東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ

・悪魔の実の発見、流行
・大航海の準備
・ロマンロマン言う植物学者の弟子で剣士の男登場


クルーの選考会と出航前の会議

 

 

船ができたとの報告があって、船旅の準備もほとんど終わった。

あとは船員を決めるだけ。

 

そして今日ついにその選考会がここ央都セントラルで開かれる。

とても楽しみで昨日はちょっとしか寝れなかった。

ちなみに選考は一応決められた方法で行われるけど実際の採用は私が目で見て気に入った人をということらしいので気合が入っている。

 

選考会でトップ取った人を不採用ってなったら普通は非難ごうごうだろうけど、少なくともラフテルで私の決定に不満を持つ人はいないのでそんな方法に落ち着いているのだろう。

……私もすっかりみんなの狂信具合に慣れちゃったなぁ。

 

選考会は国中から候補者を集めて行うらしくて、ざっと見ただけで1000人以上の人が集まっている。

しかもその人たちの誰もが一癖も二癖もありそうなイイ顔をしている。

まぁその道のエキスパートを一か所に集めたらそうなるか。

というかほとんど男の人なんだね。

女性がほとんどいない。

体力ある人の方がいいから仕方ない面もありそうだけど、なんともむさくなりそう。

 

選考会は私の活動時間に合わせて夜に行われる。

場所は央都の一番大きい競技場。

普段はスポーツの大会とかを行っている場所に今は赤々とかがり火が焚かれて夜の闇に照らし出されている。

 

まず最初は開幕の挨拶を私がして、コック候補たちによる料理がみんなに振舞われた。

せっかくみんな央都まできたんだから、ということで結果が出て一喜一憂する前に宴会的な感じでやるらしい。

ちなみにこれはコックたちの選考も兼ねていて、それぞれ一人一品私に料理を差し出して食べる感じだ。

候補者全員分ともなると結構な量だけど、吸血鬼の私は見た目の胃袋の容量以上に大量に食べられるし、魔法を使えばそれこそほぼ無限に食事をすることだって可能だ。

おいしい料理をたくさん食べられるのだから大歓迎。

ちなみに吸血鬼だからか何なのか食べ過ぎると漫画みたいにお腹がポッコリと出たりもする。

まぁ胃袋云々の前に物理法則を無視した体だから何も言えないけど。

 

そうして私は数々の美味しい料理を食べながら心の中で涙した。

かつてこの世界にやってきた時を思い出せば、四苦八苦して作った黒こげの丸焼き、毒がある事を知らずに食べたキノコ、ようやく料理ができそうな状況になっても調味料どころか調理器具さえない状況。

連鎖的に飢えて自分の血を吸って凌いだことまで思い出した。

あれから700余年。

ここまで長かった……。

 

とと、そんなしんみりとした雰囲気になってる場合じゃないね。

今は誰をコックとして連れて行くのか決めなきゃ。

 

――悩んだ末、和服を着た若白髪の男性にすることにした。

料理の味もそうだけど、決め手は私への態度だ。

他の料理人は私に自分の作った料理を食べてもらうだけで感動して泣いてたりしたのだけど、彼だけはそういった過剰な反応をしなかった。

言葉も二言三言交わしただけだけど、それなりに砕けた口調だったし。

正直船旅に出てからもフラン様フラン様と崇められるのは鬱陶しそうだからね。

それにこう、ガサツというか豪快な方が海の男!って感じだし。

 

そのあとは航海士や大工も次々と決めていった。

この人たちもやっぱり私への態度や口調を評価に入れて決めた。

そして最後が特殊技能を持たない一般のクルーの選考。

といってもみんな航海技術は持ってるらしくて、決め手に欠けるんだそう。

そこで一般クルーだけは武闘大会形式で決めるらしい。

まぁ自分の身は自分で守れる方がいいよね。

 

船の大きさ的に10人くらいを選ぶ必要があってとりあえずベスト16まではトーナメント式。

そのあとは決勝まで続けるか、状況を見て総当たりに変えるか、それとも私がパパッと決めちゃってもいいみたい。

 

そして始まった武闘大会。

これがまた、なかなか面白い。

正直私からすれば実力的には犬VS猫……もといカブトムシVSクワガタムシみたいなどんぐりの背比べレベルではあるけれど、かつて私だった前世の頃の感覚で言えば超人たちの戦闘だ。

