Fate/alternative   作:ギルス

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悪食の竜、救国の竜。
何方も竜。

人の世に、彼らの居場所はーー
もう、無い。



第20話『因子』

 

視界が白く塗り潰され、次に目を開くと自分は何故か、見覚えのある埠頭に居た。

木箱に腰掛け、薄ぼんやりとした頭を動かし現状を認識する。

 

ーー私は、ウェイバー・ベルベット。

ここは、見覚えがあるぞ…第四次の時に派手にライダーが真名を名乗ってくれた場所だ。

 

「私は確かに街境から一歩踏み込んだだけだった筈だ…何故こんな所にいる?」

 

空間が異常な状態であったのは認識していた所だ、つまりは歪みに巻き込まれここまで転移したのか?

 

いや。

それではアレが説明できんーー

 

埠頭の倉庫の一角に、古めかしい丸型の電波時計が掛けられている。

示す日付はしかし。

 

「ーー何故、我々が辿り着いた日付から二週間も遡った日付が表示されているのだーー」

 

バゼットは?

それに持ち込んだ筈の礼装はーー

懐を探る。

あった。

数本の小瓶と簡易術式を編み込んだ数枚の呪紋布。

そして、ライダー…イスカンダルのマントの切れ端。

 

「間違いない、夢を見ているわけでも無いようだ…。」

 

腕時計を確認すれば、その時刻は停止し、日付は二週間先を示している。

 

「ーーこれは…」

これらが、同時に壊れているとは思えない。

つまりは、本当に時が…?

 

「いや、流石にそう結論づけるには早計か。」

今は、情報が欲しい。

正直言って聖杯戦争只中のこの街でサーヴァントも居らず魔術師がうろつくのはさあ殺して下さいと言わんばかりだが…

 

「まあ、期待しなかったと言うと嘘になるが…仕方あるまい。」

 

懐ろに大事にしまい込んだ聖遺物に触れ、独りごちる。

 

「ーー待っていろ、私が解き明かしてやる。」

 

この不可解な状況、歪みを抱えた聖杯戦争。

放置しておけるものか?

…否、だ。

 

第四次にあれ程被害を出しながら、聖杯がおかしい事にも触れずに魔術協会も聖堂教会も黙認した。

その結果がこの事態だ。

 

恐らくだが聖杯はもはやまともではあるまい。

ライダーが、我が主君がその手に掴みたがったのは断じてそんな紛い物では無い。

認めるわけにはいかない。

そんなものは、願望機ですら無い、ただの厄災の火種でしか無い。

 

そんな紛い物はーーいずれ必ず解体してくれる。

だが、始まってしまったからにはどうにかせねばなるまい。

あの日の再現にだけは、ならぬように。

懐が、熱く脈動したような気がして。

それはきっと、ともすれば弱気になる自分を彼が鼓舞してくれたのだと信じて、私は聖杯戦争へとその身一つで、踏み込んだ。

 

 

**************

 

 

黒い兜に覆われたその眼差しは解らない。

しかしーーその音無き声は呪詛に満ちていた。

 

何故だ、何故ーー貴方は、私に!

 

手に、槍を掴む。

飛び込んできた無数の刃を槍を振るうことで防ぐ。

 

足は大地を砕かんばかりに踏みしめている。

槍だけで捌けなくなり始めた。

ならばと空いた手に剣を摂る。

片手で振り回す様な槍では無いが、卓越した技量がそれを可能にする。

両手に剣と槍を携え、振るい続ける。

 

刃は、更に数を増やし…中には鈍器や、弓矢、飛礫の様なものまでが射出され、己に殺到してきた。

 

ーーその様な単調な攻撃で私が倒れると思うな…!

 

声はしかし、喉を鳴らす事はなく。

 

(オレ)を前に口すら開けぬと来たか…狂戦士( バーサーカー)のクラスと言う訳でもあるまい貴様、呑まれたな?」

 

黄金が見降ろし、どこか寂しげに口元を歪め、呟く。

 

「聖杯の泥…いや、もっと醜悪な何かに、お前も呑まれたか…」

 

ーー私は!私は、見つけたのだ!

