時代転生のシャトレーヌ   作:十三

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※登場人物紹介

■レルーネ
 本作の主人公。11歳の女の子。しかし前世は男性。ポケモンバトルという果て無き修羅道に家族ぐるみで囚われた、ある意味哀れな人物。
 姉達と同じく『バトルシャトレーヌ』の一角。最近は「常連さん」たちがチャンピオンロード猛ダッシュ中なので暇をしている。

■マーシュ
 クノエジムジムリーダー。フェアリータイプの使い手。
 レルーネの幼馴染であり、どちらかが遊びに行った際にはレルーネに振袖を着せて遊んでいる。
 原作よりもバトルの勝敗に貪欲っぽい。

■ラジュルネ
 シャトレーヌの次女にしてTHE・ツンデレ。感情の起伏が激しいが、面倒見が良いお姉ちゃん。方言は姉妹の中で一番キツい。(筆者的にもキツい)

■ルミタン
 (あらゆる意味で)姉妹最強。



※今作より一人称と三人称を切り替える事があります。
 切り替える場合は「■―――■―――■」で表示をいたします。これにより「一人称→三人称」もしくは「三人称→一人称」を区別させていただきます。




Episode 2 挑め戦意も高らかに

 

 

 

 

 

 

「というわけで、近々遊びに来る予定はありませんか? マーシュ」

 

『いきなり連絡してきたかと思ったら……えらい唐突やなぁ』

 

 まぁ今日のジムリーダーのお仕事は終わっとったからええんけど、と。通話口の向こう側の幼馴染は呆れたような声でそう言った。

 

『どないしはったん? いつもはそない積極的に自分からバトルしようとせんのに』

 

「常連のお客さんがポケモンリーグ一番乗りに挑むためにチャンピオンロード解禁と同時に飛び込んで行って修羅ってるんです。今頃あの中は阿鼻叫喚の地獄絵図になってますよ」

 

『……そういえばもうそんな季節やねぇ。2年にいっぺんのお祭りやさかい、今年もたーくさん盛り上がるんやろねぇ』

 

「マーシュは参加しないんですか?」

 

 カロス地方に限らず、ポケモンリーグには一般枠とは別に各ジムリーダーも参加できる権利を持っている。

 元々ジムリーダーという職業自体、ポケモン協会から正式に実力を認められて就任するものであるため、その参加特典として予選の免除などの待遇を受けるのだが、それ以外は他の参加者と変わりない。

 

 唯一違うところがあるとするならば―――普段は挑戦者の力量に沿った戦い方を強いられるジムリーダーが、何の縛りも(しがらみ)もなく本気のパーティーメンバーで挑み、本気で勝ちに来るという事だ。

 

 

『うちは参加せぇへんよ? いろんなポケモン達と会えるのは、まぁ確かに魅力的なんやけどねぇ。レルーネも知ってると思うんけど、うちの本命はリーグ戦後の《バトルシャトー》の集まりなんよ』

 

「あー……」

 

 彼女が言っているのは、その言葉通りポケモンリーグが閉幕した後や毎年の年末近くの、俗に「オフシーズン」と呼ばれる時期に各地方から暇を持て余した「爵位持ち」のジムリーダーや四天王、果てはチャンピオンまでもが《バトルシャトー》に集い、思う存分戦い尽くす行事の事だ。

 その煽りでウチ―――《バトルハウス》にも随分とポケモンバトルの粋を極めた絶対強者達が立ち寄るのだが、四天王クラスやベテランのジムリーダークラスになると、大分強さがおかしい。

 

 まぁ、自分達みたいな未熟者からしてみれば、色々と学ぶところが多くあるため、寧ろウェルカムなのだ。それに、そんな有名人達が集うとあれば、コボクタウンもキナンシティも観光客でウハウハになる。まさにWin-Winの関係だ。

 

 

『リーグ戦に参加したら、うちのポケモン達の情報が分かってしまうんよ。一応頑張って愛情込めて育てたからなぁ』

 

「リベンジですか? 2年前にキョウさんとダイゴさんに惨敗したの、アレ根に持ってたんですね」

 

