時代転生のシャトレーヌ   作:十三

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 片手間で考え付いたレルーネとパーティーの予想CV

レルーネ(CV:堀江由衣)
グランパ《ユキノオー》(CV:柴田秀勝)
シュヴァリエ《ギルガルド》(CV:緑川光)
アンジュ《トゲキッス》(CV:坂本真綾)
トネール《ウォッシュロトム》(CV:小岩井ことり)
バスティヨン《クレベース》(CV:安元洋貴)
フォルレーヌ《ガブリアス》(CV:沢城みゆき)


 キャラ把握のネタの一つとして見てください。





Episode 6 トレーナーの矜持

 

 

 

 

 

 

「えーと、このカフェがそうなの? カルム君」

 

「そう。カフェ・ソレイユはミアレでも有名な場所でね。特にあの大女優、カルネさん行きつけの―――」

 

 

 店内に入ってきたのは、少年と少女の二人組だった。

 ふと気になって視線を向けてみれば、自分とそう変わらない歳だと思った。いやまぁ、精神年齢はその限りではないから肉体年齢限定の話ではあるのだけれど。

 

 そして、これも見た瞬間に分かった。彼らはポケモントレーナー。それもどこかの街を拠点に据えるタイプではなく、各地のジムを巡ってバッヂを集める旅トレーナーだ。

 

 《シャトレーヌ》としての僕の経験は未だ浅いが、それでも旅トレーナーたちは沢山見てきた。彼らの特徴は振る舞い方や装備などであるのが一般的だが、それでも各地を旅したトレーナーというのはどこか違う雰囲気を醸し出している。

 

 生まれ故郷から飛び出して新たな価値観を求めたトレーナー。未知の世界を目にしてきた者達というのは、そもそもからして目が違う。……たった11年生きてるだけで、ここまで偉そうに言う資格なんかないだろうけど。

 

 でも、そんな旅トレーナーの中でも彼らはまだ旅を始めたばかりだという事が分かる。一瞥した限り、二人とも腰に付けたモンスターボールの数は3個。野良試合対策に隠し玉を持っていないのであれば、それが彼らの持つポケモンの全てであると考えて差し支えないだろう。

 

 黒髪の少年と、亜麻色の緩くカールした髪の少女。彼らは会話の途中で、その話題に挙がったその人である師匠(カルネさん)がたまたまジャストタイミングで来店していた事に気付き、思わず固まっていた。

 

 そしてカルネさんも、彼らが旅トレーナーである事は一目で看破したのだろう。大女優という肩書きとは裏腹にファンサービスは丁寧にこなすこの人は、徐に席から立ち上がって彼らが固まっているカフェの入り口の方に歩いていく。勿論、サーナイトもお供していた。

 

 

『主は宜しいのですか?』

 

「僕が行ってもお呼びじゃないだけです。ファンサービスの一環なら、すぐに帰ってきますよ」

 

 大女優という顔と、カロス地方が誇るチャンピオンという顔。

 並の人間では―――いや、この二つの世界で頂点を極める事ができる人が、果たしてこの世界に何人いるんだろうかと考えても、皆目見当つかない。

 

 そりゃあ尊敬もされるだろう。憧憬も向けられるだろう。天は二物を与えずなんて言うけれど、それは間違いだ。本当に才能がある人というのは、二物でも三物でも四物でも持って行く。

 

 それを僕は、羨ましいと思った事はある。僕は才能を欲張れない。何の因果か前世の記憶を持って転生して、それで才能の幾つかを使い切ってしまったのかもしれなかったが、今更そのことをどうこう言うつもりはない。

 

 いやそもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 世の中にはそりゃあ、才能の有無でしかどうにかならない事もあるだろう。全てが努力で覆せるなんて、そんな甘い理論は今世でも前世でも通用しない共通論だ。

 

 だがそれでも、非才を嘆いて立ち止まって蹲ってしまうより、努力した方がマシだ。ずっとずっとマシだ。

 何もできないまま、何もしないままに終わってしまうのは―――()()()()()()()

 

 

 だがまぁ、カルネさんの今の地位が、才能だけで築かれたものだとは思わない。きっとあの人なりに精一杯努力を積んだのだろうし、僕が知り得ないところで挫折も経験したのだろう。だからこそあの人は、ああやって誇り高く、美しく在れるのだ。文字通り高嶺の花でありながら、ヒトとして正しく在る事を忘れない。

 

