東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ

・クック、マロン、ルミャ退場
・めーりんは母性



クーロンの滅亡と生き残りの女たち

 

 

10年ほどの時が過ぎて――いつの間にか初期クルーはほとんどが逝ってしまった。

世界地図を完成させるという夢を息子に託して逝ったナヴィ、立派に二代目副船長を務め上げたウェン、結局最後まで「夜」に付きまとわれていたラン。

彼らもまた、クックやマロンと同じように、人の環の中での死を選んだ。

その別れのどれもが胸を引き裂かれるように辛くて、同時にその思いの積み重ねがどこへ消えているのか不安だった。

最近はもうすっかりこの痛みにも慣れてしまって、メイリンに慰められることもない。

それでも彼女が隣にいるだけで心が落ち着くんだけど。

というかメイリンがほんといい子すぎる。

何も言わなくても私以上に私の事を理解してる気がするし、傍にいてほしい時には呼ぶまでもなく隣にいる。

料理の腕も磨きがかかってきて、すっかり胃袋掴まれちゃってるし。

 

さて、次の島はそんなメイリンの因縁の島だ。

 

「あれ、フラン様。次の島って」

 

「そうだよ。メイリンの生まれ故郷の九龍(クーロン)だね。丁度ここを通過するところだけど、どうする? メイリンが寄りたいなら立ち寄るし、そうじゃないなら一度行ってるから通り過ぎてもいいと思うけど」

 

ちなみに、以前訪れた時には散々暴れたから指名手配されてそうな私たちだけど、あれからもう20年が過ぎている。

流石に大丈夫だろうと思う。

 

「うーん……」

 

「やっぱりいい思い出ない?」

 

「いえ……どちらかといえば私が師父に拾ってもらった場所なので、思い出深いんですけど……」

 

「何か心配?」

 

「いえ……今でも暴政してたら我慢できる気がしないなぁって。師父ばりに暴れちゃいそうで……」

 

ふーむ。

そういえばクーロンは女性差別がひどい島だったっけ。

当時は私も気分が悪くなってた気がする。

 

「別にいいよ、暴れても」

 

「え?」

 

「というかここしばらく探検ばっかりで海賊らしいことしてないし、クルーの皆の息抜きにもいいかもね」

 

というのは建前で。

実のところ、メイリンがどんな決断を下すのかが気になってるだけなんだけどね。

 

長年自分を虐げてきた国。

そして今はそれに復讐する力がある。

クックに武術を教えられ、マロンやランに鍛え上げられたメイリンなら多分時間こそかかるけど単騎で国を落とすこともできるだろう。

その状況で、とてもよくできた子のメイリンがどんな行動をとるのか。

 

「よし、じゃあメイリンに一時的にスカーレット海賊団の全指揮権を与える! みんなで好きなように暴れてきていいよ」

 

「え、ええっ!?」

 

普通に暮らしてる人たちならともかく、あそこまで歪んだ国は滅ぼしちゃった方が世のため人のためにはなると思うけど。

さてさてメイリンはどうするかな。

優しいから一切の手出しをしない気もする。

芯が強いからあっさりと害悪の国を滅ぼす気もする。

頭がいいから被害者だけを救う気もする。

 

どれにしろ面白いのが、人間だよね。

 

 

 

 

なんて思っていたら手を出すまでもなく滅んでいた件について。

 

私たちがかつてのクーロンだった場所に到着すると、そこには国の残骸、廃墟が広がっていた。

人っ子一人いないゴーストタウンだ。

いやまぁ、あんだけ酷いことやってた国が長続きするわけはないと思ってたけど、まさか20年程度でここまで見事に滅ぶとは思っていなかった。

でもなんか人がいないだけじゃなく更地になってたり、わりと派手に滅んでいるというか。

しかもよく見ればこれ割と最近の被害っぽい……?