『うちはそんなに勝ち負けにはこだわらないつもりだったんやけどねぇ。……あの時からちょーっと「悔しい」って思い始めたんよ。ガンピはんにも手伝ってもろうて、うちなりに頑張ってみたんよ』

 

「ホント、変わりましたねマーシュ。良い意味で」

 

 この幼馴染は、昔は本当にバトルの勝敗などどうでもよいと思っている節があった。それでもジムリーダーにまで登り詰めたのはやはり才能がなせる技だったのだろうが―――今やすっかり胸の内に”勝利”を抱くような、真っ当なトレーナーとして生きている。

 

 ……まぁそれは、人の事は言えない。自分だってその一人だ。

 

 転生してこの世界に生まれた当初は……そりゃあ酷かったと思う。

 前世では戦場でポケモンを使役する癖が染みついちゃっていたから、ポケモンを戦わせること自体に恐怖していた。

 そんな恐怖感を拭ってくれたのが姉さん達だった。

 

 姉さんたちがいてくれたから―――僕は今こうして「勝利」を求めていられる。

 

 トレーナーとして、戦い続けていられる。

 

 

『まぁそれを抜きにしてもやなぁ。まだ新人トレーナーさん辺りはバッヂ3、4個辺りでうちのところまで来てなかったりするんよ。そないな感じで、今クノエシティを離れるわけには……』

 

「あー……そうですね。そうですよね。無理を言ってすみませんでした、マーシュ」

 

『友達としてどうにかしてあげたいのは山々なんやけどねぇ。コルニ辺りを誘うのはどうなん?』

 

「コルニはリーグに参戦するようで、挑戦者さんの相手をしながら『映し身の洞窟』の最深部で相棒(ルカリオ)と一緒に潜ってますよ」

 

 あのハイテンションな格闘系女子とも昔ながらの友人だが、流石に闘気を極限まで研ぎ澄ませているところにこのノリで誘う訳にはいかない。僕だってそれくらいの空気は読めているつもりだった。

 というか、ルカリオと長時間スパーリングができるなどという、半分人間やめちゃってるあの子の機嫌を損ねたくないというのが一番の理由ではあるのだが。

 

 とはいえ、不完全燃焼気味であるのもまた事実である。定期的に姉さんたちとバトルはしているのだが、互いに手の内が読めている間柄と言うのは、時にやりにくい。

 だからこそ、今まで一度も戦った事のない、それこそ全く未知のバトルをしてみたいと求めているのだが……常連さんたちがまとめて修羅ロードを爆走している今の時期は、こういっては何だがあまり強いお客さんが来ないのだ。

 

 こういう時は、挑戦者を待つ形になる『シャトレーヌ』という地位は少しもどかしくなってしまう。……勿論不満はないんだけど。

 

 

『ふふ、お互い思うところがあるみたいやなぁ』

 

「そうですね。―――まぁ、シャトー戦前に調整がしたかったらいつでも言ってください。相手になりますから」

 

『おおきになぁ。……ふぁ。……ゴメンなぁ、ちょっと眠くなって来たんよ』

 

 ふと部屋の中の時計を見てみると、時刻は午後の9時を指していた。

 僕より2歳も年上の筈のマーシュだが、昔から夜には滅法弱い。彼女の緩い欠伸を聞いて、話し始めてから意外と時間が経っていたことに気付いた。

 

「うん、それじゃあおやすみ。―――頑張ってね、色々と」

 

『おおきになぁ』

 

 その言葉を区切りに、通信は終わる。

 

 

 《バトルハウス》に併設された、僕達姉妹が住まう家。両親が遺していったものの一つであり、豪邸とまではいかなくとも、そこそこの広さを誇っている。

 その広さ故に一応お手伝いさんを雇ってはいるのだが、ルミタン姉さんの方針によって「自分達でできる事は自分達でやる」という事になっている。

 お陰で前世ではとんと無頓着だった炊事洗濯掃除なども今では慣れたものだ。というより、最近では大分楽しくなってきた程だ。

 

 今僕がいるのは自室なのだが、掃除などは僕自身がしている。……まぁとはいえ、ラニュイ姉さんみたいに部屋内にぬいぐるみが散乱しているなどという事はないため、随分と物寂しい部屋ではあるのだが。

 

「うーん……」

 

 椅子の背もたれに寄りかかりながら、新しくアテを考える。

 

 そもそも、僕の友人関係はそこまで広くない。ジムリーダーで知り合いなのはマーシュとコルニ、それとシトロンとウルップさんとフクジさん……そんなに少なくもないか?

