Fate/alternative   作:ギルス

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ーー生きて、殺して、死を見て、殺される。
醜悪な迄の負の連鎖は止まらない。

ああ、なんたる矛盾。
世界は、救われたいと願いながら破滅を望む…狂った想いこそが想念なれば。




第19話『我儘』

【Intrude ■■ 】

 

そも、自分の人生は矛盾に満ちていた。

救いたいーー救えない。

救えなかったーーけれど確かに救えた命もあった。

 

沢山の人の命をーーて。

たった一人の大事な■■を失い。

 

たった一人を護ろうと走り出し、沢山の誰かを殺してしまった。

 

間違えた?

ーー否。

 

それは間違いなんかじゃない。

だって、それがたった一つの願いだから。

 

何一つ、掌に止めおけず、無くした自分の。

唯一残された願いと言う名の呪い。

 

愚直に走り抜けた先に広がった赤茶けた荒野と、墓標の様に立ち並ぶーー。

 

それは、いつか見た可能性でも、追い続けた理想でも、美しいと感じた彼女がいたあの丘でも無く。

 

閉じて、間違えて、捻じ曲げられた可能性の蠱毒の中で出来上がった猛毒の荒野。

 

暗く、紫がかった毒気に薄く覆われた大気。

居並ぶ墓標の様な何か。

その荒野の中心には、巨大な絞首台が聳え立つ…粗末な木材で出来た螺旋の段差は13段。

一段一段が高く、足を上げ、上がるだけで身が竦む。

死に向けて歩くだけの、その道程。

 

今日も自分はーーその螺旋を歩く。

首に縄を巻かれたまま死に向けて、幾度も幾度も自ら絞首台へと。

 

長く、恐ろしい螺旋に終わりが訪れる。

それはつまりーー自分が、死ぬと言う事だ。

 

ああ、今日()死ぬにはーー良い日だ。

 

身体が、浮遊感に包まれ、墜ちた。

 

 

【Intrude outーー】

 

******ー…

 

「最悪だ、何だ今の夢は…また君か、アサシン。」

 

「ーー心外だ、まるで俺が好んで見せつけている様な言い方はやめてくれ、そちらが勝手に覗き見ているんじゃあないか。」

 

声が、反響してエコーを残す。

冬木の街を旧市街と新都に分け隔てる未遠川、その近くにある地下の排水施設。

その広大な空間内にて巨大なコンクリートの柱にもたれながら話す。

 

目の前には俺に従うサーヴァント、アサシン。

頭には赤いターバンの様なものを巻き、顔には右半ばを幾つかの魔力光を灯す、隈取りの様なラインが走る。

今は無手だが、腰にはホルスターがあり、黒い銃把が二つ見えた。

黒を基調とした動きやすそうなボディスーツの上に赤茶け、最早黒ずんだ色をしたロングコートを一枚羽織り、その下の脚にはナイフを備え付けている様だ。

エクストラクラスでは無いものの、彼はどう見ても本来なら固定された筈のアサシン、ハサン・ザッバーハではあるまい。

山の翁、を意味する暗殺教団の開祖から連綿と受け継がれてきたアサシンの語源にもなった集団の頭の一人では、断じて無いだろう姿。

 

未だ真名をマスターである俺にすら明かそうとしない、曰くーー名乗るほどのものでは無い、だとか。

まあ一応宝具や能力に関しては開示されているのだから、名前などさしたる問題でもない。

いっそこのアサシンらしからぬ英霊を別のクラスだと偽る位が勝ち抜くにはーーいや、アサシンなんだからまず必殺でないとだめか。

正攻法でいくなど馬鹿げている。

 

 

魔術師と、マスター。

その二人には契約の成立と共に通常であれば魔力供給の為の擬似的な魔力経路ーーパスが繋がる。

 

それは時に、魔力と共に双方の記憶を見せる時がある。

白髪に、顔の半ばが重度の火傷を負ったかの様にケロイド化しているその壮絶な面持ちを沈鬱にしながら呟く男性。

震える手で羽織ったパーカーのポケットから取り出したプラスチックケースから、錠剤の様なものを取り出し、噛み砕く。

 

「ーーっはあ。」

口の中を満たす清涼感に息を吐く、と。

 

「…まるでヤク中みたいだな、そうしてると。」

ジト目でそんなことを言ってくるアサシン。

 

「それこそ心外だ、ただのミント味の清涼剤だぞ、これは。」

 

