東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~ 作:すずひら
・呼び名が妹様に
・美鈴が帽子をかぶって完全体に
眷属との再会と華人小娘との旅
「ふーらーんーさーまーぁーーー」
「あー、よしよし」
ラフテルに帰ってきた私は、泣きじゃくるこぁに抱きつかれた。
眷属である彼女にとって私と離れるというのは半身を裂かれるようなものらしい。
これは本人の自己申告で実際のところはそこまでではないのだろうけど、それでもまあ随分と苦労をかけたのは本当だったからされるがままにしておいた。
「……む、メイリンさん」
「あはは……」
正面から抱きついているこぁ。
私の背後に立つメイリン。
なんだか両者の間で緊張感みたいなものが走ったけど、何だったんだろう。
私は頭の後ろに目はないからよくわからなかったのだけれど。
さて、こぁが泣きついてきたのにはもう一つ理由があった。
それは、ラフテルの現状だ。
なんとラフテルでは既に私のことが半分忘れられているような状態らしい。
これにはちょっとびっくりしたし、メイリンも驚いていた。
私の存在は数百年の間は口伝で伝えられていたのだけど、徐々に失われ……千年たったいまではおとぎ話や創世神話のような類に思われているという。
現在私のことを信じているのはこぁの周りにいた巫女たちの家系のみで、そこで秘伝のような形で伝わっているそうだ。
なるほど、私がいなくなり、不老という神秘を持つメイリンもシャボンディ諸島に移住していて不在。
聞けばにとりもラフテルを出ているらしい。
てかにとりも不老になってたね、そういえば。
なんか普通に忘れてた、ごめん。
で、当のこぁも不老みたいなものだけど私がラフテルの運営には口を出さないようにと言ってあったので、大々的に人前に出ることもできず、その流れを止めることもできなかったそうだ。
まあ聞いてみれば納得できる話だ。
いかに私のことを信仰していても、それを次代に伝える際に少しは熱が失われる。
その繰り返しで、かつ私という実物もいないんじゃあね。
実際ラフテルの場合は経典があって教義があって、といういわゆる宗教ではなかった。
単にアイドルファンの延長線上にあるような熱狂だった。
あるいは、この人ならもっと世界を良くしてくれるという政治家に向けるような信頼だったり、ヒーローに向けるような憧憬であったかもしれない。
あのかつての狂信も、いつかは冷める儚い夢のようなもので。
とにかく、ラフテルでのフランドール・スカーレットの神の如き立場は失われたわけだ。
で、そのことに対して私がどう思っているかというと。
「別にいいんじゃない?」
「え、いいんですか?」
「まあ長く空けていた私にも責任があるし、特に問題もないでしょ。もともと私、そういう立場を傘に何かをするってことはなかったし」
「そういえばそうですね」
元はと言えば土の民の誤解から始まったことでもあるし、いい機会だったと思おう。
でもこぁとしては周囲がどんどん私のことを忘れていくのが寂しかったらしい。
まあ、悪いことしたね。
よしよし、泣かないで……ってこれも自分を慰めているようなものだけど。
うーん、だけどしばらく離れていたせいか、こぁの眷属としての性質が薄れている気がする。
具体的には、私と違い始めている。
こぁという個が確立してきたというか、魂が変質し始めているというか。
だって私、こんなにわんわん泣いたりしないし……。
「えっ、本当ですか、フラン様!?」
「うん……なんでそんなに嬉しそうなの」
「だって、完全にフラン様と別になったら愛してもらえる可能性があるかもしれないじゃないですか!」
「いまでも愛してるけど?」
「今のそれは、自愛のようなものでしょう? そうではなくて、私は"私"としてフラン様に愛していただきたいのです! 無論、女として!」
むふー、と鼻息を荒らげるこぁ。
それを苦笑してみてるメイリン。
私の過ごす世界はなんだかんだ平和で、何も変わっていないのかもしれなかった。
「せっかく出会えてとても嬉しいのですが、先程の話を聞く限り、私はもう少しフラン様と離れていようと思います」とはこぁの弁。
このまま私の近くにいて完全な眷属に戻ってしまうことが懸念らしい。
なので私はこぁの思いを汲んで、任を解いて旅に出すことにした。
