東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ

・スカーレット海賊団の発足。
・10年ぶりの里帰り



原作4300年前~ 砂漠の国
砂漠の民と(元)船大工の望み


 

 

「うへー暑い―溶けるー」

 

「おい、ウェン、氷出せ氷。俺も暑い」

 

「ちょっと……この環境で一番つらいの僕なんだけど、副船長……」

 

「まったく、情けないのう。鍛え方が足りんわい。心頭滅却すれば火もまた涼し、じゃ」

 

「まぁ鍛冶の炉に比べりゃ全然だな」

 

そんな呑気な会話をするスカーレット海賊団の一行は今、砂漠の島へと上陸していた。

島というには広いかもしれないが、この世界における大陸はレッドラインの事を指し、それ以外の陸地は全て島なのである。

 

「ああーひんやりする―」

 

「ちょ、ちょっとキャプテン、抱き付かないでくださいよ!」

 

「ウェンもこの10年で大きくなったねぇ。よしよし」

 

「~~~~!! み、みなさん、ニヤニヤ見てないで助けてくださいよ!」

 

「まぁまぁいいじゃねえか。この島では船長を背負っておけよ。役得だぜ?」

 

「船長の体格なら重さを感じることもねぇだろ」

 

「マーローンー? 女性に体重の話はしちゃいけないって言ったよね?」

 

「ひっ。……き、気を付けます、はい。だからルミャ、その高密度のドス黒い闇はしまおうな。な?」

 

吸血鬼のフランはルミャの闇が覆っているとはいえ、ギラギラと照り付ける太陽と暑い気温にグロッキーになっていた。

その結果ヒエヒエの実の氷人間のウェンディゴにおぶさり、彼をクーラー代わりにしていた。

もちろんフランがその気になればこの程度の太陽などなんの痛痒も感じなくなるが、普段のフランは極力妖力を纏わず力をセーブしている。

それは、突出した力を封印してクルーたちと冒険を繰り広げるためでもあり、こういった些細なイベントを楽しむためでもあった。

 

「にしてもナヴィ。なにもないけどほんとにこっちであっているのか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。“紙鳥”で広域偵察しましたし、私の計算ではそろそろオアシスが見えてくるはずです。……噂をすれば、ほら」

 

砂丘を越えた一行の眼に映るのは砂漠の中でそこだけ緑色が眩しいオアシスだった。

オアシスには大きな集落が形成されていて、結構な人数の人が住んでいる。

《砂漠の民》とでも仮称しようか。

人々の中でも男性は褐色の肌に白い布を纏っており髪を剃りあげているために、見るからに未開の異邦人と言った見た目だ。

女性の方も髪を刈りこんでいる者やほとんど裸に近いヒラヒラした衣装の者もいるが、中には髪を伸ばし白いワンピース型の服を纏っている者もいて、まだしも文明的である。

 

ちなみにナヴィの言っていた“紙鳥”とはペラペラの実の紙人間だからこそできる、自分の一部を折り紙で造形するという技の一種である。

なお、折り紙の折り方は暇なときにフランが船室で教えたものだが、眼鏡装備の線の細い真面目な学者風の男性であるナヴィに見た目幼女のフランが折り紙の折り方を教えている光景ははたから見ればほっこりしたことだろう。

 

「おーすごい。まさに古代エジプトってかんじ。でも腰巻だけかぁ……昔を思い出すなぁ……。髪を剃ってるのは気候のせいかな?」

 

フランたち一行が近づいていくと、それに気が付いた砂漠の民が慌てて行動を開始する。

武器を取りに行く者、女子供を避難させる者、逃げ惑う者、応援を呼ぶ者。

海賊団の来襲に対しては自然な反応であり、実際数々の集落を壊滅させてきたスカーレット海賊団を警戒するのは正しかった。

もっとも、以前ならこの敵対までいかない警戒反応だけでも皆殺しになった村もあったのだが。

 

