東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ
・世界地図と記録指針
・統一王国の王様と出会う
・Dの名を与える


原作1200年前前後 獣の棲家
二人の鴉天狗と陸の新種族


統一王国の王様と別れてからも、私たちは旅を続けた。

それからもいろんなことがあった。

大きな出来事としては、メイリンと一緒に獣人族を作り上げたこと。

 

獣人族は魚人族、人魚族、巨人族に続く新しい亜人種で、魚と人間から生まれた魚人たちがいるなら、動物と人間での種族がいてもいいんじゃないかというメイリンの声によるものだ。

メイリンがやたらと推してくるので、そのうちに私も乗り気になり作ることにした。

後から聞いたところによると、どうも海底で私がリヴァイと一緒に魚人族、人魚族を作ったことに対して嫉妬していたらしい。

また、そんなとこだけ可愛いんだから。

 

さて、獣人族という新種族を作るにあたって、私はまず人間と鳥、すなわち“空”の亜人種を作ることにした。

魚人たちを“海”に見立てて、地上の動物たちで“陸”、あわせて陸海空の三種ファンタジー構想だ。

 

ところがこれが、最初から躓いてしまった。

まず大きな問題として、鳥の羽の動かし方は人間の脳では理解できないみたいで、ある程度鳥の思考回路を取り入れなきゃならなかった。

これはまぁ人魚を作った時もエラやヒレの動かし方を理解するために魚の脳を必要としたから、予想できていたことではある。

なんだけど、どうにもうまくいかない。

 

原因は字面そのまま“鳥頭”。

脳みそが小さすぎるというか、機能不足でどうにもうまく育たずにすぐ死んでしまう。

魚類の時は大丈夫だったのにね。

哺乳類に近くなったせいなのかなぁ。

 

そんなわけで本当はいろんな種類の鳥人間を作ろうと思ってたんだけど、計画が頓挫した。

上半身が鳥のいわゆる鳥人を作りたかったんだけど、頭が鳥もダメ、腕が翼もダメ。

 

試行錯誤の結果生まれたのは、どこからどう見てもただの人間で、唯一背中に羽が生えていることだけが鳥要素という鳥人だった。

 

しかも前述の通り使える鳥の種類にも限りがある。

まともに育ったのは(からす)をベースにした鳥人だけ。

伝書鳩ができるハトや森の賢者フクロウ、喋るオウムとかも頭のいいイメージがあるけど、こっちは私の想像力的にダメだった。

 

なんか飛べるイメージがなかったんだよね。

ハトの羽生えた人間とか想像できる?

鴉だけはまだ鴉天狗なイメージがあったからなんとかなったんだけど。

 

まぁそもそもな話をすれば、普通に考えて人間の体格で背中に生えた翼程度で飛べるわけがなかった。

なんていうか物理的に無理だよね、イカロスじゃないんだからさ。

羽が生えてるのに宙に浮くことすらできないとかどうしようもない。

 

ここまでで優に100年の時間が過ぎた。

 

「あーもーだめ、諦めた!」

 

「ええー、妹様もう諦めちゃうんですか」

 

「だって無理だもん。見てよこの子たち」

 

眼下には実験の結果生み出された鳥人間たち。

しかしそのどれもが幼児ぐらいの体躯でガリガリの貧弱、長く生きたところであと数年の命だろう。

しかも知能も低く、完全に人と同じ頭部をしているのに言語をしゃべることもできない。

 

「体が小さくて軽いのは空を飛ぶためだけど、そのせいで生命活動に支障をきたしてる。生物として歪すぎるよ」

 

「もうちょっとどうにかならないんですか?」

 

「ううん、これがバランスの限界。これ以上だと空を飛べなくなる。そうなるとただの使えない翼の生えた人間だよ。見た目だけなら空島の人たちでいいじゃん」

 

「そんなぁ……」

 

メイリンは残念そうだけど、こればっかりは時間をかけてもどうにもならないと思う。

 

「そうだ、妹様も羽が生えているじゃないですか。しかも飛べる。その仕組みを応用とかってできないんですか?」

 

「私の羽?」

 

確かに私には羽が生えている。

細い枝に七色の宝石がぶら下がっているような不思議な羽。

意識をすればパタパタと動き、空を飛ぶことができる。

 