ラフテルはもう私の手をはなれているし、こぁが防衛につくこともないだろうしね。
最近のラフテルは積極的に海に出て版図を広げているらしいし、たくましいことこの上ない。
名前もラフテルというのはかつての島の名前にとどまり、集団としては「統一王国」と名乗っているそうだ。
本拠地もラフテルを離れ、
あとは王様が血筋ではなく能力で選ばれるという随分と実力主義な王国らしい。
ラフテルの外に出て活動し始めたことは成長しているようで嬉しいし、今度何かご褒美をあげようかなとも考えている。
私のことは忘れているので、突然神様からプレゼントをもらうような感じでびっくりしてくれるに違いない。
なにかこう、アッと驚くようなものかもらって嬉しいものを考え中。
また、こぁには旅に出て色々な情報を収集してもらおうと思っている。
私がいなかった地上の千年間で何か面白いことはあったのかとか気になるし。
そんなわけでこぁと離れ、メイリンとの二人旅が始まった。
別にラフテルで改めて落ち着いて暮らしても良かったんだけど、なんというか成り行きだ。
旅のあては特にないけどまあのんびり過ごすというのが目的だし。
やりたいことが見つかればその時やればいい気楽な旅だ。
旅の最中はこれまでのメイリンの話をよく聞いた。
特にシャボンディ諸島の話はなかなか面白い。
「元々は私一人で海底まで行く気だったんですよ。海の底まで船で行くなんて傍から見れば馬鹿らしいですし、危険ですからね」
「研究を始めてから二百年か三百年くらい経った頃ですかね、ヤルキマンマングローブが成長してちょっとした島くらいの大きさになった頃です」
「壊れた船が漂流してきて、船の残骸にしがみついていた男性が二人助けを求めてきたんです。私は彼らを助けたんですが、随分遠くから流されて来たみたいで帰らせてあげることもできなくて」
「船もないので仕方なく彼らはその島で生活することにしました。私はその頃研究に没頭して長らく食事と睡眠はしてなかったので、彼らが来ていなければそのまま仙人みたいな生活をしていたかもしれません。今にして思えば感謝ですね」
「それで彼らも小さな島でやることがなかったので私の手伝いを申し出てくれたんです。幸いなことに片方が船大工の経験があって、船づくりには随分助かりました」
「もう片方は元々漁師だったそうで、食料係みたいになってましたね。島にはなぜか果実なんかもなっていたので食べるものには困りませんでした」
「ええ、多分ヤルキマンマングローブにどこからか樹木の種が飛んできて根付いたんだと思います。あの木は酸素を出す以外にも栄養分を多量に含んでいますから、そこらの土よりはよっぽどいい土壌だったんでしょうね」
「それで、彼らはしばらくその島にいたんです。十年くらいですかね。船を作って島を出ることもできたと思うんですけどね。あとから聞いたらなんでも私に惚れてしまっていたらしくて」
「ええ、二人共です。恥ずかしながらあの頃の私はあまり余裕がなくて、そのことに気が付かなかったんですけど。そうこうしてるうちにまた新たな来訪者がありまして」
「ヤルキマンマングローブの島が三つくらいに増えた頃だったかな、三つの大船を率いた船団が来たんです。彼らは王の命令でそのあたりの海域を探索しているとのことでした」
「はい、ラフテル、じゃない統一王国とは関係ないでしょうね。シャボンディ諸島があるのは
「
「はい、そうです。妹様が初めて世界一周をなした航路ということで、
「ああ、サンタマリア号ならラフテルにあると思いますよ。あれだけはこぁが手を出して守ってましたから。認識阻害の魔法でもかけて巫女たちに管理させているんじゃないでしょうか」
「ですよね、あの船の倉庫って軽く世界を破滅させかねない量の賢者の石とかありますもんね。クルーと認めた者しか入れない結界? そんなものがあったんですか」
「ああ、話が逸れてしまいましたね。それで船団が来たんです。彼らはシャボンディ諸島の周辺を探索するのに、拠点として使わせてくれないかと頼んできまして」
「私が研究の結果作り出したとは言え、別に島を自分のものだと主張する気もありませんでしたしね。普通に了承しましたよ。それからはその国の人たちがひっきりなしに訪れるようになりました」
