東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ

・宴でどんちゃん騒ぎ
・二日酔いの人多数
・お空に雲の国をつくる



雲上の国と雲下の国

 

「おお、これは結構壮観……」

 

自分で作った光景ながら、これは深海の陽樹イブに勝るとも劣らない。

一面に広がる真っ白な雲の絨毯。

ここは高度一万メートルの蒼空の果て。

そこに私は魔法で巨大な雲海を作り上げた。

 

「うわぁ、うわぁ……流石フラン様です!」

 

「これは凄い……雲とはいえ、私の力じゃ及びもつかないですね」

 

「うう……本格的に魔法を学びたくなってきたよう……」

 

こぁ、メイリン、にとりの三人も随分驚いてくれていて気分がいい。

私の力をよくわかっていなかったであろう月人達に至っては目を見開いて絶句している。

 

私は魔法で雲を作った後、皆を魔法で移動させた。

今回は転移魔法ではなく、どれほど上空なのかを体感させるために浮遊魔法を使った。

もちろん、高山病にならないようにそこらへんも気遣ってある。

 

さてこの雲、通常の雲とは異なり、特殊な性質をもつ。

それは、触れるということ。

普通の雲は水蒸気の集合体だから手で触れることはできないけど、私が作り出した雲は絵本の世界のように触れるし上に乗ることだってできる。

ああ、ジャックと豆の木でも連想してくれればいいかもしれない。

 

まぁこれで分かったと思うけど、私はこの雲の上に町を作る。

そこに月人達を住まわせるつもりだ。

さぁ、ここからは工作の時間だ。

 

「さ、みんな頑張ってね。こぁとメイリンにも働いてもらうよ」

 

こぁは簡単な魔法が使えるので私の代わりに雲の加工を、メイリンは悪魔の実の力で気象、つまりは雲を操る力があるのできっと役に立つだろう。

にとりには都市計画でも任せようかな。

 

「にとり、簡単でいいから町のつくりを考えて。現場の指揮権は任せたから」

 

「え、は、はい。……って、ええっ!?」

 

「ほんと簡単でいいよ。ここに住むのは月人達の中でも一般民だけだから」

 

私の言葉に月人達、特に一般民の体が硬直した。

確かにこんな高度の孤立した、しかも雲の上なんて言う得体のしれない場所で暮らしていくことを告げられたら硬直もするか。

まぁラフテルを襲った罰だね。

 

硬直した一般民とは対照的に支配民はほっとしている。

また、奴隷民は不安そうだ。

彼らが抱いている気持ちも手に取るようにわかるね。

支配民は一般民より上の身分の自分たちがこんなところで暮らさせられることを考えていない。

罰として働かされることはあれども、少なくとも一般民よりはいい暮らしができると思っているのだろう。

奴隷民は普段から自分たちの扱いは一般民より下の存在だ。

従って、ここよりさらに過酷な場所で暮らすことを強いられるのでは、と考えているのだろう。

 

まぁ、甘い。

国際社会は戦争を扇動した者に重い罰を与えるのだ。

戦時国際法的思考で投降者を受け入れた以上、今後の扱いもそれに準じるつもりの私からすれば、彼らの思考は的外れと言わざるを得ない。

いわゆるA級戦犯というやつ。

 

「それじゃ、みんな頑張ってね」

 

「え、あれ? フラン様はどうするんですか?」

 

「私はちょっと月まで行ってくるよ。色々とってこなきゃならないから」

 

そう告げて私は月まで移動する。

今度はらくちんな転移魔法でひとっとびだ。

一度行った際に位置情報を記憶してあるので今度はピンポイントで月まで飛べる。

このあとも色々とやることがあるから急ピッチで進めないとね。

 

まずは月に棲息している生物をある程度捕獲する。

ビルカの町中は人っ子一人いないけど、町の外に出るとちらほらと生命反応がある。

人間ではなく月に棲息する生物たちだ。

驚いたことに変な斑点のある馬とかもいたけれど、ここの月は空気もあるし重力もさほど変わらないので、馬がいたところで驚くことではないのかもしれない。

集めるのは主に貝だ。

貝は彼らの生活の根幹を為す生物で、これをある程度用意してやらないと月人達は生きていけないだろう。

どうせ月には永琳しか住んでいないのだし、彼女は食事なども含め外界を必要としていない。

 

