太陽を落とした女、ってねーー!
新ライダー、星を開拓する者、参戦。
暗く、広い空洞の中。
二人の人物が向かい合って睨み合いを続けている。
「ーーこれはこれは…なんとも皮肉な話だな、ん?聖女様。」
「嫌味ですか、
「ああそうだ、復讐こそ我が有り様よ。」
「ここには復讐する対象も有りはしないでしょうに。」
「此処どころか、そも復讐そのものが終わりを告げているーー最早私が現界する事はありえないと思っていたがな…世界は私を眠らせてはくれんらしい、お前もそうだろう?」
「ーー私は裁定者、ルーラーとして喚ばれたみたいですね…しかしこの冬木の地において私が呼ばれること自体がイレギュラーな筈ですが…何者かの思惑…でしょうか?」
「ーーいや?どうやら理由はこれの様だな?」
暗闇の中、地面に描かれた方陣が淡い光を放つ。
ボウ、と明かりを灯したそれは7つの輝きを作り出す。
既に灯されていた9つの輝きに加えて、7。
中心に、白く清らかな輝きと、濁った青白い炎じみた輝き。
加えて、円周に均等に配置された14の輝き、うち一つは既に輝きを失っている。
合計16騎分の輝きーー。
「ーー新たな英霊召喚が始まるとーー?」
…この事態こそが本来あり得ざる第三者の介入を仄めかしている様にしか思えない、が…。
「だからこそ裁定者たる貴様がーーそしてその抑止力として俺が呼ばれたのだろうよ、私情を挟まず、役目を果たせと聖杯が言っている。」
「聖杯ーーそれ自体に意思があると?」
「此度は、その様だな?」
「ーー貴方とて…彼女には縁も情もあるでしょうに…」
「ふん、これで潰れてしまうならアレは俺たちを導いた彼奴ら二人の片割れでは断じてなかろうよ、そんなものは姿形が似ただけの泥人形の様なモノだ。」
「相変わらず辛辣ですね、口だけは。」
「ハ、好きに言っていろ、絶望こそ人生のスパイスよ…それを乗り越えてこその復讐だ。」
待てーーしかして希望せよ。
口に出しはせずとも彼がそれを言いたそうにしているのが彼女、ルーラーにはわかりやすいほどに分かった。
ーーもっとも、それを聞くものはルーラーだけではあったが。
方陣の内側、光を失っている箇所の丁度逆側の光が一際強く輝き出す。
それを見下ろしながらルーラーは呟く。
「全く、縁と言うのは簡単には無くならないのですねーーこんな形で無ければもっと歓迎したいところですよ…ねぇーー?」
空洞の中心、方陣のさらに真ん中。
そこには巨大な岩塊がまるで腕の様な形で屹立している。
その手のひらに当たる場所には、深緑色の結晶が鎮座している。
その結晶の中には一つの影。
ルーラーが呟いた名は、洞穴を吹き抜けた痛いほど冷たい風に掻き、消された。
****************
カチャカチャ…静かな室内に食事を摂る箸の音だけが響く。
見れば朔弥は妙に居心地が悪そうに、ソワソワとしているし、大河は居ない、桜は居たがーーこちらも何処か沈んでいる。
兄、慎二が行方知れずになり2日、それを相談しに現われた桜に、昨晩士郎がウチに泊まって行け、と言ったのだ。
ーー聖杯戦争に否応なしに関わってしまったとはいえ、士郎は慎二が何故行方知れずになってしまったかを話そうにも話せないと言う負い目があったからだ。
凛もまた、難しい顔はしたが反対はしなかった。
朔弥はーー昨晩の出来事に頭がパンク寸前であり、且つ家主と、セカンドオーナーたる遠坂がそう判断したのだから、と考えを放棄していた。
「ーー桜、慎二の事は心配するな…俺が必ず探し出して…今回ばかりはぶん殴ってでもお前に謝らせてやるからな。」
「ーーふふ、先輩、珍しいですね先輩がそんな過激な事を言うなんて。」
少し困ったな、と言う表情ながらもどこか嬉しい、と言う顔の桜。
「ーー時と場合によるさ、今度ばかりは問答無用にあの馬鹿が悪い。桜がどれだけ自分を心配してるかーーあいつだってわからなくは無いだろうにさ。」
……それ、貴方が言うの?とは凛の表情だ。
その後は妙に静かな食事を終え、一同は一旦は各々に割り振られた、或いは勝手に居ついた部屋へ戻って行った。
士郎は普段から使っている驚く程に私物少ない和室、桜は応接間近くの部屋を、凛は離れの一番上等な客室にベッドまで持ち込んでいた。
そしてイルマと、その執事であるイゴールは地下室ーーあったんだな、そんなものーーを探り当てるやそこへと陣取った。
どうやら切嗣、義父が武器の保管場所にしていたらしいのだが…土蔵の床下にまさかあんな階段が隠されていようとは。
と言うか、今迄修練場にしていながらまるで気がつかなかった…大間抜けか、俺は。