 

しばらく廃墟の街を探索していると、生き残りに出会った。

女性ばかりで100人ほどの集団が、寄り集まって生活していたのだった。

彼女たちは、私たちの姿を見るとそれぞれが武器を手に取り襲い掛かってきた。

訳が分からなかったので鎮圧してから話を聞いてみると、彼女たち曰く

『ある日突然空から翼の生えた人間たちがたくさんやってきて、人を大勢攫って行った』

『クーロン側も撃退しようとしたが、逆にあっさりと国軍を壊滅させられてしまった』

『翼の生えた人たちは日をおいて何度も襲撃してくるので、そのうち皆国から逃げ出して、ほとんどの人がいなくなった』

『最後には国を守る兵士ばかり300人ほどが残ったが、ある時を境に襲撃はぴたりとやみ、そのままここで暮らしていた』

そしてその兵士たちをこの女ばかり100人の集団が殺したそうだ。

この女たちは戦闘奴隷のようなものだったらしい。

 

え、ええと?

話を整理してみよう。

 

つまり、謎の勢力の襲撃があってクーロンは壊滅。

そんな中生き残りの男性の兵士200人と逃げることを許されなかった女性の戦闘奴隷100人が抵抗を続けていたけど、ある日から襲撃がやんだ。

人数が少なくなったのを好機とみて女性たちが反乱、男性らを鏖殺(みなごろし)

で、今に至ると。

 

なんともまぁ数奇な運命をたどる国だこと。

それで、男たちの生き残りに間違われたスカーレット海賊団のクルーに攻撃を仕掛けてきたわけね。

 

私たちはとりあえず誤解を解いてから、男性クルーたちを全員船へと戻すことにした。

そして、私とメイリンだけが残ってより詳しく話を聞いてみることにする。

 

うーん、それにしても翼の生えた人間?

パッと考えるとトリトリの実の能力者が思いつくけど、たくさんいたって言うのは何なんだろう。

 

 

 

 

生まれ故郷に戻ったらいつの間にか滅んでました。

クーロンに関しては結構複雑な思いを抱いていたんですが、肩透かしを食らったというか、思いの行き場を失ったというか。

フランさまから話を聞いた後、どうしようかと思い悩んでいたのがバカみたいですね。

そして、クーロンの跡地で出会った女性たちに話を聞くことができましたが、どうにも摩訶不思議なことが起こったようで、理解が追いつきません。

 

フラン様にどうしましょう、と伺いを立てたところ、「任せた!」と非常に力強い返事が返ってきました。

丸投げ……。

いや、確かにもともとそういう話でしたけど……状況が想像よりも数段違うじゃないですかぁ。

 

「それで、皆さんはこれからどうするんですか?」

 

仕方なしにそう尋ねてみると、女性たちのリーダーのような女性が答えました。

 

「……どうもこうもないよ。ここで死ぬしかないだろうさ」

 

「え?」

 

「もともと何か考えがあって反乱を起こしたわけじゃないんだ。アタシらはクーロンの男共に手ひどく扱われてた戦奴だったから、みんな男共に恨みは人一倍持ってたんだ」

 

「カッとなってやった、ってことですか」

 

「ああ。もともと国も翼の奴らの襲撃で滅んじまってたし、せめても最期の抵抗ってやつさ」

 

「生き延びる気はないんですか?」

 

「生き延びるったってね。住むとこも食料もないしどうしようもないよ」

 

「逃げて行った人たちみたいに移住すればいのでは?」

 

「どこにだい? この廃墟の街でもマシなほうさ。最後までアタシらが闘ってた拠点だからね。他のとこはそりゃあ見る影もなくボロボロさ。空から光が落ちて来てなにもかも吹っ飛んじまった。住民の中には船で海に逃げたやつらもいたよ。でっかい海獣に食われてたけどね」

 

そう話す女性の眼には諦めの光がありました。

いえ、諦めというよりはそもそも希望を持っていない目です。

彼女たちはほんとうに、何も考えず最後の最後に心の赴くまま反乱を起こしたのでしょう。

戦のあとですから、男性たちが何をしようとしたのかについてはだいたい想像が付きます。

私も初めて殺しを経験した後は昂って……いえ、なんでもないです。

 

ごほん。

 

彼女たちはきっと、凄い人たちなのだと思います。

戦乱にあったこの国で最後まで生き残り、しかもその後人数で勝っていた男たちを皆殺しにできる戦闘力――もさることながら、それ以上に心が強い。

()()クーロンで「男」に刃向かうということの意味を、私はよく知っていますから。

だからこそ、彼女たちは「やり遂げた」という気持ちと「やってしまった」という気持ちで燃え尽きているのです。

 

