Fate/alternative   作:ギルス

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これはFate/staynight、及びFate/GrandOrderの二次創作です。
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。

また、原作をなぞる展開、演出上止むを得ず原作からの引用文があります。

それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。

某所にて投稿時にアンケート欄に士郎を主人公にと望むお声が若干ありましたので、サブ主人公として配置されました。
お話にももちろん絡ませる予定です。

ぐだ子はカルデアでの事は覚えていませんし、そもそも並行世界の同一存在です。
しかし、同じ人間ではありますから…何かはある、かもしれません?

ぐだ男は………。

それではどうぞ、拙い作品ではありますがお楽しみ下さい。



第2話 『神成る槍』

いつの間にか随分と暗くなってしまった。

夕日は沈みかけ、グラウンドにも誰一人居ない。

 

転入届を出し、不備があったとかで初日終了後に職員室に向かい、暫く書類の書き直しに没頭し、やっと終わったと廊下を歩けば、朝のワカメがこちらを睨んでいた。

 

「おい、お前…待てよ、朝は衛宮が割って入って話が流れたけど…」

 

などと聞こえてきたが今度は努めて無視。

 

「は?無視かよ?…図太い神経だね転入生(おまえ)?」

 

ああ、厄介なのに目をつけられた。

そう考えた瞬間には全力で踵を返し、走り出していた。

 

「なっ、逃がすかよこのっ…先輩後輩の上下関係ってヤツをたっぷり教えてやるからな!?」

 

冗談では無い。

あんな人につかまれば何をされるかわからない。

 

 

*******

 

 

「はっ…はぁ、ま、撒いた、か…な?」

 

二階に上がる振りをして窓から渡り廊下の天井に飛び出し、雨樋を伝って一階へと戻り、下駄箱を抜けてグラウンドへ。

 

流れる様な逃げ方である。

 

「全く…私の美貌に寄ってくるのは仕方ないけど…あんなのはごめんこうむるね、断じて。」

 

野球部のネット裏に腰掛け、暫くやり過ごす。

携帯を弄り回しながら時間を潰すうちに段々周りが暗く、陽が落ち始める。

 

「うー、お腹すいたなあ…」

 

お昼にサンドイッチ一つ食べただけ、それからすでに6時間以上は経過している。

お腹だって減ってあたりまえだ。

 

キュルキュル、っと可愛らしい腹の虫を鳴らしながら座り込み、辺りを見る。

 

誰一人居ないグラウンド。

この広さに寂しさすら覚えながら、本当に誰もいないだろうな、と聞き耳をたてる。

すると…遠くから、いや…意外に近くから音が聞こえた。

 

甲高い、金属音。

鋼と鋼がぶつかり合うその音はーー

 

「何よこれ…」

 

立ち上がり、グラウンドの逆側を見れば…そこには嵐が吹き荒れていた。

互いにあか。

今夜の月の光とおなじいろ。

赤と、紅。

 

片や、長い柄を持つーー槍。

片や、一対、黒と白の二刀流。

 

槍は二刀を近づけまいと遠距離から恐ろしい速度と正確さで突いて、突いて、まるで瀑布の如き攻めを。

 

二刀使いはギリギリで槍の猛攻を受け流し、懐ろへ入り込む隙を窺っていた。

 

「………っ!」

 

非現実。

まるで現実味が無い光景。

夜の校庭でまるでコスプレイヤーみたいな二人が、しかし真剣を持って人智を超えた速度で殺し合いをしている。

 

だが、それは無骨でも、殺伐としているでも無く…美しいとさえ言える、まさに演武と見えた。

 

その舞踏が、幾たびも続きーー正に終わりを告げんとした、その時。

 

「よくぞ言った、若僧…ならば食らうか、我が必殺の一撃を…!」

 

鬼気、とはこれを言うのだろう。

紅い、中華風の衣装をした、槍使いが槍を構え、深く腰を落とした瞬間。

 

周りの大気が、凍りつく。

それは、気温の低下では無い。

ただ、触れれば死ぬと。

物言わぬ骸になるのだと告げる、死神の視線。

 

パキン。

 

緊張の余り。

私は…足元の小枝を踏み折ってしまった。

 

「誰じゃ!」

 

槍の穂先が、こちらに向く。

ヤバい、ヤバいヤバイヤバイ!

