Fate/alternative   作:ギルス

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過去に縛られる者。
過去に囚われる者。
過去より這い上がる者どもよ。

待てーーしかして希望せよ。




第22話 『恩讐』

「これは…どう言うつもりだ?」

 

「ん?見た通りだが、何を悩む、金なら手に入った、問題あるまい?」

 

「──いや、確かに君が適当に買ったスクラッチがいきなり当たって大金に変わるのを見たのも驚きだけどな。」

 

「まあ、換金は戸籍の無い俺ではできなかったからな、半分はお前にやろう。」

 

「あ、いやなんか後が怖いし何より俺には金を使う未来があるかだってわからないから、要らないよ。」

 

曰く、彼の持つスキルの効果らしいが…

「黄金律A」とはここまで理不尽に効果覿面なのか…

 

「そんな事で聖杯を望もうと言うのか貴様は…まあいい…理由か。」

 

「いや、俺は──」

聖杯を、のくだりを否定しようと口を開く。

が、先にアヴェンジャーの言葉がそれを遮る。

 

「ふむ、強いて言えば気まぐれだな。」

 

「─は?」

 

アサシンは今は姿を消している。

今現在向かい合うのは俺、間桐雁夜とアヴェンジャーだけだ。

 

「気まぐれだ、気まぐれ…そうだな、より具体的に言うならば…お前の気概が気に入ったと言えば納得か?」

 

「──いや、ますます理解に苦しむが…」

 

「オレは、特殊なサーヴァントでな。」

 

「ああ、そりゃエクストラクラスだもんな…」

 

「いや、そういう意味ではない。」

 

と、会話をしながら今俺の目の前には信じがたい光景が広がっている。

アヴェンジャー、彼はニヒルに口元を歪めてはいるのだが、余りにも似合わない。

 

「オレは聖杯により招かれた、本来とは違う、通常と異なりマスターの居ない──完全に独立したサーヴァントだ。」

 

今、凄い重大な案件をサラっと吐き出されたが…僕の目は寧ろその姿を認められずにいた。

つい数時間前に、まるで蒼き流星の如き動きで空を駆けたとはとても信じがたい。

なんせ、今の彼はどういう訳か借りてきたレンタルアパートの一室で、やたらに可愛らしいクマさんプリントのエプロン姿で料理を作っているのである。

しかも、外套は脱いだもののレトロなスーツはその下に着用したままで。

 

「…え、あ、そ、そうなのか。」

 

「なんだ、意外に驚かんな?」

フライパン片手に可愛らしく小首を傾げる姿は一部の層が見たら喜びそうな感じだが、男だ。

 

「いや、もう今日は驚きすぎてキャパが…」

最早苦笑いしかできない。

しかしこんな姿を見せて油断させて俺をどうする気だ?

 

「あの地下空間で蛹から羽化した後に貴様は言ったな?」

 

そう言えば確かに御大層な事を言ったかもしれない。

今や自分の生き長らえる意味そのものと言えるくだらない話。

 

「──許しがたい者が居る、と。」

 

「ああ、確かに言ったな、そうさ、俺の祖父だと嘯くあの妖怪爺──あいつを滅して、救うんだあの子を…今度、こそ!」

 

「その、眼だ。」

心底から美味そうなものを見つけたと言わんばかりに期待に満ちた眼が、俺を射抜く。

 

「眼?」

 

「ああ、そうだ…恩讐に生き、恩讐に身を焦がす者の眼だ、死に挑み、然しながら希望を抱いたその矛盾──実に気に入った。」

 

その台詞だけならニヒルに決めた彼の姿はかっこいいと言えなくも無い。

 

だが、クマさんエプロンである。

 

「まずは、食え。」

 

「え、あ、ああ。」

 

さきほどまで皿に盛り付けなどされていなかった筈だが、気づけば机には出来上がった料理が所狭しと並んでいた。

少しばかりスパイシーな香りと、ガーリックの香り。

 

「簡単なものだが栄養価は高い筈だ、貴様はまず身体を養え。」

 

…コイツ、もしかしたら世話焼きなだけか?