私にははっきりと見えてるけど、一般人が見たらきっと目に見えないような速さで動いたり岩も砕けそうな威力の蹴りが放たれたりと、なかなかどうして人間も鍛えればこんなことができるのかとすこし驚いた。

彼らなら、かつて古の地で土の民を襲っていたあの魔獣程度ならさほど時間をかけずに打倒することもできるだろう。

人間は700年でここまで強くなるものなのか。

 

彼らは槍とも呼べない粗末な棒を振り回していた先祖とは違い、鍛えられた鋼の剣や槍を用いて明らかに武術の技術があると分かる動きで動いている。

確かに私は空手やら剣道やらの概念をラフテルに広めはしたし、私でも分かるかつ再現可能な技術については初期のころに土の民に身を護る術として伝授した。

しかし、今や彼らが扱う技術はその段階から大きく発展しているように見える。

 

更に加えて彼らの中には悪魔の実の能力者も多数混じっているみたい。

それがまたヴァリエーションに富んでいるので見ててなかなか楽しい。

例えば体を自然物に変化させられるロギアの者たちには物理的な攻撃が効きにくいようで、今も砂に変化する相手に対して槍が効かないので対戦相手は四苦八苦している。

おっ、近くにあった水瓶をぶちまけて……おー砂が水で固まって泥っぽくなって槍が効き始めた。

ああいう機転が利くのはいいね。

あの槍使いは注目しておこうかな。

でもなんであんなところに水瓶……ああ。

あっちの火のロギアがやらかした時用の保険で用意されてたのかな。

砂の人、ドンマイ。

 

とまぁこんな感じで戦いが繰り広げられている。

競技場は広いから一度に何面も試合場がとれるのがいいね。

今のところ悪魔の実の能力者が優勢だけど、ただ中には妖力のような力を纏って強引にロギアを突破する人間もいる。

あの力はなんだろうね。

人間版の妖力みたいな感じだけど。

多少弱弱しいけどそれでもロギアに対して明確にダメージを与えてはいるところをみるとなかなか。

私も妖力を纏えばロギアに触れられるのかな?

 

あとパラミシアはびっくり人間みたいなのがいっぱいいるし、ゾオンは特徴からなんの生物なのか考えるのも面白い。

半獣みたいな形態や完全な獣形態とかいろいろあるし。

 

そんなこんなで試合は進み、ベストエイトが決定してからも決勝戦までやらせることにした。

理由は試合場の面がいくつも取れてスムーズに進んだのと、観客の盛り上がりが結構凄かったからだ。

日が沈んでから始められた今回の選考会は今目の前でやっている決勝戦段階でちょっと日を跨いだぐらい。

みんな深夜テンションも手伝ってか盛り上がってる。

 

決勝戦は氷の悪魔の実の能力者対剣使いの非能力者の試合になった。

面白くていい試合だったけど結果は僅差で、剣使いの方が勝ち。

人間版妖力みたいなのが使えて能力者に有効な攻撃ができたのが大きいっぽい。

勝ったその剣士の名前はマロン。

おいしそうな名前の黒目黒髪短髪中肉中背の男性だ。

あまり特徴のない感じ。

ただ、勝った後大声で「ロマンだ―!」と叫んでいたあたりは特徴的というかなんというか。

自分の名前のマロンとロマンをかけてるのかな?

 

それで優勝した彼はいいとして他のクルーの採用者を決めなきゃと思っていると、優勝者のマロン君から「フラン様(わたし)と手合わせしたい」と提案があった。

それを聞いた周りの人たちはフラン様に剣を向けるなど何を考えているーと大変おかんむりだったけど、私としてはその提案はなんだかなあといった感じだ。

 

確かに彼は人間とは思えない身体能力と剣技で優勝した。

なんか衝撃波みたいなのを剣から飛ばしてたりもしたし、ラフテルの人間の中では最強なんだろうとは思う。

ただ、それだけだ。

人間じゃ吸血鬼(わたし)には勝てないし、眷属の悪魔(こぁ)にすら届かないだろう。

気持ち的には「世界最強のカブトムシに戦いを挑まれてもなぁ」、といったところである。

種族が違うのだからこればっかりは仕方がない。

 

