Fate/alternative   作:ギルス

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矢を射る者も、狂える者も。
人神、皆が等しく籠の鳥───

巡り廻る輪廻の縁、神ならざる者に抗う術はあるや、否や。



第26話 『鳥籠』

 

……夢。

これは近くて遠い、愚かな自身の過去。

 

「遠坂時臣──質問は一つだ、何故…桜を臓硯の手に委ねた。」

 

「──何?それは…今この場で君が気にかけることなのか?」

 

「答えろ──時臣ィ!!」

 

強く、強く問いかける声に、嘆息を交えて答える声。

 

「ハ…問われるまでも無い、愛娘の未来に幸あれと願ったまでの事…」

 

「──ッ、何だと!?」

怒りに目の前が霞み、目眩さえ覚えた。

 

「…二子をもうけた魔術師は、いずれ誰もが苦悩する。」

 

最早、先に続く台詞も大方予想がついた。

 

「秘伝を伝授しうるのはただ一人…何方か片方は”凡俗”に堕とさねばならぬと言う、ジレンマよ。」

 

凡、俗…。

一呼吸、一呼吸が、苦しい。

心が、張り裂けてしまいそうで。

 

「──とりわけ我が妻は…母体として優秀過ぎた…凛も桜もともに等しく希代の素養をそなえて産まれてしまったのだ、娘達は二人が二人…魔導の家門による加護を必要としていた。」

 

あの、遠い日の母と子の姿を…この男は、ただ「凡俗」と切り捨てるのか──!

 

「いずれか一人の未来の為に…もう一人が秘め持つ可能性を摘み取ってしまうなどと──親として、そんな悲劇を望むものがいるものか。」

 

そんな──そんな、理由、でっ…知って、知っているのか!桜が、桜が間桐の家でどんなことをされているのかを!?

 

「姉妹双方の才能について望みを繋ぐには…養子に出すより他に無い。」

 

知らないはずが無いよな、それで!それでどうしてそんな顔ができるんだ──!

 

「…だからこそ、間桐の申し出は天啓に等しかった──聖杯の存在を知る一族ならば、それだけ“根源”に至る可能性も高くなる──」

 

そんな、そんな理屈──産まれてくる先を選べない子供に押し付けて!

それで、それが────!!

 

「魔術師とは、生まれついてより力ある者、そして…いつしか更なる力へと辿り着く者──その、運命を覚悟する以前からその責任は血の中にある…それが、魔術師の子として産まれると言う事だ、私が果たせなくとも、凛が。」

 

子供は、貴様の、一族の夢とやらを叶えるための道具じゃ無い!!

 

「そして凛ですら至らなかったとしても、桜が──遠坂の悲願を継いでくれるだろう。」

 

時臣、時臣ィ!

何故、何で貴様は、そんな!

凝り固まった妄執が正しいだなんて、言えるんだっ、お前が、お前が優秀で、葵さんを、幸せにしてくれると思ったから!

だから、俺は────

 

第一、それでは!

 

「──貴様、相争えと言うのか、姉と妹で!」

 

「仮にそんな局面に至るとしたら…我が末裔達は、幸せだ (、、、)。」

 

「な、に?」

 

「栄光は勝てばその手に、負けても先祖にもたらされる、かくも憂いなき対決はあるまい?」

 

狂って、いる。

こいつは、いや、魔術師なんて奴らは皆が。

狂ってやがる!!

 

「貴様、は──狂っている!!」

 

ああ、この時の俺は──余裕も無く、時臣が全て知った上だと信じて止まなかった。

 

「語り聞かせるだけ無駄な話だ…魔導の尊さを理解せず、あまつさえ、一度は背を向けた…裏切り者には。」

 

裏切り者。

奴からしたらそうだったのだろう。

考えてみれば、時臣の言い分は、全てが間違いでは無かったんだ…稀有な才能を持ってしまった二人は、一般人として生きるには難しく、したとして直ぐに捕縛され、良くて封印指定と言う名のモルモット…悪ければホルマリン漬けの生体魔術標本にされていたかもしれない。

 

「──わかるまい、…この所業、それすらも…強き理由あっての事であるのだと──」

 

あの、いつも人を見下し、怪しげな嗤いしか見せない臓硯がただ一度、零した言葉。

理由とは、何であったのか。

もしかすれば、奴なりに深い訳があるのだろうか。

否、あったとして…奴が許されざる者である事に変わりは無いが。

 

眠れない眠れないと横になって目を閉じるうちに見た浅い夢。

いつか見た光景が脳裏に蘇っただけの。

 

空が白み始め、朝日が昇る。

カーテンの隙間から

夢は、終わり。

 

そうだ、もう──過去だけを見つめるのは止めにしたのだから。

で、無くては…「彼奴」に会わせる顔が無い。

 

「どうした、雁夜?」

 

昨日出会ったばかりの、エクストラクラスのサーヴァント、アベンジャーが眠気に頭が回らない俺を覗き込んでいた。

 

