東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~ 作:すずひら
・恐竜との死闘
・ルミャ負傷、半人外化
航海開始から実に10年。
カームベルトの間の海域をあっちにふらふらこっちにふらふら、クルーの死や、現地住民の新クルー入りなどいろいろなことがあった。
そう、現地住民に会ったことが大きいと思う。
文明レベルは低かったけど、紀元前の西洋諸国もしくはエジプトあたりくらいの文明はあった。
言葉が通じなかったのが残念だけど……。
そんなこんなで10年もたったのだけど、その間にクルーにもいろいろと変化があった。
前述のとおり未知の島への上陸時に不慮の事故を迎えてしまったクルーもいるし、未知の病原菌をもらってしまって病気で死んだクルーもいた。
わたしは吸血鬼で病気にとかならないからそういう治療の魔法を開発していなかった。
怪我はまだしも病気になるという発想がなかった。
ラフテルを作った頃なんかは衛生状況が悪いと病気になるから、とかいろいろ考えてたはずなのにね。
長いこと吸血鬼をやっているからか、思考もそっち寄りになってきてるのかな。
まぁ一人が発症した時点で空気感染とかを防ぐように魔法で気流を調整したりしたのが良かったのか他に発症者はいなかった。
それでも悪いことばかりではない。
現地の住民がクルーとして新加入したりね。
中でも特大にハッピーなのはマロンとルミャがくっついたことだ。
恐竜島での一件で二人の仲は急速に接近して、それから三年後には挙式した。
その間にもいろいろなゴタゴタはあったけど。
例えば、ラン。
彼もまたルミャに好意を抱いている一人だった。
実際、ランの方からルミャに告白したこともあったらしい。
青春だねぇ。
ところがどっこい、彼には悲しい宿命があった。
ランの苗字はエドガーという。
そう、彼はルミニアが殺してしまった隣人の老夫婦の孫だったのだ。
実際自分でも気が付いてなかったみたいで、ランの苗字を聞いたルミャが質問して初めて事実が判明したほど。
加えて彼が楽観的で陽気な人物ということもあってランはルミャの事を知ってからも全く恨んでいなかった。
しかし、ルミャの側は彼に対して罪悪感を抱き続けた。
告白されても、負い目なく彼と付き合える自信がなかったそうだ。
このあたりは私もルミャに相談された。
あまりいいアドバイスを贈れた気はしないけど。
なにせわたし700年以上恋愛とかしたことないし……。
さすがにこぁが迫ってきたことを数には数えたくないし……。
まぁそれはともかく、そんなうだうだとした関係が続いていたところで、横からルミャをかっさらっていったのがマロンである。
漁夫の利というか、トンビが油揚げというか。
まーしばらくは酷かったね。
船の中もかなりギスギスした。
結局はルミャが真摯に愛を説き続けたマロンに靡いて、ランが諦めることで決着はついたんだけど。
なんとも可哀想なラン。
私含めクルー一同で盛大に慰めたよ。
彼もまぁ引きずる性格じゃなかったのは幸いかな。
それで、結婚式は船の中で盛大にやった。
私としては教会結婚式のイメージだったんだけど、神父さんとかもいないしそこらへんは実に適当。
実際、神たる私が目の前にいる神前結婚もかくやという状況なわけで、多少の不備は全く気にならないよね。
この頃になるとランも素直に心から祝福していて、彼はほんとにいい好青年だなあと。
いつかいい人が見つかるよ、きっと。
結婚式から七年経って、今では二人の子供もいる。
正直私の妖力を得て、半妖化してるルミャに子供できるのかなと心配だったんだけどいらない心配だったみたいで、無事に男の子と女の子の二人が生まれた。
今では船内で元気いっぱいに走り回る七歳児だ。
……ってことはあいつら結婚する前からやる事やってたってことなんだよね。
うむむ、それは別にいいんだけど、私も一応女の子なわけで。
もうすでに700年以上処女を守ってきているのでどうなのって感じ。
化石だよ化石。
絶対この世界に
生涯独身かぁ……はぁ。
かといってそこらの男を捕まえるのもどうなのって感じだし。
こぁに至っては同性とか以前に、彼女は私の眷属なわけで自慰に近しいものを感じる。
虚しい。
まぁ私は孤高の吸血鬼だからね! 仕方ないね!