「でもこれ、物理的なものじゃなくて妖力で飛んでるしねぇ」

 

「じゃあ妖力で飛べるようにすればいいんじゃ?」

 

「ううーん、それはなんというか新種族を作るってよりオーダーメイドの一点物を作る感じになっちゃうなぁ」

 

妖力を込めればすべての問題は解決する。

魚人たちに込めたような微量なものでも人間の十倍ほどの筋力を発揮するのだけど、今話しているのはそういう次元じゃない。

物理法則を凌駕して空を自在に飛び回る鳥人間を作るならば、かつてメイリンの鈴に込めた程度の妖力を必要とする。

そしてそこまでやっちゃったら、動物の特徴をもった人間、ではなくもう妖怪の側に足を踏み入れることになる。

 

「いいんじゃないですか? 私は翼の生えた人間、かっこよくていいと思いますけど。見てみたいです、その鴉天狗?っての」

 

「うーん、じゃあまぁいいか……育つまではメイリンが面倒みるんだよ?」

 

「はい!」

 

なんだかんだメイリンのお願いは断れないなぁ。

まぁ作るとなったらとことんこだわろう。

方針変更、鳥人間じゃなくて鴉天狗を作ることにする。

 

鴉天狗をイメージするとイケメンだったり渋かったりの男性鴉天狗が思い浮かぶけど、私の妖力で妖怪を生み出す以上女性の方がいい。

もともと妖力ってなぜか女性性を帯びてるんだよね。

私が女だからなのか妖怪全般に言えることなのかはわからないけど、そのせいで妖力は女性との相性がいいのだ。

逆に、反転する性質をもつ覇気は男性との相性がいいらしいこともわかっている。

そのせいで女性の覇気使いは少ない。

まぁその最高峰は今隣にいるから、あくまでも多少習熟速度に差が出るとかいう程度なんだろうけど。

 

女性の鴉天狗……残念ながら私は鴉天狗を見たことがないので、イメージをそのまま形にしてみる。

基本は山伏っぽく、丸くてちょこんと乗せる感じの特徴的な帽子――たしか頭襟(ときん)――になんかよくわからない白いぽんぽんの飾り。

巫女装束の感じで白を基調に飾り紐と帯に前垂れ……袈裟はお坊さんだっけ?

下はどうしよう、袴っぽくていいのかな。

長めにして、足袋に一本足の高下駄、手に錫杖とヤツデの葉を模した天狗の羽団扇……

手もなんかぴっちりしたアームカバー的なものがあった方がそれっぽいかも?

あれ和名だとなんていうんだろう、腕貫(うでぬ)き?

なんかもっさりしてきた。

肩のあたりに切れ込みでも入れて涼しく軽やかな感じで。

おっと、ついつい服装に気をとられすぎちゃったかな。

 

「まぁざっとこんなものかな」

 

「わーすごい、あっという間ですね」

 

目の前には五、六歳くらいの女の子が二人。

 

一人は黒髪ボブで好奇心旺盛そうな赤い瞳がらんらんと輝く女の子。

今もあたりをきょろきょろ見回している。

濡れ羽色の透き通るような黒く大きな羽は彼女の体よりも大きく、少々アンバランス。

きっと体が成長しきる中高生くらいの年齢になればいい感じになると思う。

 

もう一人は癖っ気のある茶髪をツインテールにまとめた、マイペースそうな女の子。

この世に生まれたばかりだというのにあくびをしながら自分を団扇で仰いでいる。

マイペースというか、明るく軽い性格っぽいのかな。

羽はもう一人の子と比べると色素が薄く、黒というより茶色や灰色に近い感じ。

 

素体にした鴉の個体が違うからか結構個性に差がある。

 

「可愛いですねぇ。名前はあるんですか?」

 

「いや、ないけど。メイリン付ける?」

 

「いいんですか?」

 

私とメイリンのやり取りに烏天狗の少女二人がこちらを興味津々で見つめてくる。

まぁ、妖怪にとって“名”は自身の存在を確立させるのに一番大事なものだ。

それがいまから決まるとなると興味もわくだろう。

 

「じゃあ、射命丸(しゃめいまる)ちゃんと、姫海棠(ひめかいどう)ちゃんで!」

 

「射命丸と姫海棠? また随分古風というかなんというか」

 