私は吸血鬼で、彼らは人間だ。

 

でもまぁ、彼も私の船のクルーになるわけで、話に聞く「神様」というだけでは命を預けるのに不安を抱くのも当然かもしれない。

なら力を見せる名目で遊ぶのも悪くはないだろうか。

 

そこまで考えて私は彼の申し出を了承した。

マロン君も受けてもらえるとは思っていなかったようで驚いていたけど。

 

もちろん周りの人たちは反対した。

特にこぁはもうすごくて今にもマロン君を殺しそうな目で睨んでいたけど、何とかなだめた。

「私が怪我を負うとでも思っているの?」って言っただけだけど。

 

実際人間どころかこぁでさえ本気で挑んできても私に傷をつけられるかどうか怪しい。

種族の違いという絶対的な壁に加えて私には700年の訓練期間があったのだ。

辞書作りなどでひきこもることが多かったとはいえ、外で体を動かす機会もそれなりに作っていたし、近くの島を消し飛ばす憂さ晴らしをしたことだってある。

一度は全力の殺し合いをしたことも。

 

吸血鬼の身体能力と妖力だけでも十分なのに、そこに加えて私は魔法少女で、今では賢者の石を簡単に生成することだってできる。

さらに『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』なんていう物騒なものまであるのだ。

もうオーバーキルである。

この世界は私と何を戦わせたいのだろう。

漫画の世界だしモノホンの神様とかが地上に全面戦争しかけてきたりしても驚かないけど。

 

と、そんな状況だったので私は快く申し出を了承し、マロン君との一対一の戦闘が始まることになった。

ここで問題がある。

 

……どうやって手加減しよう。

 

 

 

 

冷汗が一筋たれる。

俺は思う。

どうしてこうなってしまったのだろうと。

 

ちょっとした思い付きだったのだ。

俺は船員(クルー)選考の武闘大会を順調に勝ち進んだ。

悪魔の実の能力者など手ごわい相手もいたが、剣に“気”を纏わせればロギアも斬ることができるため、俺はなんとか対処ができていた。

あと周囲を見る限り能力以外の純粋な力量では俺はかなり突出していたようで、ヒヤッとさせられる場面は何度かありながらも順当に優勝した。

 

それで気が大きくなっていたのだろうか。

ふと、「フラン様と戦ったらどうなるのだろう」という思い付きが頭をよぎったのだ。

 

フラン様。

フランドール・スカーレット様。

俺たちラフテルの住民の先祖を助け導き今日の発展を授けてくれたという悪魔の王――吸血鬼にして神様。

無論俺も心の底から尊敬し信仰している。

 

だが、俺はフラン様の力を見たことがない。

それは他の住民も同じだろう。

フラン様が直接手を下さなければならないようなことはここ数百年起こっていない。

それはきっと良いことなのだろうが、どこか釈然としない気はする。

 

フラン様の力を疑う気などは毛頭ない。

だが、ほんの少しでもその力の一端を見たいと思うことは、果たして不敬に当たるのだろうか――。

 

気づけば俺は、フラン様とのエキシビジョンマッチの申し出をしていた。

そして、周囲はそれに猛反対したが、当のフラン様はあっさりと受けてしまった。

ゆえに、冒頭に至る。

 

俺は競技場の中央で剣を構え、フラン様と対峙しているのだ。

フラン様はまったく気負った様子もなく、得物すら持っていない。

だというのに、吹き付ける狂気だけで冷汗が流れる。

 

「さ、それじゃ始めようか」

 

「……武器はいいんですか、フラン様」

 

「ああ、なにかあった方が戦いやすい? じゃあ剣でも……ほいっ」

 

フラン様がそう呟くと次の瞬間、その手には赤く輝く剣があった。

 

「その剣は……」

 

「ああ、これは魔法でちょちょいと作っただけだからただの鉄の剣みたいなものだよ。10分くらいで自壊すると思うし。流石にレーヴァテインを使うわけにもいかないしね。見た目だけ参考にはしたけど」

 

レーヴァテインといえば、かつて俺たちの先祖が与えられた“消えぬ炎”の元になった炎の大剣の事か。

確かにそんなものを使われてしまえば剣術云々の前に俺など消し炭になってしまうだろう。

 