…凛曰くちょっとした魔術工房並み、だとか。
半端な魔術師なはずの義父がよくもこれだけのものを作っていたものだ。
桜が居室に入っていくのを確認し、一同はそっと足音を殺して地下室へと集まる。
「ーーな、何これ…世界中の外法、外道の知識のオンパレードじゃない…あ、いや違う…全てそれと対になる様な記述が…セットに?」
そこには魔導書の山。
有名なモノから言うならばーー無名司祭書、金枝篇、ネクロノミコン迄が其処にあった。
無論、原典なはずは無くすべからく写本や不完全なものばかりではあったが…
それに連なる様に対抗手段もまた並べて保管されている。
例えば海魔召喚の頁の端には、添え書きされた、海魔や古き者を退ける古き印、
「ふふ、キリツグらしいな…彼奴は常に人類に害成す存在や事象を廃絶する方法を求めていたと見える。」
イルマが呟き、イゴールが頷いている。
は、はは。
確かにオヤジらしいなーー全く、正義の味方は年齢制限があるんじゃなかったのかよ…
まるっきり諦めてないじゃないか。
恒久的な世界平和。
それをクソ真面目に現実に変えようと。
足掻いて足掻いて足掻き抜いて。
「ーーはぁ、俺が必死になって追いつこうとしてるのにな…」
「衛宮君ーー貴方のお義父さんって…何者なのよ…?」
まさに開いた口が塞がらないと言った凛。
「いや、それは俺が聞きたいよ本当。」
「何よそれ。ーーこの蔵書、時計塔だってこんな封印指定一歩手前な魔導書の写本とかそうそう無いわよ?それが、こんなに沢山…」
「ふん、あやつ…やはりわしを謀っておったな…吸血種を滅する方法まであるでは無いか、知っていてわしを何度も見逃す等、屈辱じゃのう…。」
などと言う言葉とは裏腹、イルマの顔はどこか嬉しそうだった。
「遠坂は知らなかったっけなあ…俺のオヤジは…正義の味方で、魔法使いなんだよ、正義の味方は年齢制限で廃業だなんて言ってたけどな。」
「ーー何言ってるかさっぱりなんだけど…」
魔法使いと言えば魔術の深奥にたどり着いたほんの一握りの偉人に冠せられる称号だが、この場合は違う意味だろう、間違いなく。
「ーー魔術師殺し、そう言えば遠坂さんにもわかるんじゃないかな?」
とは、今しがた階段を降りてきた朔弥の台詞。
「まさか、第四次聖杯戦争でお父様と敵対した、アインツベルンの傭兵ーー!?」
「なんだ、オヤジの奴そんな事もしてたのか。」
呆れたな、と言う顔の士郎。
「私の父さん、九重十蔵と縁があったから多少は聞いてるけど…偏屈な変わり者だったみたいね…昔、私を狙った吸血種を追い払ってくれたのも、子供を狙うなんて許し難い、ってだけで必要経費以外は報酬もろくに取らなかったそうよ。」
「ーーあ、なんじゃお主あの時の双子の片割れか〜道理でどうにも魔力に覚えがあると思ったわい。」
「「はっ?」」
士郎と朔弥の声が、ハモった。
**********
「ーー再契約、だって?」
「そうだ、マキリの末裔よーー貴様が望むというなら力を貸してやろう。」
聖堂教会支部、冬木教会。
煌びやかなステンドグラスから差し込む光が、三人の男の顔を仄かに照らし出している。
「あんたーー何を言ってる?」
先の戦いでライダー…メドゥーサを失った慎二は、逃げ込んだ先で思わぬ話を振られていた。
「ふ、少年…疑うのも無理からぬ話、少し解りやすく話してやろう。」
と、話すのは聖堂教会の法衣、カソックを首までぴったりと締めたお堅い格好の神父。
しかし、その目は一切笑っていない。
寧ろ底なしの暗闇を覗いてしまった様な不気味さが見えて。
「ーー信じられるかよ、あんた…監督役が個々の勢力に肩入れしていいのかよ?」
「私は最早聖杯等必要としていなくてね…何より君個人に興味がある、なんなら聖杯は君一人で使うといい、我々には聖杯そのものは必要無いのでね。」
「ーー今の貴様にはわれが手を出す価値と意味があると言う事よ、王の誘いぞ?光栄であろうが。」
礼拝堂のイスに座る金髪紅眼の美丈夫はニヤニヤと笑みを浮かべながら手を差し出す様にして慎二を見ている。
「ーー王…ね、あんた相当強力な英霊なんだな。」
「ーーああ、そうさな…オレ一人で他全ての英霊を相手にしても良い程度にはな?」
「そうかよ、しかし都合が良すぎてかえって信じられないんだけど?」
「……フ、君は知らないのだったな、私はね、第四次聖杯戦争の参加者だったのだよ。」
「ーー何…だって?」
「く、くくっ…なぁ、
「ーーそうだな…確かにこのまま終われない…考えても…」
慎二が渋々ながら、しかしこのチャンスを逃すまいと答えを決めかけたその時。
ガシャーーン!!