 

逃げろ、と。

全身の神経が警鐘を鳴らしていた。

身体は弾かれた様に走り出し、私に今可能なすべてを用いてーー簡易ながら魔術による肉体強化までかけ、先ほどワカメから逃げた速度の倍は早く走り抜ける。

 

だが。

 

「なかなかの俊足よ。」

 

あれ程必死に走ったと言うのに。

男は息一つ乱さないまま。

 

ほんの一瞬きの間に。

私の目の前に、立っていた。

 

*******************

 

「これで7つ目かーーとりあえずここが起点みたいね。」

 

屋上には堂々と八画の刻印が描かれている。

魔術師にだけ見える赤紫の文字は、見たことの無いカタチであり、聞いたことも無いモノで刻まれている。

 

「……まいったな。これ、わたしの手には負えない。」

 

この呪刻を仕掛けた奴は何も考えていない。

だが。

これ自体はおそろしく高度で複雑な術式で編まれている。

推し量れる術式の意味合いとしては…力の吸引。

 

一時的に機能を止めることは可能だろう。

しかし、相手がこの呪刻に触れ、再び魔力を通せばそれだけで復活してしまう。

正直、嫌がらせ程度に遅延させることしかできない。

 

「ーーーーーー…」

 

アーチャーは何も言わない。

屋上で呪刻を見た時から口を噤んでいるのは、この呪刻の正体に気づいているからだろう。

この結界は対象から「体力を奪う」なんて生易しいモノでは無い。

一度発動すれば、結界内の人間を文字通り「溶解」させる。

 

内部の人間から精神力や体力を奪うと言う結界はある。

だが、今学校に張られようとしている結界は別格だ。

 

これは魂喰い。

結界内の人間の身体を溶かして滲み出る魂を強引に集める血の要塞(ブラッドフォート)に他ならない。

 

古来、魂と言うものは扱いが難しい。

それは確かに在るとされ魔術に於いては必要な要素と言われているが、(ソレ)を確立させた魔術師は一人しか居ない程だ。

 

魂はあくまで「内容を調べるモノ」「器を移し替えるモノ」に留まる。

それを抜き出すだけでは飽き足らず、一箇所に集めるなど理解不能だ。

だって、そんな変換不可能なエネルギーを集めたところで魔術師には使い道がない。

だから、意味があるとすれば、それは。

 

「アーチャー、貴方たちってそういうもの?」

 知らず、冷たい声で問いただした。

 

「ご推察の通りだ、我々は基本的に霊体だと言っただろう。故に、食事は(第二)もしくは精神(第三)要素となる。君達が肉を栄養とするように、サーヴァントは精神と魂を栄養とする。

 栄養を摂ったところで基本的な能力は変わらないが、取り入れれば取り入れるほどタフになるーーーつまり、魔力の貯蔵量が上がっていくというワケだ。」

 

……そう。

自らのサーヴァントを強化させる方法が、無差別に人間を襲うこと。

 

「マスターから提供される魔力だけじゃ、足りないってこと?」

「足りなくはないが、多いに越したことはない。実力が劣る場合、力の差を物資で補うのが戦争だろう。

 周囲の人間からエネルギーを奪うのはマスターとしては基本的な戦略だ。そういった意味で言えば、この結界は効率がいい。」

 

「ーーーーー」

勝ちたければ人を殺して力をつけろ、とアーチャーは言っている。

 なんて単純。

 そんな事、わたしだって知っていた。

 だから、これから自分がとるべき道もちゃんと判っているつもり。

 

「それ、癇に障るわ、二度と口にしないで。アーチャー。」

 

描かれた呪刻を見つめながら告げる。

アーチャーは何故か弾むような声音で

「同感だ。私も真似をするつもりは無い」

そう、力強く返答してくれた。

 

「さて、それじゃあ消そうか。無駄だろうけどとりあえず邪魔をするくらいにはなる。」

 

描かれた呪刻に近寄り、左腕を差し出す。

左腕に刻まれた魔術刻印は、私…「遠坂凛」の家系が伝える”魔道書”だ。

 