 

「このままにしていれば…やもすれば明日は我が身、か。」

 

ああ、そうだ…貴方は、貴方だけがーー

 

「見苦しいぞ、仮にも英霊なればーー潔く退場せよ…足掻くほど己が道を否定していると解らぬか。」

 

ーー邪魔だ、邪魔だ、邪魔だ!

 

「見るに堪えんな、せめて(オレ)が手ずから誅してやろう…疾く、失せよ!」

 

360度、全方位から実に120もの宝具ーー剣、槌、矢、槍、鎌、あらゆる武器が黒い騎士を包囲する。

 

「滅びよ!」

 

何故、何故、何故、何故、何故だ、何故に、何故か、何故よ、何故にこそ、何故にかーー

 

一斉に黒い騎士に殺到する刃の数々。

絶対的な滅びが迫る。

 

槍と剣の堅固な守りも、数の暴力には敵わない。

暫くは弾かれていた刃はやがて騎士に突き刺さりはじめた。

 

ーーーーぁーーアーー

 

声なき声が、言葉にもならず吐き出されていた荒い息は。

ヒューと鳴るような、細い息を最後に上がらなくなる。

 

槍衾にされた騎士はハリネズミの様な格好で膝をつき、やがて黒い泥とも、靄ともつかぬ何かになり、崩れていく。

 

「見苦しくも生き足掻くか…変わってしまったな、貴様も。」

 

どこか、寂しげに呟きながら孤高の王は黒い霧に背を向ける。

 

「見苦しい、見苦しい事この上ないなーー」

 

それは誰に向けての呟きなのか。

先程の黒い騎士か、それとも。

 

**********

 

「で、衛宮くんは可愛い可愛い後輩に何をしていたのかしら?」

 

「い、いや遠坂っ、誤解、誤解なんだ!?」

 

「桜には黙っておいてあげるわ…」

 

見下した様な眼で言われても!?

 

「先輩って大胆ですよね…危うくクラッとしちゃいましたよ、うん。」

 

朔弥まで!

味方はいないのか!?

 

「いやいや、パスを通じて朔弥の狼狽っぷりが伝わってきたがよ…まあ、面白い面白い。」

 

とは、オルク、クー・フーリン・オルタ。

 

「ちょ、バーサーカーそれ以上は令呪よ!令呪!?」

 

やたらに焦り出す朔弥に、バーサーカーが更にチャチャを入れる。

 

「ヒャッハハハ、なんだ、自分が一番だと良いなー、とか、でもこれ以上先は怖いなー、とかなんとか言ってた事をか?」

 

「ーー!ーー!!ーー!?」

 

言葉にならない声を上げ、朔弥の顔色が信号機みたいに赤や青に変わる。

終いには座布団でバーサーカーに殴りかかり、バーサーカーは首だけを動かしてそれを避けている。

 

「ーー動くなっ、こんのーーバーカーさー!」

 

駄洒落かよ、ってーーえぇ!?

 

キイン!、と甲高い音が響いたかと思うと、バーサーカーの動きが止まる。

そしてーー座布団、では無く信楽焼の狸が命中した。

 

「おごわっ!?」

 

砕けた信楽焼の狸は哀れ畳に散乱し、そしてバーサーカーが怒声を上げた。

 

「てっ、てめえまたやりやがーー何?」

 

肩で息をする朔弥の手。

よく見れば、令呪と呼ばれた刺青みたいなものが、「一画」減っていた。

 

「減って、ねえ?」

 

確かに、今膨大な魔力がバーサーカーを縛り、制御したのが魔術師として、いや…何故か感覚として見えた。

 

だが、すでに「二画」失わねばならない筈の朔弥の令呪は一画しか失われていない。

 

「ーーまさか、回復したのか?」

バーサーカーの、確信めいた言葉に。

 

「嘘、あり得ないわ…使い方もそうだけど令呪が回復ですって??」

 

「え、するものじゃないの、だって石から戻った時には三画に戻ってたよ??」

 

「しないわよ!?」

 

ーー最早、ヒステリックな叫びをあげるしか無いとばかりに遠坂が叫んだ。

 

 

*********

 

 

ーー驚いたなんてものじゃ無い。

この子ーー何者なの?

