東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ

・ラフテル建国
・初めての吸血&殺人
・眷属の悪魔を作る


原作4300年前~ 紅の海賊
悪魔の実と大航海の準備


 

時間はゆっくりと、しかし確実に流れる。

巫女を吸い殺した事件から100年ほど経ったある時、また一つ事件があった。

 

ある日のことだ。

ラフテルの一部が蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

ラフテルの住人たちは基本的に陽気でお祭り騒ぎが好きなのだけど、その日はもっと緊迫しているというか、困惑しているというか。

そんな感じの空気が漂っていた。

 

私は不思議に思って“こぁ”――ここ100年で付けたココアのあだ名だ――を伴ってその現場へ向かった。

 

現場は少し開けていて数人の人間が中央に、それを取り囲むようにして住人がずらっとひしめいていた。

そして、現場の様子はというと、一言でいえばびっくり人間ショー。

 

鳥の羽が生えた青年、火を噴く少女、ぐにゃぐにゃしているおじいさん、体がバラバラのパーツになっている若い女性。

 

「なにこれ、どうしたの?」

 

「おお、フラン様!」

 

近くにいた人に尋ねると、その人が大仰な反応をする。

するとその声を聴いた別の人が反応し、……とあっという間に当たりの喧騒は静まり、皆が私の言葉を傾聴する状況ができていた。

うーん、ここまでの過剰反応いらないのになぁ。

もっと気安く接してほしいんだけど。

 

「それで、どうしたの? 何か面白いことになっているみたいだけど」

 

「はい、フラン様。それが、実は……」

 

彼らの話によると、ビックリ人間ショーをやっている彼らはラフテルの辺境に住む一家で、今朝突然一家そろって変な体質になってしまったというのだ。

それでどうしたらいいかわからず、とりあえずラフテルの中心、つまり私の暮らしている神殿へと指示を聞きたく訪れたらしい。

ところが見た目からして変な彼らは周囲の住人に捕まってしまい、ここで足止めされていたとか。

うん、ここに来たのは正解だったかな。

 

「ふうん。原因はわかってるの?」

 

「は、はい、フラン様。実は今朝、この果実を食べてからこんな体になってしまったのです」

 

そう言って鳥になった青年が差し出してきたのは毒々しい色と模様がついている果実。

なんというか、凄く見覚えがある。

私がこの世界で目覚めたあの洞窟の前に生っていた果実だ。

 

「よくこんなマズそうなもの食べたね……」

 

「はい、とてもマズかったです」

 

「あ、そう……」

 

 

マズいというか毒すらありそうな見た目だけど。

 

 

「それで家族みんなでこの実を食べたらそれぞれバラバラの体質を発症したの?」

 

「いえ、食べた実はみなそれぞれ違います。ただ、どれもこの実のような変な模様がついていて」

 

「……んー、とりあえず経過観察して問題が起こらないかどうか確かめるまでこれと同じ変な模様の着いた果実は食べないように、周りに広めておいてね」

 

「はい、承りましたフラン様。して、経過観察というのは?」

 

「こんなビックリ体質になってるんだし、少ししたら生命力を使い切って死んじゃうとか、ありそうじゃない? だから少なくとも数か月は様子見てね、ってこと」

 

「な、なるほど、わかりました」

 

「それじゃ」

 

私は持っていた果実を鳥の青年に渡して、その場から飛び去った。

その後をこぁが付いてくる。

 

「フラン様。あのような対応でよろしかったのですか? あれはヒトの身には過ぎた力のような気がします。ご命令いただければ処分してきますが」

 

いやいや、何物騒なこと言ってるんだろうこの子。

処分って、そういうこと、だよね?