 とはいえ、マーシュとコルニは誘う訳にはいかず、シトロンもミアレシティという大都会のジムを仕切る立場として多忙を極めている時期だろう。ウルップさんやフクジさんはポケモンリーグの運営委員会の一員でもあるというから、無茶なお願いは出来ない。

 

 やっぱりただのワガママなのかなぁと思う一方で、それでも諦めきれない自分に対して、思わず苦笑がこぼれてしまう。

 思えば随分と―――「強者」と戦う事が好きになってしまったものである。

 

 

「レルーネ? お風呂空いたけん。はよ入りない」

 

 ボーっとそんなとりとめのない事を考えていると、いつの間にやら自室のドアを開けてラジュルネ姉さんがそんな事を言ってきていた。

 いやまぁ、僕はあまりそんな事は気にしないのだが、せめてノックぐらいはして下さいよと訴えてみれば、姉さんは何度もしたのだという。それほどまでに思考に没頭していたのだと改めて知った。

 

「……なんばしよっと? そげなヤヤコマが豆鉄砲食らったみたいな顔ばして」

 

 いつもは二つ結びにしている姉さんの桃色の髪は、今はストレートに流されている。いつもの『シャトレーヌ』としてではないその姿も家族である為に見慣れたものなのだが、妹の贔屓目なしでも綺麗だなと思ってしまうものだった。

 

「……ラジュルネ姉さん」

 

「?」

 

「僕って……女性らしくないですかね?」

 

 一応、ホントに一応ではあるが、前世では男性だった身だ。だから、こういう事を訊くこと自体間違いだという事は分かる。

 とはいえ、11年もずっと女性として振る舞っていると、もはや自分が嘗て男性であったという事すら希薄になって来る。もうこのまま女性として生きて行く事に関して思うところは今更何もないし、どうせなら女性らしく在ろうと思っていた……筈だったのだが。

 

 こう……なんというか、改めてこういった姉さんたちの「女性らしさ」を見せつけられると、柄にもなく劣等感を覚えてしまう。

 今世は生まれてこの方オシャレなど自発的に気にした事は一切なかったし、余所行きの服を選ぶのは大体姉さん達かカルネ師匠のどちらかだし、髪形も手入れが面倒くさいからショート気味にしているだけだし、好きな食べ物を暴飲暴食とか普通にするしで―――正直ヤバいんじゃないかとは思っているのだ。これでも。

 

「……そいはアタシじゃなくて、ルミタン姉さんやルスワースに相談した方が良かっちゃない?」

 

「いえ何となく。ルミタン姉さんには上手くはぐらかされそうですし、ルスワール姉さんはテンパるのが目に見えていますし」

 

「ラニュイは?」

 

「「そんな事よりお腹すいたけん‼」とか言いそうですし」

 

 まぁ、進んで異性にモテたいとか、そんな事は微塵も思っていないのだけど、やはり最低限、女性として生きていくには譲れない一線というものはあるのだろう。それを全く気にしてこなかった僕は、その時点で色々失格なのかもしれないが。

 

「……んじゃあまぁ、アタシの口から言わせてもらえば―――」

 

「…………」

 

「馬鹿じゃなかと?」

 

 ラジュルネ姉さんはただそう言い放って深い深い溜息を吐くと、ズンズンと僕の方に近寄ってきて、徐に僕の腰回りと髪に手を伸ばしてきた。

 

「ちょ、姉さん?」

 

「寧ろアタシの方が羨ましいばい‼ あんだけ食べてなしてこぎゃん細かん⁉ なしてまともなケアもしとらんのに髪の毛こげん綺麗なん⁉」

 

「そ、そう言われましても……ちょ、くすぐったいですってば」

 