 

使役するバーサーカーの規格外の強さといい、それを平気な顔で維持する魔力といい…

本人曰く、最初は気を失いそうになったけど、その後はいつの間にかなんとかなった、と。

 

「ーーやっぱり…ね」

 

あの後、衛宮くんへの追求どころでは無く私は彼女を問い詰め、本人に自覚が無さ過ぎて埒があかないので血液を採取し、溶かした宝石を混ぜてその性質を調べた。

 

出てきた彼女の魔術起源はーー

 

「復元」、「共振」、「竜」。

 

何それ、凄いの?、とは朔弥の聞いて最初の一言。

 

「凄いのよ、貴女ーー言うなれば竜と人のハーフみたいなものよ、竜の血や肉を食べたりしたわけ?」

 

「さあ、覚えが無いけど…」

 

「竜の起源、とは言ったけどこれはむしろ貴女の血に宿る特性みたいなモノよ…貴女の心臓は恐らくとんでもない量の魔力を作り出している…ただ、普通なら身体がそれについていかないはずだけど…貴女の起源、復元の特性が働いているんじゃないかしら…身体を最適、最良の状態へと作り変えるーー常に自己改造をしているとも言えるわね…血の中の細胞も再生と自己改変を繰り返して、体外に出た…空気中でも細胞が活動しているわ。」

 

「それ、ホラー映画みたいに九重が増えたりはしないよな?」

 

「先輩、私をなんだと…」

 

「ーーそれは無いでしょう、末端の細胞には魔力を自己生成できないからいずれ魔力が尽きて死滅するでしょうね。」

 

スチャ、とメガネと指差し棒、教鞭と言ったら良いだろうか、を装着しながら説明に入る。

 

「少ないけれど彼女の様な体質は過去に例があるわ、例えばーー」

 

「例えば?」

 

「竜殺しの英雄、ジークフリート。」

 

「ジークフリート…ジーク君?」

 

「くん、って…まあ、とにかくジークフリートは…悪竜ファーヴニル、もしくはファフニールと呼ばれた竜を退治した際にその血を全身に浴びているの。」

 

「ふむふむ…、で?」

 

なんだか、お伽話を聞いてる子供みたいな顔をされてしまった、解ってるのかしらこの子…

 

気を取り直し、教鞭を取り直す。

 

「ジークフリートは、肉体の殆どがその血を浴びて不死身になるのだけどーー唯一、背中だけは血を浴びなかった、その為に最後にはその場所を槍に貫かれて殺されているわ、一説には悪竜の死に際の呪いから常に背中を晒さなければならなかったとも言われているけれどーー」

 

「それがなんで私の体質に繋がるの?」

 

「まあ、聞きなさい…今の話の様に竜の血や肉によりその特性を授かればまさに英雄にも等しい力や肉体を授かるの…竜種が現存しないのは竜殺しの英雄が世に現れすぎたからかもしれないけど…つまりは貴女もそうした恩恵を授かっているんじゃないか、って事よ…時計塔には今もジークフリートの体細胞の一部が保管されているなんて噂があるけど、あながち与太話でもないかもね、時計塔基準のこの検査方法に引っかかったのが貴女でーー間違いなく異様な魔力生成能力と、再生を繰り返す力を持っていたんだから。」

 

首をかしげながら、そんな覚え無いんだけど、と悩む朔弥。

 

「なあ、なら朔弥は傷を負っても再生したり、或いはそのジークフリート見たいに不死身に近い堅固な肉体を持ってるのか?」

 

「いえ、そこまで有難いものでも無いようね…ジークフリートは元から素養があったのでしょうけどこの子はどこまでいっても凡人の肉体に無理やり…そうね、軽自動車にFワンのエンジンを積んで走らされてるのと変わらないわ。」

 

「それってーー」

 

「…竜種の恩恵ね…それが事実なら朔弥の身体は恐らく魔力を生成しつつ、容器になる身体を壊さない様に再生と順応を繰り返すので精一杯だろうよ、あんなものは劇薬と変わらん、普通の人間に耐えられるもんじゃねえ。」