10年前から患うこの身体の倦怠感と、思考の鈍りを冷たいミントの味が少しだけ取り戻してくれる気がして、好んで齧っているのだが。

痛いから、苦しいからとアルコールの酩酊に任せてしまえば楽になるかもしれないが、それでは殻に閉じこもってしまった兄と変わらない。

 

「10年だ、あの忌まわしい事件後になんとか身体を維持して技術を、魔力を蓄えた、今ならあの頃みたいな無様は晒さないさ…俺を生かしてくれた天に感謝しなくちゃあな…」

 

第四次聖杯戦争。

その爪痕は街にだけではない。

多くの人に傷を残した。

自分もまたその一人であると言える。

てっきり自分は誰にも必要とされていないと、苦しみと痛みに狂いかけた思考の中で何処かで自分は歪んでいるとも自覚していたから、そう思っていたのに、天は俺を救いやがった。

 

今の自分を動かすのは、妄執とは違う。

恨みも、苦しみも堪えきれない程抱えている。

しかし、そうじゃない。

そうじゃ、ないんだ。

あの時に自分は学んだ筈だ。

大事な誰かを、護るしかないのだと。

独りよがりな考えと中途半端な力では何も、自分すら救えはしないのだと気付いた筈だ。

それは未だ為されていない。

ただ一つ残った、護りたいもの。

 

身体に負った後遺症は深刻だった。

だが、乗り越えた。

多少手先が震える事はあるが魔術師としても力をつけた。

今ならばーー誰に対しても負ける気はしない。

 

ただ、惜しむらくは召喚したのが最弱の、アサシンのクラスだった事か。

バーサーカーを引いてさしたる才能もない自分が自滅するのも御免だが、火力不足は否めない。

 

「俺にあるのなんて、結局意地だけだな。」

 

意固地になって、意地で生きながらえてきた。

いっそ死んでしまえた方が楽だったろうに。

 

「意地で結構じゃねえか、信念だ、願いだなんて綺麗に言葉を飾る輩だって結局は自分の我儘を意地になって通したいのと変わりゃしないんだぜ?」

 

ーー全く、この暗殺者は時々心臓に悪い。

 

「妙な言葉を吐くなよ、痒くなるだろうが。」

 

照れ混じりに返すと、静かだった空間内に低い、唸るような音が聞こえた。

蟲の羽音だ。

 

暗闇を飛び、それは俺の腕にとまる。

 

「帰ったか。」

 

それは先ほどまで街中を飛び回り、敵の情報を集めて回っていた使い魔ーー「視蟲」の一体だ。

 

流石に常時全ての視覚を共有するのは脳に負担がかかり過ぎるため、録画した映像の様に使い魔が見た物を限定的に視界に再生し、映させる。

 

「アサシン、今回の聖杯戦争はどうなってるんだ…規格外があまりに多すぎないか…?」

 

「あ?どういうこったよ?」

 

「ーーセイバーは、大英雄ヘラクレス…その上何故か現れた二人目のアーチャーは…ギリシャの主神だそうだ。」

 

「ーーバカも休み休み言えよ、神霊が降ろせるわけな…」

 

「嘘をついてどうする、相手マスターのハッタリでないなら、事実だろうよ。」

 

「ーーマジかよ。」

 

最悪だな、それ。

アサシンの答えは戯けながら、しかしどうにかしようと考えを廻らす顔で答えだのだった。

 

*********ー…

 

日本、千葉県は成田空港。

ロンドンから長い時間をかけてたどり着いたのは懐かしい空。

 

何処か淀んだ空気の中に懐かしい香りが混じる。

 

「ーー懐かしいな、この醤油(soy sauce)の香り。」

 

慣れ親しんだ日本人にはわからないモノだが、外来の人種からしたら日本と言う地は醤油の香りがするのだ。

まあ、敏感すぎるとも思うが確かに国々で特産も違えば空気も、漂う香りも違うのだろう。

実際、イギリスは紅茶の香りしかしない、などと言う輩もいる。

しかし、私は日本のこの香りは嫌いでは無い。

 

長い黒髪が絡んで少々鬱陶しい、英国紳士風に歩く私はウェイバー・ベルベット。

またの名をロード・エルメロイ二世。

第四次聖杯戦争を生き延びた元マスターにして、現在では魔術師の総本山、時計塔の名物講師にして実力者、などと言われてはいるが…

私自身には然程の力は無い、しかし教えた教え子達は次々に傑物と成った。

そのせいか、最近は死にそうになる任務にやたらに駆り出される、暗に死んでくれれば良いと言われているに等しい。

確かに、現時点でも教え子達が集まれば時計塔に反乱を起こせる程の力になるだろう。

とはいえそんな事を彼らが望みはしないだろうし、自分に其れ程価値を見出されているとは思えない、せいぜい魔術師らしからぬ自分が面白いとかその程度だろう。

 

