Fate/alternative   作:ギルス

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垣間見えたーー極大の悪意。
人は何故に抗い、希望を目指すのか?



第18話『歪み』

「じゃあ何か…イルマ、お前が話に出ていた吸血鬼 (デイウォーカー)?」

 

「まあ、そういう事になるかの。」

 

「……ねぇ、何で私達を襲ったの?」

 

「カレイドスコープのジジイがな、言っておったんだ…お前達はーー世界を創り変える存在だ、とな。」

 

「ーーちょっ、、、っと待って?」

妙な溜めを見せたあと、凛が聞き返す。

 

「なんじゃ?」

 

「カレイドスコープ?まさか、まさかよねーーその人、名前はーー」

 

「ああ確か、キシュアゼル、ゼレ?」

 

「キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ卿でございます、お嬢様。」

 

「おう、それじゃ!」

 

「ーーだ、大師父ゥゥゥゥゥ!?」

 

凛が目を剥いてツッコミを入れている。

あわやそのまま卒倒しかねない勢いで倒れかけた為に慌てて士郎が抱きとめる。

 

「だ、大丈夫か遠坂!?」

 

「……いや、うーん…なんていうか予想の斜め上をいかれたと言うか…」

 

「ーー遠坂先輩、私の記憶が確かなら…キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ、ってーー第二魔法ーー平行世界の運営を司る、”魔法使い”、よね?」

 

「え、ええーーそして私の家、遠坂の三代前の当主に教えを説いた人物…噂じゃ聖杯戦争開始にも関わった…私の家系にとっては大師父 (グランドマスター)にあたる方よ。」

 

衛宮先輩に抱き抱えられてちょっとばかり嬉しそうに、頬を赤くする遠坂先輩可愛いな。

 

「ーー魔導元帥、宝石翁、万華鏡 (カレイドスコープ)ーー宝石のゼルレッチ、呼ばれ方は様々あるが…神出鬼没の魔法使いにして死徒二十七祖が一人ーー同時に、私の吸血種としての『親』にあたる愉快犯のくそジジイだ。」

 

まて、待て、マテ。

今、聞き捨てならない単語が出ていませんでしたか?

ゼルレッチが死徒、二十七祖ですと?

 

あれ、おかしいな…英霊召喚を可能とする世界にーー?

 

世界、世界ーー?

 

「、あれ…?私今、何を考えーー」

ズクン、と視界が僅かに揺れて…

 

瞬間、頭を鈍器で殴られた様な錯覚を覚えた。

ーー頭が、割れそうだ。

いた、イタイ、痛いーー痛い痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイーー

 

「あ、かっーーく、う!?」

視界が明滅する様にチカチカと瞬き、心が押し潰されそうな不安と、隣にあるはずの何かが足らない様な欠落感ーーーー、

 

「さ、朔弥っ!?」

衛宮先輩の声とーー

 

「九重さんっ!?」

遠坂先輩の声がーー

 

遠く、かなたに、消えて行く。

 

『ーー貴女が、アナタ達がいくら足掻こうと無駄な事ーー全ては私のーー■■の中にーー』

 

黒い、服。

昏い、眼差し。

 

ぞっとする様な、その冷たい声が。

 

『誰が、自由にさせて等やるものですかーー』

 

罅割れの様な恐ろしいその口に。

笑みを浮かべながら、そんな台詞を吐いた。

 

「に、いーーさんーー私、は…」

 

最後に見えたのは、埃の残る石畳の床。

私の意識は直ぐにーー途切れた。

 

*************

 

「…ゼウス、ですって、冗談じゃ無いわ。」

 

「生憎と事実じゃ、美しい乙女よ。」

 

「ーー汚らわしい目でイリヤを見ないで頂こうか、父上。」

 

「ああ、そうか、そうよね…あれが真実大神ゼウスだと言うなら…」

 

「ーーワシをまだ父と呼んでくれるのじゃな、ヘラクレス( 、、、、、)。」

 

「不本意ながらな、貴様は間違いなく私の父であり…唾棄すべき敵だ。」

 

雷鳴が轟き、殴りつける様な雨が降り始める。

雨は視界を煙らせて、互いの表情を隠す。

 

「ーー残念じゃ、では今宵はこれにて、な。」

 

神威の車輪(ゴルディアスホイール)に飛び乗ると神牛、ゴッドブルが周囲に張った結界に雨が阻まれる。

既に濡れた分は戦車の御者台を濡らすが、髪を乱暴に掻き上げ、ゼウスはただセイバー、ヘラクレスを一瞥した後には空に舞い上がる。

 

戦車が飛び去った後には破壊痕がまざまざとその様を見せつける様にしてあり、木々を薙ぎ倒し、ベンチを、街灯を砕き、曲げ、焦げつかせ、燃やし、溶かしていた。

 

荒れ狂っていた炎の熱は雨に散らされ、冷え始めている。

 

しかし。

 