姫海棠ってなんだっけ、なんか聞き覚えあるんだけど。

脳内検索……っと、あった。

バラ科リンゴ属の酸実(ズミ)って植物の別名か。

小さい頃に図鑑で見た記憶だけど……ああ、マロンとルミャと一緒にこの世界で植物図鑑を作った時に書いたんだっけ。

リンゴに近い植物で小さくてきれいな白い花を咲かせる。

この世界にもリンゴはあるからきっとどこかにズミも存在しているだろう。

しっかしメイリンも良くまぁそんな細かいところを覚えているもんだ。

 

「なんか名前の響きが素敵で覚えてたんですよー。姫ってついてて可愛らしいですし」

 

「ふーん。射命丸の方は?」

 

「そっちは完全に語感です!」

 

「あ、そう……」

 

まぁ、メイリンのネーミングセンスにしてはまだまともな方?

とりあえず合う下の名前を考えてあげよう。

射命丸は……お堅い感じだけど本人は元気いっぱいな感じだし、短く“(あや)”でいいかな。

姫海棠は射命丸よりもっとつよそうな名前だから、バランスをとるためにひらがなで……“はたて”とか?

 

射命丸 文

姫海棠 はたて

 

うん、いい感じかな、なんかしっくりくるし。

それぞれを指さして、告げる。

 

「あなたの名前は射命丸文。あなたの名前は姫海棠はたて」

 

その瞬間、ふわふわしていた二人の妖力がぐっと凝縮され、存在が確立される。

二人とも年相応に喜んではしゃいでいる様子からすると、どうやら名前は気に入ってくれたみたい。

これで二人とも立派な鴉天狗だ。

あくまで私の想像を形にした、鴉天狗だけど。

 

 

 

 

ひょこひょこ元気にあちこち飛び回るチビ天狗ズはどうやら相当に頭が回る。

鳥頭とか心配してたのはなんだったのかってくらい頭脳明晰。

下手すれば産まれてまだ一年ほどなのにメイリンより賢い気も……いやまぁメイリンの頭が悪いわけじゃなくて、この子たちが本当に優秀なだけだ。

なんだろう、私が鴉天狗に持つ印象に引きずられたかな。

源義経にいろいろ教えたとかで、文武に優れるイメージがあったせいかも。

 

チビ天狗ズは私のことを「お母さん」、メイリンのことを「お姉さん」と呼んで、毎日遊びまわっている。

呼び名にちょっと違和感を覚えなくもないけどまぁ事実に近いので訂正する気にもならない。

 

そして、悪戯好きなチビ天狗二人の遊び相手でメイリンがあっぷあっぷしているのを尻目に私は新しい種族作りを再開した。

 

“空”の亜人種は失敗し、ほぼほぼ妖怪である鴉天狗が産まれるという結果になってしまったし、“陸”のはせめて成功するように頑張ろう。

そう思い、動物と人間とを掛け合わせた亜人種、いわゆる獣人を作っていく。

 

これは空のに比べて随分と楽でうまくいった。

ほとんどの種族の動物と掛け合わせることに成功して、大きな問題も二つだけ。

それも、どっちも解決した。

 

一つは静電気。

新しく作り出した獣人族は皆毛皮を持っているんだけど、そこに静電気では済まないレベルで電気が帯電してしまったのだ。

毛皮って服の素材の中でも一番静電気が発生しやすいしねぇ。

まぁこれは、電気を体内にため込んで自由に放出できるよう新しい臓器をちょちょっと作ってしまえば解決。

ゴロゴロの実の雷人間とかもいるしそう変なことじゃないよね?

獣人族はみんな使えるし、新しい狩りの手段が増えたようなものでしょ。

 

もう一つは月。

なんかイヌ系の獣人たちが、満月を見ると狂暴化する。

狼の獣人から考えるに狼男の伝承かなぁ。

私のイメージが悪さをしてしまったかもしれない。

なんせ吸血鬼と狼男って切っても切れない関係だ。

狼男と吸血鬼は対立する種族だったり、吸血鬼の変種が狼男だったり、狼男が吸血鬼の下僕だったりと関係性は様々だけど、なんだかんだ共通するところは多い。

 