こぁもつい100年前まで人間だったじゃない。

 

……ああいや、この子は人間だった時から私に関することでは結構過激な子だったっけ。

というか巫女になる子ってだいたいそういう傾向強い気がしてきた。

なんだろう、ヤンデレ臭がする。

やだなぁ。

 

「いやぁ、あれでいいよ」

 

「そうですか?」

 

「今はまだ、ね」

 

「なるほど、フラン様がそうおっしゃるのであれば」

 

「それに正直なところ、あの程度じゃ“面白い”の域を出ないよ。鳥になった、ぐにゃぐにゃになった、体がバラバラになった、だから何って感じ。火を噴けるのは便利かもだけど」

 

かつてレーヴァテインでやりくりしていた火は、現在ではすでに火おこしの道具と方法が確立されていて一般家庭で気軽に火を熾せる状態だ。

私も魔法でぽんと火を出せる。

だからそこまで火を噴けることがいいとも思わないけど。

 

そう、どうせならもっと凄い――私たちの価値観を根底から覆すような、そんな力ならよかった。

この世界で300年ほどを過ごしているけど、どうにも近ごろ飽きが来ている。

もっと何か刺激が欲しい。

びっくり人間ショーくらいじゃ心が動かない。

 

その点ではかつて私が巫女を殺してしまった事件はなかなか心が動いた。

 

……最近、歯車が狂う夢をよく見る。

吸血鬼も夢を見るのだ。

不思議なのは歯車の歯が欠けているのになぜかかみ合うように動いていたり、歯車自体が真円ではなく歪んだ楕円な事だろうか。

その夢が何を意味しているのかは、分からない。

 

 

 

しばらくして、当代の長から例の実について報告が上がってきた。

なんでもあの実はクソ不味いけど食べると不思議な力が手に入る果実らしい。

手に入る力は大別して3つ。

 

一つは体の原形すらとどめずに自然物そのものに変化するもの。

一つは体の原形はとどめつつその性質が変化するもの。

一つは動物など他の生物に変化するもの。

 

それぞれ、土の民の言葉で自然系(ロギア)超人系(パラミシア)動物系(ゾオン)と名付けたそうだ。

パラミシアとか英語じゃゾウリムシって意味なんだけど。

まぁ彼らがそれでいいならいいや。

 

ちなみに寿命に変化とかのデメリットはないけど、2つ以上実を食べると爆散するらしい。

ひええ。

クソ不味いらしいし私は絶対に食べないよ、そんな劇物。

 

この果実は例の洞窟の前に群生しているけど、それ以外にもラフテルの他の場所でも発見報告があったらしい。

一つとして同じ模様、形、色の果実は存在せず、能力もまた同じものはないという。

なんなんだろうね、この実。

 

それで、ラフテルの住人たちはこの実を、悪魔(わたし)のように超常の力を発揮できるようになる実ということで「悪魔の実」と名付け、先を争うように食べているらしい。

というのもこの悪魔の実はかなり希少な物らしく、ラフテル全土の住民にいきわたる程の数はないのだという。

見つけたら幸運、早い者勝ちということだ。

 

私はとりあえず、問題――奪い合いで争いとか――が起こらない限りは黙認することにした。

少し嫌な予感はしたのだけど。

 

 

 

 

「暇なんだよね」

 

突然私の所へやってきたフラン様は開口一番そう言った。

私はもうずいぶんと長いことラフテルの長を務めてきたが、フラン様が直接私の家を訪れるのは初めてのことだった。

 

「なにか催し物でも開きましょうか」

 

「いや、そういうのじゃなくて。もっと根本的に」

 

「はぁ」

 

我らが神は時折戯れで突飛な提案をするが、その真意は読めない。

代々長達に伝わっているところでは、こういったことは我らの祖先が古の地でフラン様と出会ったころから行われていたという。

ただ一つ確かなことは、その試みの数々は短期的に見て失敗であっても数十年単位で長期的に見ればどれもがなんらかの意義を持っていたものであるということだけ。

 

フラン様は「私は悪魔であって神じゃない」と言うが、私たちからすれば特にどちらでも変わりはないのである。

寿命が短く50年生きれば長寿という私たち人間と、数百年単位で生きるフラン様は生きている時間も視点も異なる。

その上で大切なことはただ一つ、フラン様は我らの事を想ってくださっているということだけである。

だから私たちはフラン様が死ねと言えば死ぬし、暇だと言えばなんとかするのだ。

さて、今回もその類だろうか。

 

「具体的にはしばらくラフテルを離れようかと思って」

 

「それは……私共に何か至らぬことがありましたか?」

 

「いやいや、そういう風に思われたくないからこうやって話を切り出してるんじゃない。そのくらいは汲んでよね」

 