「アンタ、これで「女性らしくなか」なんて言ったら世ん女性の8割ば敵に回すとよ? 覚えておくばい」

 

 ふんす、と、マジで憤慨した様子で姉さんはそう言い、鋭い眼光で睨み付けてきた。

 どうやら知らず知らずのうちに地雷を踏んでしまったらしいと理解すると、しかし姉さんは今度は少し優し気に嘆息した。

 

「まぁ、レルーネはそういう事に疎いのは分かってるたい。アタシも人ん事は言えなかばってん、レルーネはもう少し自分に素直になった方が良かとよ?」

 

「素直に、ですか」

 

「人間、素直に生きてる時が一番輝いとるんばい。ばってん、アタシは我慢せん。この場所で強かトレーナーと戦い続けて、そいでトリプルバトル最強んトレーナーになるけん。―――目指しとるんはそれだけたい」

 

 

 トリプルバトルは、イッシュ地方を起源としてレギュレーション化されたバトル方法。正式な形式として認識されたのは最近の事であり、広まっているのは主にカロス、イッシュ、ホウエンの三地方だけである。

 ラジュルネ姉さんは、そのバトルに魅せられた。ポケモンを3体同士で同時に戦わせるこのバトル形式は、シングル6vs6とはまた違う意味での特殊な指揮能力を求められる。

 

 そんな世界で、ラジュルネ姉さんは”最強”になろうとしている。それだけを一心に追い続けるその姿は、やはり眩しく見えて仕方がなかった。

 

 

「レルーネは……ふふっ、わざわざ言わなくてもよかね。ホウエンには「花より団子」っちゅう諺があっけんばってん、まさにそげな感じやね」

 

「……変、ではないですよね? 多分」

 

「まぁ、この一家に生まれた宿命みたいなもんたい。悪い事ではなかとよ? そんな妹に、ホラ、プレゼントたい」

 

 少し笑ってラジュルネ姉さんが差し出してきたのは、1枚の名刺だった。

 

「これは?」

 

「ミアレシティのエテアベニュー沿いにある『ミアレ出版』、知っとるけんね?」

 

「まぁ、そりゃあ……」

 

 寧ろカロス地方に住んでいる人の中で、その名前を知らない人はあまりいないだろう。

 カロスで最もメジャーな週刊雑誌『ミアレルヴュー』を始めとして様々な人気雑誌を刊行している出版社だ。かくいう僕も定期購読ではないがたまに読んでいる。

 

「今度、ミアレ出版のジャーナリストがウチに取材に来ることになったけん、レルーネには明日伝えようと思ったばってん、ちょうどよか」

 

「?」

 

「取材ついでにエキシビションマッチをそのジャーナリストとする事になったけん。ホントはルミタン姉さんが相手ばすることになっとんたんやけど、ちょうどよかね、レルーネに代わって貰うばい」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。ルミタン姉さんが相手をする事になってたって、その相手の人、そんなに強いんですか?」

 

 思わず食い気味にそう尋ねると、ラジュルネ姉さんは挑発的に口角を釣り上げた。

 

「なんや、知らんかったんね」

 

 姉さんが自分のホロキャスターを操作して一枚の画像を呼び出す。

 その人物は、直接会った事はなくとも知っている人物の顔写真だった。

 

 

「《舞蟲使い》ビオラ―――ハクダンシティジムジムリーダーで、《バトルシャトー》認定『侯爵(マーショネス)』―――相手にとって不足なか?」

 

 

 無論、そんなものは―――ある筈がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■―――■―――■

 

 

 

 

 

 

 

 

 カロス地方に於いて、そこそこの実力を身に着けたトレーナーの中で《バトルシャトレーヌ》の存在を知らない者はまずいないと言っても過言ではない。

 

 大都市ミアレシティの一角に存在するミアレステーションから高速鉄道TMVに揺られる事およそ1時間、カロス南部の街、キナンシティに彼女たちがいる施設、《バトルハウス》はある。

 

 

 

 キナン在住の一般市民を除けば、その場所を訪れる人物の大半は果て無きバトルを追い求めるポケモントレーナー……つまりは修羅の道に足を踏み入れた者達だ。

 