吸血鬼になってから性欲を感じたことないし。
さてと、そんな戯言は置いておいて、今は目の前に迫った状況をどうしようかって言う。
「キャプテン。やっぱり登っていくのは無理じゃないかな」
「だよねぇ、船も置いていくことになるし」
航海から10年、初めて航路上の問題が現れた。
いままではどんなに危険な海域でもサンタマリア号の力をもってすればなんてことはなかった。
でも流石に今回ばかりは無理だ。
目の前には左右に遥かに広がる
そう、私たちは今レッドラインにぶち当たってこれ以上先に進めないという状況に陥っているのだ。
航海士のナヴィの見立てによると、このレッドラインはラフテルの南東にあったレッドラインの裏側、ということではないらしい。
いままでの航海で星の位置との関係などからこの世界が球体であることは分かっている。
その前提から考えると、このレッドラインという赤い大陸はこの世界をぐるりと一周するように存在しているみたい。
つまり、私たちはこの世界を半周してきたということ。
世界一周まで半分の道のりを踏破したことになる。
だが、そこで詰まってしまった。
さすがのサンタマリア号もてっぺんさえ見えないレッドラインを空飛んで超えていくのは無理だ。
「もう無理矢理ブチ抜いちゃおうか。全力の大魔法打てば貫通させることもできると思うけど……」
「いやいやいや、キャプテン、それはまずいよ。下手したら地形が変わる程度じゃすまないって」
ウェンの言葉に周りの皆も激しく同意する。
むう。
首振り過ぎ。
とりあえず探査魔法でも打ってみるかな。
「んー、このまま戻るのもアレだし、なんならカームベルトを突っ切ってレッドライン沿いに一周してみねえか? どこかで切れ目があるかもしれないし」
「一考の余地はあるな。しかしラン、カームベルトでどうやって船を動かす気じゃ?」
「そこはほら、あれだよ。ボスの魔法で……」
「つまり何も考えていないわけですね。これだからあなたは単細胞と呼ばれるのです」
「単細胞って呼ぶのはナヴィだけだろ!?」
わーきゃー騒いでいるクルーを尻目に探査魔法を走らせていると、びっくりの情報が入ってきた。
え、なんで。
「ちょっとちょっと、みんな。ここの海凄く深い」
「はい? それがどしたんだ、お頭」
「うーん? 俺も船長の言いたいことがいまいちわからんな。ナヴィは分かるか?」
「……この大陸の下に何かあるということですか、船長?」
「わかんないけど、海底が見つからない。今打ってる探査魔法はソナーみたいに反響で調べてるんだけど、反応が全く返ってこないの」
「しかし海底となると行く方法がありませんね」
「……いや、空を飛ぶよりは現実的かも。船を基点に空間魔法で空気の膜を張って潜れば……制御はそこまで難しくないだろうし……多分低温と水圧は耐えられる……ああ、でも空気膜張ったら沈まなくなっちゃうか。ううん、重力軽減魔法を一時的に解けば沈むかな。あー海王類に襲われたら……」
うむむむむ、ここまで頭を使うのは久しぶりだ。
でもサンタマリア号で深海を探検するにあたっての技術的課題を魔法でなんとかする。
その思考実験は面白いかも。
使える魔法のバリエーションも広がるし……。
「よし、みんなあと三日頂戴。もう少し詳しく調査して、いけそうなら行く。それまで自由時間で遊んでていいよ」
「ですが船長が仕事をしているときに私たちが遊んでいるというのは……」
「いいのいいの。――ちょっと本気で挑戦してみる。しばらく一人にしといて」
★
当初三日だった調査予定は大幅に伸びて一週間かかった。
だがその努力は報われ、フランはレッドラインの下、海底1万メートルの場所に通り抜けられる巨大な穴とそこに存在する巨大な生命反応の情報を得ていた。