「グランドラインの島々はおかしな特徴を持ってたり、方位磁針が効かない磁場があったりで航海するのが大変なんですよね。でも、シャボンディ諸島は私が作り出したのでそんなことはありませんし」
「まあ便利だったんでしょうね。そのうちに貿易の拠点にもなってきて、島の数が十を超える頃には一度は王様も訪れるくらいに発展しました」
「え、私に惚れた二人ですか? やだなあ、私は今も昔も妹様一筋ですよ。まあ、彼らにはちょっと申し訳なかったとは思いますけどね。それぞれ新しく訪れた人と結婚しました」
「それで王様も良くできた人で、栄えているシャボンディ諸島を自領にするとか、征服するとか言い出しませんでしたよ。それどころかちゃんと関税を払うとか言い出しまして」
「なんですか? ええ、そうですね。征服するとか言い出してたら殺していたかもしれません。私が何より大事だったのは妹様の元へ行くための研究でしたし、それを邪魔するなら排除していたと思いますよ。ラフテルに比べれば彼らの文明のレベルも随分と低かったのであっさり片付いたでしょう」
「まあ私も聖人じゃないですしね。スカーレット海賊団の頃にも散々ヤッておいて今更殺すことに抵抗はないですよ。侵略を受けるわけですしね。勿論、理由なく自分から襲ったりはしませんけど」
「それで王様は私の異常性に気づいたんでしょうね。まあ研究の過程で日常的に妖力やら覇気やら気やら使っていましたし、彼らの知らないことをたくさん知っていましたしね」
「王様は私の研究を手伝う代わりにそれらの知識とかを教えてほしいと頼んできまして。その頃は私も研究が五百年目くらいで行き詰まっていたので、その申し出を受けました」
「結果的には成功でした。文明レベルが低いと多少侮ってはいたんですけど、やっぱり専門の方は凄いですね。植物学者の方の知見など非常に助けになりました」
「私は代わりに知識だったり覇気の使い方だったりを教えまして。あとは悪魔の実のことなどもですね。私自身研究の過程で龍の姿になることもありましたし」
「ええ、そのへんは抜かりなく。アマゾン・リリーでの経験で身にしみてますからね。神様的な何かだとは思われないように気をつけました。それでも見た目が老いないので特別視はされてしまいましたけど」
「七百年目くらいでようやくシャボンで船をコーティングする技術までこぎ着けました。あのシャボンは潜るだけでなく通常の航海にも使えるんですよ」
「ええ、海王類に襲われたりしない限りは船が沈まなくなるので重宝されました。そのおかげでシャボンディ諸島の周辺はますます活発になりました。まあ、コーティングは一日ほどしか保たないので、航海できる距離には限りがありますけど」
「その頃からですね、私がコーティング船で潜る実験をしていると、俺達も乗せてくれ、という人たちが出始めたのは」
「最初に言ったとおり、私は元々海底へは一人で行く気でした。ただ、彼らは常々私が語っていた目的地である海底に惹かれてしまったものも多くて」
「はい、海底には巨大な光る木があること、その根本で魚達が舞い踊るキレイな光景があるということは師匠たちから聞いていましたから。加えて、ある時海に漂っている純金の板を発見しまして」
「はい、そうです、結構大きくて、一メートル四方くらいのです。表面にそれはそれは美しい女性が描かれていまして。しかも下半身が魚という神秘的な姿だったので、シャボンディ諸島では随分と騒ぎになりましたよ。海底にはこんな美しい女性がいるのかと」
「ああ、やっぱりあれ妹様が作ったやつでしたか。並大抵の冶金技術じゃないからそうではないかと。そしてあの女性、多分レヴィアさんですよね?」
「はあ、リヴァイさんのために折角描いたのに紛失したと。なるほど、それであんなに大きいサイズだったんですね。それに金なら腐食しないですもんね」
「あれ、でも金なら水に浮かないんじゃ。ああ、メッキでしたか。全然気づきませんでした。海水中で浮きもせず沈みもしない比重に調整してあったんですか。まあそうですよね、リヴァイさんにプレゼントすることを考えると」
「あはは、まあ落ち込む姿はありありと想像できますね。海流に流されてシャボンディ諸島まで流れ着いたんでしょうか」
「ええ、それで海の底に憧れを持つ人もいたんです。島の人口数からするとほんとに一部、変人の集まりでしたけどね」
