Fate/alternative   作:ギルス

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災い来たりて空に降る。
恐怖の大王は、時を跨いで──




第23話 『赤と青』

それは、まるで綺羅星の様に──

 

始めにそれは、星々の輝きを受けてたゆたう様に暗い宙に漂い流れていた。

 

それは、円錐にも、円柱にも、匣の様にも、瓢箪の様にも、或いは壺の様にも見えた。

 

夢幻の怨嗟に囚われた虜囚を乗せた箱舟──

罪人達を連れ、世を儚んだ女は空を漂う。

 

やがて、その人知を超えた感覚は、蒼く美しい宝石のような星を観る。

 

『アア──ナント、ウツクシイホシ、カ。』

 

ソレは、知らず知らずに呟いていた。

その感覚に捉えた星こそが、ソレが遥か昔に求め続け、何時しか忘れてしまっていた大切なモノを育んだ場所であるとも気づかずに。

 

『ソウダ──ツギハ、アソコガイイナァ?』

 

無邪気な声は、耐え難い歪みを孕み、度し難い傲慢さと、気が狂いそうな甘い毒の香を含んでいた。

 

綺麗だから、欲しいから…だから。

 

『壊しちゃおう。』

 

一瞬だけ、その声に人間味が宿り、直ぐに無機質な、陰湿な、空寒い響きに戻る。

 

そうして。

ソレは太陽から三番目に位置する惑星へと、降下を開始した。

 

空気と擦れ合うその硬質な肌が、不思議な七色を撒き散らし、まるで──綺羅星の様に。

 

1999年、7月。

空に七色の流星が見えたと一部天体マニアの間で騒がれた。

 

だが、その星はとうとう落下した事実も無く、噂は噂として消えていった。

まだ、今ほどに電子情報網も発達しない頃の話。

ほんの一握りの人だけが騒いだ小さな話。

 

その日、人類史(、、、)は密やかに、しかし確かに滅びの窮地を脱していた。

 

誰が救ったわけでも無く。

ただ、偶然の──いや。

必然の歪みがもたらした救いに。

 

そして。

歪んだ歴史は、一つの転換期に再びの歪みをもたらした。

 

誰一人気付かぬまま。

救われた世界は、次なる滅びに晒される事となる。

 

『アア、タノシイナア、ハジマルヨ、ハジマルヨ──キミガマチノゾンダ、ウマレオチルシュンカンガ、イヤ──ノゾマレタ、カナ?』

 

────

 

『ハハ、ヨケイナオセワカイ?ケレド、ウマレオチテモラワナキャア、ナンドモ、ナンドモ──カタチヲナスタメニ、キミハノゾマレタママニシタライイ、ネガワレルノガ、ホーリーグレイル──ワタシモマタ、ヨニデルコトコソガ、在り方なのですから──』

 

在り方?

人らしい在り方はとうに忘れた。

しかし、人に憧れる。

失った。

喪ってしまった。

 

『ハテ──ナニヲナクシタノダッタカ…』

 

『ハテ────?』

 

**************

 

 

懐かしい街並。

懐かしい空気。

ここは自分が知る冬木の地でありながら、冬木の地では無い様な違和感。

 

「しかし、あれからもう10年か。」

 

若気の至り、馬鹿ここに極まる理由で参加した第四次聖杯戦争。

自分はそこで死に直面し、生を得て、そして何より人として得難い経験をした。

 

ただ、認められたかっただけの自分。

卑小な自分を、大きな身体で導いてくれた征服王。

 

そして、敵でありながら王たる彼の生き様を認め、自分を見逃した英雄王。

 

あの後、セイバーも、英雄王も、どうなったかは定かでは無いが。

起こった災厄を鑑みるならばおそらくマスター共々果てたのだろうか。

 

遠坂時臣の死に様は実に奇妙ではあったが──

 

「まあ、今考える事では無いか。」

 

小さな公園に差し掛かり、ブランコや砂場で駆け回り、はしゃぐ子供の声が遠くに聞こえた。

 