現状はフランの教育の成果もあり、とりあえず“フランの偉大さを広める相手”程度には相手のことを認識するようになっている。

ちなみにこれもフランが前世において西洋の侵略者がキリスト教を布教していた過去に倣って思いついた手段である。

“知らないとはいえフランに敵意を向けた”ことが以前までのクルーたちの殺意の引き金だったのを、“フラン様のことを知らない哀れな先住民に布教しよう”程度にはなっているのだ。

 

よって現在スカーレット海賊団は臨戦態勢の砂の民に対して非常に穏健に対応していた。

具体的には、とりあえず初手で圧倒的な力の差を見せつける。

とんでもない威圧外交――それも暴力を伴ったもの――である。

 

だいたいは覇気で相手を気絶させるところまではいかない。

それよりも視覚的に効果のある悪魔の実の能力者がなにかしたほうが効果が高いことはいままでの経験でよくわかっていた。

フランを含めクルー皆がラフテルにいたころは知らなかったが、どうやらこの世界では悪魔の実というのは希少なもので、体を自然物そのものに変化させるロギアなど普通に神様のように扱われることが常だった。

 

実際、このときもロギアの者たちがちょっとした宴会芸のようなことをするだけで、砂漠の民は驚き地に伏せ、スカーレット海賊団の訪問を歓迎した。

 

 

 

 

「あー暑いー」

 

「言わなくても分かってるよ、船長。そうやって口に出すからなおさら暑いんじゃないのか?」

 

「もう少し闇を濃くしましょうか、船長?」

 

「いやぁまあ大丈夫だよ、ルミャ」

 

私たちは今砂漠のオアシスに有る集落にいた。

砂漠を見るのは前世を含めて初めてで、かなりわくわくとどきどきがあったんだけど、私はそれを上回る暑さと日光にやられていた。

滞在二日目にしてもう海に出たくなっている。

 

「……でも面白いんだよなぁ、砂漠。料理もおいしかったし」

 

「確かにな。クックも料理のレパートリーが広がるっつっていろいろ勉強してたぜ」

 

「マロンも植物の研究楽しいんでしょ」

 

「おう。幻覚を見せるサボテンとかも興味深いけどな。これなんか見てみろよ、船長、ルミャ」

 

「うん? なんか匂うね」

 

「ああ、これはあいつら――砂漠の民が重宝してる植物みたいでな。こいつから出る液を肌に塗りこむことで日光に負けない丈夫な肌を作ることができるみたいなんだ」

 

「へぇ、そんなものがあるんだ。確かにこの日光じゃ普通なら火傷しちゃいますね」

 

「私たちみたいに覇気を纏えないと日中50度を超える砂漠じゃ確かに火傷するね。なるほど、幼少期からそうやって肌を慣らしてるんだね。砂漠の民ならではの知恵って感じかな」

 

「それと砂漠で体を清潔に保つのも難しそうって思うだろ。でもこの液に消毒やら防臭やらの効果がありそうなんだよ。これ、いい匂いもするしなんだったら香水にでもすればラフテルで人気になるんじゃないかと思ってな」

 

「香水! それはいいね、マロン。完成したら私にも頂戴ね」

 

「はいよお姫様。精製は船医にでも頼めばやってくれるかな?」

 

「香水ねえ。私って吸血鬼だからか体臭とかしないんだよね」

 

「え? 船長って普通に匂いしますよ」

 

「えええ、ほんと? 私人間の数十倍は鼻がいいと思うんだけど、全く分かんないや。自分の体臭って分からないって言うけど……。血の匂いでもするの?」

 

「血というよりはどこか甘い匂いがします。はちみつを使ったお菓子みたいな……」

 

「そうだな、甘ったるいってほどじゃなくて、仄かに香る程度だが」

 

「ふうん? お菓子が好きだからかな?」

 

三人でそんなどうでもいいような会話をしていると、船大工兼鍛冶師のカープが飛びかける声が聞こえた。

 

「おーい、お頭、ちょっときてくれー。凄いモンを見つけた!」

 

「お、なになに?」

 

言われたとおりに向かってみると、砂の中から巨大な白い物体が顔を出しているのが見えた。

現場にはカープだけじゃなくて他にも何人かクルーがそろっていた。

 

「お頭、この白い石を見てくれ。こいつをどう思う?」

 

一瞬、ネタに走ろうかと思ったけどこの世界じゃ誰も反応してくれそうにないよね。

 

「きれいだね。これは……大理石、かな?」

 

「おお、流石お頭、なんでも知ってるな。ふむ、大理石って言うのか」

 

「そうだね。でもなんで砂漠にあるんだろう」

 

大理石は高級感のある半透明で縞目が綺麗な白い石だ。

英語ではマーブル。

マーブル模様の語源にもなってる。

でもたしか大理石って石灰岩だよね?