……正直に言って、私はそんな彼女たちを見ているのが辛かった。

私がついぞ反旗を翻せなかったクーロンという国に対して立ち向かい、勝利を手にした彼女たちが眩しくて。

そして、そんな彼女たちが生きることを諦めているのがやるせなくて。

 

できれば、助けてあげたい。

私がスカーレット海賊団に拾われ、救われたように、彼女たちにも手を差し伸べたい。

だけど、私にはそんな力がない。

力が、あるのは。

 

「……もう、そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないでよ、メイリン」

 

「あ、いや……」

 

「わかってるわかってる。お願いするのも気が引けるんでしょ。まぁ任せてくれていいけどさ、説得は貴方がやるんだよ?」

 

「そ、それはもちろん、はい!」

 

やっぱりフラン様には敵いません。

敵わないからこそ、いつもおんぶに抱っこで頼り切ることに気が引けて……その引け目すらも理解されてしまっています。

フラン様は圧倒的なお力でだいたいのことは一人で何でもできます。

ですから普段から他者に頼られることは慣れているのでしょう。

それがラフテルの神としての、フランドール・スカーレットの在り方ですから。

 

でも、だからこそ私はなにか返せるものを見つけたいのですけれど。

今回もまた、フラン様に頼ってしまうことになりそうです。

力のない自分が情けないのですけど……嘆くよりも今は彼女たちの説得こそ、私がするべきことですね。

 

「少し、私の話を聞いてください。私はもともと、ここクーロンの民だったんです――」

 

 

 

 

メイリンがこの国の人たちを助けたいと言い出すことも、そのために私の力を頼るだろうことも分かってたから、私はメイリンに頼まれる前から探査魔法を飛ばしてよさそうな土地を探していた。

メイリンは本当に分かりやすく素直な子だ。

その真っ直ぐな芯の通った心は見ていて眩しいし、可能な限り助けてあげたいと思う。

私はなんていうか、そういう「人間の生きる輝き」みたいなものに弱い。

その点で行くと、ロマンを求め続けていたマロンや、「人」であろうとしてマロンと添い遂げたルミャとかも、私のドストライクだったわけだ。

 

だからまぁ、生きることの素晴らしさを熱く説いて女たちを説得しているメイリンを横目に、私は可能な限りの手を尽くした。

懸念すべきは謎の勢力の襲撃。

一度は去ったそうだけどもう一度来ないとも限らないから、逃げる場所は外敵に見つかりにくい場所がいい。

加えて逃げた後の生活の面倒をどこまで見るか。

スカーレット海賊団を放置するわけにもいかないからずっと付き合うわけにもいかないし、全ての面倒を見てしまうのは多分メイリンの望むところではないし、私もそこまでしてあげる気にはならない。

問題は男性に対して極度の不信感を抱いているであろう彼女たちをどうするかだよね。

 

そんなことを考えていると、ちょうどよさそうな島を見つけた。

場所はここから南に100キロほどの場所。

凪の帯(カームベルト)の中だ。

ここなら周りの海王類が天然のバリケードになるし、敵に見つかる可能性も低いだろう。

大きさもそれなりにあるし、動植物もそこまで危険そうなものはいない。

この島から出ることは難しくなりそうだけど、逆に考えるんだ。

出なくてもいいさって。

だいたい彼女たちに外界に出る余裕もなさそうだし、安寧の終の棲家と考えればいいよね。

 

「――――ならどうでしょう!?」

 

「敵に襲われなくて、男共がいないどころか誰の手も入っていなくて、食べるものも十分な島なんて、にわかには信じられないよ」

 

「でもでも、もしあればそこで暮らすことは吝かではないんですよね!?」

 

「アタシたちはみんなもう終わってもいいと思ってるのさ。ただまぁ、そこまで条件が整っているのなら、死ぬ前に穏やかに暮らすのも、悪くはなさそうだけど……」

 

「じゃあじゃあ、男がいなくても子供が作れるようなサービスもつけますよ! やっぱり穏やかな生活には子供がいるのが大事ですよね! ルミャさんがそう言ってました!」

 

「はぁ!? そんなことができるのかい? ……いやでも、それで男が生まれたら自分の子供でも殺しちまいそうだ。それなら子供なんて作らない方が……」

 

「それなら! 生まれる子供も女の子だけになるようにしますよ! それなら可愛い女の子を育てることは楽しみでしょう!?」

 

「あ、ああ……」

 

……。

……んん?