違和感こそあるが、のどか過ぎる光景。

 

「本当にここは、あの結界の中…いや、冬木、なのか?」

 

「異な事を言うやつじゃなあ…?」

 

ふ、と急に声がして振り向く。

そこには白髪の長い髭をたくわえ、ボロを纏う一人の老人の姿があった。

片目は目の病気でも患ったのか、アイパッチの様なもので隠している。

 

「冬木にきまっとるじゃろうが?」

 

「え、ああ──数年ぶりでしてね、大層変わってしまったな、という話ですよ。」

 

何度かマッケンジー夫妻に会いには来たが、ここ数年はそれも出来ていない。

咄嗟に、変に思われたかと言いつくろう。

 

「ほー、まあ、気をつけなされよ…懐が暖かそうじゃからなあ、坊主。」

 

浮浪者?それともスリか何かだろうか?

いや、それならこんな風に声をかけてはこないか。

 

「ご忠告ありがとうございます、大丈夫ですよ、これでもイギリスの、治安も良くない場所での暮らしが長かったのでね…物盗り程度にどうにかされるほど甘くはありませんから。」

 

多分、おのぼりの外国人だと思って声をかけてくれたのだろう、酔狂な──いや、まるでマッケンジー夫妻の様に優しい御人だ。

 

「そうかね、まあ…念のためじゃ、ワシがおまじないをしてやろう。」

 

そう言いおき、老人は指をササ、と走らせた。

 

「ほほ、ワシこれでもまじないが得意でな、坊主には不幸が見えとったからな、少し払ってやったわい、お前さんに幸多からんことを、な。」

 

ふ、と笑い。

柄にもなく優しい笑顔でもう一度礼を述べる。

 

「ありがとう、おじいさん…貴方なんだか似ていますよ、僕の知っている人に。」

 

「そうか、綺麗なおなごなら紹介してくれ、是非な。」

 

と、わきわきと指をいやらしく動かす爺。

 

「男ですよ、貴方と同じお爺さんだ。」

 

やれやれ、と肩をすくめて背を向ける。

 

「坊主、楽しいやつじゃなお前さん…縁があればまた会おうな、ほっほっ。」

 

面白いのはあんただろ、とは言わず手を上げて答え、その場を後にする。

 

老人は、黙って先ほどまで繰り返していた作業に戻る。

 

手元の袋から取り出した餌を、茂みにいたカラスに放り投げる。

 

美味そうにそれをつつく二羽のカラスを見て目を細め、呟く。

 

「美味いか、美味いか〜?」

 

餌をやる対象は変わっているが、やはり冬木はのどかであった。

表からみる、限りは。

 

 

***************

 

「なんだ、今の──」

 

聖杯戦争が始まって、もう何日めだろうか。

昼に何をしたかも朧げな位に頭がはっきりしない。

何かを見た様な気がする。

 

忘れてはいけない何かを。

 

「痛っ?」

 

左手の甲に、鋭い痛みが走る。

切った覚えもないのに血が滲んで流れた。

 

「なんだ?っと布団についちまう…。」

 

慌てて流れた血が落ちない様に右手を重ね、そのまま洗面所に向かう。

 

血を洗い流した後に現れたのは、剣。

昏く冷め覚めと月の様に冷徹な刃がそこにあった──眩く輝く、金の刃もそこにあった。

 

「──っ!?」

 

一瞬、手から二つの刃が突き出している様に見えた。

美しい金色と、禍々しい黒。

しかし直ぐにその幻覚は消え、ただ、赤い刺青に似たものが左手甲に浮かび上がっていた。

 

「これ、まさか…令呪、か?」

 

何故、この状況で自分に令呪が顕れたのか。

 

「──俺に願いなんか、無いんだがなあ…イッヅゥッ!?」

 

更に右手に痛み。

重ねて血が流れ、金色の尖った先が見えた。

 

「これっは…いっ、いってぇ── 」

 

都合6画。

二つの令呪が左右の手に宿る。

 

「うっ、ぐあああああああっ!?!?」

 