 普通の人が考え得る、ほぼ全てのものを手にしたというのに、それでもあの人はまだ上を目指そうとしているのだ。まだ自分の知らない世界がごまんとあると断言できるその向上心は素直に尊敬できるし、憧れる。

 だからこそ、僕はあの人を「師匠」と呼ぶことに何の躊躇いもないのだけど。 

 

 今世では将来ああいう大人になりたいな、などと柄にもなく思い耽っていると、カルネさんと話していた二人の内の一人、女の子の方が僕の座っている所に向かってどこか緊張した面持ちと足取りで歩いてきた。

 

 

「あ、あのっ‼」

 

「え、あ、はい」

 

「あ、す、スミマセン‼ えっと……《バトルシャトレーヌ》のレルーネさん、ですよね?」

 

「えぇ、はい。確かに僕はレルーネです。末っ子です」

 

 情報量がエラく少ない自己紹介をノリでしてしまったが、それで目の前の少女の表情は一気にパアッと明るくなった。

 

「あのっ、私イッシュ地方の出身なんですけど、イッシュでも《バトルシャトレーヌ》って有名で、雑誌とかで良く見かけていたんですけれど……皆さんの中でも私、レルーネさんの大ファンで‼」

 

「えっ? 僕ですか? 僕はシャトレーヌになってからまだそんなに月日が経っていないんですけれど……姉さんたちではなく?」

 

「は、はいっ。そんなに歳も離れていないのにリーグ上位者の人達や四天王の人達とも互角以上に渡り合える天才トレーナー……お会いできて光栄ですっ」

 

「それは、どうもありがとうございます。……まさかイッシュ地方にまで知られているとは思いませんでした」

 

 ん? あ、いや。何度かイッシュ地方の雑誌記者の人が取材に来た時があったっけ。

 それに《社交界(サロン)》でカミツレさんやフウロさんやシャガさんとかとも会った事があるし、そういう人たちが話を広めてくれているのかもしれない。

 

 それにしても天才、か。

 これでも結構ギリギリなんだけどなぁ。単純な強さだけならルミタン姉さんとか、ラジュルネ姉さんとかの方が強いわけだし。

 

 いやでも折角ファンだと言ってくれたんだから、その理想像を他ならぬ僕本人が壊しにかかるのはいけない事だ。いつかメッキが剥がれる偶像とはいえ、自分から貶めていくのは卑しくもプロの末席としてあってはならない事だと思う。……多分。

 

「あの、その……あ、握手と、えっと……さ、サイン良いですか?」

 

「あ、はい。その程度でしたら幾らでも」

 

 別に減るもんでもないしね。そんなの。

 《バトルハウス》に居る時は観客の人達と直接触れ合う事はないし、挑戦者の人達はポケモンバトルガチ勢だからこういう事を頼んでくる人はあんまりいない。……意外と新鮮かも。

 

 そんなこんなで握手をして、彼女が被っていた帽子のつばの裏地にササッとサインをすると、彼女は生涯の宝物を手にしたかのようなリアクションを見せてくれた。……そんなに嬉しいの? 

 

 すると、彼女の腰に取り付けられていたモンスターボールの内の一つが急に大きく揺れ始め、その中から一匹のポケモンが勝手に飛び出してきた。

 

「あ、ちょ、ケロロン‼ 勝手に出てきちゃダメよ‼」

 

『ご主人ばっかり嬉しがっててずるーい。ボクも遊ぶー』

 

 出てきたのはピョンピョンと元気良く跳ねるケロマツだった。

 かまってかまってと言わんばかりに彼女の足元を動き回るその姿は微笑ましく、しかしあまり激しく動いては他のお客さんの迷惑にもなるため、僕はケロマツと視線を合わせて人差し指を口に当てて静かにするように促す。

 そこで僕は、ある事に気が付いた。

 

「ケロマツをパートナーにしてるという事は、もしかしてプラターヌ博士の?」

 

「は、はい。先程博士に直接お会いして、ポケモン図鑑の完成を頼まれまして……その他にも、その。ジムにも挑戦してポケモンリーグに出る事も目標にして、います」

 

「へぇ」

 

 今年のチャンピオンロードの開放は既に成されたとはいえ、今回のポケモンリーグ・カロス大会への挑戦権受付にはまだまだ時間がある。それこそ、順調なペースで行けば今からバッヂを集め始めても大丈夫なほどに。

 

 だが、そう上手くは行かないのが常と言うものだ。8個のバッヂを集め終わる前に挫折し、トレーナーそのものを止めてしまう人がいるのもザラ。覚悟と根性が無い人に対しての救済措置は無いに等しいのだ。