 

「さ、どこからでもかかっておいで」

 

その言葉に俺は一度大きく深呼吸をして、気を落ち着ける。

もとより勝てるとも思っていないし、フラン様を傷つけることが目的ではない。

俺の生涯を共にしてきた剣術がどこまで通用するか、そしてこの世界の一番の高みを少しでも見たい、ただそれだけなのだ。

 

競技場は静まり返っているが、反比例するように熱気は高まっている。

皆なんだかんだ言ってフラン様が力を見せてくれる状況に興奮しているのだ。

 

そう、俺は今から神の御業に挑むのだ。

それは、また、なんというか――

 

「――ロマンだぜ!」

 

初手は様子見などない全力の斬り下ろし。

対してフラン様は構えさえとらない。

しかし、俺の剣がフラン様に当たる直前に剣を握るフラン様の手が一瞬ぶれた。

そして同時に俺の剣に伝わる衝撃。

弾かれた!

手の動きが早すぎて見えなかったのか。

それにしても動きの速さはともかく、ほとんど力を込めていないように見えたのに、手に伝わる衝撃の強さよ。

 

だが俺とてその程度では動揺しない。

すぐさま斬り返すが――それも軽く弾かれる。

左から右から上から下から斬りつけるがそのすべてを一瞬で弾かれてしまう。

弾きにくい突きすらも剣先を見事に払われる。

構えず予備動作なしで剣を弾いているあたり、俺の剣の軌道は完全に見切られているうえに膂力も相手にならない。

ならば!

 

「ふっ!」

 

少し距離を取り、“気”を剣に込め飛ばす。

これならば目には見えないが――。

 

「おっと」

 

首を振るだけでやはり簡単に躱される。

だがそんなことは予想していた。

今度はその隙に同時に3発を放つ。

だが、その攻撃はなんと空いている左手に受け止められ、握りつぶされてしまった。

岩を砕くくらいの威力はあるんだが……。

 

「その妖力みたいのを放つのは私には効かないかな。多分当っても全く意味ないと思う」

 

「……威力が低すぎるってことですか?」

 

吸血鬼のフラン様にはたとえ俺の剣がクリティカルヒットしたところで傷一つ負わない、という可能性は十分にある。

 

「んーそれもあるけど……いや、そうだね。扱いが全然なってないよ。その妖力みたいなの、何て呼んでるの?」

 

「妖力……“気”のことですか。俺の師匠は“覇気”と呼んでいましたが」

 

「ん、その覇気ね。まず出力が低い。体の表面からうっすらと立ち上る程度じゃほとんど意味ないよ。やるなら――このくらいやらなきゃ」

 

 

そう言ったフラン様の体から金色の湯気のようなものが噴き出る。

それはすぐに密度を上げ見通せないほど濃い靄になる。

同時に狂気の圧が一気に膨れ上がる。

周囲で観戦していた者の中には耐えきれず気絶したものも出たようだ。

 

 

「で、これを武器に込めると切れ味とか強度が上がるわけだけどマロン君の場合は纏わせるのがせいぜいな感じ?」

 

「……そう、ですね」

 

「それももうちょっと頑張った方がいいかな。纏わせるんじゃなくて染み込ませた方がずっと効果は高いよ。あとその際には色をイメージするといいと思う」

 

「色、ですか?」

 

「そそ。イメージってのは案外馬鹿にできないよ。例えばほら」

 

フラン様の手に持っていた赤い剣は、フラン様の金色の覇気を吸い込み、その色を金色ではなく漆黒に変えた。

 

「赤とか金色の剣より黒い方が硬そうで切れ味もよさそうでしょ」

 

言われて俺も自分の剣に覇気を込めてみる。

しかし、イメージした漆黒には程遠く少しだけ黒みがかった程度だ。

 

「そそ。そんな感じ。で、分かったと思うけどその覇気を飛ばす剣術も、飛ばす覇気に色を付けたりもっと密度を上げたりとかすれば威力は大分向上するんじゃないかな」

 

「なるほど……」

 

そんなこと言われるまで考えたこともなかった。

師匠も色を付けたりはしていなかった。

 

