東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

16 / 50
前回のまとめ

・クーロンの成り立ち
・見習いコックちゃんの日常




鈴の声色と二律背反の自己証明

 

 

「――できたっ!」

 

フランは“実験室”と銘打たれた船室の中で一人快哉をあげた。

目の前には床に描かれた魔法陣、そしてその中央にはピンクに脈打つ肉片が落ちている。

 

「アハハハハ、やっと完成した……この魔法さえあれば……でももう少し微調整しなきゃだね」

 

フランは肉片を手に取って眺める。

それは、人間の器官の一部だった。

それも、器官だけになってなお()()()()()

 

「命を与える……言うだけなら簡単だけど、生命創造がここまで大変だとは思わなかったなぁ。というか普通に有機物の錬成がしたかっただけなのに魂の定義からやらなきゃならないって……」

 

フランが開発した魔法は、無機物を有機物へと変える魔法だった。

しかしその研究は難航し、数百年に及ぶ魔法の研鑽があってもなお実現は難しいものだった。

見習いコックちゃんがサンタマリアの一員になってからずっと研究していたが、実を結んだ今日、すでに彼女の乗船から実に八年が経過している。

 

そう、この魔法はフランが見習いコックちゃんのために編み出した魔法である。

鈴を取り外すことはできない、かといって鈴をどうにかしなければ声帯の回復は不能。

そこでフランは()()()()()()()()()()()()ことを思いついたのだ。

この発想が斜め上というか、それを実現してしまう行動力なんかは数百年の時を生きる吸血鬼ならではのものだろうか。

 

 

「ふんふんふーん」

 

それから数日後。

微調整も終え、かかりきりだった魔法研究の実現めどがついて上機嫌に鼻歌を歌うフラン。

船内を歩いているとその歌を聞きつけてか件の見習いコックちゃんが現れた。

今年で乗船八年目、15歳を迎えた見習いコックちゃんは可愛らしさと美しさの丁度中間あたりの、成長途上の少女が持つ魅力を存分に振りまいている。

その容姿もかなり優れたものだ。

青がかかった灰色の瞳と鮮やかな赤色の髪は利発で活動的な印象を与える。

髪は腰まで伸ばしたストレートヘアー。

側頭部を編み上げてリボンを付けて垂らしている。

服装は例のフランが作ったチャイナ服。

この服はサイズ調整が自動で行われるので、成長して身長も体の一部も育ち始めている見習いコックちゃんの体にもぴったりフィットしている。

 

見習いコックちゃんはフランの姿を認めると、笑顔を浮かべ、その中に少しの疑問の色を混ぜる。

言葉にすれば、『フラン様、嬉しそうですね。何かいいことでもありましたか』といった具合だろう。

八年も共に暮らしていれば、言葉がなくとも言いたいことは理解できる。

見習いコックちゃんの感情表現が上手いということもあるが、少なくともサンタマリアのクルーは皆、言葉を必要とせずこの程度のコミュニケーションは取れる。

 

「あ、コックちゃん、いいところに。ようやく例の魔法が完成したんだ」

 

その言葉に見習いコックちゃんは()()と華が開くような笑顔を浮かべ、そしてすぐに眉の角度で怯えの色をあらわした。

フランが研究していた魔法に関してはクルー全員にすでに周知しているものの、見習いコックちゃん自身は自らのアイデンティティーとも呼べる鈴がどうにかなってしまうことが恐ろしいのである。

この八年の生活で船長としてのフランにも、ラフテルの神としてのフランにも信頼と敬意を抱いている見習いコックちゃんであるが、こればかりはいかんともしがたかった。

 

「今夜はパーティーだよ。クックに宴会の用意をさせて。あとみんなにも連絡してね」

 

「(こくっ)」

 

「あと、コックちゃんにも三品、メインを作ってもらおうかな」

 

「!」

 