 その場所に集う者達の中には、嘗てポケモンリーグで好成績を収めたトレーナーが珍しくもなくいる。しかし《バトルハウス》内では、それらの経歴は一切意味をなさない。

 必要なのは、ただ勝利を積み重ねる事。権威も富も関係なく、勝者のみが観客と他の挑戦者の羨望を集める事ができる。

 

 そしてそんな彼らが最後に挑むのが《妖艶なる五姉妹(コケティッシュ・ファイブ・シスターズ)》―――《バトルシャトレーヌ》五姉妹という訳なのである。

 

 

 他の複数地方に存在する《バトルフロンティア》の頂点『フロンティアブレーン』。

 シンオウ地方に聳え立つ《バトルタワー》の支配者『タワータイクーン』。

 イッシュ地方の地下を熱狂させる《バトルサブウェイ》のリーダー『サブウェイマスター』。

 

 これらと並び称され、代表的なポケモンリーグと比肩するかのような熱狂ぶりを一身に受ける彼女らの強さは、他地方のトレーナーすらも風の噂で聞くほどだ。

 

 姉妹全てが《バトルシャトー》支配人より《侯爵(マーショネス)》位階相当の名誉が授けられており、その中でも長女ルミタンは最上位級位階《公爵(ダッチェス)》を戴くカロス地方最強クラスのトレーナーである。

 

 

 無論、フリーのカメラマンとはいえ、ジムリーダーの一角を務める身として、ビオラもその存在は知っていた。

 

 だがそれでも、直接顔を合わせるというのは今回が初めてとなる。ビオラもしばしば《バトルシャトー》の方には顔を出しているのだが、彼女らは基本、その社交場には顔を出さない。

 だからこそ今回、『ミアレ出版』に務める姉のパンジーからカメラマンとしての同行をお願いされた時は、二つ返事で了承した。カメラマンとしての仕事以外に魅力的な事があったのは否定できなかったが。

 

 

「―――ではこれでインタビューは終わりにさせていただきます。ご協力、ありがとうございました」

 

「いえいえ、此方こそ大したおもてなしも出来ずに申し訳ありませんでした。ご満足いただけましたか?」

 

「フフッ、それはもう。《バトルシャトレーヌ》の取材を担当させていただいてとても良かったと思っております。本来なら編集長もご挨拶に伺う手はずだったんですが……申し訳ないです」

 

「ミアレ出版の編集長さんがご多忙を極めているのは存じていますわ。お気になさらないでください」

 

 言葉を交わしているのはパンジーと、シャトレーヌの長女ルミタン。そして他の姉妹も横に並ぶ形で全員揃っていた。

 

 

 イッシュ地方で興ったローテーションバトルをカロス地方で広めた立役者であり、姉妹最強と謳われる、長女ルミタン。

 シャトレーヌ就任以前はホウエン地方でその勇名を轟かせていたトリプルバトルのプロフェッショナル、次女ラジュルネ。

 その外見や言動に似合わず、決してバトルでの”読み”を外す事がないダブルバトルの申し子、三女ルスワール。

 速攻バトルの代名詞にして、天性のバトルテクニックを有する才子、四女ラニュイ。

 

 そして―――末妹ながら『バトルハウス』を訪れた数多の他地方のジムリーダー、四天王、チャンピオンを相手に肩を並べる6vs6の強者、五女レルーネ。

 

 

 全員が、それぞれ異なる強者のオーラを発している。

 それもその筈。若いながら彼女らは、ポケモンバトルという終わりのない研鑽に魅せられたトレーナー達の挑戦を受け続けてなお、それでも「強者」として、「頂点」として君臨し続けなければならないのである。

 

 

「ビオラ、写真は大丈夫そう?」

 

「ん、大丈夫よ姉さん。良い感じ」

 

 愛用のカメラを操作して履歴を見てみると、姉妹それぞれの写真と、そして五人が揃った集合写真がバッチリとデータに収められている。

 ここ数年で一番良い写真が撮れたのではないかと自負していると、ルミタンが再度口を開いた。

 

「それでは、次に参りましょうか」

 