そうは言うが、本当のところはどうだろう。

我ら土の民はいまや神の国(ラフテル)の民となった。

古の地で魔獣や他部族に追われ滅亡しかけていたところを救われ、こうして今日の発展を見ている。

血が濃くなりすぎないよう数十年周期で古の地から山の民や湖の民などを迎えているが、彼らは一様にラフテルに来て驚くのだ。

曰く、ラフテルの文明は外の世界に比べて進みすぎている。

この島だけが未来に生きていると。

 

危急に手を差し伸べるどころか、そんな栄光を我らに与えてくださったフラン様に対して我らは何を返せているのだろうか。

フラン様が我らの事を想ってくださっていることは知っている。

だが、それでも不安にも思う。

 

フラン様が我らを想う理由がないからだ。

 

例えばかつて、我らの祖先がフラン様の窮地を救った、などの根拠でもあればまだ納得できるのだが事実はその逆である。

だからこうしてラフテルを離れるという話を聞いて、フラン様が我らを見限ってしまったのではないかという黒い不安が胸に湧くことを、私は止められなかった。

 

「ほんとにさ、純粋に、暇つぶしがしたいと思って。で、なにしようかなーって考えてたら、私まだこの世界の事よく知らないなって思って」

 

「この世界のこと、とは?」

 

「そのまんまの意味。私はラフテルから、あなたたちの言う古の地あたりまでしか見たことないし」

 

「そうなのですか」

 

「そうなの。だから長には人を集めてもらいたくて。私と一緒にこの世界を旅する人」

 

「ふむ。フラン様でしたらココア様を連れて空を往かれるかと思ったのですが」

 

「それも考えたんだけどね。こぁを連れて行くと本格的にみんな“眷属まで連れて出ていかれた、フラン様に見捨てられた!”って大騒ぎしそうでしょ」

 

「まぁ私はともかく民はそう反応するでしょうなぁ」

 

「私だって貴方たちとの付き合いは長いんだからそのくらいはわかるよ。だからこの探検の旅にはこぁは置いていくつもり。で、一人で行くのも寂しいしい何人かと船旅で行こうかなって」

 

「なるほど。我らからすれば安心できる提案ですが、この話はココア様には?」

 

「……んー、まだしてない。まぁきっと自分も行くって言ってきかないだろうけど、そこは何とかするよ……」

 

 

ココア様は500年以上前にフラン様の眷属となった元巫女である。

ココア様ご自身は、自身もかつてはラフテルの民であり巫女の一人にすぎなかったのだから敬称などいらない、とは仰るが、我らラフテルの民からすれば人の身を捨てフラン様の眷属になったというココア様の境遇は羨望の的であり、その立場を獲得したココア様には皆畏敬の念をも抱いている。

実際、500年以上の長き時をフラン様のおそばに仕えて過ごしているというだけで尊敬できるというものだ。

 

そのココア様は自分がラフテルで一番フラン様を想っていると言ってはばからず、常にフラン様のお世話をしようとすることはラフテルでは有名な話である。

それゆえ、今回の旅について行けないとなれば、最悪暴れることまで視野に入れなければならないだろう。

ココア様は悪魔なため身体能力も高く、我々で抑えられるかは心配なところがあるが、それについてフラン様が解決してくれるというのであれば安心できるというものだ。

 

 

「それで、船を動かせる人とか航海士とかコックとか……とにかく船に乗る人を集めてほしいんだよね」

 

「ふぅむ……なにか条件に指定はありますかな?」

 

「あー、未知の海域を冒険するわけだから最低限の体力と自衛能力は欲しいかなぁ。コックさんとか無理そうなら別にいいけど」

 

「自衛、となると悪魔の実の能力者などよいかもしれませんな。悪魔の実の能力者は海で泳げなくなるようですが、船旅ならばそう困らんでしょう。不慮の事態での対応能力などを考えてもよいのではないでしょうか?」

 

「お任せするよ。あと、船大工さん達に私たちの乗る船の建造を依頼しておいてほしいな」

 

「了解しました。彼らもフラン様のためとなれば一世一代の大仕事、最高の船を作ることでしょう」

 

「じゃあよろしくね」

 