ま、自分の深層意識なんて考えてもよくわかんないけどね。

イヌ科ってことなのか狼はもちろん、犬と狐と狸と、コヨーテやジャッカルなども理性を失ったように狂暴になる。

ただ、狼男みたいに満月を見ると狼に戻るとかそういうことはないし、男に限らず女でも同じように狂暴になる。

まぁこっちは月の光を浴びたら、とかではなく月を「見たら」なので、夜は空を見上げないように注意しておけば大丈夫。

 

 

こうして新しく生まれた獣人たちを、私は純毛(ミンク)族と名付けた。

みんな綺麗な毛皮をもっているから、純毛族。

毛皮と言えばミンク、という安易な発想だけど。

ちなみにこの世界ではまだミンクを見たことがないので、ミンク族にミンク種はいない。

単に獣人族、としなかったのはこの世界にいっぱいいる動物(ゾオン)系悪魔の実の能力者や鴉天狗の文とはたてと混同しないように。

ミンク族は毛が生えた動物オンリーだし、電気を発する力も使えるから区別は容易。

 

さて、ミンクたちには一つだけルールを定めた。

それは、他のミンクを決して食べないこと。

ミンク族の中には肉食動物と草食動物が混じっている。

彼らが食う食われるの関係になるのはちょっと嫌だし、見た目も人間に近いのでグロい。

私は吸血鬼だけど、血を飲むだけで人肉嗜食(カニバリズム)のケはないのだ。

普通の動物に関してはそこまでめくじらたてないけど、やっぱり自分のモチーフになった動物を食べられたりするのは気分がよくないだろうと思うので、極力食べないようにと。

一応ミンク族は肉を食べなくても必要な栄養素を野菜や果物なんかで補えるように、臓器にちょちょっと調整してあるので食べ物には困らないはず。

 

ちなみに同じようなことは、魚人族と人魚族に魚を食べないように、また巨人族にも人間を食べないようにというのは言ってある。

ミンク族に対しては人間を食べないようにとは言っていないけど、人間なんて毛の薄い猿のミンクみたいなものだし、たぶん大丈夫。

 

なんだかなぁ。

私ってば人類の三大タブー、「親殺し、人食い、××××」だけはどーにも許容できない。

まだ人間だったころの名残があるのかな……。

 

 

さてと、話が逸れたけどこれでミンク族も生まれて、だいぶバランスもとれてきた。

メイリンとチビ天狗ズはミンク族の家を作ったりと色々ドタバタ走り回っている。

そんな中で小さいリスのミンクを見ていて、ふと思う。

陸・海・空の三種族(空は失敗したけど)とバランスをとるなら、巨人族にも対になる存在がいた方がおさまりがいいんじゃないかな?

 

というわけで今度は小人族を作ることに。

しかしただ小さいだけではすぐに自然に淘汰されてしまう。

そこで、ちょっとだけ強くしてみる。

筋力と、敏捷性と……なんかリスのミンクみてたせいか尻尾を付けたくなってきた。

一応尻尾も強靭にしていろんなことに使えるようにしてみる?

 

「わぁ、可愛いですね。手乗り人間?」

 

「うん、そう。小人族」

 

とりあえず十人……十匹?ほど作ってみた。

なんかもふもふわらわらしている。

ちょっと鼻がとがっちゃったけど、なんだろう、無意識に何かのイメージに引っ張られたかな。

ピノキオ?

純真無垢で善悪を知らず騙されやすく、嘘をつくと鼻が伸びるあやつり人形……うーん、妖精に命を吹き込まれたってことくらいしか共通点が見つからないけど。

まぁいいか、可愛いし。

 

「なんていうか、絵本の中の妖精みたいですね」

 

「妖精ねぇ」

 

たしかにそんな感じにも見える。

リスのような尻尾じゃなくて羽でも生えてたらまさしくそんな感じ。

まぁ妖精っぽい羽って蝶とか昆虫的な要素があるから作る気にはなれないんだけど。

昔砂漠でイチゴに似た毒蜘蛛を食べてしまってからというもの、昆虫だけはちょっと苦手になっちゃった。

仮面ライダーとかは好きだったけど、昆虫人間を作ることは金輪際ないだろう。

 

「よし、文、はたて。この小人族はあなたたちに任せた。名前とか好きにつけていいからしっかり面倒見てね」

 

「あ、はい。分かりました」

 