 

「そうですか」

 

 内心おっかなびっくり、ケロマツの頭を撫でてみる。嚙みつかれでもしたらどうしようかと思ったのだがそれは杞憂に終わり、ツルツルした肌触りが気持ちよかった。

 

「……そういえば、お名前を訊いていませんでしたね」

 

「わ、私の、ですか?」

 

「えぇ。勿論」

 

「せ、セレナです。10歳です」

 

「と、年下なんですか。てっきり―――あぁ、いえ。コホン。それは今はどうでも良くて」

 

 10歳にしては大人びている声色や容貌などは今は本当にどうでも良くて……ん? 今どこからか「お前が言うな」とツッコミを受けた気が……まぁ空耳だろうけど。

 

「バッヂは既に?」

 

「はい。この前ハクダンシティでビオラさんと闘って、それで―――」

 

 セレナはそう言って、ハクダンジムで手に入れたバグバッヂを見せてくれた。最初の通過ジムがハクダンジムという事は、次は―――。

 

「なら次に目指すのはショウヨウジムですか。ミアレシティからだと結構距離がありますから、じっくりと育成をしながら進むことをオススメします」

 

「は、はい。アドバイス、ありがとうございます‼ ……その、レルーネさんもジム巡りの経験が?」

 

「いえ。本格的に長期間旅をしたことはありません。なので本来はセレナさんにアドバイスできるような身の上ではないんですけれどね。……それでもジムリーダーの皆さんと知り合いではありますから」

 

 まぁとは言っても、何かと副業が忙しいビオラさんとはこの前会ったばかりだし、全体的に雰囲気が独特過ぎるゴジカさんともマトモに会話できたことないんだけど。

 

「本当はジムリーダーのタイプや傾向、戦い方まで自分の目で見た方が慣れやすくはあるんです。時には負け続けた方が、分かる時もありますから」

 

「それって……レルーネさんも、ですか?」

 

「えぇ。姉さんたちには随分と仕込まれました」

 

 姉さんたちばかりではない。《社交界(サロン)》では他の地方のジムリーダーや四天王、チャンピオンに至るまで片っ端から戦いを挑んで、そして()()()()()()()

 負け癖が付くのも良くないとルミタン姉さんは言っていたけれど、中途半端に手加減されて勝っても実感が湧かないのだ。

 

 負ける事で、自分に何が足りなかったか、ポケモンたちには何が足りなかったのか、そもそも戦術からして覆すべきではないのかと、幾らでも考える事ができる。強くなれる可能性が生まれてくる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのは有難い事だ。()()()()()()()()()というのは、本当に恵まれている。

 

「勝つ事は大切で、勝ち続ける事は―――まぁ僕の使命みたいなものですけれど、たまには負ける事も必要だと思うんです。本当に」

 

 傲慢な言い方になったという自覚はあるが、それは紛れもない僕の本音だ。

 勝って、勝って、勝ち続けると、自分の戦術やポケモンたちが「最強」であると誤認してしまう。それはダメだ。それは良くない。だってそれは、成長する可能性を完全に摘み取られるという事なのだから。

 

 「最強」のトレーナーの代名詞と言えば、遠くカントー地方の英雄、カントーポケモンリーグ終身名誉トレーナー《紅眼(こうがん)》のレッド。そしてシンオウポケモンリーグチャンピオン、《明星》のシロナ。

 

 彼らは長らく「最強」の代名詞を背負っていたが、決して「無敵」ではなかった。

 レッドの方は公式戦から引退して籠り始めたシロガネ山の山頂でとあるトレーナーに敗北を喫したと言うし、シロナさんも《社交界(サロン)》では何度か負けた姿を目にしている。

 

 彼らは、頂点に君臨してもなお、ポケモンバトルに対する執念を掻き消さない修羅の世界のトレーナーだ。いや、彼らだけではなく、この世界でポケモンバトルというものに魅せられた者は全て悉く。……無論の事、僕も含めて。

 

 本当に一流のトレーナーであれば、勝利からも自らの改善点を洗い出す事ができる。その一つの勝利がこれからの自分にとってどういう意味を為すのか、理解する事ができる。

 

 だけども、僕はバカだ。バカなのだ。「勝利」ではなく、「敗北」する事で多くの経験値を得られる凡庸。ただしそれでは、同じ修羅の世界の住人を満足させる《バトルシャトレーヌ》としては失格だ。

 

 

