Fate/alternative   作:ギルス

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蝕む魔は、世界に疎まれ、神に呪われた末路。
ならば、世の理から外されたモノは。
己が存在か、世界への憎しみか。
魔は魔なりの矜持を持ってーー



第12話『神話』

「私とアーチャーは外れの方からまわるから、貴方達は中心部からお願い、見つけたらーーそうね、空に向けて目印を飛ばすわ。」

 

「わかった、遠坂、気をつけてな。」

 

「…貴方こそマスターでもない半人前なんだからあまり無理はしない事ね。」

 

「…ツン、とかいう奴か?アレ。」

マスターを助ける為だから、とついてきたバーサーカーが凛を指差しながらニヤニヤとしている。

 

「るっさいわね!?貴方のマスターを助けに来てるんでしょうがっ真面目にやんなさいよ!」

ーー遠坂って…こっちが地、なんだろうなあ…

優等生然とした学校での姿が聖杯戦争に関わりを持ってからこっち、ガラガラと崩れ続けている。

実は少なからず憧れめいたものを抱いていた士郎だったが、それも今はもうどうでも良い。

むしろ今の方が好ましいと思える程度には自分も慣れてきたなあとか考えていた。

 

「まあまあ、遠坂、悠長にしてもいられないだろ、早いところ慎二を見つけないとな。」

そう前置き、凛の肩をポンと押し出す。

 

「わかってるわよ、もう。」

膨れ面で文句を言いながらも歩き出す凛も何処か憎めないし、可愛らしくさえ思える。

 

「じゃあ、お互い気をつけて行こう。」

ふん、と言う凛の態度と無言のままのアーチャーの気配を感じつつ、一行は互いに反対に向いて歩き出す。

サーヴァント2騎は霊体化し、夜闇を歩き出した3つの影 (、、、、)…今度こそ互いが本気の、「戦争」が始まろうとしていた。

 

ーーーーーー…

 

「慎二よ。」

しわがれた声。

人をねめつけるような視線、君が悪いくらいの矮躯に、細い手足。

手には樫の杖を持ち、頭は肥大化し、禿げ上がっている。

それこそどこかのアニメに出てくる妖怪の総大将のようなその姿。

 

「なんだよ、爺さん。」

 

恐ろしい人物である、これが血縁者でなければこんな口を聞いただけで今頃は魔蟲の餌にされているだろう。

 

「なに、可愛い孫に力を貸してやろうと思うてなあ…此度の聖杯戦争に儂は手出しするつもりは無かったのじゃがな…おぬしが実に真剣に魔術師として参加をしたいと言う、嬉しい限りではないか。」

 

迂遠な言い回し。

ーー胡散臭いね、この蟲爺が…

慎二は心中ではそう考えながらも、顔には笑顔を浮かべ、答えていた。

 

「へぇ!そりゃあ助かる、嬉しいね。」

 

「そうじゃろう、そうじゃろう。」

そう言いながら祖父が取り出したのは黒い、何かの欠片だった。

 

「これはな、とある絶大な力を秘めた聖遺物の欠片よ…使い方次第で令呪以上にサーヴァントを強化できる…使うが良い。」

ほっほ、と機嫌良くそれを手渡され、掌に乗ったそれを見つめる。

 

もとは金色だったのか、所々に金箔が剥がれかけたように光る部分があった。

ーーもっとも、実際には黒い方が貼り付いている、と言う方が正しいかもしれない。

濃い煤のように金色を燻ませたソレは。

まるで乾いた泥の様にも見えた。

 

「ーー有難く貰っておくさ、僕は何であれ使いこなしてみせるとも…そして魔術師として大成してやるよ、爺さん。」

 

 

***************

 

 

そんなやりとりから数日。

真逆こんなにも早く切り札を切る羽目になろうとは。

ライダーには知らせないまま、慎二はそれを握りしめ、魔力をそこから引き出していた。

望むほどに力が流れ込みーー慎二を通してそれを受けたライダーもまた身体の奥底から湧き上がるような力を感じていた。

 

(おかしいですねーー慎二は此れ程の魔力を持っていなかったのでは…?)

疑問は尽きない、がーー

力があるに越したことはないだろうとライダーは一旦その思考を停止する。

 

「仕掛けますーーまずは、槍使いっ!」

上空から魔力を放ち、エコーの様にかえってきたそれを頼りに正確に位置を確認する。

 

ジャッ!