「えーめんどくさー」

 

「こら、はたて。ちゃんと母さんの言うこと聞きなさい!」

 

「私おっきい方が好きだしー。そうだ文、ミンク族は文の分まで私が面倒みるから小人の方は文がお願いね」

 

「ちょ、こら、はたて!」

 

チビ天狗ズがなんか喧嘩、というより追いかけっこを始めてしまった。

情操教育的な感じで小さい生き物を育てる経験をさせようかなと思ったんだけど、嫌だったかな。

まぁ二人の教育はメイリンに一任してあるし、小人族は最悪放置していても勝手に育つ。

体の小ささとかの生きにくさを考慮して、小人族同士で強い連帯感と社会性を築くようにちょちょっと調整したからね。

 

あ、文が転んだ。

まだ大きすぎる羽に慣れてなくて、急に走り出したりするとバランス崩して転ぶんだよね。

メイリンに慰められてる。

可愛いなぁ。

 

そんなこんなで鴉天狗の射命丸文、姫海棠はたて、ミンク族に小人族――のちに文がトンタッタ族と名付けた――が生まれた。

これが大きな出来事の一つ。

 

 

 

 

あれから数百年がたち、文とはたてもすっかり大人になった。

といっても身体的な成長は中高生くらいの年齢で止まっちゃってメイリンと同い年くらい。

まぁメイリンは立ち方がしっかりしていて背も高いからどうしてもお姉さんに見えるんだけど。

 

何が言いたいかというと、私の背が抜かれてしまったということだ。

うーん、最初から大きかったレヴィアの時は気にならなかったけど、自分より小さかった子に背を抜かされると何とも言えない屈辱感がある。

今じゃお母さんとは呼んでくれず、“フランさん”だしねぇ。

距離感を感じるというか、ちょっと寂しい。

 

そんな二人も親元を離れ、それぞれ別の場所へと旅立っていった。

旅立ったと言えばトンタッタ族もまだ見ぬ理想郷とやらを求めてこの地を去った。

周囲に自分たちよりも大きい生物ーー彼らは私達のことを大人間と呼ぶーーがたくさんいる環境が嫌なのかと思えばそうではなく、ミンク族に辟易としたらしい。

ミンク族自体は嫌いではないそうだけど、彼らの生活習慣が問題だった。

 

それは、ガルチュー。

ガルルと唸る百獣の王ライオンからチューチュー可愛い小さな小さな賢将のネズミまで、あらゆるミンク族に共通の挨拶を、と考え出されたものだ。

 

ところがこのガルチュー、ミンク族の元々の気質が災いしてか、言葉での挨拶以外に頬と頬を擦り合わせる動きが含まれている。

これをミンク族同士でやる分には微笑ましい光景なんだけど、対象がトンタッタ族となると話は変わる。

 

トンタッタは見た目はリスのミンクみたいなものだからミンク族は仲間と思って友愛を示す挨拶であるガルチューを行おうとする。

ところがトンタッタ族はミンク族に比べてサイズが小さい。

ミンク族が彼らに頬ずりをすると、トンタッタ族は全身を使って摩擦運動を受けるようなもの。

挨拶をしただけで酷く体力を消耗してしまう。

 

これが悪意からくるものなら私もどうにかしたんだろうけど……。

ガルチューが浸透してからというもの、ミンク族は脊髄反射的にこの挨拶を行ってしまうきらいがあり、トンタッタ族が迷惑に思っていることに気が付きつつも止められない様子だった。

ここらへんは動物の要素が半分混じったミンク族だから、本能的な行動をとってしまうってことなのかな。

 

そんなこんなで互いを嫌い合っているわけでもなかったけど、トンタッタ族はミンク族の居住地を出ていくことになったのだった。

 

 

そして、いい機会だということで私とメイリンもミンク族の元を離れてまた旅に出た。

 

久しぶりににとりに会いに行ったら、なぜか空島を作った時の”島雲”を再現して雲の上に研究所を作ってた。

なんでも数百年も天候の研究をしてたとか。

聞いてみればなんと、私が嫌いな“雨”と“日光”をどうにか操れないかという研究だったらしい。

うう、私なんてメイリンに言われるまでにとりの存在をすっかり忘れてたというのに、なんていい子……。

 