この八年で料理の腕をクルー各員に認められるほどに成長した見習いコックちゃんであるが、いまだ見習いの地位から脱してはいない。

フランは正直もう見習いから格上げしてもいいんじゃない? と数年前から思っていたが、師匠であるクックがいまだ頑固に見習いコックちゃんの腕を認めておらず、見習いのままだった。

そのため見習いコックちゃんの料理が並ぶことはあれど、メインはいつもクックがつくり、副菜や箸休めを作るのが見習いコックちゃんの日常であった。

それを今、フランは船長として見習いコックちゃんに“メイン”を作るように指示したのだ。

ようやく長年の修行の成果を認めてもらった形になる見習いコックちゃんは涙を流さんばかりに喜んでいた。

 

「クックの舌をうならせる料理を作る事。いいね?」

 

「(こくっ、こくっ)!」

 

首を激しく上下に振り肯定の意を示す見習いコックちゃんに、フランも笑顔で頑張ってと激励をかける。

今夜は大きな騒ぎになる、という確信めいた予感を持って。

 

 

 

 

「さあ、みんな集まったね?」

 

私は周囲を見回して声を張り上げた。

宴会場にはすでに色とりどりの料理がこれでもかと並び、その周囲にクルーが勢ぞろいしている。

いや、見習いコックちゃんだけはいまここにいない。

そして、テーブルの中央もそこだけ料理が置かれず、ぽっかりと穴が開いている。

 

「マロン、今日は何やるか聞いてる?」

 

「いや、船長。唐突に宴会やるってだけ聞かされてたけど。なんの祝いだ?」

 

「ふっふーん。それを今から説明するね。今日は、見習いコックちゃんの昇進記念パーティーだよ!」

 

「なっ。儂は何も聞いてないぞ、船長!」

 

「言ってないもん」

 

クックが抗議の声をあげるけど黙殺。

 

「それじゃあコックちゃん、どうぞ!」

 

私の合図で大皿三つを器用に手に持った見習いコックちゃんが奥から現れる。

大皿には見ただけでおいしいとわかる見事な料理が鎮座している。

匂いもすごく、香辛料の鼻に来る刺激が涎を垂らさせる。

すでにクルーのうちの何人かはゴクリという音がするほどつばを飲み込んでいる。

見習いコックちゃんはそれをテーブル中央の空いたスペースに並べた。

 

「コックちゃんの代わりに私が説明するね。私から見て右から順に回鍋肉(ホイコーロー)麻婆豆腐(マーボードウフ)小籠包(ショーロンポー)っていう料理だね」

 

ちなみにもちろんこの世界の食材を使っているうえに、私が出した料理のアイデアを見習いコックちゃんが独自にアレンジしたものなので、元の世界のそれぞれの料理とは違う点も多い。

ただ、おいしさだけは保証できる。

これらはクックにはヒミツで私が見習いコックちゃんに教えたものだ。

勿論中国っぽいクーロンから着想を得た。

クックが好きな和風っぽい料理はかなり普及してきたけれど、中華料理やフランス料理といったものはまだほとんど広まっていない。

というか私が広めてないだけなんだけど。

私の料理の腕が壊滅的で再現ができないとかそういうわけではない。

ないったらない。

レーヴァテインの火力が高すぎるだけなんだよ……ほんとだよ……。

 

 

と、それはどうでもいいね。

見習いコックちゃんの作った料理をまずは皆に一口ずつ取り分けさせる。

そして、私の「乾杯!」の合図で酒杯を掲げ、宴が始まった。

 

するとすぐに見習いコックちゃんの料理を口にしたクルーたちから次々と驚きの声が上がる。

「うまい!」「辛い、がこれは痺れる旨さだ!」「あちちち、ショーロンポーっての中からアツアツの汁が出てくるぞ」「すげえな、どうやって作ったんだ」「食ったことねえ味だな。うまいぞ!」「あっ、ランてめえ俺の横取りしやがったな!」「油断しすぎじゃないっすかねぇ、副船長。宴会場も戦場だぜ!」