 

と、バーサーカーも同意する。

 

「おい、それ大丈夫なのか、九重は?」

 

「心配しなくても無理をしなければ大丈夫でしょうね、其れ程彼女の復元の魔術起源の効果は竜種の血と相性が良かったんでしょう。」

 

「そうか、なら良いんだが…」

 

ほっとしている彼には悪いが、本当は…かなり危ういだろう。

奇跡的なバランスで成り立っているのが現状だ。

ーーまあ、それはコイツも同じ、だったっけ。

あの時の「治療行為」を思い出したら恥ずかしさがこみ上げてきた。

わ、忘れなさい、私!

 

「遠坂?どうした、顔が赤くーー」

 

無言で教鞭で殴る。

スチール製のソレはかなり痛いはずだ。

 

「あ痛っ!?」

 

「話を戻すけど、多分令呪はその復元に巻き込まれる形で、再生しているんじゃないかしら…」

 

まあ、ソレを作る莫大な魔力が何処から流れているかはまるで見当がつかないのだがーー

 

「つまりは、令呪が三画ある状態を完全な状態、と肉体が認識したからこそ令呪の欠損を補えた、と?」

 

「そう言う事よ、アーチャー。」

 

流石、私のサーヴァントは理解が早いわね、頭を抱えてる衛宮くんとは大違い。

 

「推測の域を出ない話だけど、それにしても貴女の規格外さにはほとほと呆れるしかないわね…」

 

「これで彼女に非凡な才能があった日には凛、君以上の魔術師になっていたかもしれんな。」

 

アーチャーまでが、そんな風に言う、悔しいけど、確かに。

 

「ーー半竜同然の肉体を持ってるなんてもう魔術師の域を出かけてるわよ。」

 

半眼になり、アーチャーを睨んでやるが、肩をすくめて躱すだけ。

 

「なんにしても、貴女の父親…確か九重十蔵だったかしら…聞かない名前だけど、何者なのかしらね?」

 

「お父さん、自分のことはあまり話さない人だったからなあ…あ、でも確か。」

 

「確か?」

 

「お父さんの通り名、聞いたことがあったっけな…確か、そう…」

 

考え、思い出した名前。

それはーー

 

「アジ・ダハーカ…とか?」

 

セカンドオーナーとして、聞き捨てならない二つ名だった。

 

…ー**********

 

竜、龍ーードラゴン。

英雄譚に語られるそれは大概の場合悪の象徴である。

 

英雄に正しく殺され、人の世に平和が訪れた事をわかりやすく示すための悪役。

悪があるから善が敷かれ、善があるから悪が敷かれる。

 

世の理とはかくも矛盾に満ちたモノ。

善のみで成り立つ世界等人の世には有り得ないし、悪のみの世界も有り得ない。

コインの表裏の様に、世界には善と悪が混在している。

 

悪は、誤りか?

否、ひとつの在り方に過ぎない。

 

竜は、悪か?

否、ひとつの命に過ぎない。

 

価値観などは種族、それどころか人と人の間ですら違うものだ。

 

ましてや異種族となれば尚更だろう。

ーー人と竜では、価値観そのものが違う。

 

つまり、竜だから普遍的な悪、である事にはならないのだ。

 

中には良い竜もいるだろう。

しかし、良い竜だから世の中が受け入れてくれる訳でもない。

 

男は、遥か遠い先祖に龍を持つ一族だった。

今や血は薄れ、あくまでも龍を祀るに過ぎない一族であった筈が、男は真逆の先祖がえりを起こし、強い竜因子を宿すに至った。

 

ーー半竜半人。

正に己が意思に関わらずその様な力を持って産まれたが為に身内からも疎まれ、殺された。

 

しかし、男は幾度殺されようとも蘇った。

刺されても、斬られても、砕かれても、轢き潰されても、燃やされても、何をされても3日と経たずに蘇る。

 

男の名は、アヴゥドル・スィーンハイム。

歳も一定の歳から老化を止めた、いや…酷くゆっくりになった。

20半ばを超えたあたりから20年に一度くらいで漸く年齢を重ねる様になった。

結果、今のーー40半ば程度の外見に至るまでに彼は実に四百年の時を過ごしていた。

 