なんだか申し訳なくなったので、にとりへのご褒美として月までご招待することにした。

それを伝えるとにとりは大喜び。

以前からずっと月に行きたい、月の技術を知りたいって言ってたからねぇ。

 

ちなみに月にいる永琳と輝夜については、私は以前から何度か会いに行っている。

海底から出てしばらくしたころ、ふとどうしてるか気になって訪れてみたのだ。

すると、驚いたことにお人形だったはずの輝夜がちゃんと生きていた。

確かに昔会った時に、もしかしたら命が宿るかもって予想はしてたけど……と思ったけど、自己解決した。

絶対私のせいだ。

初めて月を訪れた時、永琳に会ってあの狭い部屋で結構な長居をして雑談をした。

話の内容も私が興味を持ち、彼女の身の上にも共感できて、テンションの上がった私は普段よりも狂気を漏出していたと思う。

それってつまり、あの頃は気づかずに周囲に放出していた妖力が色濃くたまるってことで。

加えて永琳と輝夜にそれぞれ名前を贈って……人の領域を逸脱し、自身の力のみで妖怪(こちら)側に足を踏み入れていた永琳にそんなことをすれば、彼女は完全に妖怪と化しただろう。

そしてそんな永琳と常に共にいて、ずっと心を向けられていた輝夜は必然的に……。

 

ま、まぁ、そんな悪いことじゃないよね。

永琳もすっかり狂気がなりを潜めて、とても1500歳越えとは思えないほど可愛らしく笑っていたし。

 

それからもちょくちょく遊びには行ってたので、今では永琳だけじゃなく輝夜とも結構仲がいい。

月はやることがなくて暇だってことで、好奇心旺盛なお姫様のために、遊びに行くたびに色々なおもちゃを持って行ってあげたりもしてるからね。

永琳は遊び方を一度教えるだけで全部理解しちゃうので輝夜もなかなか勝てない。

てか教えて2回目のチェスで私永琳に負けたし。

私だって年季入ってるし結構強いはずなんだけどなぁ。

 

そんなわけでにとりを月まで連れて行くことに。

姫様のいい遊び相手にもなるだろうし、永琳もそう邪険には扱わないと思う。

 

 

 

 

そんな楽しい日常に不穏な影が差した。

宇宙海賊が出たりと思わぬハプニングもあって思ったより長くなった月の滞在を終えて地上へと戻ると、鴉天狗の文に出会った。

酷く焦っていて、全力で私たちを探していたそうだ。

そして伝えられた、ミンク族の国が滅亡するというニュース。

これには私もメイリンも心底驚かされた。

 

文の案内ですぐさま現場に駆けつけると、そこにはかつてのミンク族の住処はなかった。

正確に言えば、かつて住処があった土地が襲撃され、半分ほどが跡形もなくなっていた。

ミンク族にも被害が出ていて生き残りは残された土地に避難しているようだった。

 

襲撃犯には見覚えがあった。

かつて巨人族を作る際に失敗して生まれてしまった、山のように大きいおかしな足長象だ。

 

「なにやってるの、やめなさい!」

 

この象は言葉こそ話せないものの、人語の理解はできる。

だから、この注意も聞こえているはずなのだ。

それでも、止まらない。

長い鼻が避難していたミンク族に向かって振りぬかれる。

質量、速度共に数十の人体をミンチにするなど、わけない一撃。

 

目でわかる。

「誰がお前たちの言うことなどに従うものか。俺より弱い小さき者など踏みつぶしてくれる」

その巨象が、そう思ってこちらを侮っているのが分かる。

……生まれたばかりの頃は従順で大人しい子だったのに。

 

「お母さんっ!」

 

焦って叫ぶ文。

 

「大丈夫、メイリンブチ切れてるから。私が何かするまでもないよ」

 

振り回されていた鼻がピタッと止まる。

鼻の先には片手でそれを受け止めているメイリンがいる。

同時に発生するはずの衝撃波も反作用も起きないのは非常に不自然な光景に見える。

あれは巨大な“気”でもって受け止め、エネルギーのすべてを地面を通して受け流したのだ。

今頃どこか遠くの海が爆発しているだろう。

 

「貴様……私とフラン様の愛の結晶に手を出した覚悟はできてるんだろうな……しかもフラン様の制止を無視して……」

 

ぐしゃり、と鼻が握りつぶされる。

 

「パオオオォォォン!?」

 

直径何メートルあるかわからない太い鼻がメイリンの小さな手に握りつぶされているのは端から見てもおかしな光景だ。

象の方も何が起こってるかわかってないだろう。

 

それより、今日は文に久しぶりに「フランさん」じゃなくて「お母さん」って呼ばれたし、メイリンからも「妹様」じゃなくて「フラン様」って呼ばれたなぁ。

あれだね、みんな感情的になると昔の癖が出てきちゃう感じ?