「慢心はトレーナーを殺します。精神的に。セレナさんがこれからもジム巡りを続けて、カロスリーグに挑戦するというのなら、それだけは忘れないでいて欲しいと思っています」

 

 それも、偉そうな言葉ではあった。

 それでも、ここで例え僕に対する理想像が彼女の中で木っ端微塵に砕かれようとも、それだけは言っておかなくてはならなかった。

 

「ポケモンバトルに「絶対」は存在しません。えぇ、本当に。どれだけ強くなったとしても、どこかに必ず「穴」はある。セレナさんがこれから巡り合うトレーナーの中には、その「穴」を的確に突いてくる人がいるでしょう。

 それは、とてもとても貴重な事です。貴女が強くなるために必要な事です。だから、()()()()()()()()()()()()()。そうしてポケモンと共に強くなっていくという事が、一番大事なんだと思いますよ」

 

 「ポケモンと共に強くなる」。それを体現しているのが幼馴染兼友人のコルニなのだが、何もあれほど極端でなくても良い。

 ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。僕は僕の戦法を確立させるためにフロストケイブの最奥地で修業をしていたが、何度死にかけたか知れない。―――まぁそれくらいしなければ、僕は勝ち続けなければならない重責に耐えきれなかっただろう。

 

 彼女は、セレナは恐らく違うだろう。僕ほど不器用な考えなんて持っていないだろうし、言ってしまえば今の言葉も大きなお世話として捉えたかもしれない。

 だけれども、これからより深くこのポケモンバトルの世界に足を踏み込んでいくからには、それだけは覚えておいて欲しいと切に思ってしまったのだ。

 

 交流が以前からあったわけではない。奇縁があって今回このカフェで出会っただけだというのに、僕は僕なりにできるアドバイスをしてあげたくなってしまっていた。

 それはきっと、僕なりの「ファンサービス」のつもりなのだろう。ここまで目を輝かせてファンだと言ってくれた人が、致命的な挫折でこの世界に悪印象を持ってほしくないという、ただそれだけの我儘だ。

 

 しかしそれにしてもクドく言い過ぎたかな、なんて思っていると、いつの間にやらカフェの空気がシンと静まり返っているのにようやく気が付いた。

 あ、ヤバい。やっちゃったかなと思わず冷や汗を流しそうになったが、その前にセレナが驚いた表情のままに口を開いた。

 

 

「私……私、レルーネさんの事、少し誤解していたかもしれません」

 

「?」

 

「いつもクールで、何事にも動じなくて、冷静沈着にバトルともポケモンとも接する―――そんな感じだと思っていました」

 

 でも、違うんですね、と。セレナは落胆ではなく、喜色を滲ませてそう言った。

 

「凄く、真剣で熱い人だって。そういう積み重ねがあったからこそ、ああやってフィールドで輝いていられるんだって。……私、もっともっとレルーネさんのファンになりました‼」

 

 そう言うセレナの目は、爛々とやる気に満ち溢れていた。

 そしてその言葉に、他ならぬ僕自身も少なからず安堵していた。旅立ったばかりのトレーナーの心の中に何かを残す事ができたのならば、不肖ではあるが先達としてこれ程嬉しい事はない。

 

 ……そんな事を思っておいて、「心が老けたなぁ」と自己嫌悪に陥るのは後にしよう。うん。

 

 

 「中々熱いファンサービスじゃない、レルーネ」

 

 すると、もう一人の男の子と会話をしていたカルネさんが、良い笑顔を浮かべながら再び席の近くに戻ってきた。

 

「セレナちゃん、だったかしら? レルーネ(この子)がここまで熱を入れて何かを伝えるなんてそうそうないの。……よっぽど貴女に期待しているんでしょうね」

 

「ふぇ⁉ き、期待ですか⁉」

 

 カルネさんの言葉にセレナの声が上擦る。……期待? 期待かぁ。

 

 いやまぁそりゃあファンの人がトレーナーとして大成してくれたらこれ程嬉しい事はない。特に彼女はケロマツの懐きようを見るにポケモンとの接し方も最初から心得てるみたいだし、少なくとも最初とはいえジムを一つ攻略できる程の腕前も持ち合わせている。

 

 ジムを攻略するというのは、簡単な事ではない。生半可な実力ではジムリーダーに行き着く前にジムトレーナーにボコボコにされるし、ジムリーダーも挑戦者の力量を見定めるプロ集団だ。