蹲り、堪らず声を上げる。

言いようの無い激痛が身体を引き裂く様にして通り抜けていく。

 

『大丈夫ですかっ!士郎──!』

 

懐かしい誰かの声が聞こえた。

それは、幻聴だとわかっていながら。

 

頬に、涙が伝った。

 

「うっ、あ────ああああああ!!」

 

泣き叫ぶ様に頭を掻きむしりながら叫ぶ。

 

「ちょっと、士郎っ、大丈夫!?」

 

声に驚き、飛び込んできたのは凛だ。

赤い、いつもの服装に、髪だけはまだまとまりきらなかったのかまだ肩に流れたまま、すこし跳ねていた。

 

「とお、さ、か?」

 

「ちょっと、本当に大丈夫?顔、真っ青──」

 

嘘──、と。

今度は凛の顔が白くなる。

 

「なんで、あんたに令呪、が?」

 

呆然と立ち竦む凛、その後ろからバタバタと誰かの足音。

 

「何事ですかっ!?」

 

「あ、ここ──朔弥?」

 

「む…」

 

わざわざ、名前で呼び直したのを聞きとがめ、凛の顔に朱が戻る。

 

蹲る士郎を見た朔弥が、先ほどの凛同様に顔を青くして、駆け寄った。

 

「ちょっと、血が…いや、先輩顔、真っ青ですよ、大丈夫なんですか??」

 

令呪など、見えなかったかの様に士郎に寄り添い、支える姿。

 

ああ、私──やっぱり、魔術師なんだなあ。

そんな風に、普通と違う自分が嫌になる。

凛の思いは誰に聞きとがめられる事も、無く…は、無かった。

 

《凛、無理をするな──何も君が何時も魔術師然としなければならないわけじゃ無いんだ。》

 

《え、士郎?、あんた何言っ──あ、アーチャー?》

 

《全く、動揺し過ぎだ…小僧と俺を ( 、、)間違えないでくれたまえよ。》

 

《え、あ…ごめん、ってそうじゃない、そうじゃないでしょ…余計な御世話よ!?》

 

《ふん、その方が君らしいよ──凛。》

 

従者の声に、反論しようとした矢先。

 

「──なっ?」

 

カランカランカランカランッ!

 

鳴子の様な警戒音。

 

「敵!?」

 

行くわよ!、と凛が舌打ちしながら駆け出し、朔弥も士郎に肩を貸しながら立ち上がる。

 

「バーサーカー!」

 

「ああ、ここに居るぜマスター。」

 

庭先に魔力を感じる。

敵は外壁を通り越して入り込んだ様だ。

 

「小僧、マスターとここに居な。」

 

そう言い残し、バーサーカー、クーフーリン・オルタもまた凛を追う。

 

「始まった、か。」

 

最後に呟いた言葉は誰の耳にも届かない。

しかし、言葉通りに。

事態は急激な変化を見せた。

 

庭には、無数の影が揺らめいていた。

黒く染まったまるで亡者の様な幾つもの影。

口々に怨嗟を吐き出し、姿は様々。

 

剣、暗器、槍、魔導書──様々な獲物を構えた其れ等は一様に眼に光は無く、泥の様な光沢をした身体を引き摺る様にじわじわと包囲を狭めてくる。

 

「な、何よこれ…?」

 

凛の眼には、そのステータスが見えた。

つまりは。

 

「全部、サーヴァント!?」

 

「何事だこれは…随分禍々しいが、あれがサーヴァントだと?」

 

アーチャーの疑問はもっともだ。

何せ見た目は英霊とは程遠い、言うなれば悪霊そのものの姿。

 

「──黒化英霊…歪んだ力に侵され、変質した英霊の成れの果てだ。」

 

答えたのは、バーサーカー。

 

「黒化、だと?」

 

「ああ、そうだ…俺もまた歪んだ願いから変質して生まれた口だからな、御同類の事はよーく分かるのさ…俺の真名はアーチャー、お前ならもう検討がついてるだろう?」

 