ぱちん、と意識のスイッチを入れる。

魔術刻印に魔力を通して、結界消去が記されている一節を読み込んで、後は一息で発動させるだけ。

 

Adzug(消去) Bedienung(摘出手術) Mittelstand(第二節)

左手をつけて、一気に魔力を押し流した。

これでとりあえずこの呪刻から色を洗い流せるのだがーーーー

 

「何じゃ、消してしまうのか?」

 

******************

唐突に。

まるで結界消去を阻むかのように、

第三者の声が響き渡った。

 

「ーーーー!」

 

咄嗟に立ち上がり、振り返る。

給水塔の上、およそ10メートルの距離を置いた上空でそいつは私を見下ろしていた。

 

紅い月明りに同化するように立つ姿は痩躯。

痩せたかに見える細く長い身体はしかし、一切の無駄の無い筋肉の塊。

中華風の赤い装束、燃える様に赤い髪は結わえ、無造作に頭上に束ねられている。

飄々とした笑みを張り付かせ立つ、若々しく、荒い獰猛な表情。

 

両袖をつけるようにして腕を合わせ、しゃがみ込みながら此方を睨めつける眼差しは、虎か、狼か。

猛獣の眼差しは、美味そうな餌を見つけたとばかりに愉悦に浸った光を此方に向けている。

 

「ーーこれ、貴方の仕業…?」

 

声が震えそうになるのを抑え、問う。

 

「いいや?この様な小細工を弄するは脆弱な戯けがやる事よーー儂等はただ、命じられた事をこなしてーー死合うのみ…そうじゃろう、そこの若僧?」

 

「ーー!」

 

軽々と、しかし殺意に満ちた。

この男、霊体化したアーチャーが見えている!

 

「やっぱり、サーヴァント!」

 

「応よ、それがわかるお前は…儂の敵、で良いのだな?」

 

「ーーーーーーッ!」

背筋が凍る。

何という事は無い、飄々とした男の声。

そんなものが、今まで聞いたどんな言葉より冷たく、吐き気がするほど恐ろしいだなんて。

視界がチカチカして、世界が色を失いかける。

 

どう動くべきか、何が最善かは判らない。

 

ただ、この男と今ここで戦う事だけは、絶対にしてはいけないと理性が告げているーー!

 

「ほぅ、たいしたものだ何もわからない様でその実、肝心な事は理解しておるか…小娘、貴様少しは齧っているようじゃな?」

 

何の事かわからない、が。

 

スゥ、と男が立ち上がり…その腕が上がる。

事は一瞬。

今まで何も無かった男の手には、長さ2メートル余りの槍。

飾りは少なく、刃元に赤い布飾りが見えるのみ。

それは、ただ実戦に特化した無骨極まりない、しかして単純なる殺戮の為の道具だった。

 

『ーー神秘の欠片も感じぬ槍だというのに、なんだこの総毛立つ様な圧迫感は…っ』

 

僅かに焦りを含んだアーチャーの念話。

自信の塊の様なコイツが…つまりは相手はそれだけ強敵だ、という事か。

 

男の顔に獰猛な笑みが浮かぶ。

 

「ーーーー!!」

 

考えるよりも早く、真横に跳んだ。

屋上だから思い切り跳べない、なんて余裕は無い。

兎に角全力で、力の限り、フェンスに体当たりする気で真横に跳躍する……!

 

ぶぉん!

風切り音とともに髪を舞い上げる、旋風。

正に間一髪。

ほんの瞬きの間に突進してきたソレは、容赦なくフェンスごと、一秒前まで私が居た空間を斬り払った。

 

「ふっ、良い功夫じゃ、娘!」

 

紅い鬼が迫ってくる。

退路など何処にも無い。

 

背後はフェンス、左右はーーダメだきっと間に合わない…!

 

判断は一瞬。

即座に屋上のタイルを蹴る。

 

Es ist gros(軽量),Es ist klein(重圧)………!!」

 左腕の魔術刻印を走らせ、一小節で魔術を組み上げる。

身体の軽量化と、重力調整。

この一瞬、羽と化した身体は軽々と浮き上がりーー

 

「凛……!」

「わかってる、任せて…!」

 フェンスを飛び越えて、屋上から落下した。

 

「っ!」

 風圧と重圧が体を絞る。

 着地まで十五メートル、時間にして1.7秒ーーダメだ、それじゃきっと追いつかれる!