というわけで私は月から生物を絶滅させる勢いで乱獲を開始した。

確かに絶滅寸前という触れ込みは正しいらしく、そこまでしても貝の数はさほど集まらなかった。

もともと月にすむ生物の絶対数が少ないというのもあるのだろう。

第一この月のサイズも小さいし。

 

半日ほどで作業を終えて、私は雲の上に帰還した。

 

 

「おー結構できてきたね。思ったより作業が進んでる」

 

「あ、フラン様、おかえりなさい。こんな感じで大丈夫でした?」

 

「ん、いい感じ。こんなものでいいよ」

 

見た様子は雲の上の村。

んー、牧歌的というか幻想的というか、いい雰囲気だ。

実態は使える資源を制限した、空の牢獄なわけだけど。

ここには一般民を住まわせる。

まぁ飢えない程度の暮らしはさせてあげよう。

 

さて、お次は支配民だ。

こちらも同じように雲で陸地を作り出す。

場所は一般民の暮らす場所――空島とでも名付けようか――から南の方に離れた場所。

互いに行き来できない程度の距離を離す。

大きさは空島よりもかなり小さく、かつ与える資源も少なくする。

これは支配民が一般民より人数が少ないということもあるけれど、もちろん与える罰を重くするという意味も含んでいる。

 

支配民用の雲の陸地を作り上げた後、一般民を空島に残して支配民と奴隷民を連れて転移する。

そして、ここが支配民の住む場所だと告げた。

で、当然反発するよね。

あれだけ恐れてた私によくもまぁ反抗する気概が残ってるなとは少し感心した。

反抗と言っても、口で言うだけだし、面と向かってじゃなくて陰口みたいなものだったけど。

 

そこで私は適当に「支配民は一般民より優れているから彼らにはやってあげた家づくりなども行わない、自分たちでやれ。それはお前たちが一般民の力を借りずとも自分たちだけの力でできると思っているからだ」「お前たちが月の都市ビルカの生き残りであることを示すためにこの島にはビルカと名づけることを許す、一般民の暮らす空島の方にはビルカとは名乗らせない」などといった聞こえのいいことを言って言いくるめた。

彼らもしばらくすれば自分たちの置かれた状況の過酷さに気が付くだろうし、いい気分なのは最初だけだね。

言っちゃえばこれ、隔離政策だ。

いままで手足のように扱ってきた一般民と奴隷民がいなくなった時、彼ら支配民はどういう行動に出るのだろうか。

支配民の中でまたさらに序列ができるのか、それとも支配民同士手を取り合って助け合っていくのか。

ちょっと興味を感じるところではある。

 

 

そして、最後に奴隷民だ。

支配民を空島“ビルカ”に残して、私とこぁ、メイリン、にとり、奴隷民の皆を地上に転移させる。

地上というのは、空島を作った場所の直下にある大陸のこと。

そう、奴隷民に関しては雲の上ではなく地上に住まわせてあげようと思っている。

支配民が指導者、一般民が兵士だと考えるならば、自由意思もなく働かされていた奴隷民はさしずめ兵器といったところだろうか。

戦争を仕掛けてきた月の民には罰を与えるけど、さすがにモノにまで罪を問おうとは思わない。

 

あとは、メイリンに配慮した面もある。

私個人としては、基本的人権が認められていた前世の世界ならともかく、「力こそがすべて!」な感じのこの世界では奴隷文化もまぁありっちゃありだろうと思う。

第一、前世の世界でも中近世までは普通に文化の発展を支えてきた制度だったしね。

でもまぁ奴隷よりもひどい扱いを受けていたメイリンが彼らをどう思うかはわからない。

ただ、いい気分はしないだろうと思ったのでこういう風にした次第だ。

 

私は奴隷民たちに「支配民と一般民は空の上に隔離した」「あなたたちは奴隷から解放された」といった旨を伝えたけど、どうも彼らはよくわかっていないようだった。

そういえばメイリンも最初は奴隷気分が抜けずに散々だったっけ。

ちらと見てみるとメイリンも苦笑いをしていたので、多分当時のことを思い出しているのだろう。

 

私は彼らの二つの選択肢を提示した。

一つは、月へと帰ること。

私の転移魔法で月まで飛ばしてあげようと思う。

しかし、月に帰ったところで資源も何もないので暮らしていくことは不可能だろう。

これは主に故郷に思い入れのある人たちに、墓場を選ばせる程度の選択肢だ。

もう一つはこの土地で暮らすこと。

近くに森と海がある暮らしやすい土地だし、資源も普通にある。

月の文化であった(ダイアル)については個体数が足りなかったため、地上で運用することは難しいだろうけど、ラフテルから支援を受ければそれなりに暮らしていけるようにはなるだろう。