「いや、夢をな…見ていたんだ。」

 

「ああ──他人の事はあまり言えないんだがな、あんたも本当に不幸極まりないな…」

 

「アサシン…まさか…お前──」

 

「わりいな、バッチリ見えちまったよあんたの夢。」

 

仕方ない、と溜息を吐きながら二人を見比べる。

 

方や、女性だと言われても違和感がなさそうな髪型のアベンジャー。

 

方や、精悍な男、になる手前と言った風体のアサシン。

 

「…何故、俺は男二人の顔を朝日とともに拝まねばならんのだ…」

 

考えて、少し切なくなった。

ああ──桜ちゃん、きっと大きくなってるだろうなあ…

 

会いたい、などと言う許されない思いを顔を振って振り払う。

 

「さて、アサシン…情報、あるなら報告よろしくな。」

 

「朝から勤勉だな、マスター。」

 

どこか人懐こい笑顔で悪態を吐くこの暗殺者。

まあ、嫌いでは無い。

 

「当然さ…余裕なんかないんだからな。」

 

キッチンからは、湯を沸かす音だけが聞こえてきた。

アベンジャーには、コーヒーか紅茶だけを頼む事にしたからだ。

 

さて、このイレギュラーだらけの聖杯戦争。

なんとか勝ち抜かなきゃあ、な。

 

**************

 

時刻は数刻遡り、深夜の冬木上空。

 

「ふん、つまらん…つまらんぞ。」

 

紅い眼を不機嫌に細め、街を眺める美丈夫。

英雄王ギルガメッシュは感じていた。

 

「如何なるものかはわからんが…無粋な匂いだ、神如き何者か…或いは神そのものが糸を引いているか…?」

 

空を覆う不可視の壁。

それは本来であれば内側からは「ある」と認識することすら不可能なものであったが、偶然にも上空を遊覧飛行と洒落込んでいた彼は見つけてしまったのだ。

 

「我が宝物を持ってして解析できず覚えもない力だと…宝物に由来するものでは無いか、或いは何がしかの存在そのものの力であるのか…不愉快だ、我が思うようにできず、鳥籠の鳥の如き扱いを受けようなど…必ずその大罪、我が前で償わせてくれる…」

 

もし、今「アレ」を抜けばこの壁を破壊する事も不可能では無いかもしれない。

だが。

 

「しかし、我をして気づかせぬ輩とは些か興味もある…どうせならば、この状況をも楽しんでこそ王と言うものよな。」

 

確かに不快ではあるが、ならば気づきすらしていない凡夫どもの足掻きを眺めるもまた一興か。

 

黄金の船に腰を据え、夜の街灯りを見下ろしながら。

最古の王は笑みを浮かべた。

 

「…あの泥に似た何かといい、この街に現れた幾つかの厄介な気配…考え次第では面白いではないか、そうよ、神ですら我を意のままにはできぬと知れ。」

 

一転して笑い始め、夜空に一人声を上げる。

その笑いは暫く響き…やがて、彼がその場から去って行き静寂が戻った。

 

聖杯戦争開始当時、紅く丸かった月は徐々に欠け、今は下弦──半月まで形を変えている。

 

静かに輝く月は黙し、空には現代には珍しく、何一つ飛行していない。

 

鳥はおろか、飛行機、果ては人工衛星の光すら届かぬ空。

 

都会にあるまじき美しい星々のみが瞬くその空に。

街に暮らす誰一人、気づかない。

 

異常が異常とわからない。

そこに囚われるのは人のみに非ず。

英霊ですら、その籠の中であった────

 

***************

 

「シロウ、アーチャー。」

 

「何かね、セイバー。」

 

「どうした、セイバー?」

 

「今日の賄いは何でしょうか。」

 

キラキラした目で二人を見つめるアサ…セイバー。

 

服装は今は凛から譲り受けた私服で、白と青を基調とした可愛らしい服装だ。

…正直、士郎には何故凛がこんな服を持っていたか甚だ疑問であった。

アーチャーは知っていたのかそこはあまり気にしていないようだ。

 

「ならば冷蔵庫の貯蔵は十分か、小僧。」

 

挑発的な物言いで士郎を煽る弓兵。

いや、お前それ英霊の台詞じゃないから。

 

「舐めるなよ、いつだろうと客が来ても構わないだけの備蓄はあるぞ?」

 

ニヤリと返す士郎の言葉に無言で冷蔵庫を開けたアーチャーがそれを見て嘲笑する。

 

「ハ、この程度でドヤ顔はよせ未熟者──彼女を満足させたくばこの三倍は持って来いと言うものだ!」

 

アーチャー、士郎。

活々きしすぎではなかろうか。

 

「ねぇ、何なのあの主夫二人…私達女よね?」

 

「…お昼からあまり重いメニューは厳しいなー…ただでさえ、最近身体動かせなかったのに…(石化で)。」

 

などと言っていると、今時珍しい古めかしいタイプの据え置きの電話機が音を奏で始める。

 