 

Vox Gott(戒律引用)ーー Es Atlas (重葬は地に返る)ーー!アーチャー、着地まかせたっ!」

 

ブワ、っと土煙が薄く上がる。

「ーーっ、はっ!!」

 着地の衝撃をアーチャーに殺させ、地面に足が着いたと同時に走り出す。

 

とにかく、移動しなければならない。

私とアーチャーの特性が活かせる、遮蔽物の無い…広い空間にーー!

 

「は、っ…は!」

 

屋上から校庭まで、7秒かからずに走り抜ける。

距離にして百メートル以上、常人なら残像しか見えない様な速度。

 

けど、そんなものは、サーヴァント相手にはなんの意味も無かった。

 

「いや、本気で逸材じゃ…ここで殺すにはちと惜しい程に、な」

 

過去の英雄たるサーヴァントに手放しに褒められたのは誇るべき事かも知れない。

それが私を殺そうと迫る相手でなければ。

 

「アーチャー!!」

 私が後ろに引くのと同時に、前に出たアーチャーが実体化する。

 紅月の夜。

 アーチャーの手には、月光を反射させる一振りの短剣があった。

 

「ーーほぅ…」

 

まただ。

あの獰猛な笑み。

 

「そうこなくてはな…そういう(おとこ)は嫌いでは無いぞ?」

 

ごぅ、と言う風音。

 

それは先程容赦なく私を殺しにきた、鋼。

2メートルを超す長槍だった。

 

「ランサーの、サーヴァント…」

 

「如何にも…そういう貴様はセイバーの…む、違うな…何奴じゃ、貴様は。」

 

目を細め、殺気の塊と化して睨みつける、ランサーに、アーチャーはあくまで無言。

 

「ふん、真っ当な一騎打ちをする様には見えんな、貴様は。と、なればアーチャーか。」

 嘲りを含む声にもアーチャーは答えない。

対峙するは奇しくも双赤。

どちらも紅と、赤。

 

月光の下、対峙した二人は互いに必殺を計っている。

 

ランサーは槍を構え、アーチャーは一見棒立ちして片手に短剣を持っているだけにしか見えない。

だが、そこには隙など無いであろう事は何よりランサーもまた構えたまま動かない事から理解する。

 

「どうした、小僧…弓を出さんのか?」

 

…前言撤回、もしかしたらランサーはアーチャーが弓を出すのを待っていただけなのか?

 

「これでも礼節は重んじる方でな…貴様が全力を出せる獲物を構える間ぐらい待ってやる。」

 

「ーーーーーー…」

 

アーチャーは何も答えない。

敵に語る事は何も無いとばかりに、その[[rb:剣 > はがね]]の様な背中が語っていた。

それで、気づいた。

私はバカだ。

アーチャーはただ一言、私の言葉を待っているだけだと言うのに。

 

「アーチャー。」

近寄らず、その背中に声をかける。

「手助けはしないわ…貴方の力、ここで見せて」

 

「ーーーーーク」

 

それは、笑い、だったのか。

私の言葉に応える様に口元を吊り上げて。

赤い騎士は疾走した。

 

渦巻く突風。

短剣を手に、赤い弾丸が疾走する。

 

「カッ、戯けがッ!」

 

迎え撃つは獰猛なる獣。

その笑みは肉食獣のソレに似て。

疾駆するアーチャーが突風なら、迎撃する穂先は神風であったろう。

 

奔る刃、流す一撃。

高速で奔る槍の一撃を、アーチャーはすんでに短剣で受け流す。

 

「ーーーーッ!」

 赤い外套が止まる。

 敵はアーチャーの疾走を許さ無かった。

 

槍の間合いまで、僅か2メートルの接近すらさせない。

長柄の武器にとって、距離は常に離すもの。

2メートルを越えるほどの槍を持つランサーは、射程圏内に入る敵をただ、迎撃すればいい。

踏み込んでくる外敵を貫くことは、自ら打ってでるよりよほど容易いのだから。

 