しかもその生命体は人間でも海王類でもないようなのだ。
これでテンションが上がらない方がおかしかった。
船を包む空気の膜や、海底へ沈む際の動力など様々な課題も魔法を駆使して解決した。
いざというときの保険に船ごと地上へ送還する広域転移魔法の設置も完了している。
あとは乗り込むだけである。
「いざ、海底1万メートルへ!」
海底1万メートル。
これがどれほどすごいことなのか、クルーは全く分かっていなかったが、フラン自身はよく理解していた。
フランの前世において地球での最も深い深海の深度は1万1000メートルほど。
日本の目の前にあるマリアナ海溝のチャレンジャー海淵である。
その深度まで有人潜水艦が潜れた記録はほとんどなく、その技術的難度は宇宙へ行くのとさほど変わりがない。
数少ない記録も、海底へもぐるための専用の潜水艦を現代科学の粋を集め何年もかけて開発し打ち立てた記録だ。
対してフランはあろうことか
正気の沙汰ではない。
加えて深海の水圧はすさまじい。
海中では水深が10メートル増すごとに水圧が1気圧ずつ増える。
水深1万2000メートルなら1201気圧だ。
つまり、1平方センチ当たり約1.2トンもの力がかかる。
さすがのフランでも生身では一瞬で潰されてしまうであろう驚異の圧力である。
専用の潜水艦はこの恐ろしい圧力に耐えるための様々な機構と工夫を有している。
対してフランは船の周りに空気の膜を張ることで何とかしようとしているのである。
正気の沙汰ではない。
まったくもって狂気の思い付きである。
だが、それでも、それらの問題を解決してしまうのが彼女の用いる魔法、超常の技術だった。
フランの用いる魔法は“フランドール・スカーレット”が魔法少女であることに由来する、もともと訓練なしに使えた基礎的な魔法の仕組みを自身で研究・解明し、発展させたものだ。
ゆえに今回用いるような空気の膜を張る魔法などは一から理論を組み立て、試行錯誤の末に完成させている。
その技量はすでにどこぞの紫の喘息魔女にも匹敵するだろう。
それは驚くべきことかもしれないが、もともとフランの頭の出来は悪くない。
加えてくだんの魔女が100年少々しか生きていないのに対してフランは実に700余年の経験がある。
結果、三日はオーバーしたものの、一週間という期間で見事にこれらの魔法を組み上げていた。
サンタマリア号の見た目は、シャボン玉に包まれたまま海へと沈んでいく帆船。
なかなかに奇妙な光景ではあったが、それを外から見る人間はいない。
船はゆっくりと海底へと向けて沈んでいった。
「船の名前タイタニックにしても良かったかも。マロンとルミャであのポーズを……」
「なんかいったか、船長?」
「いや、なんでも。にしてもみんななんで甲板に出てるの?」
「いやぁ、海のこんな深い場所まで潜るのは珍しいからな。みんな興味津々だよ。かくいう俺も興奮しっぱなしだぜ。いやあ、この眺めはロマンだ」
「まぁたしかにそうかも。でもそろそろ海上からの光が届かなくなるから真っ暗になるよ」
言われてフランが辺りを見回せば色とりどりのとても綺麗な光景が広がっている。
このあたりは熱帯に近い気候だからか熱帯魚のようにカラフルな魚もたくさん泳いでいる。
ちなみに熱帯魚がカラフルなのは周囲にある珊瑚礁に紛れるため、などと言われているが、それを裏付けるように派手な色彩の珊瑚礁も多く見える。
また、時折海王類が姿を見せるが、サンタマリア号を襲おうとはしない。
これはフランのかけた隠ぺい魔法の効果によるものだ。
クルーらは初めて見るそれらの光景にはしゃいでいたが、すぐにフランの言う通りあたりが暗くなり始める。
水深が10メートルを超えたあたりで視界が青に染まっていく。