鋭い音を立て、夜気を切り裂き釘剣が飛ぶ。

 

「ーー坊主っ、上だっ避けろ!」

バーサーカーの声に慌てて飛び退く。

 

バカァ!、と石畳が割れて飛び散る。

 

「あ、危ねえっ!?」

一瞬遅れていたら自分は頭からあれに貫かれていただろう。

 

「ーーは、一対一なら勝てると思ったか?」

ググッ、と下肢に力を込めて…跳んだ。

同時に光を放ち、手足に棘が生え、尾が生えた。

フードは端がはためくが、貼り付いた様に耳や後頭部を覆ったままだ。

手には紅い槍。

瞬く間にビルの壁を馳け、高度が上がって行く。

 

そこに四方から釘剣が飛ぶ。

高速で壁面を移動しながらライダーが放って来ているのだ。

 

「ハハハハハッ緩い緩い緩いッ!!」

片手で槍を回転させて軽々とそれらを弾き続ける。

 

「やはり、この程度では足りませんかーーならばッ!」

校舎でしたのと同じ様に、ライダーが己の武器で己自身を切り裂く。

血が舞い、舞い飛ぶそれが高速で飛び回りながらも彼女の周りで陣を為した。

 

「己が血を媒介にした召喚かーー!」

光とともに現れたのは、3体。

人面鳥翼ーー女の顔をした化鳥。

 

「ハルピュイアーーギリシャ神話の魔物だと?」

 

ケケーッ、と甲高い叫びをあげて飛びかかるハルピュイア達。

その爪は鋭く、かわしたバーサーカーの下に見えていたコンクリートの壁面を豆腐の如く抉りとる。

 

「は、数撃ちゃ当る、か?」

 

「彼女達を下等なハルピュイアと侮るなら、貴方は直ぐに死を迎える事でしょう…槍使いッ!」

 

更に釘剣が飛び、三羽のハルピュイアが交互に襲いかかる。

 

「ふーー高所での戦いは苦手と見える、先の怪力ぶりが見る影もありませんね!」

口を三日月型に歪め、笑う。

 

「ーー調子に乗ってんじゃねえぞ」

ざわり、と周囲の気温が一気に下がる。

スキル「精霊の狂騒」。

暗い光がハルピュイア達を絡め取り、その動きが鈍くなる。

 

「堕ちろ。」

投擲された槍がハルピュイアの一羽を捉え、胴を串刺しにする。

直ぐに落下を始めたハルピュイアは姿を遠くしーー光と消えた。

 

「「ーーオキュペテー!」」

嗄れた、しかし確かな言葉が残る二羽から紡がれる。

 

オキュペテー、ギリシャ神話にあるハルピュイアの三姉妹ーー。

「は、なるほど…名前つき (ネームド)か、この俺相手に長く持つはずだな、っと!」

 

残る二羽の挟撃を器用に壁面を走り続けながら宙返りして避ける。

 

「ひゃっ、ハー!」

楽しげに、笑いながら、バーサーカーは飛び、投げ、ライダーの投擲を弾き、突き返す。

 

「ギャギャ、ーーアエロー、やれ!」

黒色の羽根を広げたハルピュイアが翼から黒い砂埃を起こして放つ。

それは広がり、バーサーカーの視界を塞ぎーー

 

「キャハハハッーーケライノー、オキュペテーの仇は私が!」

緑の羽根を広げたハルピュイアからは疾風が。

それは暴威と化してバーサーカーに殺到した。

 

「カッ、前に言わなかったかーー俺に…ああ、お前らにじゃあなかったな…俺にはな、飛び道具は効果ねえ、んだ、よっ!」

 

風はバーサーカーの目前で霧散し、その暴威は届かず。

逆手に放った2本目の槍がアエローを貫いた。

貫かれたはなからアエローの身体は光の粒子と化して飛散し、槍もまた空中で光に分解されるーーバーサーカーが槍を消したのだ。

 

「ギャ!?」

 

次の瞬間にはバーサーカーの手には槍が握られ、ケライノーを頭と脇腹から切り裂き4つに寸断した。

 

「ーーまだ、終わりではありません!」

先のハルピュイアとの戦闘時の隙をつき、さらなる陣が空中に無数に華開く。

 

赤々と血色に輝くそれらから無数に有翼の魔獣が現れる。

殆どは一斉にバーサーカーに殺到するが、一部は地上ーー士郎へと向かっていく。

 

「数で押す、かーー悪くないなあ…相手が俺でなければだが、な!」

バーサーカーもまた、ライダーの召喚の隙をつき魔力を高めていた。

身体をーー、一つの発射台に見立て。

限界まで引き絞った腕の力をーー解き、放つ!