 

疑うのが馬鹿らしくなってきた。

て言うか、そもそもあの時殺そうと思えば殺せた訳だしな…疑う事自体ナンセンスな話だったのかもしれん。

 

「ありがとう、戴くよ。」

 

料理に罪はあるまい。

 

「──オブゥッ!?!?」

 

…調理した者には…罪があった。

一口含めば口に広がる異様なまでに強い大蒜臭、辛味の中に絶妙に間違ったバランスで感じられる妙な甘さ。

 

「レバーのニラニンニク炒め、ニンニクの芽添え、味噌風味だ、美味かろう?」

 

「あんた、栄養価だけみて混ぜたな!?」

涙目でむせながら抗議する。

栄養価を足し算すればいいと言うものでも無いだろう!本気で!

 

「──馬鹿な、不味いとでも?」

 

こ、こいつッ本気で驚いてやがる…マジか。

 

「美味い不味い以前の問題だ、ニンニク入れすぎだろう!?」

 

「そんなに臭いか?」

 

「味覚大丈夫かお前ッ、半ば失いかけた俺の嗅覚でコレだぞっ、普通なら卒倒するわ!!」

 

「──な、んだと…ならば…あの赤いのがほざいていた感想、事実だと言うのか?」

 

なんだか思案顔になったアヴェンジャーだが、とりあえず無言でやたら臭い料理を片付ける。

臭いに無頓着になりかけた俺でコレだ…多分外まで臭ってるんじゃ無いか…

嗅覚に鈍感な俺の鼻にガーリックの香りが届いた時点で気づけば良かった。

あれは最早食材への冒涜である。

 

「とりあえず、まだ材料はあるな…」

 

結局、何故か自分が料理を作る羽目になった。

どうしてこうなった。

 

ああ、そう言えば桜ちゃんが、一度だけ不器用に目玉焼きを焼いてくれた事があったなあ…

うちに来たばかりで、俺が出奔して間もなく、一度だけあの屋敷に荷物を取りに戻った時だ。

蟲爺のいないときを狙って、勢いに任せて出奔した時に持ち出せなかった、フィルムを取りに。

思えば、あの時間違えていたのだ。

あの時──あの子がいた事に驚いている場合じゃ無く、無邪気に笑いながら久しぶりだと、そう言って料理をしてくれた。

おもてなし、だと言って。

何故、そんな事に構わずすぐに連れ出さなかったのか。

そんなままごとに付き合う事さえしなければ。

あの子をあの場から救い出せた筈だったのに。

 

「なんじゃ、貴様大言を吐いておいておめおめ出もどりか?」

 

「──っ、どうしてもここに捨て置くには惜しい物を忘れていたから取りに来ただけだ…貴様の思い通りになんかなる気は無いからな!」

 

不意に戻った蟲爺に啖呵を切り、食べかけた卵焼きをそのままに、ただ、小声でありがとう、と言うのが精一杯だった。

爺の目の前からあの子を連れ出すほどの勇気も無く、力も無い。

このまま去るならこの男も自分をわざわざ殺しにも来ないだろうなどという惰弱さに負けた。

そして、暫く悩みに悩んだ末に。

 

第四次聖杯戦争に参加しようなどと。

間違いを犯してしまう事になったのだ。

そう、歪んだ想いに囚われて、囚われの少女と、その母をーー想い人を救いたいと願いながら、その実自らのエゴに周りを巻き込むだけの、歪んだ願いを抱えて──。

 

人は、幾度間違えば正しくあれるのか。

恩讐があるのだとすればそれは、寧ろ俺自身に対してなのかもしれない。

 

******************

 

「ふむ、この霊基盤の反応は一体如何なる事か…既に12体分の反応があるなどと…」

 

此度の第五次聖杯戦争、その監督役たる聖堂教会の神父にして神罰の代行者たる彼、言峰綺礼は些か困惑していた。

 

ルーラー、アヴェンジャーに関しては霊基盤にその存在は確認出来ない。

故に彼は読み違えている、サーヴァントは現在13騎では無く、自らが擁するイレギュラーを足せばさらに1騎、計15騎存在する事を。

 

今回、正規の7騎に加えて自らが擁する「前回」の生き残りであるアーチャー、英雄王ギルガメッシュを入れて8騎。

それが初めに描いた全体図であった筈なのだ。

しかしある時期を境に次々と反応が増え、今や英雄王を入れると13騎。

 