光の波長の違いにより、赤い光は青い光より多く水分子に吸収されるためである。
そして、100メートルも潜れば届く光は地上の1%なためかなり暗くなり、200メートルを超えたあたりで色の判別が難しくなるほどほとんど視界は効かなくなる。
400メートルを超えればそこは完全な暗闇。
人間の眼では何も見えない暗黒の世界である。
クルーらは豪胆な人間ぞろいだ。
そもそも資質がある一握りの人間が、10年間もの時には命を懸けた未知の冒険をこなし、生き抜いてきた。
だが、そんな彼らでも何も見えない暗黒の世界には僅かながらも恐怖を抱いたらしく、一人、また一人と無言で船室へと入っていく。
甲板に残ったのは、吸血鬼の視力でいまだあたりの様子が見えているフランと、闇に馴染みのあるルミャ、そしてマロンの三人だけだった。
マロンはもう全く見えなくなった周囲を見回して、呟いた。
「これが深海か……完全な暗闇がここまで怖いなんてな。お前はいつもこんな光景を見てるのか?」
「いやいや、そんな情けない顔しないでよマロン。私は確かにヤミヤミの実の能力者だけど私が闇になっていても見える光景は普通だよ。むしろ能力使うたびにいつもこんな暗闇になってたらトラウマものだよ」
「むしろ敵を吸い込んだ時に、敵がこの暗闇に囚われるから精神を……あ、スマン。無遠慮だったな」
「……気にしないで。この10年、自分の罪とはしっかり向き合ったもの。もう私は能力を暴走させることもないし、あなたが――大切な人が危険ならこの能力を使うことにためらいはないよ。ラン君のおじいちゃんとおばあちゃんには本当に申し訳ないけれど……」
「――大丈夫、お前が闇に潰されそうなときは、俺が支えるよ。まだまだ先は長いんだ。二人でゆっくり、罪を償っていこう」
「……うん、ありがと、マロン」
どちらからともなく抱きしめ合いいちゃいちゃし始める二人をじとっとした目で見てから、フランは音も気配もなくそっとその場を離れる。
あの様子では近いうちに熱い口づけが乱舞するだろうと思ってだった。
ちなみに、経験則からくる判断である。
この二人は子供ができてからもこの調子だった。
クルーの前でもおっぱじめるから手に負えない。
「……いいよいいよ。前世でも結局独り身だったし。どーせこの世界でも私はぼっちですよーだ。リア充ばくは――って私が言ったらほんとに爆発させちゃうもんなぁ。……ま、二人が幸せそうならいいや」
見張り台に腰かけたフランは一つため息をついて、頭を振った。
可愛い帽子が左右に揺れる。
「それにしてもこの海。ほんとに不思議だよねぇ」
フランがこのレッドラインにぶつかった時に、すぐに探査魔法を使わなかったのは魔法の存在を思いつかなかったからではない。
大陸にぶつかった時、その下に通り抜けられる穴が開いているなど誰が想像できるだろうか。
加えて問題なのは、その穴が恐ろしく深い位置にあるということだった。
「もう深海6000メートルを超えた……どう考えてもおかしい。大陸の直近に海溝レベルの穴があるってどういうことなの。たしか6000メートル以下の深海は地球上でも海底面積の1%とかだったと思うんだけど……あ、もしかしてこの世界って地球よりかなり大きい惑星の可能性がある? 航海記録もうちょっと真面目につけておけばよかったかなぁ。ナヴィに聞いたらこの世界の大きさ分かんないかな」
砂糖を溶かしたような甘い空気からの現実逃避か、フランはそんなことをぶつぶつ呟きながら
すでに周囲の様子は吸血鬼の眼をもってしても完全な暗闇にしか見えない。
深度100メートル程度ではフランの視界はまだ効いていた。
だが、1000メートルを超えてしまえば光は全て吸収されてしまい、フランの眼にも何も見えなくなる。