「あ、ああ…宝具を見たからな…しかし君のソレは私が知るものとは些か以上に違っていたが…?」

 

「そうさ、故にこその変質、アレは俺の様な黒化英霊の成り損ない…言うなれば、デミ・オルタってところか、自我が無いんだよあいつらは。」

 

「クー・フーリン・オルタ、それが俺の本来の真名さぁ。」

 

そう言いながら槍を構え、庭先の黒化英霊を睨みつける、クー・フーリン・オルタ。

 

「真名を…良いのか?」

 

「ハ、もうお前も、嬢ちゃんも聖杯がまともじゃ無い事には薄々勘付いているんだろう?」

 

「それは──」

 

「いや、お前は知っていたはずだな…アーチャー、いいや…剣製の英霊よぉ?」

 

「な、貴様──!?」

 

「は、その反応じゃ俺の事は覚えてないか、いや…オルタ化した俺やそのあたりの事は座の記録にすら届いていない、か?」

 

「な、何を言っている、何を?」

 

困惑するアーチャーを他所に、バーサーカーは殺気を高めていく。

 

「さあて、それじゃあ一仕事、するかねえ!」

 

「──何してるの、アーチャー!」

遅れて、凛が叫ぶ。

 

「っ、ええい、仕方ない!」

 

手に双剣を握り、駆け出す。

 

ガイン!と音を立て、刃を弾く。

強い。

己の意思を失ってこれか。

 

「これが英霊だと言うのは本当らしい、な!」

 

「アーチャー、気をつけて…こいつら全部雑魚じゃ無いわ…むしろ強敵よ!」

 

凛の眼に見えるステータス、それを見ればわかるが、その真名はわからずとも能力は朧げに判る。

それら全てが高水準、その上何らかのステータスの底上げがなされている様だった。

 

「バーサーカーの狂化スキルみたいなもの?」

 

自我が無い彼らは、その反面強い力を得ているのかもしれない。

 

「く、しかしマスターも無しに何と言う馬力だこ奴ら!」

 

最初に揺らめいていた数騎をなんとか斬り伏せるアーチャーとバーサーカー。

アーチャーは強引な太刀筋から体勢を崩しながらもなんとかと言うていだ。

 

しかし、影は更に増援を寄越してきた。

黒い油溜まりの様な中から、現れたのは剣の英霊。

構えた豪壮な剣を振り上げ、そこに光が集まり始める。

 

「え、ちょっとアレ真逆!」

 

凛の焦りはもっともだろう、あろう事か黒化英霊、デミ・オルタは自我すら無いと言うに、宝具を開帳しようとしているのだから。

 

「ちい、あの光…マズイ、対軍宝具っ!?」

 

間に合わない、バーサーカーは未だ残ったランサーの黒化英霊と鍔迫り合いをしていたし、アーチャーもまた体勢が崩れた直後──

 

「遠坂っ、アーチャー、バーサーカー、無事か、みんなっ!」

 

叫び、朔弥の肩を借りながら手に銃を構えるのは士郎。

 

そして、それが剣の英霊の意識を向けさせてしまう。

 

「足掻ク者──神は、貴様ラヲ、オ認めになラヌ──」

 

今までバーサーカー達に向いていた剣先が、士郎へと向けられ、光が──

 

「士郎ーーーッ!!」

 

凛の叫び、そして。

 

「セイバーッ!!!」

 

甲高い、少女の声と、剣が奔る音が。

聞こえた。

 

 




【後書き的なもの】

遂に、士郎に令呪が。
しかもダブルですよ!この街を泣かせる奴は許せない、さぁ、お前の罪を数えろ!(違います

さてさて、読んだ皆様は最後に助けに入って来たのは誰だか想像はつきましたか?

セイバー?
それともセイバー?
若くは違うなにか?

① セイバーだろ、わかりやすスギィ!
② アサシン?
③ キャスター?
④ イルマ?
⑤ それ以外の既存鯖?

答え合わせは次回に!

と、言うわけで次回更新にてまたお会いしましょう!

ではでは!しーゆー!

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