも夫婦ならば偶には贈り物くらいするのだろう、真似事だ…喜んでもらえたならそれはそれで嬉しくはあるがな。」

 

と、口にしながらまるで喜色が伺えない顔で話す、葛木宗一郎。

キャスター、メディアの現マスター。

 

「いえ…本当に嬉しいのですよ?」

ふ、と柔らかく微笑み…しかし直ぐに山にまた目を向ける。

 

「どうにも…この喜びを噛み締めてばかりはいさせてくれない様ね…」

と、唐突に衣服を脱ぎ始める、キャスター。

 

「なんだ、キャスター…まだ夕暮れだ、少し早くは──む。」

 

何かずれた会話をしていた宗一郎もまた、構えを見せた。

とはいえ、腰を僅かに落として手を多少前に掲げただけのファイティングポーズとも言えない自然体だった、が。

 

「折角戴いた服…汚したくはありませんもの」

 

一糸纏わぬ姿になったキャスターがパチン、と指を鳴らすと直ぐにいつものフード姿に戻り、庭先には複数の骸骨──竜の牙を媒介に呼び出した兵士、竜牙兵が湧き出した。

 

『キャス、ターのサー、ヴァント…主は、貴様が聖杯に介入…事を…許可、されて、オラヌ…ヨッテ、死ヲ、給ワルガ、イイ──』

 

「誰の手かは知らないけど…先を越されたねかしらね…既に不完全ながら英霊を支配下に置いているみたいね…けど…術式が美しく無い、力任せに操るだけの強引な術式…その力は驚きだけど…キャスターたる私にとって不愉快極まりない…良いでしょう、相手になりましょう…宗一郎様、申し訳ありませんが前をお任せ致します。」

 

「承知した。」

宗一郎の構える拳と、脚に保護の術式がかかり、次の瞬間。

 

竜牙兵の間を縫って飛び出した宗一郎が、迅雷の如き速度を以って黒く陰った英霊へと肉薄した。

 

ゴキン。

鈍い音がして、名乗りも無いまま、先の無名の英霊の首がへし折れる。

即座に消滅したその端から、新たにもう一騎、いや…二騎。

 

一騎は素手、女性らしいシルエット…僧服にも見える…が…クラスはよくわからない。

一騎は槍を持ち、まだ若いであろう体躯のランサーらしき英霊。

 

「ぬ、厄介な…」

 

竜牙兵が片方を抑えようと女性らしいシルエットに殺到するが、一瞬にして蹴散らされた。

唯の二振り、足と拳が風を切り、骨達を根こそぎ砕いて見せた、しかもどういう訳か復活するはずの不死の兵は散らばったまま動かない。

 

「洗礼詠唱を付与した拳──ち、聖人の類か!」

 

キャスターが歯ぎしりをしながら睨む。

このままでは数の上で不利だ。

いかに自分が援護しても一騎当千の英霊を二体…同時に相手にするには人の身のマスター、宗一郎には荷が重い。

 

「フッ!」

 

呼気を吐き、しなる鞭の様な変幻自在の拳が先の聖人に襲いかかる。

その動きに相手は体勢を崩し、その心臓に貫手が──突き刺さる前に槍が横から宗一郎を狙う。

 

「…文字通り横槍という訳じゃなあ…」

 

ギン、と。

槍に槍が挟み込まれ…弾かれた。

 

「しかも黒いの、貴様…功夫が足らん、出直してこい。」

 

割って入って来たのは、赤い髪。

中華風の衣装に身を包んだランサー。

 

「お主の技は面白い、儂と死合わぬうちからやらせるには惜しい…故に──助太刀致す。」

 

「感謝する、ランサー。」

 

「…危篤なサーヴァントだこと…けれど今は、乗っておきます…とはいえ下手な真似をするなら背中を撃ち抜きますからね?」

 

「おお、怖や怖や…心得た、今は、な!」

 

ボッ、と槍が空気を貫き、黒いランサーへ迫る。

 

同時に再び奔った宗一郎の拳もまた、聖人を捉えた。

 

決着は、直ぐにでもついてしまいそうではあるが、僅かな間のランサー、キャスターの共闘が、始まった。

 

 

***************

 

 

乖離する。

世界から、全てが。

 

閉じた坩堝に諍いは絶えず、絶望にこそ。

希望は最後にあらわれるのだ。

 

神は、天上におわすことなく。

 

人に、希望は無い。

だから、希望を見出さねばならぬ。

 

絶望に、世界が全て侵食される前に。

希望を見出さねばならぬ。

 

──やかましいのぉ…貴様の言葉など知るものかよ、ワシはワシ…大神ゼウスなるぞ?如何にこの身が卑小な型枠に押し込められようが、変わらずワシはワシ…貴様もこの様に無為な干渉、大概に止めろというのじゃ…迷惑千万よ。

 

我が言霊を正確に聞きしながら、何故キサマはその意に従わぬ、何故、何故──

 

何故?

そりゃあ、儂こそが「神」に他ならんからじゃ…何故貴様の様な輩の意に従わねばならんか、その方が理解できぬがな?

 

ああ、■■■■──哀れな、ものよ。

 

日が沈みゆく街を眺め、大神は一人思考に耽る。

目を閉じれば見えてくる街の姿、いくらか見えたサーヴァント達の姿。

 

「そろそろ、動かにゃならんな、マスター?」

 

「始まった、のですか?」

 

「まだ断言はできんがな、彼方此方に湧き出しておる。」

 

「わかりました──今夜何処かの陣営に仕掛けます。」

 

「応よ。」

 

ニヤ、と。

不敵な笑いを浮かべて大神は立つ。

嵐が、吹く前触れの様な、そんな顔で。

 




【後書き的なもの】

はい、一気にフラグを回収し始めました。
ウチのエミヤんは、他のシリーズでぐだ子とイチャイチャしていたエミヤんですから、ハイ。

コレ。
http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6761235

そして、黒幕さん活発に動き始めました。
もしかしてそれがだれか、わかる人もいるかもしれませんがとりあえずシークレットで、お願いします。

あ、メッセージでの考察はウェルカムですよ?
明かせる範囲で説明も致します。

ていうか、何故かしら…オルタニキがいると腐要素が僅かにだがにじむ。
なんかそういうキャラに見えてしまうw

個人的にオルタニキ大好きなのでこのシリーズ書いているんですが、素直にヒロインとイチャイチャする人にも見えないんだよなあw
だからか、兄貴は兄貴なんだという立ち位置にいます。本当、兄弟か男親みたいな心情。

あ、因みに今回の黒化英霊はマルタ(ルーラー)の服だけまともなバージョンとプニキです。

さて、カルデアから来た英霊はどうなったのか、味方は今後どれだけ増えるのか?

ゼウスは、ロードは?
まだまだ伏線山積み…頑張って回収します!

という訳で…次回更新でまたお会いしましょう!

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