それだけを伝えてフラン様は帰られた。

船大工たちがこれから他の仕事を放って最優先で船を建造するとしても、恐らく一年ほどはかかるだろう。

となるとその間にラフテル中に告知しここ央都まで来てもらい……いや、それではあまりに多く人が集まり過ぎるか。

フラン様の旅の供など、ラフテルの島民なら誰だって立候補するだろう。

私だって行きたい。

 

そうすると、各地である程度候補を絞ってから央都に来てもらうのが良いだろうか。

それぞれ腕っぷしや航海術、料理など特定分野に秀でている者で条件は若く健康であること、か。

うーん、私では条件を満たしそうにないな。

なんともはや、残念極まる……。

あと20歳若ければなぁ……。

 

 

 

 

そうだ、旅に出よう。

 

ふとそう思いついた。

いや、なかなかどうして悪くないんじゃないかなぁこのアイデア。

 

こぁを眷属にしてからもう500年ほどたったけど、本当に暇なんだよね。

ラフテルは随分と文明的になってきた。

私が彼らと出会ってからもう700年ほどになるのかな。

今じゃここ央都セントラルを中心とした地方分権の政治システムも出来上がったし、法律とか裁判とかそういうのもちゃんとある。

700年で縄文時代から江戸時代くらいまで文明を進歩させたのだから誇っていいよね。

たぶん。

 

なんだけど、高度に発展したシステムのせいで私のやることがないの。

一応ラフテルという国の形態としては“神にして悪魔の王たる吸血鬼フランドール・スカーレット”をトップとする絶対王政ならぬ絶対神政になるのかな。

私の肩書がおかしなことになってるけど。

 

でも、実務は全部私から全権を委託されている(ことになっているらしい)セントラルの長が各地方の長をまとめる形で全部処理しているし私がやることはない。

一応統治方針に口を挟んだり、裁判の結果を鶴の一声で変えたりできる権力はあるみたいなんだけど、別にそんなことする気もない。

 

ここ数百年ずっと頑張ってきた辞書の編纂作業も一区切りついちゃったし。

日本語については分かる限りの漢字とか単語とかもろもろまとめたんだよね。

一人で日本国語大辞典と大漢和辞典を作ったようなものだし、誰か褒めて欲しい。

勿論あんな規模と精度じゃないけど。

 

私は一応英語も話せるけど、この上英語まで広める気はないから英語や他の言語は単語レベルでだけ。

こっちの辞書ももう結構前に完成してる。

写本を仕事とする人が結構いるから、既に複製されてラフテル中に広まってるはず。

 

となるともうやることっていったら魔法の研究くらいしかなくて。

でもその魔法の研究も500年もやってたらたいがいの事はできるようになってしまっている。

賢者の石も作れるようになったし。

というか私の羽にぶら下がっている7色の結晶も天然の賢者の石だった。

私が魔力を使えるのはこれのせいみたい。

賢者の石って言うのは要は高純度の魔力結晶体のことっぽいし。

流石、吸血鬼にして魔法少女の“フランドール・スカーレット”といったところ。

私の事なんだけど。

 

 

そんなわけで暇を持て余していたら、最近ラフテル近海に繰り出す船乗りが多いという話を聞いたんだよね。

なんでも、ラフテルの周りがどうなっているのか気になった人がいて、200年くらい前には調査が始まっていたらしい。

全然知らなかった。

 

で、ラフテルの周りには色々と面白い島があって、大分地理もはっきりしてきて、基本的な航海法とかが広まってきて、最近になって近海調査がちょっとしたブームになってるとか。

 

そんな話を聞いていたからか、ふと旅に出ようと思った。

思えば私はこの世界で旅したことがあるのはラフテルから古の地の間くらいだし、その周りがどうなっているか知らない。

もっと言えば、この世界の世界地図を見たことがない。

きっとまだ誰も世界地図を描いたことがないだろう。

どころか、地球が球体であることも知られていないんじゃ。

 

……いや、この世界が球体である保証もないのかな。

もしかしたら神話みたいにおっきな亀が支えているお皿みたいな世界なのかもしれない。

この世界はワンピースの世界、なんだと思う。

多分。

神様によれば。

 

もし、もしもそうなら、言ってしまえば一人の作者の想像から生まれた世界なのだから、何が起こってもおかしくはない。

なんでもありの世界なんだから。

 

そう考えると私は急にわくわくしてきた。

そうだよ、悪魔の実なんてすごくフィクション向きの設定に思えるし、古の地の近くにあるずっと燃えてる島とかだって、いかにも創作物の中の存在みたい。

まだ見ぬこの世界にはきっといろんな夢が詰まってる。

私はこの世界を冒険しつくしてやるのだ!