「勿論私は反対しました。潜っている途中で何かあったら死んでしまいます。私は自分の体が頑丈なのを頼みに無茶な実験を繰り返すつもりでしたから」
「ただまあ、覚悟の上だと押し切られまして。それに、船で潜るのに船員がいないんじゃ格好がつかない、と言われてしまい」
「最初の頃は潜り始めでシャボンが割れたりと自力でも生還できる失敗でしたが、徐々に深く潜れるようになるにつれ危険度は上がっていって……犠牲者も出ました」
「私もできるだけ助けはしたんですけどね。いきなり深海の圧力に晒されて、船がグシャッと。それに巻き込まれたり、一気に遠くまで放り出されてそのまま行方不明になったり。あとは深海の暗闇で精神を病んでしまったり」
「それでも彼らは諦めませんでした。最初の代の人たちが皆亡くなる頃には、次代、次々代の人たちがいました。面白いことに、どの時代でも必ず一定数はそういう馬鹿な人たちがいたんですよね」
「……ええ、そうです。やっぱり妹様には隠し事はできませんね。結構、いや、かなり辛かったです。彼らを死に追いやってまで、私は何をやっているんだろう、って」
「みんな気の良い人達でしたから。一緒に笑いあいながら船を作って、ご飯を食べて、夢を語り合って、研究に打ち込んで。その翌日には私のせいで海の藻屑となっているんですから」
「一時期は本当に悩んで、もう彼らの乗船は認めないようにしようかとも思ったんですけどね。でも、その悩みを取り払ってくれたのもまた彼らでした。話し合った結果、勢いに流されて有耶無耶のまま続けることになってしまって」
「ええ、私ってばなんだか押しに弱いみたいです。まあそんな感じでまた数世代経るうちに私も諦めがついてしまったというか。ほんと、馬鹿なんですよね、彼ら」
話しているうちに涙声になってきたメイリンの頭をよしよし、と撫でてやる。
こういう気持ちは誰かに話してすっきりした方がいい、というのは私も最近学んだばかりだ。
「まぁ馬鹿なくらいが見てて面白いよ。命の蝋燭を激しく燃やす煌めきは、
「……そうですね。とても綺麗で、消えてほしくなくて。でも、消えるからこそ美しくて。――妹様はもう通ってきた道なんですよね?」
「いやぁ、私だって道の半ばじゃないかな。あなたのおかげで一応の答えは得たけどね」
「私も探してみます。彼らに恥じない答えを」
そういえば、前にもこんな話をした気がする。
そう、あれはたしか……。
「ま、私から言えるのはせいぜい悩みなさい、ってことくらいだね。長い間悩んで悩んで悩んで、それで出した答えがきっとあなたには必要なんだよ」
「はい」
「そうそう。悩め若人暗闇の先の未来は明るいぞ、ってね」
「私って若人なんですかね?」
「あはは、私からすればみんな若人だよ。――でもメイリン、一つだけ覚えておいて」
「はい?」
「私はいつでもあなたの味方だよ。答えが出たら私がどうにでもしてあげる。こう見えて私、神様なんだから」
「妹様……」
「――っていう会話をルミャともしたことあったなー」
「え、えー。なんですかそれ、いい雰囲気が台無しじゃないですか。私今ちょっとうるっと来てたんですけど」
「まぁまぁ。ルミャはしっかり答えを出した。あなたもきっと大丈夫だよ」
そんな会話をしつつ、彼女と二人、世界中を旅した。
途中で知り合った人を連れて一時的に三人旅になったり、四人旅になったり。
カープが最後にたどり着き、作ったと思われる和風の国で久しぶりの刀鍛冶をしてみたり。
版図を広げるラフテルの躍進を見て喜んだり。
巨人族を作ってみたり。
その実験が失敗して山のように大きいおかしな足長象を生み出してしまったり。
最近体が鈍る、と愚痴っていたメイリンと組み手をしたり。
あとはそう、ついに世界地図を作り上げたナヴィの子孫に褒美を与えたり。
統一王国
ラフテルから出て行った人々が現地住民を併合しつつ大きくなっていった国。
いつからか北の海に拠点を構え、統一王国を名乗る。
美鈴の過去語り
感想でいただいたコメントから。
ほんとはぱぱっと済ませるつもりだったのにやたら長くなって読みにくくなったうえに次話と分割せざるを得なくなった戦犯。
プロットにない話は書いているうちに設定が生えてしょうがない。
世界中を旅する
伏線にもならない露骨な箇条書き。
長くなったので分割!
続きはまた夜に投稿します。