なんか変なの混ざってるけど。

……気を取り直して。

 

「さて、みんなはコックちゃんの昇進を認めそうだけど、クックはどうかな?」

 

「……いただく」

 

ぶすッとした顔でクックは料理に手を付ける。

それを横でドキドキしながら見守る見習いコックちゃん。

やがて空気の変化に気が付いたのか、クルーたちも静かになり、クックの反応を見守る。

 

クックはゆっくりと一口ずつ料理を口に運び、目をつむって唸る。

そして次の料理をまた口に運ぶ。

それが3度繰り返され、彼の皿は綺麗になった。

しばしの沈黙が続き、見習いコックちゃんの額に汗が浮かんできたころ、クックが口を開いた。

 

「儂は以前からおぬしの料理の腕に関しては認めていた。すでに儂と並ぶ十分な腕だ、とな。それでも見習いの看板を下ろさせなかったのはなぜだと思う?」

 

「……」

 

コックちゃんは答えない。

まぁ喋れないから答えようがないんだけど。

ただその瞳は真剣にクックを見つめている。

クックも答えを期待したわけじゃなかったようで、言葉を続ける。

 

「それはひとえにおぬしの料理がすべて、儂の模倣だったからだ。劣化しているとまではいわんが、他人の真似をするだけでは儂はおぬしを料理人としては認められん」

 

「……」

 

「翻ってこの料理は――見事だ。このホイコーローという料理は実に面白い。これは一度炒めた肉を取り出して、油に通した野菜を炒め調理し、また再度肉と混ぜ合わせたな?」

 

「(こくっ)」

 

おー流石クック。一皿食べただけでわかるんだ。

回鍋肉の“回鍋”は「一度調理した食材を、再び鍋に戻して調理すること」っていう意味らしいしね。

私はずっと鍋を回して炒めるからだと思ってたんだけど、「料理は勝負」のジャンて人がそんなことを言ってた。

漫画の知識だから合ってるかどうかは知らないけど。

 

「このマーボードウフの香辛料の使い方も見事。ショーロンポーの内部の煮凝りを熱で溶かして液体にするという発想もまた、見事。どれも儂の手腕を超えておる」

 

「(ふるふる)」

 

見習いコックちゃんは首を横に振った。

――多分、その料理のアイデアが私のものだから、自分の実力じゃないと言いたいんだろう。

クックもそれは分かっていたようで私の方をちらりと見て、さらに言葉を続ける。

 

「もちろんおぬし一人でこの発想に辿り着けたとは思わん。大方どこかのお節介な“食べる専門”の吸血鬼が入れ知恵したのだろう」

 

「……」

 

見習いコックちゃんは首を縦に振るか横に振るか迷っている様子。

発想のもとは私で合ってるけど、お節介な~のくだりで素直に頷きにくいといったところかな。

というかクック、あとで屋上ね。

 

「しかし、それをここまでの料理に昇華させた手腕はおぬしのものだ。それは誇ってよい。――本日をもって儂はおぬしを一人の料理人として認めよう」

 

「(ぱあぁ)」

 

「ただし! まだ儂の持つ技術をすべて盗んだわけでは無し。免許皆伝は許せんぞ」

 

「(しゅん)」

 

最後にオチはついたけど無事にクックも見習いコックちゃんを認めて、これで晴れて見習いコックちゃんからコックちゃんに昇格である。

それからはクルー総出のどんちゃん騒ぎ。

みんなノリがいいから飲めや歌えの大騒ぎだ。

その中心はもちろんコックちゃんだけど、今まで散々弟子のことを頑固なまでに認めなかったクックがついにデレたとあってクックも周囲から散々っぱら弄られている。

いいねぇ、やっぱりこういう空気は。

なんか、人間の営み、って感じがする。

 