「全く、Fuckだ、Fuckin 過ぎる。」

 

最近面倒ごとに巻き込まれ続けていた気がするが、今回は最たる事例だろう。

もしも、親しんだこの地でなければ有能で、死に難い力を持つ教え子の誰かに向かわせるのも厭わなかっただろう、しかし。

 

「冬木だけは、自分で行きたいなどと…感傷が過ぎるかな、なあライダー?」

 

現在、冬木は不可思議な力場に覆われている。

第四次聖杯戦争が終結して10年。

まだ聖杯戦争が始まるには早いはずだった。

だが、破壊された聖杯から溢れた魔力は一部だけだったらしく、たった10年で再度聖杯が起動するだけの魔力が満ちた。

本来なら50年はかかるはずだったのだが。

 

「冬木は魔術的な隔絶状態にあると聞くし…大丈夫かな…お爺さん達…」

 

第四次聖杯戦争時に特に世話になった老夫婦を思い出し、思わず当時の口調に戻っていた。

そんな風に油断しきっていた私の後ろに、剣呑な気配を纏う者が立つ気配。

 

「あ、いやいやゲフン!グレン翁にマーサさん…無事だといいが。」

 

「今更取り繕っても遅くありませんか、ロード。」

パリッとノリがきいた仕立ての良いスーツを着込んだ堅苦しい格好の女性。

短く刈られたショートカット、鋭い眼、背は女性にしては高く、引き締まった体躯。

手にはレザーグローブ、肩には大きなゴルフバックに似たバックをかけている。

 

「黙れ筋肉達磨…貴様も鍛錬鍛錬ばかりでなく日本人女性の奥ゆかしさの欠片でも学んではどうだ、あ?」

 

痛いところを見られ、思わず悪態が口をついて飛び出した。

…いつから自分はこう口が悪くなったのか。

相手はまがりなりにも女性だと言うのに、紳士とは言えない態度をしてしまった。

 

「日本人女性が奥ゆかしい?それは最早遠い過去の話ではありませんか、サブカルチャーに影響されすぎですね、ロード。」

 

「ぐ、き、貴様…仮にも上司にその口の聞き方は…ぬぐっ」

 

言い返し終わる前に睨まれた。

視線で人が殺せるんじゃ無いか、コイツ?

 

「そんなに可愛くありませんかね、私は…」

そんな殺人視線を叩きつけてきた連れが小声でなにがしか呟いた様だが、聞こえ無い。

 

「あ?」

 

「何でもありません、早くしないと新幹線に乗り遅れますよ?」

と、指さされた時刻は確かに差し迫っていた。

 

「全く、日本はせわしないのだけは頂けないな…」

 

第五次聖杯戦争開始から暫く経ち、魔術協会が観測した異常。

監督役からも、監視している筈の魔術師や使い魔からも全ての連絡が途絶。

 

冬木市を中心に広範囲が魔術的な「人払い」の結界に似た空間干渉を受けていた。

どういう訳か、聖杯は一度起動する気配を見せている。

そしてそれ以降、冬木市は魔術師や素養ある人間以外は近づこうともしない魔都と化し、素養の有る無しに関わらず、入れば二度と戻って来ない。

電気的な連絡手段すら絶たれ、その事実の揉み消しに魔術協会や聖堂教会が躍起になっていた。

 

聖杯が無関係とは思えない。

しかし解読不能の超高度な術式に編まれた閉鎖空間は、人を寄せ付けず、入れば二度と戻って来ない。

その道の玄人に見せた所、一種の固有結界じみた場を形成しているとか。

 

本来なら固有結界などこれほど長期的に維持は難しいはず…英霊であってもそれは同じ…ライダー、イスカンダルの宝具がそうであった様にその維持は莫大な魔力を必要とする上、世界を浸食し続けようにも世界の方がそれを元に戻そうと修正力を働かせてしまう。

つまりは普通ならばどうあれ長続きはしない筈だ。

 

「固有結界とはまた、特異な状況もあったものだが…そもそも誰が如何なる目的でそれをしているかすらわからん、現時点では冬木市封鎖以上の出来事は起こっていない…」

 