なんか知らない間にすごい条件が付いてるんだけど。

ちょっとメイリン、説得に熱が入って変なこと口走ってない?

押し売りセールスで洗剤とかサービスするノリでとんでもないこと言ってる気がする。

そういえばこの子、熱くなると周りが見えなくなる悪癖があったっけ……。

多分昔の、クーロン時代に教え込まれたことが原因だと思うけど、漏らしてしまった中で頭打ちつける土下座してたりとかしてたもんね……。

 

「(ふ、フラン様、大丈夫でしょうか? ちょっと調子が乗っちゃっていろいろ言っちゃったんですけど……)」

 

メイリンがこちらに耳打ちしてきた。

良かった、変なことを言っている自覚はあったんだね。

 

「(でもフラン様ならこの程度ちょちょいのちょいですよね!)」

 

あなた、私のことなんだと思ってるの……?

まぁでも、今回に限ってはできなくもないからアレなんだけど……。

 

メイリンの鈴をどうにかする過程で実験した生命創造の魔法を利用すれば、父親がいなくても子を成すことはできると思う。

加えて生まれる子供の性別を固定することもできなくは……ないかな。

ただそこまでやると魔法じゃなくて呪いの域なんだよね。

呪いって言うのはつまりかけなおさなくても永続的に人体に効果のある魔法なわけで、使用者(わたし)の手を離れても作用し続けるから調整が難しい。

強すぎると体に悪影響が出そうだし若干弱めにかけることになるだろうけど、人によっては成長と共に効果が弱まるかもなぁ。

……ま、問題が出たらその時考えればいいよね。

 

「まぁいいよ。じゃあみんなに荷物まとめさせて」

 

「はいっ。流石フラン様です!」

 

その言葉は本心なんだろうけど、若干冷や汗を流してるから自分の失敗を誤魔化すヨイショがはいっているよね?

あとでお説教しよう。

 

「まとめる荷物も特にはないけど……何で移動するんだい?」

 

「えっと、私たちの乗ってきた船があるんですけど……フラン様?」

 

「いや、流石に100キロもあるとサンタマリア号で移動する気にはなれないからね。手っ取り早く転移魔法使うよ」

 

今回は特に急いでいるわけでもないのでしっかりと地面に魔法陣を書いていく。

以前にクック一人を転移させたような状況ならともかく、100人規模での集団転移は流石に前準備なしで発動させるのは難しい。

有り余る魔力と背中の翼の賢者の石を使えばゴリ押しでできなくもないんだけどね。

ほんとこの体の性能はすごい。

 

準備ができたので私の書いた魔法陣の中にクーロンの生き残りの女性たち全員に入ってもらう。

彼女たちはこれから何が起こるのか理解していないから半信半疑というよりは不可解だという表情をしている。

ちなみにメイリンもよくわかってない顔をしている。

確かにスカーレット海賊団の面々の前でもここまで大規模な魔法を使ったことはなかったかもしれない。

何かあっても基本的に体の基礎スペックでどうにでもなるし、ある程度はクルーたちに任せていたからなぁ。

 

準備に多少時間はかかったけど、発動自体は一瞬。

演出のためにパチン、と私が指を鳴らした瞬間、彼女たちには周囲の風景が丸ごと変わったように見えたはずだ。

ここはもうクーロンの跡地ではなく、そこから遥か南の凪の帯(カームベルト)のただなかにある無人島だ。

 

 

 

 

何が起きたのか分からなかった。

分かったのはただ一つ、抗いがたい大きな力がすべてを押し流してしまったということ。

 

アタシは九龍(クーロン)という国に生まれた女だ。

クーロンじゃあ男と女の間には絶対に覆せない格差があって、女に立場なんてなかったけれど、アタシはその中でもいっとう酷い生まれだった。

顔も見たことない母親がなにやら犯罪者だったようで、アタシは生まれた時から戦奴だった。

戦奴ってのはいわば動く肉盾だ。

戦時には隣国との戦争とかに駆り出され、損耗してもいくらでも換えが効く道具のような扱い。

平時には闘技場で見世物にされる。

相手が悪いと巨大な獣と素手でやり合わなくちゃならなかったり、下手をすると平時の方が死亡率が高いってのが何とも笑えない話だ。

 