「で、この妖力――じゃなくて覇気は攻撃だけじゃなくて防御にも使えるんだよ。こうして身に纏えばだいたいの攻撃は弾いちゃう。だから私の体が纏う覇気の密度にはるかに劣る“飛ぶ斬撃”じゃまったく意味ないね、ってこと。……なんか随分余計な話をした気がするね。さ、続きをしようか」

 

俺はその言葉に少し考え、口を開く。

 

「――いえ、ここまでにしてください、フラン様。どうやら俺はまだ戯れにもフラン様と剣を交わすレベルではないようです」

 

「あ、あれ? そうなの? せっかく他にも魔法の弾幕とか眷属召喚とかいろいろ考えてたんだけど」

 

「え、遠慮しておきます」

 

危なかった……。

今の短い剣の応酬だけでも全く歯が立たないことが判明したのにその上悪魔の御業である“魔法”や悪魔の王たる吸血鬼の眷属を召喚されたりすれば真面目に命がいくつあっても足りない。

俺は自分の実力を確かめてフラン様のお力も見たいとは思ったが、自殺願望はないのだ。

 

――こうしてエキシビジョンマッチは終わり、選考会も閉幕となった。

最後には不完全燃焼だったフラン様の大魔法により夜空に巨大な花火が打ち上げられた。

それはそれは見事な美しさだった――ロマンだぜ。

……一歩間違えば俺があの花火になっていたかと思うと、背筋が冷えるが。

 

 

 

 

「さて、今日みんなに集まってもらったのは他でもない、一週間後に迫った出航に向けての顔合わせと情報確認だね!」

 

いつになくハイテンションの私がいるのは央都セントラルの大会議室。

そこには過日の選考会にて私を含む審査員の眼鏡に適った船員(クルー)たちが勢ぞろいしていた。

 

「まずは自己紹介からだね。私は――まぁみんな知ってると思うけど一応。フランドール・スカーレットだよ。年齢は700歳ちょっと。神で悪魔の王の吸血鬼です。よろしくね! あとクルーの皆には私のことはフランじゃなくてキャプテンとか船長って呼んでほしいな。敬語とかも気にしなくていいからね。さて、それじゃあ順番に自己紹介してね。暫定副船長のマロン君から時計回りで」

 

「えっと、あの。フラン様……じゃなくて船長、俺が副船長ですか? 初耳なんですが」

 

「ああうん、言ってなかったね。あまり意味はないけど船員(クルー)の中での実力トップってことを鑑みてまとめ役をやってもらおうと思って。航海中にもっと適任が見つかったら改めて副船長を任命しようと思ってるから暫定だね」

 

「なるほど、わかりました。――んじゃ自己紹介と行こう。俺の名前はマロンだ。このとおり暫定副船長を拝命した。選考大会は皆みてたから分かるだろうが剣使いで腕には自信がある。有事の際には頼ってくれ。あとはラフテル中を旅していたこともあるから知識は多い方だと思っている。特に植物に関しては詳しい方だ」

 

 

最初に自己紹介をしたのは私とエキシビジョンで戦ったマロン君。

黒髪短髪の青年で20代後半か30代前半くらいかな。

剣使いなのはわかってたけど植物にも詳しいんだね。

旅の最中に見つけた未知の植物の研究とかできるかも。

 

彼の簡単な自己紹介が終わり、次に立ち上がったのは隣に座る青年……いや、少年。

10代後半くらいの彼は室内の人間のなかでも2番目ほどに若い。

ちなみに勿論一番若い(ように見える)のは私だけど人間じゃないからノーカン。

実際は歳年長の人のゆうに10倍以上を生きているしね。

 

「次は僕かな。僕はウェンディゴ。役職は船員(クルー)でヒエヒエの実を食べた氷人間です。ずっと近くにいると寒いと思うのでごめんなさい。マロンさんに決勝で負けちゃったのは残念です。いつかリベンジしたいです」

 

少年は水色の髪をしていて服装も寒色系で涼しげ。

ヒエヒエの実って言う悪魔の実を食べたからそうしてるのか、もともとそういうセンスだったのかは知らない。

 