メイリンなんて普段の敬語が剥がれて、にとりや輝夜なんかと話す時みたいに乱暴な口調になってるし。

てか、ミンク族って私とメイリンの愛の結晶だったの?

 

「いいだろう、貴様の思い上がり腐った性根、私が叩き直してやる……」

 

メイリンがぶん、と腕を振ると山より大きい巨象の体が冗談みたいに吹っ飛んでいく。

はるか遠くで盛大な波しぶきが上がる……ああもう、メイリンったら頭に血が上ってるなあ。

これじゃ滅茶苦茶な津波が発生してここら一体呑み込まれちゃうじゃない。

一応結界張っておこう。

 

「文、ミンク族のとこに行くよ」

 

「あ、は、はい」

 

さてと、なんでこんなことになってるんだか。

 




人間の脳では鳥の羽の動かし方を理解できない
原作には鳥系の悪魔の実を食べたことにより飛行能力を得ている人たちが存在しますが、あれはフランの妖力が影響している悪魔の実の力によるものなので、ミンクとは状況が異なります。
フランにも羽(?)が生えているので鳥系悪魔の実の能力者たちは本能的にきっと動かし方がわかるのでしょう。
という設定があったり。

文とはたての衣装
普段見慣れた現代女子高生風ルックではなくいわゆる香霖堂天狗装束です。
幼少期のあやはたてにはこっちのほうが似合いそう!っていうのが主な理由だったり。
カッコいいのでこちらが正装ということで。

烏と鴉
原作だとどっちの表記を使っていたか思い出せない……。
本作では鳥と烏を空目しないように鴉表記を使っていくつもりです。

静電気
毛皮はプラスの電気を帯びやすい物質の代表みたいなものだし、原作でもエレクトロを使える理由はミンク(純毛)関連だと思ってます。

満月とミンク族
原作ではワンダやイヌアラシが満月や奥の手について言及していますが、これが一体何なのか、ミンク族全体に適用されるのかどうかが分かりません。
8/28追記:ようやく最新刊まで追いついたら月の獅子(スーロン)が明かされてました。
どうも全ミンク族共通の特性らしく、非常に狂暴化するもの。
まぁこの時代はまだ野性が色濃く残っているからそこまで狂暴にはならないということで。

人類三大タブー 
表記はジャンプのめだかボックスから。
××××は諸説ありますが個人的にはインセストタブーかなと。
東方は妖怪だからともかく、ワンピキャラで今のところ明確にこれを犯しているのは父殺しのドフラミンゴと人食いのビッグ・マムだけかな?

トンタッタ族
なんだかピノキオを連想させるんですよね。
純真無垢でだまされやすいとこや、オモチャだったピノキオとオモチャにされた人間がたくさんいるドレスローザ、極め付きに鼻が長いウソップに救われますし。


8/28追記:ガルチューの由来が88巻のSBSで明かされましたね。
ネパール語のティミライ マヤ ガルチュ (君を愛している)らしいです。





はたての性格と口調についてはかなり難しいので違和感あっても勘弁してください。
一応明るく軽い性格なのと、文に対しては割と砕けてチルノに対して敬語でしゃべっているようなところから、内外の差がはっきりしている猫かぶり系JKな感じで……。
今後も東方だったりワンピだったりの原作キャラが出ますが、本作独自の解釈だったり過去の捏造だったりで、みなさんの脳内イメージとだいぶキャラが変わる可能性があります。
ついてけないなーとおもったらそっとじで。

そしてプロットじゃ海底編のあと即空白の100年編に入ってるのになかなかそこまでたどり着けないという。
ええ、ミンク族編は完全に予定にない見切り発車です。
思いついちゃったら書くしかないじゃない……。
たぶんあと2,3話は……。

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