「そうですねぇ。……どうやらウチの妹もソワソワしてるみたいですし」

 

 そう言われ、ビオラはらしくもなく焦ったような様子を見せた。

 

 

 シャトレーヌとのエキシビションマッチ。パンジーが今回のインタビューを行うにあたって駄目元で申請した事ではあったが、意外にもルミタンはあっさりとその要請を受け入れた。

 

 通常、『バトルシャトレーヌ』―――それも”本気”の彼女らと戦うには数十連戦にも及ぶ戦いを繰り広げなければならない。

 しかし何事にも例外はある。シャトレーヌ側から招致を差し出す形となったトレーナー、即ち「エキシビションマッチ」の形であれば、直接対戦する事が可能になる。

 

 

 姉からその話を持ちかけられたとき、らしくもなくビオラは疼いた(・・・)

 彼女はジムリーダー以外にもカメラマンとしての顔を持っている為、度を越してバトル狂という訳ではない。―――だがそれでも、話に聞く《バトルシャトレーヌ》の一角と”本気”のバトルができるとあらば、トレーナーとしての本能が疼かずにはいられない。

 

 バッジを6、7個集めた手練れのトレーナーと戦う際は、彼女とて楽しい。逆にまだまだ未熟なトレーナーの力量を見定め、これからどう強くなっていくのかを見定めるのも楽しい。

 だが恐らく、これはまた別の楽しさを味わえることだろう。ジムリーダーとしてではなくただ一人のトレーナーとして、思う存分戦う事ができる。

 

 

「……ふふ、そいやい早速始めましょうか」

 

 言葉に聞きなれない方言が混じると共に、ルミタンの雰囲気に更に強者じみたオーラが混じる。

 まさしくそれは四天王クラスが持ち備えるレベルの雰囲気ではあったが、彼女自身はその場から動こうとしない。

 

「本来ならウチがビオラさんのお相手ばするつもりだったのですけど、妹の中になしてもビオラさんと戦いっち言うてる子がおりましてねぇ。構いませんか?」

 

「私は全然大丈夫です。でもどちらが―――」

 

「―――僕です」

 

 立ち上がったのは、目にも鮮やかな銀色の衣装を身に纏った少女。

 髪も、目も、その衣装と同じ色に染まり、白い肌がコントラストを際立たせている。その幻想的な雰囲気と相俟って、絵画で描かれる妖精であるのだと言われても、別段不思議ではなかった。

 

「未熟な身で我儘を言ってしまい、申し訳ありません。……貴女のジムリーダーとしての腕前は友人たちから聞き及んでおりましたので、是非にと思い、お願いした次第です」

 

 表情は、お世辞にも豊かとは言い難い。それがまた一層人間離れした空気を醸し出しており、魅力の一つではあるのだろう。

 だが、その意思は言葉から充分に汲み取れた。この少女もまた、「憑りつかれた」側の存在だ。(ハート)の奥底では冷めやらぬ闘気が渦巻いているという事が見て取れる。

 

 すると少女は、頭の上に乗せていた帽子を取り、スカートの裾を軽く持ち上げながら一礼をする。

 

 

「『バトルシャトレーヌ』が一角、五女レルーネ。浅熟ではありますが、全力でお相手いたします」

 

 

 そして再びらしくもなく―――ビオラの胸が高鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 というわけで2話でございました。……ハイ、ゴメンナサイ。ポケモン小説なのにポケモンが一体も出てこないとはどういう了見だと仰りたい気持ちは良く分かっております。ホント、ゴメンナサイ。

 次回は初めてのバトル回なので許してくださいお願いします。

 しかし虫ポケモンのガチパかぁ……あ、ちょっと背筋が寒くなってきた。メタられると凄い怖い可能性が大浮上。


PS:
 先日第1話を読んでくれた友人から「レルーネのイラストの表情が分かりにくい」と真正面から指摘がありました。……イラストは本領じゃないんだけどなぁ。
 しかしそのままなのも癪なので、もう一度イラストを挙げます。今回の話の最後のセリフを言っていた時のレルーネという感じで。
 →
【挿絵表示】



 それではまた次回、お会いできれば幸いです。

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