脱落したライダーを除き、それでも従来の倍の数の英霊が現界している。

 

「把握する限りの英霊はギルガメッシュ、セイバーにヘラクレス、アーチャーに凛の従える無名の英霊…ランサーに李書文…真名不明のキャスター、アサシン…、そして規格外のバーサーカー…クー・フーリン…」

 

呟いたのが当初把握していた英雄王を含み、ライダーを除くサーヴァント7騎。

クー・フーリンに関しては対ライダー戦にて開帳した宝具名から察しはついた。

 

「その上…更に7騎…未だ真名不明の海賊らしきライダー、宝具からしてランサーはフィン・マックール…それに正体不明のアサシン、…第二のセイバークラスは現状不在、キャスターは姿を見せず、バーサーカーは真名不明な上にマスターも素性がまるでわからん、アーチャーは…神霊、ゼウス──だと?」

 

教会地下の一室で霊基盤を睨むその顔は珍しく顰め面であった。

想定外の事態が起きすぎている。

 

「ふん、綺礼よ…中々に良い面をしているではないか…あまり我を興に乗せてくれるな、縊り殺したくなるでは無いか、なあ?」

 

背後にラフな格好の美丈夫。

金髪、紅眼の人間離れした畏怖と均整が同居した男ーー英雄王ギルガメッシュが腕を組み、見降ろしていた。

 

「ギルガメッシュか…ふん、困惑もしようというものだ、一体聖杯はどうなっているのだ…アレを宿したにせよ此度の事態は度がすぎる。」

 

「何、あの赤いのに好きに暴れ回らせてやれば良かろうが、そろそろ頃合いでは無いか?」

 

そう、つまりはランサーを捨て石にしろと言っているのだ、この英雄王は。

確かに、英雄王の力を持ってすればほぼ全てのサーヴァントを打倒可能だろう。

だが。

 

「ギルガメッシュ、いかに貴様でもあのアーチャーに対しては完封ともいかんだろう。」

 

「──ふん、この我を誰だと思っている…神など、微塵に砕いて那由多の果てへ消し飛ばしてやるわ!」

 

ギルガメッシュが負けるとは思えない、しかしあのアーチャー相手に複数入り乱れる混戦になれば必ずどこかで綻びが生まれるだろう。

それは面白くない。

それでは、面白くないのだ。

だが。

 

「確かに静観するのもそろそろ終わりにすべきかもしれんな…。」

 

「ランサー。」

 

令呪を通じ、監視を続けていたランサーに告げる。

 

「──頃合いだ、貴様が良しとする相手の首を取れ、ただしあのアーチャー…ゼウスにだけは手出しするな、貴様では消し炭にされるのがオチだ。」

 

《ようやくその気になったか、マスター…しかし消し炭にとはコケにされたものよな…まあ、どのみちワシが好む手合いでも無い故したごうてやるが、な。》

 

「好きに暴れるがいい、目立たなければ幾ら殺そうが構わん…ただし逐次報告だけはしろ。」

 

《承った、それでは──ランサー、李書文 (・・・)…これよりこの身は、修羅に堕ちようぞ──ク、楽しみよなあ!》

 

それを最後に、プツリと意識のリンクが途切れる。

 

「やれやれ、あれでは報告も真面目にしてこんかもしれんな、まあ…一人二人潰してくれれば構わんか…」

 

「で、客のようだが?」

 

英雄王が目で上を指す。

 

「どうするのだ?」

 

「迷える子羊には、道を説くのが神職の務めと言うものよな。」

 

「──はっ、どの口がほざくのだ貴様!」

 

愉しくて仕方ないという風に笑いを堪えるのに苦労するな、と返す英雄王。

 

「さて、私には口は二つとないのだがね。」

 

「口は?舌は、と続くのではないか、この似非神父めが、クックク、ハッハハハハ!」

 

英雄王が姿を消し、綺礼は階段を登り、礼拝堂の扉を開く。

 

「ようこそ、神の家はいつ如何なる時にもその門戸を開いている──懺悔かね、相談かね?」

 

薄ら寒い笑顔を浮かべ、客人を出迎える。

そこには見知った顔。

 

遠坂凛、己の魔術の師である時臣氏の娘、氏の亡き後は私がまだ幼い彼女の後見人でもあった。

 