さて、みんな食って飲んで歌って、場も落ち着いてきたころにパンパンと手をたたいて注目を集める。

何人かに指示してテーブルをどかしてもらって、クルーが見守る中、その中心に立つ私がコックちゃんを呼ぶ。

食って飲んで弄られて、追加の料理を作ったりで忙しかったコックちゃんは酔っているのか少し顔を赤くしながらこちらに歩いてくる。

ちなみにラフテルでは飲酒はハタチになってから、を推奨してるけど特に破っても罰則はない。

まぁ結局のところ自己責任だしね。

実際悪影響があるのかどうかは知らないし、国によっても年齢って違ったはず。

日本は特に遅いんじゃなかったかな。

そんなわけでコックちゃんも12くらいになった時には宴会ですでに飲んでいた。

勿論仕事は雑用係みたいなものだから後片付けとかの為にも軽く一杯二杯程度だけどね。

なお私は見た目が10歳未満でも中身はそれなりの年齢なのでお酒を飲んでも何の問題もない。

第一体内のアルコール程度、魔法や霧化を使わなくたってどうとでもなるし。私を酔わせたいなら神便鬼毒酒でも持ってくるしかないと思う。

 

「さて、これで見習いコックちゃんは正式にコックちゃんに昇進したね。みんな拍手!」

 

私の言葉で万雷の拍手が起きる。

コックちゃんはそれに照れた様子で答えた。

ちなみに万雷というのは誇張でも何でもなく、やたらと身体能力の高いうちのクルーたちが起こす拍手は物理的な衝撃まで伴っている。

まぁコックちゃん含めその程度でどうにかなるクルーもまたいないから何の問題もないけど。

私は片手をあげて拍手を収め、言葉を続ける。

 

「というわけで私からコックちゃんに二つ、昇進祝いを贈ろうと思ってね」

 

「(ぱあぁ)」

 

「おおー」

 

嬉しそうなコックちゃんと歓声を上げるクルーたち。

これまでの航海の中で何かしらの功績をあげたクルーには折々私からご褒美だったり、慶事があったらお祝いだったりで色々なものを贈っている。

それはモノによってまちまちではあるけれどどれも非常に価値が高いモノであることは間違いない。

多分ラフテルに持って帰ったら国宝として祀られちゃうものもある。

そんなわけで私からのプレゼントといえばクルーが沸き立つのも当然だ。

しかも、二つ、だからね。

 

「まず一つ目は、“声”。コックちゃんのその首の鈴を、声帯に変えて声が出るようにするよ」

 

私がそのための実験を繰り返していたことはクルーには知れ渡っていたけれど、改めて宣言すると宴会場がどよめいた。

当のコックちゃんも知っていたことだけれども、やっぱり緊張で硬くなってる。

 

「クック、コックちゃんの手を握ってあげて。痛みはないはずだけど、不安にはなるだろうから」

 

「……うむ」

 

クックがクルーの輪の中から出てきて、コックちゃんの右手を握った。

 

「……なに、心配することはない。普段はアレだが、船長はここぞというときには何をおいても任せられる方だ。力を抜け。筋肉を溶かせ。いつも武術の鍛錬で教えていることだ。できるだろう」

 

「(……こく)」

 

「そうだ。体はそれでいい。心は料理をするときのように、静かに研ぎ澄ませ。水面(みなも)が揺れぬ湖のごとく」

 

「(……フゥー)」

 

「恐怖は乗り越えるもの、怯えは打ち払うもの。自身を強く持て」

 

ピシッ、とコックちゃんの纏う空気が変わる。

どうやら覚悟が決まったみたい。

やっぱりなんだかんだ言って、クックの影響は大きいね。

 

「さ、それじゃあいくよ」

 

「(こくっ)」

 

私は術式を構築しながら魔術言語を紡いでいく。

魔力が渦巻き、金色の光があたりを染める。

不測の事態の時のために事前に賢者の石を二つほど丸呑みしてきてあるので、準備も万端。

術式は正常に作動し、徐々にコックちゃんの鈴が首の中へと埋まっていく。

いや、埋まっていくのではなく首の中で声帯として再構築され、周囲の細胞と同化を始めているのだ。

 