石灰岩って珊瑚の死骸とかじゃなかったかな。

砂漠にあるのはなんでなんだろう。

 

「とりあえず砂をどかしてみようか」

 

砂に埋もれてよくわからないので周囲の砂を魔法で巻き上げて飛ばす。

すると、出てきたのは巨大な鉱床。

大理石だけじゃなくてもっと白く輝く石もあった。

 

「こっちは石膏、かな。きれいな白だね、雪花石膏っていうんだっけかな」

 

石膏は海水が干上がってできるものなんだっけ。

大理石もだけど昔はここが海だったのかな?

それにしても地質学の授業で勉強したことが来世の700年後に活かされるとは……。

 

そんなことを考えていると、砂漠の民も砂を巻き上げた竜巻を見てかぞろぞろと集まってきた。

そして口々に驚きの言葉を発する。

そりゃあ自分たちの住んでる砂の下からこんなもの出てくればびっくりするよね。

 

「こりゃあ、なんてまた、美しい……」

 

「ああ、驚いたな、こんな石があるのか……」

 

「綺麗ですね……」

 

けど驚いてるのは砂漠の民だけじゃなくて、カープやマロン、ルミャを含め、スカーレット海賊団のみんなもだった。

ここまで白い石は確かに珍しいのかな。

私としては前世の記憶があるから別にびっくりはしないけど、そういえばこの世界はインターネットどころか流通すらないし、珍しさの価値は前世よりずっと上なのかも。

 

「こっちの大理石(マーブル)は建築資材とか彫刻とかに使われるね。雪花石膏(アラバスタ)の方も過熱すると大理石みたいになるらしいけど。あとは芳香剤になるんだっけかなぁ。流石にこれ以上は良く知らないや」

 

むしろよく覚えているものだ。

授業で聞き流した覚えしかないのに、当時の自分すら覚えていないような記憶を今なら引き出せる。

吸血鬼の記憶力は記憶するだけじゃなくて引き出す方もすごい。

というかそういう能力でもないと辞書なんて作れなかったけどね。

 

「これで……建築、か……」

 

なんだかやけに熱のこもった声でカープが呟いている。

なんだろう、琴線に触れた?

カープはしばらく目を閉じて唸っていたけど、決心がついたのか私に話しかけてくる。

 

「お頭……俺、この石で建築、やってみたいんですが」

 

私たちスカーレット海賊団は一つの場所に三日から一週間ほど留まることが多い。

でも、さすがに一から石材を切り出して建築するとなったら重機とかだってないし軽く一週間以上はかかるだろう。

だから、私は船長としてこのカープの提案は蹴らなきゃいけない。

 

「んー、まぁ他の皆に聞いてみて、だね。マロン、みんなを集めて」

 

「おうよ、船長」

 

 

 

 

結論から言えば、私たちスカーレット海賊団はしばらくこの砂漠のオアシスに滞在することになった。

なんでもカープは最近、マロンのために剣を作ってから鍛冶師としての仕事にもなんだか身が入らなくなっていたらしく、クルーもみな心配していたそうだ。

……私は気づいていなかったんだけど。

 

で、カープは大理石と雪花石膏という未知の石に魅せられて、建築士としての血が騒いだらしい。

というのもラフテルにいたころはもともと建築士で、船大工も兼任していた状態だったそうだ。

カープもまたラフテル中から選抜されたクルーの例にもれず才能あふれる人間で、基本的に何でもできる人だったみたい。

そういえば船の中でも日曜大工的な感じで色々作ってたりもしてたね。

 