そんな中アタシはそこそこうまくやれていたんじゃないかと思う。

まず、アタシは強かった。

体格に恵まれ、運動神経反射神経ともに悪くなく、剣をとればほとんど負けなかったし、弓をとれば的を外さなかった。

そして、従順に男たちに従う理性も持っていた。

幼少のころは男に従うのが当たり前だと思い込んでいたし、成長して隣国との戦争の中で現実を知ってからも保身のためにそれまでと変わらず過ごした。

そうしていることに別段不満はなかった。

動きが悪くなってきたら処分されるまではそうして生きていくんだろうと、アタシは漠然と思っていた。

 

そんな日があるとき突然に終わった。

空から翼の生えた者たちが襲い掛かってきたのだ。

クーロンはすぐさま戦時体制になり、慌ただしい戦いの日々が始まった。

 

初めは隣国が新たに開発した兵器か何かだと思われていた翼の者たちは、どうやら隣国とは何も関係がないらしかった。

というのも、隣国もそいつらに襲われて滅亡したからだ。

クーロンの王は焦った。

なにせ長年自分たちと戦争をし続けてきた隣国があっさり滅んだのだから、翼の者たちの強さも分かるというもの。

アタシを含め国の戦えるものはすべて全力で投入された。

 

戦いは熾烈を極めた。

空を飛ぶ奴らに対して有効な手段は弓矢か投石くらいなもので、剣を当てるなんてのは難しかった。

アタシは弓矢を射続け、クーロンの兵としてはかなりの敵を倒したんじゃないかと思う。

ただ、それも焼け石に水。

ほとんどの弓は躱されるか打ち払われて意味をなさず、逆にこちらは頭上からの一撃でやられてしまう。

奴らが使う不思議な道具――貝のようなものから炎を出したり衝撃波を出したり、斬撃そのものを出したりと殺傷力が高いのだ。

 

戦力差としては到底戦いになる物ではなく、それでも辛うじて戦いの体を成していたのは奴らの目的がアタシたちを殺すことではなかったことと、アタシたちが数で勝っていたからだった。

奴らはアタシたちを積極的に殺そうとはせず、どこかに連れ去ろうとするのだ。

多分奴らにとってはこれは戦いではなく、狩りのようなものだったのだろうと思う。

 

人も物資も奪われ続け、いつしかクーロンの人々は逃げ出していた。

兵士の中にも逃げ出すものが出始め、いつの間にか王の所在も分からなくなっていた。

隣国と同じように、クーロンもあっさりと滅んだのだ。

それでも真に国を思っていたり、逃げ出す時期を見誤ったり、家族を連れ去られ復讐に燃えていたりと戦い続ける兵士は残っていた。

そして、彼らに使われるアタシたち戦奴もまた戦場から逃げ出すことはできなかった。

 

万いた兵が半分になり、さらに半分になり、千を切り、300ばかりにすり減った頃、唐突に奴らの襲撃は終わった。

敵の将を打ち取ったわけでもなく、唐突な終わりだった。

だからだろう、男共があのような蛮行に走ったのは。

普通に考えて、ほとんど全てが滅んでしまったこの状況で、手を出す愚かさは度し難い。

 

……実のところ、何があったのかアタシはよく覚えちゃいない。

初めはいままでのように傍観していたと思う。

自分に手を出されるのも仕方ないかなと諦観していたようにも思う。

でも、戦場を背中合わせで助け合って、幾度も互いに命の危機を救った戦友に手をかけられて。

よくそれまで生きていられたなと思うほど頑固な彼女が、やっぱり男共に反抗して。

戦いが終わったというのに無意味に命を散らされた彼女の姿を見て。

――私の中の何かが切れた。

 

気づけばアタシは男共を皆殺しにして、残った女たちのリーダーのような立場に収まっていた。

アタシたちの決起のきっかけがアタシの一太刀で、その強さも統率力も戦いのなかで信頼されていたからこそだったけど、正直なところアタシにとってはどうでもよかった。

だってもう、何も希望が見えない。

あとはこのまま緩やかに物資が尽きるのを待つだけだろう。

……皆ももう、生きることは諦めていた。

クーロンの女は諦めることの肝要さを、よく知っている。

アタシは、餓死は辛いから最期は皆で互いに首をはね合うのがいいだろうか、なんてそんなことを考えていた。

 