にも、関わらず。

ランサーは迅雷の如き速度をもって、自ら距離を詰めてきた。

アーチャーはその猛攻に、前進すらままならない。

 

「弓兵風情がこの儂に接近戦を挑んだな…?」

 

その鼻っ柱を、今すぐに命共々折り砕いてやろう、と。

その猛攻は益々速度を上げて行く。

 

 本来、長柄の武器にとって自らが距離を詰めるのは自殺行為だ。

槍とは、素人目には「突き殺す」武器に見られがちだが。

その真価は「払い」にある。

 

薙ぎ払いによる広範囲の打撃は、もとより身を引いて躱すなどという防御を許さない。

半端な後退では槍の間合いから逃れられず、反撃を試みる様な見切りでは、腹を裂かれるのみ。

かといって無造作に前に出れば、槍の長い柄に弾かれ、容易く肋骨を粉砕される。

 

アーチャーとランサーの体格はさほど大きな差は無い。

重装甲では無いアーチャーにとって、旋風のような槍の攻撃範囲に踏み込むのは難しい。

 

だが、それが打突であれば話は別だ。

高速の一刺、確実に急所を貫く突きは確かに恐ろしい。

しかし軌跡が「点」である以上見切ってしまえば躱す手段は幾らでもある。

 

アーチャーの様に急所を突きにきた槍の柄を打ち、軌道を僅かでも逸らせばそれだけで隙になる。

 

弓兵と甘く見た油断だろう。

長柄の利点は自由度の高い射程と間合いだ。

それを自ら捨てた時点でランサーの敗北はーー

 

「ーーーーーぬっ!?」

 赤い外套が停止する。

 時間が巻き戻ったかの様な悪夢。

 

 否。

 そうでは無い。

 ランサーの穂先は先程よりもさらに高速。

 刃先が見えず、

 鋼が時折月光を弾く様が見えるだけ。

 

「ぐっ!?」

 

軌道を逸らそうといなしにかかるアーチャーが短剣ごと弾かれる。

ランサーの槍に戻りの隙など無い。

いや、それどころか速度はさらに際限なく上がり続け…今やサーヴァントをしても必殺の域まで到達する一撃一撃が雨あられとアーチャーに降りかかる。

 

甘く見たのは私たちだ。

あのサーヴァント、ランサーに槍兵の常識など、無いに等しかった。

雷速の打突は更に、まるで柳の枝がしなる様にその打突方向すら自在にコントロールされ、襲いかかる。

 

「な、なんというーー槍捌き、か!」

 

「貴様こそ…儂の槍を不得手な獲物でよくも凌ぎおる…が、終わりじゃ!」

 

ガィィンッ!

甲高い音を立て、アーチャーの手から短剣が弾き飛ばされた。

 

もはや嵐の様な直線的な突きの軌道に加えて、しなる一撃一撃が蛇の様に合間を縫って襲いかかる。

それは、アーチャーにとってはくるのがわかっていながら躱すことのできない一撃だった。

 

「間抜けめ」

ランサーが止めとばかりに槍を構え直し…

 

「…アーチャー!」

 

慌てる私に構わず、アーチャーは徒手空拳のままに両手を広げ、

 

「己が愚かさを抱いて死ねぃ、若僧っ!」

 

ランサーの手から、雷光の如き勢いで槍が突き出される。

眉間、首筋、心臓。

穿つは三連、全弾急所ーーー!

 

だが、視る事さえできぬ雷光を、一対の光が弾き返す……!

 

「チッ…二刀使い、じゃと?」

 

仕留めそこなったランサーが舌打ちをする。

その視線の先には、先程弾かれたものと同じデザインの短剣、更にもう一つ。

対比するような黒い短剣が増えていた。

 

中華風のデザイン、鉈にも見える肉厚の刃はしかし、洗練された美しい模様に彩られている。

両手に握られたそれは、左右対称の黒白(こくびゃく)の双剣だった。

 

*********************

 

「弓兵風情が剣士の真似事、などとは言わぬ、儂とて他人の事はあまり責められたものでは無いからな…だが。」

 

最早プライドが許さぬと、突如再開された槍捌きは先程よりもまだ早く、苛烈になって行く。

 

「っ、しつこいな、貴方も!」

 