その後ろには、見慣れぬ少女。

使い魔やランサーから報告は受けている。

あの、九重十蔵の娘。

アジ・ダハーカを継いだと思しき者、九重朔弥。

 

そして衛宮。

衛宮士郎──あの男の、養子。

 

「久しぶり、でも無いけど…綺礼、監督役としての説明責任を果たしてもらうわ。」

 

と、凛が切り出す。

 

「よかろう、凛…お前が私に頼み事など…そこの二人には感謝せねばな?」

 

「──よしてよ。」

 

それ以上の言葉こそ無いが、しかし凛は明らかに嫌がっている。

そんな姿を見ると抑え難い嗜虐心に駆られる。

 

「時に、そこの少年は?」

 

「え?あ、ああ…士郎は弟子よ、出来は悪いけど素養はあるわ、サーヴァントを従えるでも無いし、その、ちょっとほっとけなくて、あ…いや…兎に角、取引したのよ、取引。」

 

慌てた様に捲したてる凛。

ふと、なんとは無しに感じた。

 

(なかなか、面白いでは無いか。)

 

ニイ、と益々怪しい笑顔を浮かべ、彼らを招き入れる。

 

「まあ、立ち話もなんだ…入り給え。」

 

ああ、愉しい時間になりそうだ────。

 

*************

 

願い。

願いとは何だ?

 

ヒトの望み。

渇望。

叶えたい想い──

 

狂おしいほどに求める強い思いに突き動かされ、彼らは呼び声に応える。

 

そう、何の為に。

私は何の為に此の時代に現界したのであったのか。

 

今となっては、もうその答えは出て。

だからこそ──彼を。

 

救わなくてはならない。

そうだ。

あんな、あんな理不尽な黄金に竦み、立ち止まっている場合では無いのだ。

 

──待っていてください、必ずーー貴方の元に、戻りますから。

 

ああ、私の──鞘。

私と言う愚かで独りよがりだった抜き身の刃を受け容れた貴方。

 

必ず。

必ず──

 

光が、瞬いた、気がした。

 




【後書き的なもの】

はい皆様お久しぶりです、ライダー/ギルスです。

暫く違う話やらリアルやらFGOやらに興じたりしていたらいつの間にか随分時間が空いちゃいました、すいません!

今回、麻婆との話し合いまで行くはずでしたが、アヴェンジャーのエピソード入れていたら次回まで持ち越しになりました。

まあ、皆様も多分麻婆よりエド×雁が見たいよね!?え?雁×エドが良い?
貴方、なかなか腐通ですね?←

いや、ごめんなさいごめんなさい、腐要素は無いです、冗談です。

まあ、うちのエドモンはポンコツ属性だったと言うオチ。
あと、ツンツンだけどデレ安い。
かなりのチョロインである。
(だから腐では無いし男だと言うのに。)

と言うわけで、現在の戦力比。

朔弥(ぐだ子)side
朔弥、バーサーカー(クー・フーリン・オルタ)
凛、アーチャー(エミヤ)
士郎、イルマ(吸血種)

*厳密にはイルマ単独で協力している関係、サーヴァントでは無い。

間桐side
慎二、ライダー(フランシス・ドレイク)
桜?

赤のキャスターside
葛木宗一郎、キャスター(メディア)

アインツベルンside
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、セイバー(ヘラクレス)

魔術協会side
バゼット、ランサー(フィン・マックール)
ロードエルメロイ二世

聖堂教会side?
言峰綺礼 アーチャー(ギルガメッシュ)、ランサー(李書文)

雁夜side
間桐雁夜、アサシン(真名不明)
アヴェンジャー(エドモン・ダンテス)

????side
???、アーチャー(ゼウス)

青のバーサーカーside
????、バーサーカー(カリギュラ)

聖杯side?
マスター無し、ルーラー(ジャンヌダルク)
マスター無し、アヴェンジャー(エドモン・ダンテス) ※現在雁夜に肩入れ

青のセイバー、キャスター、不在、不明。
赤のアサシン、不明。

現在の勢力図はこんな感じです。
書いてみたら中々にわかりづらいなコレ!
まあ、こんな混迷極まる第五次聖杯戦争。
まだまだ続くからお付き合いよろしくお願いします!

ではでは、また次回の更新で!
しーゆー!

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