ガァン!タタン、チュインッ!
ステンドグラスを貫き、数発の銃声がそれを遮った。
「ーー待ちな、シンジ…アンタまた間違えて死ぬ気かい…?」
そこに華麗に降り立つのは女。
パイレーツハットに、ジャケットを羽織りーー両手に銃を携えた女海賊。
はち切れんばかりの胸をジャケットに無理矢理収め、2丁拳銃を構えるその姿。
「ーーアンタのサーヴァントは…アタシ以外にゃつとまらないだろう?」
フランシス・ドレイク。
史実上は男性ではあるが、今は女。
太陽を落した女ーー。
テメロッソ・エル・ドラゴがそこに立っていた。
「アタシと組めば、儲けは折半ーー契約、報酬、分前半分。これ以上信用できる主従関係はそうないだろう?」
男よりも男前な姉御肌。
それが彼女、フランシス・ドレイクの生き様である。
「ーーなんだ貴様は…疾く失せよ、不敬であろう!!」
機嫌を損ねた男の背後から、金色の波紋が浮かび上がり…一斉に刃が射出される。
片刃、諸刃、直刀、槍に斧、果ては鎌やチャクラムに至る古今東西あらゆる武器が女に迫る。
「ハッ!いきなりご挨拶じゃあないか、英雄王!」
流麗な銃捌きで打ち出された弾丸が武具の射線を逸らし、礼拝堂のイスや地面を抉る。
さらに空中で宙返りをする様にして残りを回避すると、今度はお返しとばかりに銃弾が英雄王と呼ばれた美丈夫に迫る。
「ーーネズミがっ、図に乗るな!!」
展開されたのは盾。
名もなき、とある宝具の原典の一つ。
虹色に輝くその盾は、円周から内円にかけて街を、空を、世界を孕んでいた。
弾丸は微風程にも威力を発揮できずに盾に阻まれた。
「ーー概念による世界断絶かーー最強とも言える防御だね…だが、緩い。」
「ーー要は、気合いの問題、さぁ!」
今度は、先とは比べ物にならぬ魔力が込められた二発の銃弾。
「ハッ、無駄だ雑種ーーこの盾は少々魔力を込めたところで…なにぃ!?」
バキンッ!
一撃目であっさりと盾は砕け。
二発目の弾丸が男に向かう。
「っ、ぬぅあ!」
咄嗟に手を出し、弾丸は瞬時に武装した彼の金の手甲に弾かれた。
「ーー我が鎧に傷を…?」
「ーーなんだい、気に入らないかい?」
「楽に死ねると思うなよーーこの売女が!」
「はっ、この代償ーー高くつくよ?」
視線が交わり、正に命のやり取りがーー始ま…
「けどまあ、今は三十六計逃げるが、勝ちっーーてね!」
ーーら無かった。
ドォン!!
何もない宙空から響く轟音。
同時、巨大な鉄球ーーカルバリン砲の砲弾が男等を狙い撃つ。
「ぬ!?」
盾が砕かれていたのもあってか、今度は大きく飛び退いて避ける。
礼拝堂のイスと地面を先ほど以上に砕き抉り、もうもうと土煙りを上げた一撃は、あたり一面の視界を遮りーー。
開けた時には、慎二と女の姿は無かった。
「ーーーっっ!!」
顔を真っ赤にして歯を剥く金髪紅眼の男。
対して綺礼は、さも可笑しいといった風に。
「く、王よ…中々思う通りには行かぬものですなあ?」
先程の寸劇を続ける様な嫌に丁寧な口調のまま、英雄王に声をかける。
「く、黙れ綺礼、死にたいか貴様っ!」
「ククーー楽しめ、と言ったのはおまえだろう、ギルガメッシュ。」
ドガ、とイスの残骸を踏み砕く音が、響いた。
【後書き的なもの】
はい、一気に急展開。
段々と置いてけぼりなSN側主要キャラクター達。
楽しんでいただけていますでしょうか、ギルスです。
割と行き当たりばったりに書いている本作ですがーーとうとうstaynightの本筋を大きく逸脱し始めました。
ルーラーとアベンジャーの登場。
新たなサーヴァントの登場と、英雄王、綺礼の行動に対する妨害。
これで慎二と英雄王が組む未来もまた改変されました。
さて…これで完全に未知の領域ーー
世界は何処へと向かうのか。
人理焼却が行われたカルデアの記憶が散逸してサーヴァント達に保有?あるいは流れ込むのは何故か。
話は大きく動き始めました。
この大風呂敷ーー最後までお付き合い頂ければ幸いです。
あ、因みに慢心王の盾をあっさり貫いたのはスキル「星の開拓者」の効果です。
慢心ギルに無敵貫通美味しいです。(愉悦
それでは!
次回更新でお会いしましょう!
ではでは、しーゆー!