そうして緩やかな滅びを待つアタシたちのもとに、大いなる“力”がやってきたのだ。

 

遠くに見えた人影を最初に報告したのは誰だったろう。

初めはクーロンから逃げ出した住人が、戦いの終わりと共に戻ってきたのかと思った。

しかし、服装が見慣れぬものであること、そしてなにより“男”共だということがアタシたちに剣をとらせた。

男共の人数は40ほど。

少女を二人ばかり連れているようだが、先頭を歩かせているところを見るに人質か肉壁のような扱いなのだろう。

頭がカッと熱くなった。

アタシたちの思いは一つだ。

殺してやる、と。

 

ところが、あっさりと鎮圧されたのはアタシたちのほうだった。

男共は恐ろしく強く、歴戦の兵士であるアタシたちを次々と無力化していった。

しかも剣を佩いている者も多いのに、それを抜かず素手でやられる始末。

アタシたちを傷つけないようにという配慮まで透けて見えるようで、翼の奴らと同じようにアタシたちをどこかに連れて行くつもりなんだと思った。

 

アタシたちは地面に転がされながら武器を取り上げられ、一か所に集められた。

そこで少女たちが前に出てきた。

そして、驚くべきことが起こる。

少女の傍らにいた男が、アタシたちが襲い掛かるのを警戒するように一歩前に出た時、少女が手を振ってそれを押しとどめたのだ。

しかも、何事かを言って男たちを皆、下がらせた。

 

女、それも少女が大の男共に命令を発したのだ。

クーロンではありえない光景だった。

隣国はクーロンに比べればそこまで女の扱いは酷くないそうだが、それでも明確に両者の間には差がある。

 

アタシたちが呆然としている間に、少女二人はこちらへ歩み寄ってきて、話しかけてきた。

彼女たちはクーロンが滅んだ理由を尋ねてきた。

驚きの衝撃と彼我の実力差も相まって、アタシは自分が知ることをすべて素直に答えた。

するとどうだろう、緑色の服を着た赤毛の少女がアタシたちを助けたいのだと言い出した。

正直なところ、アタシは何を言われているか分からなかったし、皆もそうだっただろう。

突然現れてそんなことを言うなんて裏があるようにしか思えない。

だけど彼女たちは力づくでアタシたちをどうすることもできるのに……なぜそんなことを言いだすのか分からなかった。

赤毛の少女はもともとクーロンの民だったそうだけど、だからといってアタシたちを助ける理由にはならないだろう。

 

赤毛の少女が言う救いの未来は荒唐無稽なものだった。

誰にも襲われない安住の地。

しかも男共がいないどころか誰の手も入っていないまっさらな島。

それでいて食べるものも十分だという。

加えて男がいなくても子供が生まれるだの、生まれる子供が全員女の子になるだの、本当に何を言っているのか分からなかった。

嘘をついて騙そうとしているのかと思えば、赤毛の少女の様子を見ればそうではないことが分かる。

彼女はアタシたちを助ける側だというのに、アタシたちより必死にこちらを説得しているのだから。

 

もう訳が分からなくて、アタシは投げやりな気分になっていた。

どうせ、なにをどう足掻いたところでアタシたちは負け、彼女たちに命を握られていることにかわりはないのだから。

皆も不信感こそ持ちすれ、本気で少女の救いを信じている者はいないようだった。

 

……そして、気が付けばアタシたちは見知らぬ島に立っていた。

それが、全ての終わり。

そして、全ての始まり。

アタシたちが、神様に出会った日。

 






・クーロンで暴れることを許可するフラン
航海当初からだいぶ精神が変化している。
仲間の死を通して死に寛容になってきている。

・初めての殺し
スカーレット海賊団のクルーは海獣以外に、攻撃してくる現地住民も手に掛けることがある。
なお昂った後どうしたのかは、クックがメイリンに性知識を教えているか否かで変わる。

・押し売りセールスマン、メイリン
むしろテレビショッピングでいろいろつく感じかもしれない。

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