巷では彼を蛇王ザッハークが幽閉された御山から抜け出しただの、アジ・ダハーカの再来だのと騒ぎ立てた。

いよいよ居場所がなくなると、彼は持ち前の身体と魔力を使い、己が身を守る生き人形をこしらえた。

 

それが、幼い子供の姿をしていたのがいけなかったのか。

その当時にはまだあまり知られていない錬金術の秘蹟によるホムンクルスでしか無かったのだが、彼は「幼な子を喰らい、己が身の竜を植え付けて傀儡にした」と言う濡れ衣を着せられてしまう。

 

やがて、すれ違いから手製の農具を振りかざして襲いかかってきた鍛冶屋の息子を反射的に放った魔力で殺してしまう。

 

その事が益々民衆の恨みを集めーー

やがて、その地にも男の居場所は無くなった。

ホムンクルスでさえも数の暴力に抗えず、男は捕らえられ、処刑される。

 

しかし、死なない。

死ねないのだ。

 

結局、死んだふりをして土葬された土から這い出し、遠く海外へと逃げ延びる。

 

それから更に時は流れ、50過ぎの外見からはとうとう百年を経ても身体は老化の兆しすら見せなくなる。

 

溢れるほどの魔力を用いて作り出した数々の秘蹟は、現代に生きる魔術師達の技術の基になった。

己が力を隠し、隠遁を続けた彼だったが…皮肉にも彼を外へと再び連れ出したのは、己が一族の末裔だった。

 

一族の性はすでに無く、彼でなければわからないくらいに薄れた血の残滓。

 

しかし、一族は彼の事を当時の様な悪名で語り継ぎはしなかった。

魔術の祖、ソロモン王に劣らぬ偉大なる竜魔術師ーーアブドゥル、と呼んで一族の中でのみ、密かに語り継いでいたのだ。

 

それを聞いた男は、黙って一族の末裔たる女に語り聞かせた。

信じるか信じないかはわからないがーー

 

それは、自分の事なんだよ、と。

 

***************ー…

 

「ーー凄い人だね、そのアブドゥルさん?」

 

「…それから、彼は表舞台には立たないまでも魔術協会にも協力し続けーーやがて、十五年前に封印指定を受けたの。」

 

「あ?なんだそりゃあ…十五年…聞いた限りじゃその男は幻想種や神に並びかねない力を持ってるじゃねえか、それが魔術協会になんで今更目をつけられた、もっと昔に目をつけられてなきゃおかしいだろう?」

 

わっかんねえな、と胡座をかいて頬杖をつくバーサーカー。

 

「ーー力を巧妙に隠し、あたかも古い文献を読み解いたと嘯いていたらしいわ、自作の魔道書を、だけどね。」

 

「彼が世に出てから20年、その知識は重宝されたし、利用価値もあった、けれどーー彼が竜因子を持つなんて誰も知らなかったのよ、公の場で…彼が言い争いの末に傷を負うまではね。」

 

傷が瞬く間に塞がり、無くなる瞬間を目にした魔術師達はどう思ったのか。

 

「それは、彼の妻となった一族の末裔、サロメを貶める発言をした当時、ロードだった一人の魔術師の言葉が発端だったそうよ。」

 

「ーーその一族の末裔、名はサロメとは…皮肉にしか聞こえんな、その符号は。」

 

アーチャーは正に皮肉気に唇を歪める。

サロメとは、近親婚を咎められたのを理由に聖書に言うヨハネを殺害しようとした女な名前である。

そして、ヨハネは神により生かされ、死ねなかった。

 

「事実は小説よりも、とはよく言ったものよね…そして、その血を調べられた彼はまたしても居場所を失いかけ、妻と共に逃げようとしたわ、争いを好まなかったのかしらね、戦えば、勝てたかもしれないのに。」

 

「それで、どうなったの?」

 

「ーー妻は、逃げる途中で封印指定執行者に殺され、怒り狂った彼がその執行者を殺害。」

 