吸血鬼となってからフランは、新月の夜ですらはっきりと周囲を見渡せていたため、この世界に来てから、実に700余年ぶりとなる暗闇である。
「懐かしいなぁ。前世の夜ってこんな感じだっけ。……いや、電気とかでもっと明るかったかな。ここまで真っ暗なのはもしかして初体験?」
夜の支配者たる吸血鬼の彼女にとって暗闇とは恐れるものではなく制するものである。
恐怖心などは微塵もない。
ただ、あたりにいるであろう深海魚などを見れないことが残念だった。
――ちなみに、魔法やスペルカードを使えば光源を作ることなどお茶の子さいさいなのだが、そのことには思い至っていない。
フランはしばらくその新鮮な暗闇を楽しんでいた。
ところが、深度9000メートルを超えたあたりから薄ぼんやりと光が見えてくる。
「うんん? なんで海底が明るくなってくるんだろう。海底のおっきな生命反応と何か関わりがあるのかな」
そしてついに深度が1万メートルに達した時、それは姿を現した。
「――うわぁ……なんて、おっきい……」
見えてきた巨大な生命反応の正体。
それは、全長がどれだけあるかもわからない大きな大きな樹だった。
しかもその根は光っており、海底だというのに地上と変わらない明るさが保たれている。
さらに、根の周囲には深海だというのに植物や地上付近でも見ることができるであろう魚が生息している。
根からは大きな気泡が絶えずあふれ出て、地上へと昇っていく。
その幻想的な光景に、船室に引っ込んでいたクルーたちも甲板へ出てくる。
「うわっ、なんだこれ!?」
「ひゃー綺麗だねー」
「……素晴らしい光景だ」
「ふむ……実に興味深い」
フランは海流を操作し、サンタマリア号を巨大な樹木へと近づけていく。
その間も視線は巨大な樹から離せない。
「驚き桃の木山椒の木……いやいや、これはほんと、びっくり……」
フランはかつてないほどの強度と密度で妖気を纏う。
クルーはそのあまりの禍々しさに顔を引きつらせるが、フランはそんなことにまったく頓着しなかった。
そして、その状態で船を覆う空気の層から外へと出る。
本来フランは吸血鬼のため流水が苦手である。
海を渡ることはできても海流があるため海に潜るのは難しい。
加えて今は海中だというのに日光がさしている状態。
それらを妖力で撥ね退け、強行突入しているのである。
それほどフランがこの樹に魅せられていると言ってもいい。
「わぁ、温かい……深海の海水温じゃない……水圧も低い……っていうか、この樹の根から気体が出てる……これは、酸素?」
樹のふもとまでたどり着いたフランは樹の根に触れて、直接探査魔法を行使する。
結果、この樹は海底に生えており、レッドラインを突き抜け遥か彼方の海上1万メートル以上まで伸びているということが判明する。
ここは深海1万メートル。
つまり、この大樹は全長2万メートルを誇る化け物樹木ということである。
しかも大地を割って、だ。
アスファルトから咲くタンポポ、の超スケール版のようなもの。
「しかもこの光は紛れもなく“日光”……。地上の、少なくとも1万メートル以上離れた場所の日光がここまで届いてるんだ……この樹は光を蓄える性質を持っているのかな……。それに、光合成の結果海底にまで酸素が供給されてる。しかも気孔じゃなくて根から放出してるとか……」
どこか陶然としたようにフランは呟きを続ける。
それは未知の大発見を前にした探検家の顔だった。
「それに、光があるからこのあたりだけ光合成をする植物が生えてる。海水温も温かい。水圧が低いのはなんでだろう。酸素濃度が高いのと関係あるのかな」
そのとき、フランの後頭部に何かがぶつかった。
ダメージは一切ないが、フランが振り向くとそれは氷の塊だった。
ふと視線をあげると、その氷塊を作り出したであろうウェンディゴを筆頭にクルー総出で甲板に出て何事かを喚いていた。