「ぬかせ、この赤狸めが!」

 

耳を打つ剣戟は、まるで激しくも美しい音楽の様だった。

不規則ながらリズムをもって響くソレは、死の舞踏、それを彩る音楽の様だ。

 

死は、誰のもとにも平等に訪れるのだと言う様に槍と短刀が光を奔らせ、踊る。

一瞬の筈の剣戟はしかし、永遠かと感じられた。

 

懐に入れまいとするランサーと。

 

双剣を盾に間合いを詰めるアーチャー。

 

刃のぶつかり合いは体感だけでも100を超え、激しく音が聞こえる度にアーチャーは武器を失う。

だが、それも一瞬。

次の瞬間にはアーチャーの手には再び同じ武器があり、その度にランサーは僅かに後退する。

 

事此処に至り、ランサーは自らが油断していたと認めたのだ。

 

こ奴が何者かは知らぬ。

だがこれ以上、この男を弓兵と侮れば…敗北するは己であるのだ、と。

 

瞬間。

槍の嵐が、雷が、止んだ。

隙なく構え、いつでもアーチャーを阻める格好ではあった、が。

 

「27、これだけ弾いてもまだあるとはーー」

 

視線は油断なく、しかし何処か息を吐き出すかの様に。

 

「認めよう、愚か者は儂の方であったとな、してーー貴様一体全体、どこの国の英霊だ。」

 

「答える義務はないな。」

 

あまりに不可解。

奴が手に持つ双剣にはいささかながら心当たりがある。

 

ーー夫婦剣…干将(かんしょう)莫耶(ばくや)

 

呉王に命じられ造られた名剣。

だが、その鋳造に用いた特殊な鉄が如何しても混ざり合わず、見兼ねた鍛冶師干将の妻、莫耶がその身を炉に投げ入れ、捧げたことで出来上がったといういわれを持つ中国の伝承にある名剣、だが。

 

干将・莫耶を造った人物は居ても使いこなしたものなぞ終ぞいなかった筈だ。

幾度紛失しようと必ず持ち主の元に戻る、と言われた逸話もまた、先程の現象の答えを出している。

 

だが、だがしかし。

やはり、使い手なぞ存在する筈が無い。

 

「干将・莫耶…違うか?」

 

ピクリ、とアーチャーの眉が動く。

 

「益々わからんな…案外貴様、近代の無銘の英霊、か?何らかの経緯で干将・莫耶を得ただけのーー」

 

「そういう貴方こそ…近代の英霊、だろう。」

 

アーチャーの投げかけに、今度はランサーの口角が吊り上がる。

 

「ふむ、何を根拠に。」

 

「近代の、などと遥か昔の英霊が使う言葉にしてはいささか不自然、かつーー、これほど変幻自在、神速の槍捌きとなればーー服装から見てとれる中国には恐らく、たった一人。」

 

ザワリ。

空気がざわつく。

ランサーの全身から…鬼気が立ち昇り始める。

 

「よくぞ言った、若僧…ならば食らうか、我が必殺の一撃を…!」

「止めはしない、いずれ越えねばならぬ敵だ。」

 

瞬間。

周囲の空気が凍りつく。

 

それは、物理的な気温の低下では無い。

だが、比喩でも無く。

あまりの殺気に、無生物すら恐怖したかと思うくらいの静寂が、場を支配する。

大気中のマナは一気にランサーへと集まり、大気が凍る。

 

 

「ーーーー」

 

あれは、触れてはいけない。

このままではあの槍が奔って、アーチャーは。

間違いなく、敗れ去る。

 

あの槍が奔れば最後と。

わかっていながら私は指一本動かせない。

アーチャーを助けなければ、支援しなければと思いながら。

今、私が動けばそれが開始の合図になりかねないからだ。

 

あれが発動したら終わりだと、わかっていながらーー

 

だから。

もし、それを止めるとすれば。

 

パキリ、と。

乾いた小枝を踏み折る音が、響いた。

 

「誰じゃっ……!!」

 

それは、私達が見逃していた第三者の登場に、他ならなかった。

 

************************

 

「誰じゃ!!」

 

「……え?」

 

ランサーから放たれていた鬼気が消えた。

 