「ーーイリヤ、奴は必ず我々で仕留める。」

 

「当然ね、私達を見くびった事を、死の淵で後悔させてあげなくちゃ。」

 

イリヤの身体中に、赤々と浮かび上がる紋様。

それは丹田を中心に全身を覆い尽くすほど広がり、光と熱を伴い脈動している。

全身の魔術回路そのものが全て令呪なのだ。

神にも等しい力を備えた大英雄ーーセイバー、ヘラクレスを聖杯なしに召喚し、維持したカラクリ。

イリヤのマスターとしての適性の高さと、この無尽蔵とも言える魔力。

 

「神霊を従えるなんて裏技、確かに驚いたけれど…勝つのは、私達。」

 

身体を打つ雨粒が、触れたはなから蒸発して行く。

熱は冷めない。

まるで、彼女の怒りに呼応するかの様にーー。

 

**************

 

夢。

夢を、見ていた。

 

そう、これはきっと夢だ。

 

だって、兄が居る。

兄は、兄はーーあの時、確かに。

 

「朔弥、第六特異点には俺が行くから。」

 

「ん、行ってらっしゃい。」

 

兄は、数多の英霊を従え、■■■■に向かう。

時に私が、時に兄が。

でも、重大な局面はいつも兄が立ち向かい、打破してきた。

私は幾度かの特殊な■■■を解決したに過ぎなくて。

■■王に最初に相対したのも。

■■を真の意味で■■したのもーー兄だ。

 

幾人もの英霊が、兄を取り囲み、甲斐甲斐しく世話を焼いている。

私の隣にも、赤い服装の背の高いヒトが立っている。

嘆息しながら兄を見つめている気配がするが、その顔が見えない。

 

褐色の肌のアサシン、カボチャを引き連れたキャスター、刀を腰に下げた薄桃色の着物の上にダンダラ模様ーー新撰組の羽織を着た少女、蛇の様に絡みつく着物の子、他にも沢山、沢山、沢山。

 

だが、一番目を引いたのは…

その中の誰より献身的に、打算も無く只々ーー兄さんを慈しむ眼で見つめ、支える少女。

大きな盾を持って、兄を護る姿。

 

景色が一変し、モニター越しに私は兄と、彼女の戦いを見守っていて。

 

「先輩、危ないっ!」

 

その盾は強固で、まるで少女の強い意志を表す様に、あらゆる危険から大事な人を護る様に。

敵宝具の一撃すら弾いて見せた。

 

「ーーュ。」

 

無意識に、紡いだ真名は零れ落ちて消える。

暖かで、懐かしいその光景は、きっと。

きっと…。

 

突然に、闇が広がる。

浸された足元が暗闇に沈み、感覚が消えていく。

 

『カエシテナンカ、アゲナイ。』

 

『アナタモ、カレモ、タマシイダケデアラガッタ…ダレニモ。』

 

暗闇に沈みながら、必死に手を伸ばす。

その手は空を切り、何も掴めない。

 

ーーあ、シヌ?

そんな風に怖気が身体を走り。

 

なにかが私を身体ごと掴みあげ、引っ張り上げた。

 

痛、なんかチクチクすrーー

 

*********ーー…

 

「ーーーー!?!?」

 

目を見開く。

そこは、先までの闇では無く。

■■■■でも無く。

 

藺草の香りがする武家屋敷ーー衛宮先輩の家。

私の今の家、居候先。

 

「ーーあ、わた、ワタ、し、どうして?」

背中が冷や汗で冷たい。

酷く汗ばんだ身体が不快で、しかし体の感覚がある事に強く安堵を感じてーー

 

「良かった…気がついたか。」

心配そうに覗き込んでいるのは、髪の色は違うけど、懐かしいあの人ーー

 

「ーーエミヤん…ありがと…えへへ…」

自分でもこの時、蕩けた様なだらしない笑顔をしてしまったと思う。

起き抜けで混乱していたとは言え。

 

「な、こ、九重?」

なんでだろう、目を丸くして驚いてる。

心なしか顔が赤い?

 

「朔弥。」

でも、不満はきちんと伝えないと。

 

「え、は??」

濡れタオルを絞っていた手が止まり、動揺した顔をする彼。

 

「ーー朔弥で、いい、の、に。」

むくれて、唇を尖らせながらそこまで言って。

頭がやっとはっきりして来た。

今、自分は誰に、何を話してーー?

 

「…あ、や、違うっ、今のっわ!?」

 

無言。

互いに、沈黙する。

やばい、あまりの恥ずかしさに顔が合わせられない…

とりあえず布団で顔を隠して潜り込む。

 

(うわぁーーっ、な、何してるの私ィ!)

あれではまるで、看病してくれている恋人に苗字呼びされて、拗ねて甘えていたみたいでは無いか。

 

あ、あの夢がいけないんだーーあんな、夢が…

そう、思い出した瞬間、震えがきた。

あのまま闇に呑まれていたら、私、どうなっていたの?