しかし、フランとの間には空気の膜と海水があるため声が届かない。
フランは仕方なく一旦調査をやめて船へと戻る。
「どしたのさ」
「いや、どしたのじゃないっすよ船長。あんな楽しそうなところに一人だけ行って」
「そうそう。僕らがいくら叫んでも気が付かないから仕方なく能力で攻撃したんですよ。僕の全力攻撃が毛ほども通用してなかったけど……」
実際は、かなり強固な妖力の防御を纏っていたフランに多少なりとも衝撃を与えられただけでもすごいのだが。
「船長、あの樹はなんなんだ?」
「まったまった。私もよくわからないから調査しに行ってたんだよ。みんなを置いて行ったことは謝るけどさ、あんなの見たらいてもたってもいられなくなるでしょ?」
「まぁ、それは……」
フランの言い訳はクルー全員の同意を得ていた。
10年もの間様々な冒険を繰り返してきたクルーたちはすっかり一流の探検家である。
心構えを含めて。
「すごいよ、あの大樹。光を放つし酸素も送り込んでる。大きさも地上まで届くくらい大きいよ。――あ、酸素があって水圧も低いならみんなも外に出られるようにできるかも」
ちょっと待ってね、と言ってフランは魔法を発動させる。
サンタマリア号を覆う空気の膜の超巨大なものを大樹の周りに張り巡らせたのだ。
勿論地上で使ったわけではないので空気の膜とは言っても内部は海水なのだが、大樹から次々と酸素が供給されていくため、みるみるうちに空気で満たされていく。
空気の膜は徐々に広がっていき、ついにはサンタマリア号の空気膜と接触し、同化した。
これで船は大樹を覆う空気膜の内部に完全に取り込まれた形になる。
「おお、海の中なのに息ができる」
「空気が暖かいですね……」
「すげー。な、船長、あの樹のとこまで行っていいか?」
「いいよ。樹は傷つけないようにね。マロンはちょっと調査に付き合って」
「おう」
フランは眼前に広がる巨大樹を見つめる。
いままで想像もしなかったようなそれは、この世界に来てから最大級の感動を彼女にもたらした。
「マロンじゃないけど、いやぁ、これはロマンだなぁ……」
「なんか言ったか、船長?」
「――いや、なんでもないよ」
魚人島編(魚人島建国よりはるか以前)
ちなみに今の状況はラフテルから出発してグランドラインを逆行、新世界を航行し終えて魚人島まで戻ってきたところです。
魚人島を超えればグランドラインの前半、通称楽園へと突入します。
なおチート船&戦力なのに10年とか時間かかりすぎじゃと思うかもしれませんが、島の探索とかしてるうえログポースなんかないので直線的でもなくかなりのんびりした行程です。ロジャー達の世代もかなり時間かけて攻略しているようですしね。
・原作との矛盾点
原作ではフランキーが魚人島に潜る際「「受光層」を抜けて「薄明層」ももう終わりってトコだな。1000メートルは越えたろう」と言っていますが、水深200メートルを超えると無光層です。
原作ではフランたちが潜ったのと反対側のヤルキマンマングローブが海底までのびるほうから行ったので明るかった、ということにでも。
漫画の演出上必要とはいえ原作主人公たちは深海でも目が完全に見えてますしおすし。
すくなくともフランキーが薄明層が終わりって言ってた1000メートルからもっと深く潜ってるから光は届いていないはずなんですけど、あまり突っ込まないでください。
あと下降流プルームとかありましたけどあれってプルームテクトニクスからきてるんですかね?
これも扱いが難しいので無視させてください。
ワンピ世界の環境はほんと謎……。
・どうでもいいこと
甲板をかん“ば”んで変換しても出てこなくて調べたらかん“ぱ”んだったという。
長年勘違いしていたことが発覚。