 所持しているジムバッヂの数で手加減の度合いを決め、所持バッヂ6、7個目あたりからはかなり容赦が無くなってくる。それこそ、8個目のジムバッヂを賭けた戦いでは、公式大会で見せるような「限りなくガチに近い手加減」で迎え撃っている。

 

 一般的に関門となるのは6個目からと言われているけれど、僕からすれば最初の1個目でそのトレーナーにポケモンバトルの適性が備わっているか否かが分かると思う。

 何度も何度も挑んで、それでも勝てなくて、結果的にゴリ押しで通そうというトレーナーは……残念ではあるけれど、トレーナーとしての適性は限りなく薄いだろう。

 

 これは「才能」云々以前の話だ。適性がないトレーナーに闘う事を義務付けても、トレーナーもポケモンも幸せになれない。だからこそジムリーダーは、非情に現実を突きつける覚悟も必要になる。

 

 

 そんな「関門」を、彼女は超えてきたのだ。恐らくは、然程苦労をする事もなく。

 ……いや、苦労はしただろう。そこいらのトレーナーとは技量が違うジムリーダーに苦戦させられたに違いない。特にむしタイプはトリッキーな技を覚える為、厄介だ。

 

 そんな彼女から、忌避感や疲労感の類は感じられない。寧ろ、知らない世界をもっと見たい、もっともっと色々なトレーナーと出会ってポケモンバトルをしたいという熱意が伝わってきて―――。

 

「……あぁ」

 

 そうか。そういう事か。

 

 彼女は、セレナは()()()()()()()()。この時代に再び生まれ落ちて、この時代のポケモンバトルに魅せられた、あの瞬間の僕と。

 

 そういう意味なら、確かに期待しているのかもしれない。彼女がこのままトレーナーとして成長すれば、いずれは―――。

 

 

「カルネさん、ファンサービスついでに少し付き合ってくれませんか?」

 

 シュヴァリエ(ギルガルド)をモンスターボールに戻し、それを数回手玉する。それだけで、カルネさんは僕の意図を汲み取ってくれた。

 普段、ファンの前では絶対に見せないであろう好戦的な笑み。「チャンピオン・カルネ」だけが見せるそれを、他のお客さんからは見えない位置で、一瞬だけ浮かべてくれた。

 

「先輩トレーナーとしての(はなむけ)と言ったところかしら?」

 

「そんな格好つけたモノじゃあありません。ちょっと()()()きてしまったのでお相手願おうかと思っただけで」

 

「バレるとカロスポケモン協会が少し煩くなるのだけど……まぁ良いわ。久しぶりの弟子の我儘ですもの」

 

 二人だけにしか聞こえない声量でそう言い合うと、カルネさんはテーブルの上にあった会計票を流れる仕草でスッと取っていった。

 

 一度、奢られてばかりは嫌だからと僕が会計票を取ろうとした事があったのだが、その時カルネさんはニッコリと笑いながら「もしかして私は可愛い弟子の分まで奢る程度の甲斐性もないと思われているのかしら?」と威嚇してきたので、それ以来はこうしてお言葉に甘えるようにしている。一応、「ごちそうさまです」という言葉は忘れていないけれど。

 

「あ、その、えっと……」

 

「私たちは少し場所を移すから、あなたたちもいらっしゃい。―――マスター、お会計を」

 

 会計票と重ねて何だか目が眩むようなギラギラな色のカードをマスターに渡すカルネさんを横目で見ながら、僕はボーラーハットを被り直して陽の光の下に出る。

 店内のお客さんの行動が気になるが―――まぁその辺りはカルネさんのサーナイトが()()()()()だろう。犯罪ではない程度に複数人の人の記憶をちょちょいと操る事など、彼女にとっては朝飯前だ。

 

 そういえば、男の子―――カルムと呼ばれていた子とはまだ挨拶をしていなかったなと思い、おずおずと店内から出てきた二人に、再び向き合う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、久しぶりだねレルーネ君。去年の暮れに会った以来じゃないかい?」

 

「えぇ、お久しぶりですプラターヌ博士。相変わらず胡散臭い笑顔ですね。飄々とした感じがやっぱり拍車をかけていますよ」

 

「ホラ言ったじゃないですか博士。博士はもう少し爽やかな笑顔をご研究された方が良いとあれほど」

 

「ジーナ、至極真面目な顔で言葉のボディーブローを叩き込むのはやめた方が良いと思うんだけどなぁ」

 

 もう既に恒例となっていると言っても過言でもないやり取りを『カフェ・ソレイユ』の近くに位置する『プラターヌポケモン研究所』のロビーで交わす僕たち。

 ジーナとデクシオも、もうすっかり見慣れた顔だ。二人ともエリートトレーナーとして2年前にはバッヂを8個集め、カロスリーグに出場した程の実力者である。

 