コックちゃんは自分の命よりも大切な鈴が溶けるように消えていくのを感じているのか、クックの手をぎゅっと握りしめた。

クックもまた、小さなその手を強く握り返す。

 

「あなたのその鈴は存在が消えるわけじゃない。むしろあなたの体と一体化して()()()()()になる。自分の体内を意識して」

 

「気を巡らせるのだ。力の流れを常に感じろ」

 

私とクックの言葉にコックちゃんは目を閉じ、集中し始める。

私も術式の仕上げに取り掛かる。

この術のミソは実は生命の創造のほうじゃない。

無機物の鈴を生きた細胞に変えるよりも、その新しい細胞をコックちゃんになじませる方がよほど難しい。

移植手術で拒否反応が出るのと同じで、異なる生命を一つに同化させるのが難点だった。

前世じゃ私も一般人だったはずなんだけど、なんともまぁ遠いところまで来ちゃったものだ。

今はそれを自在に魔力を操り、こなすことができる。

 

最後にひときわ大きく魔力光が反応し、収まった。

コックちゃんの喉元にあった鈴は完全に姿を消していて、穴が開いていた皮膚もその傷跡は見当たらない。

 

「さ、喋ってみて」

 

コックちゃんは喉元に手を当て、恐る恐るといった様子で声を出した。

 

「……あ」

 

最初はかすれたような声を。

だけど次第にその声はちゃんと聞き取れる声になる。

 

「……あ、ああっ、わた、私、声が」

 

その声は美しく澄んだ音色で、まさに鈴を転がすような声という形容がぴったりくる。

だけど、すぐに涙声が混ざってしまって、ちょっと苦笑い。

もう少しちゃんと、綺麗な声を聞いてみたかったんだけど。

 

「あり、ありがとう、ございますっ、フラン様……!」

 

つっかえつっかえながら、感謝の言葉を口にするコックちゃん。

その対象は私から始まって、すぐ隣で手を握っていたクックに、そして周りを取り囲んでいたクルーたちへと向いていく。

いままで言葉に出来ず伝えられなかった思いを洗いざらいぶちまけて、ようやくコックちゃんの言葉は終わった。

いままでも文字なんかで意思を伝えることはしていたけれど、やっぱり声に出して伝えるって言うのはまた意味が違うのだろう。

コックちゃんの顔はもう、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。

それでも美しさが損なわれていないのはいっそ見事というほかないけれど。

 

「それじゃあもう一つの贈り物を」

 

その言葉で俯いていたコックちゃんが顔をあげた。

声が戻ったことが衝撃的すぎてお祝いが二つあることが頭からすっぽりと抜け落ちていたみたい。

 

「ふふ、もう一つはね、“名前”。いつまでもコックちゃんじゃカッコ悪いからね。勝手だけど私の方であなたの名前を決めさせてもらったよ」

 

そう、ずっと考えていたことがこれ。

実に八年も見習いコックちゃんとしか呼んでいなかったのは我ながらどうかと思うんだけど、やっぱり名前って言うのは大事な物。

私だって、フランドール・スカーレットというこの名前は何より大事な自分自身の証明だ。

だから納得がいくまで考えた。

そして、贈るシチュエーションも、こうして最高のものを用意した。

願わくはコックちゃんに気に入ってもらいたいものである。

私は魔力で空中にその名前を書きながら告げる。

 

「あなたの名前は (ホン) 美鈴(メイリン) 。ホンは私の苗字、スカーレットにちなんで。スカーレットは炎の赤。あなたの燃え盛る炎のような、鮮やかな髪の赤色にも似合うと思う。それで、(くれない)を他の言葉で読んで、(ホン)。メイリンはもちろん、あなたの鈴から。美しい鈴と書いて、美鈴(メイリン)。色も形も音色も美しいけれど、一番美しいのはその在り方。悪夢の象徴でありながら希望の輝きでもある。あなたの二律背反(アンビバレント)()自己証明(アイデンティティー)。これほどぴったりな名前もそうそうないかなって」

 

やっぱり見習いコックちゃんといえば、中国なイメージがある。

それは出身のクーロンのイメージももちろんあるけど、例えばクックが教えている空手(のような武術)が、彼女がやると功夫(カンフー)(のような武術)に見えたり。

中国語はあまり自信ないけど多分読みは間違ってない、かな?