 

奴隷民たちは全員で今後のことについて話し合い、結果として、奴隷民たちはその大部分が地上で生きていくことを選択した。

しかし、ラフテルからの支援は断り、彼らだけの力で生きていくとも。

たくましいな、と思ったけどこれ以上私の力に頼りたくないだけらしい。

私を願いの代償に魂を奪っていく悪魔だとでも思っているのだろうか。

……あ、いや、悪魔、それも悪魔の王たる吸血鬼だった。

しかも眷属の純正悪魔たるこぁも傍にいるし。

 

彼らの一部には月へ帰ることを選択した者もいた。

五名だけだけど、彼らは月へと残してきたロボットたちを休ませたいそうだ。

私が月に行った時に見た子供のようなロボットは月での労働力として一般的に使われていたもので、彼ら奴隷民にとっては友人のようなものだったらしい。

永琳が人形である輝夜をあそこまで大事に扱っていたのには、こういった月の文化も影響していたのかもしれない。

 

月へと帰る者たちは友人だったロボットたちを弔い、そこに骨をうずめるそうだ。

私は彼らの選択を尊重する。

無意味な死にしか見えなくても、その価値はきっと彼らだけが知っている。

そうそう、彼らに私のことを書いていいかと尋ねられた。

何を言っているのかわからなかったけど、どうやら死ぬ前に月に壁画を残したいそうだ。

繁栄した月の都市ビルカの“青き星”への侵略と、神の怒りによる滅亡。

それらを壁画に残して、ビルカの供養としたいらしい。

ほろんだ故郷にささげる鎮魂歌(レクイエム)、ささやかな捧げものとしてならばと、私は快く許可して彼らを月へと送った。

 

さて、残された地上の奴隷民たち、彼らはこの土地をジャヤと名付け、暮らし始めた。

また、彼ら自身のことは奴隷民ではなく、シャンディアと、そしてまだ国とまではいえないけど彼らの集団としての名前をシャンドラとして定めた。

彼らは私が空に行く前に作ったあの巨大な黄金の鐘を国のシンボルとして尊重し、定期的に鳴らすことにしたそうだ。

まぁそこらへんは自由にしてくれたらいい。

 

数日面倒を見て、大丈夫そうなので私はこぁとにとりを連れてラフテルに戻った。

メイリンは奴隷だった彼らのことをちょっと気にかけてたみたいで、少しだけ残って手助けをするらしい。

またやり過ぎてアマゾン・リリーみたいに国のシンボルが蛇になったりしなければいいけど。

 

 

これで月の民関係のことはおおむね片付いたといえるだろう。

ちゃんとこぁの要望通りにしたし、彼女も満足そうだ。

というか「ああ、フラン様のお力をこんな間近でたくさん目にすることができるなんて……」みたいなことを口走りながら恍惚の表情だったのでちょっと引いたけど。

なんにせよ、一件落着。

だけどもうしばらくは航海を再開しないで、ラフテルにいようかな。

ラフテルの普段いかない土地なんかもちょっと巡ってみよう。

今回の件でもう少し歩み寄ってもいいかなと思わされたし。

 






A級戦犯
A級B級C級は罪の重さを表しているわけではなく、罪の種類を示すものです。
A級は「平和に対する罪」で、戦争指導者を裁くもの。

ジャヤ
インドネシア語で「勝利、栄光」を意味する。
マレーシアなどの土地の名前によくついている。

シャンドラ関係の言葉
シャンドラはたぶん仏教王国シャンバラから。
聞き覚えのある言い方に直すとシャングリラですね。
また、「シャンドラの灯をともせ!」のセリフから連想される「candle(ろうそく)」「chandelier(シャンデリア)」の語源は「Chandra(チャンドラ)」で、サンスクリット語で「月」を意味します。
「Chandra(チャンドラ)」は読みもシャンドラに読めそうです。
本作での空島・シャンドラの住人たちが月の民の末裔としているのはここらへんからもネタにしてます。
原作でもビルカの名前が月の都市と空島の名前で共通だったりと関係はありそうなんですが。

国のシンボルが蛇
もちろん原作でのカシ神様のこと。


これで月編終わりです。
前回で収まりきらなかった部分のため今話は少し短め。
次回は幕間回で、にとりの話を予定。
8割方書きあがっているので早めに投稿します。

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