 

そうと決まればさっそく行動、ということで私は央都セントラルの長の元にお願いに行った。

冒険と言えば仲間が必要だ。

確かに私一人で飛行した方が早いし楽だし確実なんだろうけど、それじゃあ面白くない。

だいたい暇つぶしも兼ねてるんだからそう焦って飛び回る必要もないしね。

 

長にもろもろ頼んだあとは、こぁの説得だ。

これがなかなか大変だった。

予想通りこぁはもう暴れるわ泣くわ自殺しようとするわで大変だった。

最終的には

 

「だからほら、いざとなったら召喚するから」

 

「うぅ……ぐすっ。……召喚、ですか?」

 

「そうそう。悪魔の王たる吸血鬼は一声で悪魔を召喚できる魔力をもってるんだよ。こぁの力が必要になったら呼ぶからさ」

 

「でもそれって呼ばれなかったら私はいらない子ってことですよね……」

 

「……あー、いや、そんなことはないよ」

 

 

め、めんどくさい、この子!

 

 

「それにこぁにはラフテルを任せるからさ。私のいない間に良く治めておいてよ」

 

「それは言われずともやりますけど……フラン様ぁ」

 

「あーほら、泣かないの。――んー、分かった、今日から出発するまでの間一緒に寝てあげるから!」

 

「えっ!」

 

「私がいない間の分まで一緒にいてあげる。それで我慢してよね」

 

「ふ、フラン様と添い寝フラン様と添い寝……はっ、鼻から忠誠心が」

 

 

こんな感じでなんとか収まった。

まったくもう、ヤンデレ気味のこぁの対応は大変。

女の子同士だけど一応睡眠中の貞操にも気を付けておこうと思う。

流石にこぁもそこまではしない。

……と思う。

……だったらいいなぁ。

 

多分こぁは衝動的に手を出しちゃうけど後で我に返って手を出したことを気に病んで自殺するタイプだから……。

ほんともうやだぁ私の眷属。

私の影響じゃ……ないよね?

 

それで、船大工たちによれば、最高の船を作るのに一年ちょっとかかるらしい。

長がその間に船のクルーを集めてくれるから、私は旅程を立てることにした。

まず、船をどっちに向けて走らせるかも考えてないからだ。

それに、最近近海を旅している人たちに話を聞いたところ、どうも不穏な感じだった。

 

曰く、海の上に出ると至る所で磁気嵐が発生していたりでコンパスがまともに使えず、進むべき方角を見失いやすい。

曰く、大型の海魔獣が出る海域がある。

曰く、風が吹かない地帯があり、そこに入り込むと船が動かなくなり立ち往生する。

 

などなど。

実際海に出て帰ってくる確率は半分をかなり下回っていてだいぶん危険な航海みたいだった。

近海でこれなんだから、私がやろうとしている世界一周規模の船旅なんてしたら地獄への片道切符だろう。

私以外は命がいくつあっても足りない。

 

今までラフテルと古の地を往復する時には私が空から道案内していたからコンパスなんて使ってなかったし、私が事前に調べた安全なルートを通っていたから海魔獣も風が吹かない地帯にも遭遇していない。

なるほど、本格的な航海に出る前にちょっと調べる必要がありそうだなと思った。

 

そんなわけで私はラフテルを中心に近海を飛びまわってみた。

島の東側にしばらく飛んでみると、遠目に巨大な山が見えてきた。

どれほど巨大かというと、頂上が雲で見えない。

間違いなくこの世界で一番高い山……山なのかな。

とりあえず左右にもずーっと続いているから山というより壁だね。

しかも色が赤い。

音速で飛ばして壁の近くまで来ると、それが非常に急勾配の大陸であることが分かった。

海中から山脈が飛び出ていると考えてもらえればいいだろう。

それでいて赤い色は土の色だ。

赤い土って酸性土なんだっけ。

煉瓦の材料になるとか聞いたことがある気がする。

 