そういえばこの世界の人間の髪とか目の色って結構不思議。

古の地で初めて出会った彼らは黒や茶の普通の髪色だったのにラフテルに来てからというもの実にいろいろな色が発現しだした。

必ずしも遺伝してるわけでもなさそうだしそもそもピンク色の髪の毛が地毛とかまるっきりファンタジー。

しかもラフテルだけじゃなくて今じゃ古の地の人たちも色々な髪色が出始めてるし。

しかもみんなそのことについてまったく疑問を持っていない。

せいぜい金髪の人に対して「フラン様と同じ色でうらやましい」とかその程度の感想。

 

まぁもともとここはワンピースって言う漫画の世界なんだしそんなものだよね。

そう言えばワンピースってどういう意味なんだろう。

服のワンピース?

服飾がテーマのマンガじゃ……ないよね?

 

「はいはーい。俺っちはラン! 同じくクルーで槍使いだ! 選考会の最後にフラン様が見せてくれた覇気ってのを扱えるようになりてー」

 

私がどうでもいいことを考えていると元気いっぱいの声が聞こえた。

ウェンディゴ君の次に名乗りを上げたのは槍使いのラン君。

長身で陽気な青年。

ウェンディゴ君の次くらいに若い。

でも選考会の様子を見た限り戦闘センスは結構ありそう。

あと私にもフランクな感じでそれもグッド!

 

「ラン、フラン様のことは船長と呼べと言われたであろう。儂はクック、料理人だ。武術の心得もあるゆえ足手まといにはならん。……あと儂はこんなナリだがまだ30代前半だ」

 

次は若白髪の男性。

とてもおいしい料理を出してくれた和服を着た料理人の人だ。

そんな感じに自己紹介は続いていく。

 

 

「私はナヴィです。航海士として参加します。ペラペラの実の紙人間ですので水が嫌いです。特にウェンディゴ君は周囲が湿ってそうなので近づかないでください」

 

「ひどい!……いや、能力制御できるように頑張ります……」

 

 

航海士のナヴィ君という眼鏡をかけた真面目そうな男性が自己紹介を終え、最後の一人になった。

最後の一人はこのメンバーの中で一番若い。

まだ10代前半の少女で、この中で唯一選考会を通して選ばれたわけではなく私が個人的に知り合った子である。

ちなみに私以外の唯一の女性クルーでもある。

 

「あの、私はルミニアっていいます。ルミャって呼んでください。私は皆さんのように優れた技能を持ってるわけでもなくて、フラン様に選んでいただいてここにいます。ヤミヤミの実の闇人間です。日光を遮ることができるのでフラン様の御傍について、航海について行けない巫女さん達の代わりに雑用とかをすることになると思います。足手まといかもしれませんが、精いっぱい頑張ります。雑用とかなんでも申し付けてください。よろしくおねがいします!」

 

「私からちょっと補足しておくね。今言った通りルミャは選考会関係なく私が選んだクルーだね。みんな知ってるように私は太陽が苦手なんだけど、航海する以上夜に船を進ませるわけにもいかないでしょ。私なら夜目が効くけどみんなはそうじゃないしね。だから航海は普通に昼にすることになるからどうしようかなって思ってたら、たまたまルミャと知り合ってね。能力が丁度良く便利だったからお願いしてついてきてもらうことにしたの」

 

とまあそういうことである。

ルミャちゃんとはもともと別件で出会ったんだけど、能力がとても便利で航海にもついてきてもらうことにした。

一応妖力で体を覆えば別に日光如きどうとでもなるんだけど、そうするとなんか服の上にもう一枚服を着ているような感じがして鬱陶しいんだよね。

 

さて、そんなこんなでクルー総員20名。

私を入れて21名の自己紹介が終わった。

いよいよ今後の航海のことについての話だ。

 

「さて、航海について話すよ。まずはこの地図を見てね」

 

私が用意した大きい地図。

ラフテルの形と周辺の海域についての書き込みがあるけどそれ以外は空白だ。

唯一目を引くのがラフテルを挟むようにしてのびる2本の帯と、それに対して直角に交差している赤い線。

 

「この地図は私が空を飛んで書いたラフテルとその周辺の地図だよ。ちなみに今いる央都はここだね。こうしてみると実は央都は結構ラフテルの中心から離れた場所にあるんだよね。ま、それは置いといて、私たちが出航するのはここの港。で、ここからこうやってこの帯の間を進んでいく予定でいるよ」