 

「ホン……メイリン……私の、名前……」

 

「どう? 気に入ってくれた?」

 

コックちゃんは私の言葉には答えず、俯いて泣き出してしまった。

ただまぁ、流石にここで「私のつけた名前がダサすぎて泣いちゃった!?」とか思うほど私は鈍感じゃない。

コックちゃんは泣きながらも全身で喜びを表現していたのだから。

 

「私……私、こんな、こんなに幸せで、いいんでしょうか……?」

 

その言葉に笑いがこみ上げる。

幸せでいいのか、なんて、そんな悩み。

 

「アハハハハ、まぁ、我らがスカーレット海賊団に攫われたのが、運の尽きだったね」

 

私の言葉にコックちゃんの様子を見守っていたクルーたちも次々に笑い声をあげて賛同していく。

コックちゃんもいつしか、泣きながら笑っていた。

 

そうしてこの日、見習いコックちゃんは一人前のコックちゃんになり――(ホン)美鈴(メイリン)になった。

 






・アハハハハ
フランちゃんの笑い声。
ワンピは登場人物が特殊な笑い声を出すことでも有名ですが、アハハハハはいなかったかな、フランちゃんの狂気的な感じに似合いそう、と思って設定したんですが。
なんか最近のところでヨンジがアハハハハって笑ってた気もする。
気のせいですね、ええ。
本作の設定はドレスローザ編あたりまでで作られているのでそれ以降は勘弁。

・魔法の研究
笑い声も相まってやってることはどう見てもマッドな研究者。
生命の創造とかベガパンクがひっくり返ってしまう。

・渋るクック
孫を嫁に出すおじいちゃん的な。
独り立ちさせたくない、でも認めてやりたい気持ちもある。
そんな不器用な感じを周囲のクルーも分かっているので生温かい対応になる。

・神便鬼毒酒
酒呑童子を酔わせた酒として有名。
他に有名な酒といえば日本神話で初めて出てくるお酒であるヤマタノオロチを酔わせた八塩折酒(やしおりのさけ)とかが有名でしょうか。
ワイン一杯でふらふらになるフランちゃんもウフフですが残念ながら本作ではザルです。
じゃないとワンピの人たちと飲み交わせない(メメタァ)
ヤマタノオロチだけに蛇足ですが八塩折酒も調べてみるとなかなか面白いです。
古事記伝で本居宣長は8回醸造した強い酒と解釈していますが、蒸留ならともかく醸造は繰り返しても甘くなるだけでアルコール度数は上がらないそうな。
八というのはヤマタノオロチとかけているんでしょうが。
あとは製法に果物を集めて作ったとか書いてあって、これ日本酒じゃなくてワインじゃないの?とか。
いやほんとどうでもいい話ですね。

・二律背反の自己証明
カッコいい表現を探して自爆した感。
この場合のアンビバレンスは論理学的な用法ではなく心理学用語の方なので二律背反ではなく両価感情とか愛憎併存と表記するのが正しいはず。
字面のカッコよさを優先してしまいましたが許してください。

・紅美鈴
実は本来のプロットでは名前が違った人。
もともとはフランの苗字をそのまま引き継いで『スカーレット・D・メイリン』になるはずでした。
でもやっぱりせめて主要二人(フランとメイリン)は原作通りの名前がいいかなと思いこんな感じに。
スカーレットとメイリンて言語違うけど結構語呂はいいかなと思っていたり。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。