赤い土の巨大な山脈が海からつきでているとかなんとも珍妙な自然物だ。

まぁ燃える島とかずっと霧がかかっている島とかあるし、気候だって変な磁気みたいなのが荒れ狂っていたり、何もないところに大渦があったりこの世界は理屈じゃ説明付けられない自然が溢れているわけで、この赤い大陸もそのうちの一つなんだろう。

 

さて、赤い大陸は北東から南西に向かって延びていてその終わりは見えない。

これじゃあこっちの方に船旅してきても行き詰ってしまう。

反対側に行く方がいいかな。

方向的には古の地とかあるほうだ。

 

あとはもう一つ懸念があるんだよね。

上空を飛んでみてわかったんだけど、報告通りどうもこの世界には一際凶暴そうな海魔獣がいる地域がある。

その海魔獣の生息地域というのが帯のように細長く連なっているのだ。

私ならこの海魔獣をぼこぼこにすることは訳ないけど、船が襲われたらひとたまりもないと思う。

なにせ大きいのでは数百メートル以上あるんだもん。

体当たりだけで船は粉々になっちゃうよね。

その上この海域はなぜか風が吹かず、常に凪の状態だし。

空を飛べる私やエンジン付きの船ならともかく、帆船じゃあ進むことも難しいよ。

 

この海魔獣が住む凪の帯は二本有って、ちょうどラフテルや古の地を挟むようにして存在してる。

方角的にはこの赤い大陸と直角方向、つまり南東から北西へと延びている。

二本の帯はほぼ平行で幅はかなり広いけど、世界地図的に見たら道のようにも見えるんじゃないかな。

 

となるとこの帯の間を抜けるように行った方がいいのかな。

ラフテルからは北西に向けてまっすぐ進むことになる。

まぁこれ以上はやっぱり実際に旅をしてみて確認してみるほかないよね。

最悪船が沈んだら転移魔法でクルー全員ラフテルに飛ばせばいいだろうし。

ああ、ラフテルに転移魔法用のマーカー設置しておかなきゃ。

 

 

 

 

国を揺るがす告知があった。

なんとフラン様が長期間の旅に出るという。

その上同行者を募っているらしい。

この話を聞いて俺は、なんとしてでもこの同行者に選ばれたいと思った。

 

俺の生まれはラフテルの中でも辺境の地だ。

そのせいか小さい頃から野山を駆け巡り冒険をすることが好きだった。

まだ見ぬ世界を探検するのはロマンだった。

 

あるとき山で魔獣に襲われて死にかけた。

俺一人だったら死んでいたが、たまたまその時通りがかった男に助けてもらった。

その男は植物の研究をしているという学者で、ラフテル中をめぐっているらしい。

そして学者と言ってはいたが、とにかく滅茶苦茶強かった。

強さには多少自信のあった俺が手も足も出なかった魔獣を剣で一閃だ。

 

俺はその男の強さにほれ込み、弟子にしてもらった。

弟子というか、研究の助手、いや、雑用と言ったところか。

剣の方は旅の間とか暇なときとかに多少稽古をつけてくれるくらいだ。

 

そうして俺はその男についていってラフテル中を旅した。

その中でも未知の発見がたくさんあり、やはり冒険はロマンだと常々思ったものだ。

年が20をいくつか超えたあたりで師であり親代わりだった学者の男が死んでしまったが、それからも俺はあちらこちらを旅し、ついにはラフテル全土を巡り歩いてしまった。そうなると次に気になるのはラフテルの外だった。

 

ラフテルからは数十年周期で定期的に古の地へと船が出ている。

俺たちの遠い祖先たちをラフテルに迎え入れているのだ。

その航路は500年間で確立され、今ではフラン様の先導なしに行くことができる。

しかし、それ以外の外洋となるとまだほとんどが調査されていない状態だ。

ちょくちょく命知らずの調査隊が出ていくらしいのだが、そのほとんどが帰ってこない。

それでも奇跡的に生還した者たちの調査結果や航海技術の向上でここ十数年はかなり調査が活発になってきているらしかった。

 