「不可解だとは私も思います、だからこそ現在の魔術協会として送り出せる知識と力、両方を送り出したのでは?」

 

知識、とはロード・エルメロイ二世、つまりは自分の事であり力、とは。

私の隣で弁当を食い散らかしながら喋る筋肉達磨…封印指定執行者たるバゼット・フラガ・マクレミッツの事だろう。

 

「不可解ですめば良いんだがな…嫌な予感しかしないぞ、私は。」

 

ぼやく内に。

バゼットの弁当は3箱目に突入した。

ーーおい、私の分は何処だ。

 

***********

 

新幹線からバスやタクシーを乗り継ぎ、辿り着いた冬木市と隣り合わせた地域の狭間。

後数百メートル進むだけで冬木市に入ろうかと言う位置、タクシードライバーが何だかんだと理由をつけて、これ以上進もうとはしない。

口論の末に彼は、代金は要らないとまで言い捨て、その場に私達を降ろすと逃げる様に走り去って行った。

 

それから半刻程経ち、我々二人は国道脇にポツンと立ち尽くしている。

何故冬木市に入らないかと言えば、正直無策で入るのも良しとできずにまずは周辺の魔力異常を探索していたのだが。

 

「ほぼ異常無し、だと?」

 

「ええ、これだけ見た目に異常があると言うのに各種観測法には引っかかりません。」

 

今、目の前の境目にあたる部分には薄紫の膜の様な障壁が見えている。

魔術の素養が無ければ何の異常もない風景だったかもしれないが、二人は違う。

 

「何だ、これは…言うならばまるで…」

 

そう、表すとすればこれは時間が停止したかの様な静けさ。

しかし、内側は如何なるものか。

 

「ーー結局、入るしか無いわけか…Sit!」

 

悪態をつき、石を蹴り入れる。

すると。

 

コーン、と石がコンクリートに当たり跳ねる音が聞こえ、次の瞬間には吐き出される様に障壁の内側から返ってきたのだ。

 

「ーーな、んだこれは。」

 

異常だ、異常としか思えない。

だが。

 

「グレン翁は…この中、か…」

 

「行きましょう、ロード。」

 

「は、確かにそれしかあるまい…ライダーの奴が居れば言うだろうな、我が覇道を阻めるなら阻んで見せよ、我はただ蹂躙するのみぞ、とな。」

 

理解できないと言う恐怖を、最も心強い身内を思い出し、喝を入れる。

 

「征服王ですか…できればお会いしてみたかったですよ!」

 

そう、前置きながらバゼットが障壁へと歩き出し。

それに続いて私も進む。

 

「いずれ私が彼を再び呼び出した時に、君が生きていれば合わせてやってもいい、きっと君の様な女傑は気に入られるだろうよ、バゼット。」

 

「楽しみにしておきましょう、約束ですよ?ロード。」

 

歩き出した私とバゼットが、真っ白い光に包まれ、意識が遠のいていく。

 

ーー無謀と無茶の違いくらいは弁えているつもりだったが…結局、私が世界一破天荒な貴方の忠臣である事に変わりは無いらしい。

 

つまりは、こんな無茶をしてしまうのは貴方の影響だ、責任とれよ?

なあ、ライダー。

 

世界が、塗り潰されてーーー…。

 




【後書き的なもの】

皆さまこんにちは、こんばんわ、或いはおはようございます、ライダー/ギルスです。

長らくお待たせしました、しかもその上で内容がなんか薄い…本来ならもっと書きたいのですが、今日はP5の発売日だから許して!?

後、プリズマコーズでイリヤ引けないのに何故か違う鯖が来ました、嬉しい悲鳴。
青王(3騎目)と、ジャックちゃんきました!(しかも同時に)
育成があああ!!←←

はい、話を戻しますと…実は冬木市自体が中にいる人が気付きもしないくらい違和感無く深刻なレベルで異界化していたと言う異常事態。
さて、バゼットがいる時点で時間は少し遡るはず、ですが今一時間軸がずれ気味なこの展開。

果たしてランサーとはいつ出会っていたのか、そもそもロードはその後何でいないのか。

後前半でてきたのはいったい誰おじさんなんだ!
と言う更に更に混迷が深まる事態と相成りました。

ネタバレ、悪いのはギリシャ。←

やー、この上まだいろいろ出ますよ、お楽しみに!

ではでは、またの更新でお会いしましょう!

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