走り去っていく足音。

その後ろ姿は、間違いなく学生服だった。

 

「生徒……!?まだ、学校に残っていたの……!?」

「その様だな、お陰で命拾いしたが。」

冷静に言うアーチャー。

いやまあ、確かにそれは助かったけど…

 

「失敗した、ランサーに気を取られて周りの気配に気がつかなかった、って、アーチャー、アンタ、何してんの」

 

「見て判らないか、手が空いたから休んでいる」

 

「んな訳ないでしょ、ランサーはどうしたのよ」

 

「さっきの人影を追ったよ、目撃者だからな、おそらく、消しに行ったのだろう。」

 

「ーーーーーー」

一瞬。

あらゆる思考が、停止した。

 

「追って!アーチャー!私もすぐに追いつくからっ!」

即座にランサーを追う、アーチャー。

 

「くそ、なんて間抜け…っ!」

目撃者は消すのが魔術師のルールだ。

だから、それが嫌なら目撃者なんか出さなければいいんだと、今までずっと守ってきたのに。

なんだって今日に限ってこんな失態を…!

 

走る。

頼むから生き延びていてくれ、と願いながら。

 

************************

 

走る、走る、走る、走るーー。

きっと、一生分走ったに違いない。

 

一瞬にして追いつかれた事に諦めかけたが、砂を蹴って目潰しを仕掛け、その隙に、死にたくない一心で私は再び走った。

 

校舎に駆け込み、遮蔽のある空間で、なんとかやり過ごせないかと。

しかし、直ぐにそれが失態だと気づく。

 

もし、見つかれば…袋の鼠では無いか。

何か、何か無いかーー

 

家庭科室。

其処には幸いにも…現状を打破する切り札になり得るモノが揃っていた。

 

あんな化け物にどこまで、通じるか。

それでも、簡単に諦めてたまるもんか。

 

白布に覆われて隅に立てかけられていたマネキン、それに自分の髪の毛と、指を噛み、滲んだ血を一滴。

 

そこにルーンを施す。

 

「付け焼き刃の私の魔術で、どうにかなるか判らない、けど…お願い、効いて…っ」

 

さっきのは、高位の精霊?

あるいは怨念で縛られた人間霊だろうか?

それにしては嫌に知性があった様子だった、が。

 

なんにせよ…これに気を取られてくれてる間になんとか…逃げなきゃ。

 

 

********

 

 

「なかなかに足掻くでは無いか、しかし、終わりかの?」

 

呟くと、室内に足を踏み入れる、ランサー。

 

「…今夜はどうにも楽しい日よな…1日に二人も逸材を見つけ、どちらも殺さなきゃあならんあたりが悲しいところだがーー怨んでくれるなよ、こちらも慈善事業をしとるわけでは無い、のでな。」

 

部屋の片隅で、うずくまり、震える少女。

白布を巻きつけ、涙ながらにこちらを見やる姿はいっそ哀れを誘う。

 

「情けなど、期待されても困るな。」

 

トス、っと。

軽い音を立て、刃が少女の胸へと吸い込まれる。

 

瞬間、爆発したかの様に広がった閃光の中。

少女が、ニヤリと、嗤った。

 

 

**********************

「はっ、はっ、はっ、はっ…っ!!」

 

走る、走る、走る、走る。

先程一生分走った等と言ったが、どうやらまだまだ走らないとならないらしい。

空きっ腹に優しくない。

 

腹痛が、身体を苛むが。

命には変えられない。

 

道を走り、時に他所様の家の庭を突っ切り。

住宅街に隠れる場所を探し、兎に角走る。

今夜行く筈だった下宿先を探したいところだが、住所を記したメモは鞄と共に学校だ。

 

「なんでもいい、とにかく…隠れなきゃ」

 

坂道をひた走ること数分後。

視界にやたらと立派な武家屋敷が目に入って来た。

庭には土蔵らしい建物もたたずんでいる。

 

人気は、無さそうだ。

暫しの隠れ場所にさせてもらう分には、良いかもしれない。

 

重い鉄扉を開け、中に滑り込む。

ガラクタが散乱した土蔵の中はヒンヤリとした空気だった。

 

腰掛けれそうな場所に、近くにかかっていた適当な布を敷き、へな、と座り込む。

 