そうなるともう俺には海に出る以外の選択肢は残されていない。

俺は漁師の男の元に弟子入りして船の操り方を学んだ。そして自分の船を買い、単身で何度も海に繰り出した。

海には魔獣がうようよと生息していたが、師匠に倣った俺の剣はそのことごとくを切り伏せた。

俺はまだ師匠のように10を超える真空刃を放つなどと言ったことはできないが、3発ほどなら出せるし、魔獣にはそれで十分だ。

 

色々な島を探検し、近海を制覇するうちに志を同じくする仲間もでき、船も大きくなった。

しかし、船の大きさと性能的にも、船員の技量的にも、資金的にも、ラフテルを拠点とした航海には限界があり、一定以上先の海域の調査はまだ全く進んでいない。

端的に言って、行き詰ってしまっていた。

 

そんな時だ。

フラン様の旅の同行者の話を聞いたのは。

 

俺はすぐに、「これだ!」と思った。

フラン様の船旅なら今俺が乗っている船など比べ物にならないほど性能のいい船を大工たちが総力を挙げて作るだろうし、金や人員の問題も国がなんとでもするだろう。

俺が一個人として楽しんでいる船旅とは規模が違う。

こちらは国家プロジェクトだ。

 

――それになにより、俺がこの年になるまでロマンだロマンだ言い続けて培ってきた経験や技術が、もしフラン様のために生かせるならば、それに勝る喜びはない。

それは今までの人生の中で感じてきた何にも勝るロマンだ。

 

そうと決まれば早速俺はその募集に応募することにした。

まずは地方での選考があったのだが、俺は剣の腕には自信があるし、航海技術もなかなかのものだと自負している。

すくなくとも100回以上の船旅に出て帰ってきたやつを俺は自分以外に知らない。

だから地方予選はすんなり通って央都セントラルへとやってきた。

ここで最終選考が行われるという。

それもフラン様の目の前で、だ。

もはや国を挙げた大会になっていてそれぞれの道のエキスパートが今ここ央都に集まっているのだ。

 

俺が登録しているのは“船員”で、他に“料理人”や“船医”、“船大工”、“航海士”などの専門家がそれぞれ最終選考を別々に行うようだった。

コックはフラン様の目の前で料理を作り、実際に味を見てもらい結果が決まる。

ちなみに、最終選考まで残っている者は皆それぞれ体力には一定以上の自信がある者だけが残っている。

それはコックも然りで、皆ガタイのいい男たちだ。

 

コックたちは勝ち負けに関係なくフラン様に自分の作った料理を食べてもらえるだけで感激しているようで、涙を流している者も多い。

あと、フラン様に食べてもらう料理の他に、俺たち他の候補者にも料理が振舞われた。

もしも選考に通れば長い間そいつのメシを喰うことになるのだから、俺たちから不安や文句が出ないように腕を見せつける意味があるのだろう。

実際、どのコックの料理もめちゃくちゃうまい。

流石はラフテル有数の料理人といったところか。

酒も飲みたいところだが、これから俺の選考があるってのに呑むわけにもいかない。

非常に残念だ。

 

最終的に決まったコックは珍しい服を着ている白髪の男だった。

あの服は着物というんだったか。

和服だったか?

とにかくそれを着ている男は俺からするととてもコックには見えなかった。

というのもその男の静かな佇まいに全く隙が無い。

足運びを見てもなんらかの武術を極めているように見える。

やはりラフテル(いち)のコックともなれば常人ではないのだろう。

 

その後も航海士や大工が次々と決まっていき、最終的に俺のエントリーしている“船員”の選考になった。

船員に関してはエントリー数が最も多く、またここまで残った者たちに航海技術はほとんど差がないために決着は試合で付けるらしい。

トーナメント式でベスト8まで残ればクルーになれる可能性があるようだがこの人数から絞り込まれるとすると5,6連勝は必要か。

 

燃えてきた、ロマンだぜ。

 

 

 

 




・巫女はヤンデレ
・ラフテル同様ロギア、パラミシア、ゾオンに関しても土の民の言葉ということで
・悪魔の実の名前の由来はフラン
・大航海時代(原作4300年前)

レッドラインとカームベルトの地理的な関係が良くわからなかった人はウィキで図でも見てください。文章力が足りない……。

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