「ーー馬鹿な野郎だ…そんなに腹が立つなら最初からそんなことにならん様に女だけを連れて隠遁し続けたら良かったろうに。」

 

「これらの話は、殺された妻、サロメの霊から時計塔の死霊術師が聞き出した話らしいわ。」

 

(朔弥は、気づいていない…いや、気づきたくないのかもね…)

 

「それから数年、逃げ続けた男はーー極東の田舎町で見つかり、時計塔秘蔵の不死殺しの神器を用いて完全に殺されたわ、それが十年前の話よ。」

 

「なるほどな、いやいや…耳が良いのも考えものじゃなあ…聞きたくもない話を聞いてしまったわ。」

 

ス、と闇から浮き上がるように現れたのはイルマ。

 

「イルマ?」

 

「儂が最後に見た貴様の父親、九重十蔵…いや、アジ・ダハーカと呼ばれた封印指定の魔術師だがな、80も超えた様な皺くちゃの爺だったぞ、身体からは殆ど血の匂いがせんかった、恐らくだがーー力の源たる血を貴様に、いや…貴様の兄と二人に分け与えたのでは無いか?」

 

「え…お父さんが、アブドゥル、さん?」

 

「母親がサロメかどうかはわからないけど貴女に竜因子が宿る理由、どうもそれが当たりみたいね。」

 

「じゃあ、お父さんはーー事故で死んだんじゃあ、無い…?」

 

「そうね、辛い話だけど…そうなるわ。」

 

「大丈夫か、九重?」

 

衛宮君は…またそうやって無駄に優しく…

いや、それが彼の長所なのかしらね。

 

「しかし、解せねえな…自分の命を危険に晒してまで何故不完全にしか馴染まない朔弥に血を分け与えた?」

 

バーサーカーの懸念は最もだ、それは私もわからない。

 

「さあ、ね…私もこの話は又聞きだからーー私のお父様、遠坂時臣が第四次聖杯戦争に参加する前に…弟子と話していたのをたまたま聞いてしまっただけだし、ね。」

 

「よく、そんな昔の話を詳細に覚えていたな…遠坂。」

 

「気になってね、それから暫くしてからその、弟子に聞き直したのよ、ほら…学校の事件隠蔽に出張ってきた聖堂教会の神父、この聖杯戦争の監督役でもある言峰綺礼よーー何故だか異様に嬉しそうに、仔細に、事細かく聞かされたわ、もう、嫌になるくらい。」

 

「遠坂先輩、私ーーその監督役さんに会ってみては、駄目ですか?」

 

「ーーえ、いやまあ構わないけど…あまりお勧めしないわよ、あいつ絶対人格破綻者だから…」

 

嫌そうに、しかし私の了承をもって、次に向かう場所は決まったのだった。

 




【後書き的なもの】

皆さまはいさい!
沖縄ではありませんが私は元気です。
今日は某所のドラゴンステーキな話を読みつつ、焼肉食ってました、ライダー/ギルスです。

イベントプリズマコーズもなんとかクロ最終再臨素材と宝具5迄は間に合いました。
本当はフォウ君も二種20ずつ欲しいがこちらを書くのに筆が滑りすぎてやってません…時間んん!!←←

さて、今回はオリジナルもオリジナルな要素がてんこ盛り。
天の狐じゃないよ?
ちょっと前に槍狐は来ましたが。

本人も知らなかった。
ぐだ子の衝撃の秘密が明らかに。
まさかの父親は半竜だった。
イルマがけしかけられた理由もその辺りにあるのでしょうか?
まあ、ゼルレッチさん愉快犯なだけな可能性もありますけどね!←
…流石にステキなステッキ作成したゼルレッチさんじゃないしそれはない、と思いたい。

前回、やりたい放題詰めすぎてると指摘されましたが、最早二次創作物だし、止まらない勢いで書いてます。
つか、そうでもしないと完結まで続くか怪しいから、とにかく必死に完走目指します。

皆さまの熱い応援コメント、感想、評価が私の原動力です!
いつもいつも、私の駄作を読んでくださる皆さまには感謝の念が絶えません。

本当にありがとうございます!
それでは、また次回の更新で!!

シ、シ、シ、しーゆー!

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