「や、やっと一息つけた…転入早々、なんで死ぬ様な目に会わなきゃいけないの、うぐぐ。」

 

幻惑のルーンでマネキンを私だと錯覚させ、仕掛けた目眩しで時間稼ぎ。

魔力を伴う光は例え相手が怨霊、精霊であったとしても多少効果がある筈だ。

 

確かに作動した手ごたえを感じた。

だからこそ自分は先んじて窓から退散したとは言え、ここまで逃げ切れたのだろう。

 

魔力も、体力ももう限界だ。

とりあえず、朝までここでやり過ごしてから考え…

 

「見つけたぞ…小娘。」

 

「ひっ!?」

 

鉄扉が開き、入ってきたのは。

先程の赤毛の、怨霊。

 

「や、ちょ、なんでここまでっ」

 

「もう少し、貴様が事情を知っておれば…魔力を隠して逃げおおせたかもしれんな。」

 

か、完全に人語を理解してる!

 

「あ、悪霊の類じゃ、無い?」

 

「戯けか、悪霊、怨霊が武器を持って相争うと思うてか?我らはサーヴァント。」

 

「サーヴァント、サー、ヴァン、トッ!?」

 

ここでようやく合点がいった。

サーヴァント。

過去の英霊を使役し、扱う。

聖杯の奇跡。

 

「え、ちょっと…嘘!?」

 

東国の僻地で開催される大儀式。

それに精霊をも超える英霊を扱うものがあると、噂には聞いていたがーー

 

魔術師であれば垂涎ものの報酬があるが、とんでもなく危険な儀式だ、とは聞いている。

詳しい話は父が居ない今、わからないが…

 

「さて、随分と面白い真似をしてくれたがーー今度こそ、終いじゃ。」

 

スゥ、と構えた穂先が此方を向いた。

 

し、死ぬ?

このまま、私はーー死ぬ、の?

 

そう、考えた途端。

左手の甲に激痛が走る。

 

「い、った…、何!?」

 

手には、赤く、三つの痣が浮かび、腫れができていた。

 

「ソレはーーそうか、貴様が、最後の!」

 

ますます生かしておけなくなった、と言うや男の槍が、閃いた。




【後書き的な何か】

はい。
と、言う訳で。

ようやくプロローグへと繋がりました。
なっが!
我ながら書いててなっが!

しかも、今回は結構な原作の引用というね、もうね。
(規約違反に引っかかりません、よね、ね?)

とはいえ。
原作を軸にして物語を改変する事が逆に大変だと、思い知りました。
原作の雰囲気ぶち壊してしまわないか、そこにヒヤヒヤしながら原作の文と見比べながらの作業。
はい、やはり学ばされるものが多々ありました。
やっぱり自分の地の文章は拙い、と。
改めて感じました。

少しでも皆様が楽しいと感じていただけたら私はハッピーです。

さて、アーチャーはこれで、ランサーの正体にほぼ気がつきました。
ランサーは逆に大混乱。
挙げ句の果てには槍持の、あり得ないサーヴァント(オルタニキ)とこのあと出会ってしまう訳です。

現在の登場サーヴァントは3騎。

アーチャー 真名 ???
とはいえ、まあ原作のままの人ですからわかりやすいですやね。

ランサー 真名 一体何書文なんだ!?
はい、「拳児」とか読みましょう。
…まあ、伝説が大袈裟なのはともかく、死因に関してはあの漫画間違いだったらしいですが。
というか日本で流れるかの人の話は本人の祖国ではかなり違う話になってたりするらしいですが。
気になる人はwikiだけでなくいろいろぐぐると良いかもしれません。

バーサーカー 真名 クー・フーリン・オルタ
言わずと知れた我らがクー・フーリンの兄貴、その闇堕ちバーサーカーバージョン。
耐久性のあるバーサーカー。
頼れる兄貴、厨二病も真っ青なあの方です。

次回、話は再び時間軸を衛宮士郎とオルタニキの出会いに戻ります。

それでは皆様、今回も長い長い、私の駄文と改変話にお付き合いありがとうございます!

次回も、お付き合い頂きたく。

2016.5.24.22:20 携帯より、某所に初稿投稿。

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