 

私は地図を指さしながら話を進めていく。

最初に手を挙げて質問したのは副船長のマロン君だ。

 

「船長。その帯と赤い線はなんなんでしょう?」

 

「あ、言ってなかったね。これは大分遠いから多分ラフテルの誰も知らないことだと思うんだけど、この赤い線はね、凄く大きな大陸なの」

 

「大陸、ですか」

 

「そう、ラフテルよりもずっとずっと大きい大陸で、見た感じ赤い土の壁だね。高さも相当で多分一万メートルくらいあると思う。左右もパッと見どこまで続いてるかもわからないしこっちの方に進むと壁にぶつかっちゃうわけ。だから進行方向としてはこの壁の反対に向かって進もうと思ってるよ」

 

「なるほど、さしずめ赤い土の大陸(レッドライン)てわけですね。どうしてそんな地形になってるのか不思議だ、ロマンだ……」

 

「あはは、そうだね。私も気になるけど、一応今は置いておくよ。航海中になにかわかるかもね。さて、それでこっちの帯の事だけど、これは風が吹かない凪の地域だね。いつも風が吹かない不思議な場所だよ。こっちのことは知ってる人も多いんじゃないかな?」

 

私がそう言うとクルーの内半分ほどが知っていると声をあげた。

ただし、その地帯が帯状にずっと連なっていることは知らなかったらしい。

 

「この凪の海域には大型の海魔獣が住んでるね。別に強さ的には大したことはないんだけど、船を攻撃されたら困るからね。この海域を避けるように、かつレッドラインの反対側に進むとなるとこの帯の間を抜けていくしか道がないんだよね」

 

「なぜ海王類はそんな帯状に棲息しているんでしょうね。凪の海域が海王類の巣になっているのか、海王類が棲むところが凪になるのか……実に興味深い」

 

声をあげたのは眼鏡をかけた真面目そうな航海士のナヴィ君。

眼鏡を指でクイっと上げて「実に興味深い」と呟いているさまは航海士というより学者みたい。

 

「海王類って?」

 

「ああ、船長のおっしゃった海魔獣の俗称ですね。海に生息する生物の中で最も強いからと安直に名付けられたようです。大きさはさまざまですが小さいもので5,6メートル、大きいものでは数百メートル以上にもなるようです。ちなみに海王類に哺乳類は含まず、哺乳類は海獣と呼ばれています」

 

「へぇ、そうなんだ。名前の呼びわけは知らなかったなぁ」

 

「まぁ先人が勝手に名付けたものでしょうしね。船長、その凪の海域……仮に凪の帯(カームベルト)とでも呼称しますが、そこの範囲は正確なのでしょうか」

 

「そうだね、空を飛んでいたら急に風が吹かなくなるから分かりやすいから。体感した限りだけどほぼ同じ間隔で平行に存在してる感じかな。カームベルトの中でもこの地図で点線になってる部分は、まだ確認して無いけど多分続いてたらこうなるかなって予測だね。だからもしかしたらこの先で帯が一つに収束してるかもしれないし、突然終わっているかもしれない。それも含めて調査に行くのが今回の航海だよ!」

 

「なるほど、ありがとうございます。航海士としては是非世界地図を書いてみたいものですね」

 

「お、じゃあナヴィ君の航海目標はそれにしようか。人類で初めて世界地図を描いた男! 歴史の教科書に載るね!」

 

「……それはなんだか照れますね。――ええ、全身全霊で挑ませていただきます」

 

「頑張ってね。あと、敬語は使わなくていいんだよ? 他の皆もね」

 

 

そんな感じでつつがなく出航前の会議は終わり、ついに調査航海に出発する日がやってくる。

 

 

 





・ロマンロマン言う植物学者の弟子で剣士の男マロン登場。もちろん苗字はモンブラン。なお今は短髪だが髪が伸びると……? この血が4000年間淘汰されずに生き残るというのもなかなか無茶な設定ではある
・覇気と妖力の設定とか
・ルミャ登場。なおこの小説ではこぁも含めあくまでそれっぽい人というだけです
・レッドライン、カームベルト、海王類の名前付け

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