 

《目覚めたかよ、マスター。》

念話だ。

 

《ーーあ、バーサーカー?》

 

《おうよ、お前が召喚したサーヴァントだ。》

 

以前にもした様なやりとり。

なぜか少しだけ、それにほっとする自分が居て。

 

《あれ、さっきの、チクチクしたの》

 

《あ?なんの話だ?話が見えねえが起きたならさっさと立ち直りやがれ、面倒くせえ。》

 

《なん、でもない、ありがと。》

 

そ、っと布団から起き上がる。

正直震えは未だ止まらない、けど、少しだけ落ち着いてきた。

 

ただ、考えれば考えるほど、怖い。

あの闇は、一体なんなのか、あの夢は?

 

ーー失いたく、無い。

 

いつの間にか私、思いつめた顔で自分自身を掻き抱くようにして震えていた。

 

「ーー九重ーーあ、いや…さ、朔弥ーー?」

 

さっきの話を間に受けた純粋培養先輩が、「朔弥」呼びしてくれて。

ふ、と震えた身体が抱きしめられた。

 

「ーーえ、えっ!?」

途端に怖い、より混乱が勝る。

 

「大丈夫、大丈夫…怖いことなんか忘れて、力抜いて、負けない自分を思い出せ。」

 

「ーー負けない、自分…」

 

「ああ、朔弥は強い、あんな殺し合いの場に巻き込まれて、それでも気丈に振る舞って、前に進んできたんじゃ無いか。」

 

ぎゅ、と少しだけ力を込めて抱きしめられて。

 

「何でだかわからないけど…先輩にだけは言われたく無いよ。」

 

素直に、その身体を抱きしめ返す。

 

「ーーああ、大丈夫…足りないなら俺が助けるさ、だから…少しは力を抜いて誰かに頼ったっていいんじゃ無いか。」

 

ぽんぽん、と頭を撫でられる。

 

暖かで、優しくて、どこか懐かしい。

■■■■の記憶も、失う怖さも。

吹き飛んでーー

 

「力を抜いて?病人に何をしてるのかしらねえ…衛宮、くぅん??」

 

「とっ、遠坂ーーっ(ゴクリ)」

 

その手におぼんに乗せた中華粥を持って。

静かに襖を開けた、

赤いアクマが、立って、いた。

 

************

 

「どうやら、とんでもないものが召喚された様じゃあないか、聖女様?」

 

「ーーだからその呼び方はやめて下さい、アベンジャー。」

 

「ーーふん。」

鼻で笑いながら、どこか嬉しげにするのは意地が悪いと言うか。

 

「それに、アレに関して言えば既に随分前から召喚そのものは為されていましたよ、セイバーとほぼ同時期に、しかしながらかの存在は規格外故にか正規の枠には当てはめられる事無く”青''の令呪の側で召喚された様子でしたが。」

 

「ふむ、赤だ青だと意味はあるのか?」

 

「ーー赤、本来の第五次聖杯戦争における英霊のマスターには、それが施され…ありうべからざる存在に関しては青、と言うくくりの様ですね…一部は神明裁決を持ってしても御しきれない可能性もあります。」

 

神明裁決、ルーラーに与えられた特殊な令呪。

ルーラーは各サーヴァントに対する絶対命令権をそれぞれ二画有している。

しかしいかな令呪とはいえその英霊が強力な存在であれば一画では御し得ず、二画用いたとしても御しきれない可能性は皆無ではない。

 

「まさかギリシャの主神が出てこようとはな…その理由はルーラーである貴様にもわからんのか?」

 

「ええ、残念ながら…」

 

「いよいよとなれば俺は奴の元へ出向くぞ?」

 

「構いません、貴方に関しては私も神明裁決権も持ち得ませんし、自由に動ける存在も必要でしょう、事にこの聖杯戦争は異に過ぎる。」

 

ーー全く、度し難いわね?

 

「ーーッ、引っ込んでなさい…まだ、その時ではありません…」

 

「どうした、まるで亡霊の声を聞いた様な顔だぞ?」

 

「ーーいえ、貴方に心配される様では私も立つ瀬がない、大した事ではありませんよ。」

 

「っは、違いないな、まあ…今は観測するのも良かろうよーー待て、しかして、とな。」

 

変わらず吹き抜ける冷たい風と、二人の会話だけが大空洞の中に響く音。

 

生きるものが無いその空間は、まるで冥府の入り口の様で。

ーー結晶もまた、ただ静かにそこにあるだけだった。

 




【後書き的なもの】

はい、皆様こんばんは、こんにちは、或いはおはようございます。
ギルスです。

さて、更に謎が深まる今回。
ようやく、黒幕に繋がりそうな展開がありました。
そして士×ぐだな展開が。

そして今回でストックは完全にゼロになりました。
次回更新まではまた間が空きます、ごめんなさい。

ではでは、また次回更新にて!
しーゆー!!!

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