 そして出会い頭に僕が挨拶代わりの罵倒をいつも通り浴びせたにもかかわらずやはり毛程も傷ついた様子もなく「ハハハ」と陽気に笑っているのがプラターヌ博士。

 一見飄々としたただのイケメンだが、シンオウ地方を拠点とするポケモン進化学の権威、ナナカマド博士の下で学んでいた弟子の一人であり、カロス地方に於いて独特の進化理論「メガシンカ」の定義を学術的に生み出した天才なのだ。

 

「相変わらずヒドいなぁ。……いやでも、シロナ君からも毎回通信する度に同じ事言われてるしなぁ。この前なんか「貴方、いつ見ても悪の組織の裏ボスって感じよね」って言われたし」

 

「あ、それ分かる」

 

「博士、やっぱりポケウッドで映画に出てみないかしら? 私の勘では良い感じにファンが付くと思うのだけど」

 

「身に余る光栄なのですけどね、カルネさん。本業を疎かにするとナナカマド博士(師匠)からの容赦ない檄が飛んでくるので辞退させていただきます」

 

 そんな他愛のないやり取りを続けていたら、完全に蚊帳の外だった二人の内、カルム君が「あのー……」と遠慮がちに声をかけてきた。

 

「えっと、カルネさんとレルーネさんは研究所で何を?」

 

「あぁ、そうでしたそうでした。―――プラターヌ博士」

 

「うん?」

 

「戦闘データ取ってもいいので、地下の模擬戦闘施設(シュミレートエリア)貸してください。……ちょっとカルネさんと僕で1vs1(ワンバトル)したいので」

 

「乗った‼ 幾らでも使ってくれたまえ‼ チャンピオンと《バトルシャトレーヌ》の戦闘データなんて滅多に取れるものじゃないからね‼」

 

 良い意味でも悪い意味でも「研究者」で良かったと思いながら、僕は内心でガッツポーズをした。

 

 基本、チャンピオンはその地方のポケモン協会が許可をした相手としかポケモンバトルをしてはいけないという暗黙の了解がある。チャンピオンになるという事は、その地方では絶対視されるという事と同義の為、「チャンピオン」の品格、品位を貶めない為という尤もらしい言い分はあるのだが―――まぁ要は野良試合でもし負けようものならば協会の名にも傷がつくという事だ。

 

 僕がカルネさんに一時期教えを乞うていたというのは、《社交界(サロン)》に集ったトレーナーや、協会の一部関係者しか広まっていない情報だ。幾らシャトレーヌの一人という肩書きを持っているとはいえ、おいそれと衆目に晒されている場所でバトルをしようものならば、協会上層部の方々が泡を吹いて倒れる姿は容易に想像できる。

 

 だから、秘匿性が高い場所で行う事が前提条件だった。今まではカルネさんが所有する別荘地などで幾度もバトルをしていたが、今回はそうも言っていられない。

 此方が提供できる研究所へのメリットを早々に提示して研究所地下施設を使わせてもらう事が、一番手っ取り早かった。

 

 

「バトル……ですか?」

 

「えっと、もしかして私達、そのバトル……」

 

「えぇ。見て行ってください。まぁ僕とカルネさんがこういう事するのは別に初めての事じゃないので遠慮はいらないですよ」

 

 該当する地下施設に向かうエレベーターの中で、僕はそう説明する。

 彼ら二人を招くことになったのは本当にたまたまだが、観戦にお金を取るつもりなどは毛頭ない。これは所謂、「先行投資」というヤツだ。

 

 

 チン、とベルが鳴ると共に、白い外壁で覆われた地下施設への入り口が開く。

 

 些か予想外の事にはなったが―――まぁ、全く以て許容範囲内だ。

 烏滸がましい事ではあると思うけれど、追うべき背中の力を五感で感じてもらうのも、悪くはないと感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q:レッドさんって目、赤かったっけ?
A:pixivレッドって事で一つ。

Q:おい、フラダリさんどこやった。
A:不必要(断言)


 ニコ動でカキの試練の動画が挙がっててもう一度大爆笑した十三です。あれクソ真面目でやったのかなぁ。それともネタ……いや、ネタだよな、うん。マイリス登録しちゃったよ。

 あ、それと。活動報告で挙げましたが、タイトルと前書きを変えました。中身は一切変わっていません。
 

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