 

抉り穿つ (ゲイ)ーーーー、

 

**********ーー…

 

士郎達と別れてから半時、アーチャーが空に異変を察知する。

 

「凛っ!小僧とバーサーカーの側が当たりの様だ、戦闘を確認したーー!」

 

凛からはビルの谷間に時折チカチカと小さな光が見えただけ。

しかしアーチャーの鷹の目は激しい空中戦を捉えていた。

 

「アーチャー、急ぐわっ抱えて!」

 

「了解した、しかとつかまれ、凛!」

凛を抱え、アーチャーは疾駆する。

夜の街とはいえ人目が皆無とは行かない。

しかし事は急を要する。

後の事は後の事だ、人目は少ないし何とでもなるだろう。

 

…この後、流石に誰が目撃したかもわからず、聖堂教会のーー主に綺礼が主体の情報操作で、「ビルの谷間を飛ぶ赤マント」と言う奇妙な都市伝説ーー…、噂が流れるのは、別の話である。

 

…ーー***************

 

足場を確保。

ベランダに尾を差し入れ、金属柵に巻きつけて身体を固定ーー

壁面にめり込んだ恐竜じみた爪先がミシミシと音を立てる。

 

半身を限界まで反らし。

 

「数で押す、かーー悪くないなあ…相手が俺でなければだが、な!」

腕の筋繊維がブチブチと音を鳴らして千切れ、その端から再生を繰り返す。

 

抉り穿つ (ゲイ)ーー、鏖殺の槍 (ボルク)ッ!!!」

 

放たれた槍は光条と化し、無数に分裂しーー飛び交う魔物達の心臓めがけて飛んでいく。

 

「ゲイ…ボルク…そうか、貴様はーーっ、」

ライダーは咄嗟に身を捩る、が…回避は不可能だった。

何せ光は…躱したライダーの心臓へと、一度通り過ぎた後にありえない角度に反転。

急降下して再びライダーへ迫る。

 

「アイルランドの光の、神子…かっ!!」

再度回避を試み、ビルを駆け上がり、屋上へと到達し、地に足をつけた瞬間。

ドズ、っと重い音を出して槍の穂先がライダーの豊満な胸に吸い込まれるように収まり、背中から突き抜けた。

背後では魔物達にも槍が雨霰と降り注ぎ、逃げ回る魔物達を執拗に追尾しその心臓を正確に貫いた。

バラバラと落下しながら粒子となって消えていく。

 

「は、違うな…光はとうに失せた、今の俺はコンホヴァルの糞野郎より尚悪意に満ちた、狂った王だ。」

答えながらバーサーカーもまた屋上へと降り立つ。

 

「く、くく…そうか、貴方は私と同じく反転した存在かーーしかし、如何に否定しようと貴方は貴方だ…クー・フーリンには違いある、まい…グ、ハッ!」

大量の血反吐を吐き散らしながらライダーが身悶える。

 

「素直に終われよ、メドゥーサ ( 、、、、、)。」

 

「いつから、気づい、て?」

息も絶え絶えに問うライダー…メドゥーサ。

辛うじてフェンスにへばりついてはいる、がいつ力尽きて倒れてもおかしくは無い。

 

「最初から。」

つまらないと槍を肩に担ぐ様にメドゥーサを見下ろすバーサーカー…クー・フーリン・オルタ。

 

「諦め、られる、くらいであればーー誰…が…召喚に応、じ、ましょ…か…貴方は違うと?」

苦しげに胸に突き立つ槍に手をかけながら問うライダー。

 

「望みなどはなから終わっている」

 

「馬鹿な!」

ごぼり、と血を吐き出しながら叫ぶ。

 

「願いすら無くーー?認め、ません!」

 

ぶわ、と。

真っ暗な影が伸びた。

給水塔の影から伸びたそれはライダーを一瞬で包み込む。

 

「ーーなんだ、こいつは?」

 

膨れ上がった影は、人の形を失い崩れていく。

下半身は肥大化し、長く強靭な蛇体となり、上半身は所々鱗に覆われてはいたが美しいままに、顔は巨大な単眼と、長く不揃いな牙を生やした口、髪はその一本一本が蛇となる。

 

「ひ、ひいぃぃっ!?」

給水塔の影から這う様に転がり出てきたのは慎二だった。

自らのサーヴァントの変貌に驚いたのだろう。

確かに見ただけでも恐怖を感じておかしくは無い、あれは人にとって害悪だ。

ひたすらに邪悪でしかない。

 

「ーーゴルゴーンの怪物…か。」

その答えに行き着き、嘆息しながら槍を構える。

彼にとっても思うところが有るのだ。

怪物、邪悪。

それは彼自身の成れの果てにもなり得ることだから。

 

「せめてもの情けだその姿、1秒でも早くこの世から消してやるーー」

初めてバーサーカーの顔から笑みが、消えた。

 




【後書き的なもの】

ごめんよ…ライダー…結局こうなるしか無いライダーさん。
自分で書いていてかわいそうになりました。
しかし、青セイバーが居ない以上ペガサスとの激突とか無くなりました。
エクスカリバれませんからね…。
また、宝具開帳によりライダーにはオルタニキの真名バレしました。
必然、見えているアーチャーにも…。

そしてぐだ子(朔弥)…出番ねえ。←
まあライダー脱落したら出番あります…多分。

というわけで、次回はゴルゴーン化したライダーとの戦闘です。
上手く描写できるかなあ。

それでは、皆様次回更新まで、アディオス!

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