「あ、ハイ衛宮です。」

 

すぐに士郎が電話に出、応対する。

 

「…はい、え?ネコさんが?大丈夫なんですか?はい、大丈夫ですよ今日だけなら手伝いますから、ハイ、ハイ──」

 

聞こえた内容はあまり喜ばしいとは言えないものらしいのは伺えた、同時に女性らしき「ネコさん」の名前。

 

「どうしたのですか、シロウ?」

 

「あ、いやコペンハーゲン…バイト先の人が体調不良で病院に行かなきゃならないらしいんだけど…どうしても今日は予約した品物を取りに来るお客さんがいて店番が欲しいらしいんだよ。」

 

と、顎に手を当てる思案顔でアーチャーが口を開く。

 

「…行きたまえ、夕飯までは私が引き受けよう、但しセイバーは連れて行け…いかに貴様が魔術を扱うとはいえサーヴァントに襲われでもすれば無意味だからな、此方は私にバーサーカーがいれば過剰な程に戦力がある。」

 

「なんだよ、気味が悪いくらい物分りがいいじゃないかアーチャー。」

てっきり、逃げるのかとか煽るのかと身構えていたのだが。

 

「世話になっている御人なのだろう、礼を失するのを良しとするほど程の悪い人間であるつもりもないからな、貴様の話であったとしても、だ。」

 

「他人事では無いでしょうに…相変わらず素直ではありませんね、アーチャー?」

 

からかうようにセイバーに言われ、アーチャーが眉間に皺を寄せる。

 

「セイバー、夕飯はデザート抜きで良いのだな?」

 

「なっ、シっ…アーチャー、それはあんまりではありませんか!?」

 

「知らん、反省しろ馬鹿者。」

拗ねた様にそっぽを向くアーチャーに、慌てて機嫌を直してくださいと懇願するアルトリア。

 

「「夫婦(だ)ね」」

 

「夫婦だな。」

 

「なんだよあれ。」

 

凛、朔弥、バーサーカーが同様の感想を。

士郎はなんとも言えない気持ちを感じながら言葉を放つ。

 

「…まあ、とにかく準備してコペンハーゲンに出かけてくるよ、夕飯前には戻れると思うから皆は寛いでてくれ。」

 

「あまり悠長にするのもとは思うけど昼日中から動くものでも無いしね…そうさせてもらうわ。」

 

「は、俺もマスターから離れる気はねぇよ。」

 

「じゃあ、それで頼むよ。」

 

士郎が自室に財布と僅かな荷物を取りに行き戻る頃には。

台所で、結局デザート抜きを言い渡されたアルトリアがしょんぼりしながら戻ってきた。

 

「ハァ、シロウ…それでは行きましょうか。」

 

「ああ、ごめんなアルトリア、つきあわせちまって。」

 

「──ッ」

息を飲む様に、アルトリアが僅かに頬を赤らめ、停止する。

 

「どうした?」

 

「あ、いえシロウに名前で呼ばれるとちょっとびっくりすると言うか、なんともその。」

 

「あ、悪い…アーチャーがそう呼んでたからつい…嫌か?」

 

「あ、いえ…外や部外者の前でなければ構いません…嫌だなんて、思いませんよ?」

 

「あ、ありがと、う?」

 

玄関先に出るまでにこれである。

 

「ねえ、凛ちゃん──」

 

「何よ、朔弥…ちゃん付けするくらいなら凛でいいわよ…」

 

「あれ、どう思う?」

 

「みたままよね…アーサー王って移り気なのかしら…英雄色を好むとは言うけれど…」

 

「うん、なんかね…不思議とセイバー?がアーチャーにであれ、先輩にであれああいう態度してるのを見てたらどっちにしても何だかモヤモヤするのよね…何でかな…」

 

「奇遇ね、私もよ。」

 

ガシ!

と手を取り合い、年の差を超えて二人はこの瞬間、友情?で結ばれたのである。

 

「君達な…私は仮にも英霊だぞ…丸聞こえなんだがな…」

疲れた様なアーチャー。

 

「胃薬いるかよ、色男?」

ニヤニヤニヤニヤと嬉しそうなバーサーカー。

 

「余計なお世話だ…」

更に深いため息を吐きながら、アーチャーは黙って昼の支度にかかるのであった。

 

冬木は、異常事態にありながらも今はまだ、平穏であった。

 




【後書き的なもの】

はい皆様こんばんは、こんにちは、おはようございます。

皆様のおつまみ、ビールのおとものライダー/ギルスです。
珍味的な噛めば噛むほど味が出る話が書きたい今日この頃。

今回は日常回。
とくに話に進展らしい進展は無くてさーせん。

次回──ラブコメの波動。
着々と修羅場フラグを立てる弓兵とSN主人公。
そんな感じで大丈夫か?
大丈夫だ問題無い。

だってFateだから。

と、言う訳でまた次回更新でお会いしましょう!

しーゆー!

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