クルーは船長(わたし)さえ良いなら、という条件付きでカープの頼みを聞くことにした。

まぁ私もたまにはひとところに落ち着いてのんびりしてもいいかなとは思っていたし、砂漠は珍しいのでもう少し堪能したいという気持ちもあったのでオーケーを出した。

 

そして最終的には、私が設計した建物をスカーレット海賊団みんなで協力して作る、というお祭りイベントのような何かになっていた。

 

ちなみに、もちろん私は建物の設計なんてできないので、簡単なイメージイラストを描いただけだ。

なんとなく古代エジプトっぽい感じと白い建築物ということでアラジンに出てくるような頭が丸い宮殿のイラストを描いたところ、これがみんなに好評だった。

確かにこんな異国情緒あふれるデザインのものはラフテルにはないもんね。

 

と、そんな感じで建築が始まってから気づいた。

 

あれ? アラジンのモデルってエジプトじゃないよね。

アラビア語とかでてたし。

そしてそうなると私が描いた宮殿が、明らかにタージ・マハルなことに気が付く。

インドだよ! エジプトじゃないよ!

確かに大理石で真っ白な宮殿だけど!

 

というかそもそも建築素人のクルーたちを動員して作る建築物にしては複雑なうえ大きすぎたし、宮殿なんて建てても、私たちスカーレット海賊団は次の目的地に向けて出発するわけで放置していくしかないのだ。

どう考えてもただの計画なしである。

だいたい私が悪い。

 

けど、嬉々として石を切り出し建築し始めているクルーの姿を見ると私には何もいえなかった。

 

「ねぇマロン。そんなに建築作業楽しい?」

 

「おう。これも“未知”の一つだしな。船長の威光を示すような立派なモンを作るってのはなかなかにロマンじゃねえか」

 

こんな感じである。

多分時間が経てばめんどくさくなると思うんだけど、今は新しく始めた作業にみんな興味津々というかほんとに楽しそうに働いている。

 

さてその間私は何をしているかと言えばクックと一緒に特にやることもなくのんびり過ごしている。

クックはクルーの中で唯一、料理の研究のために建築には関わらず私の傍にいるようにしたそうだ。

一応、私を一人にしないように、というクルーの配慮でもあるらしい。

 

そんなこんなで砂漠をあっちこっち飛んでみたり、海の方まで出ていったり。

その中で最悪の出来事が一つ。

 

砂漠のオアシスでイチゴを見つけたことがあった。

お、珍しいと思って一つつまんで口に入れる……。

そのあとのことはあまり覚えていない(正確には覚えているけど思い出したくない)が、クックの話だと地形が変わる程に狂乱していたらしい。

クックも余波に巻き込まれて死にかけたとか。

異変をかぎつけてやってきた船医のおかげで大事はなかったらしい。

 

そのイチゴ、実は蜘蛛だったのである。

今でも思い出すと鳥肌が立つのだけど、イチゴのように見える真っ赤な蜘蛛だったのだ。

しかも船医がのちに調査したところでは食べると数日後に突然死ぬ猛毒を持っているという凶悪な奴だったらしい。

吸血鬼の私に毒なんて効かないはずなんだけど、その事件の後は三日三晩うなされた。

毒よりも口の中で蠢く細い足が……ぷちっと潰れる感覚が……苦い液体が……いや、やめよう。

 

まぁ、それはそれは嫌な事件だった。

ただ、面白い発見ももちろん多い。

なかでも砂漠の生物はどれもユニークで、他の環境とは生態系が全く異なるのだと思い知らされた。

生物と言えば、砂漠にすむものだけでなく、砂漠の周辺の海や河に住む生物も変わったものが多かった。

猫のようにみえる海獣とか結構可愛いものも見れた。

というかクックがジュゴンみたいな海獣に武術を教えてたんだけど、なにやってるんだろ……。

 

 

しばらくあたりを彷徨って、久しぶりにオアシスに帰ると、建築スピードが一気に上がっていた。

何があったのかと思えば、砂漠の民が建築に参加していた。

それも、宮殿だけじゃなくて周囲に街のような感じで色々と作り始めている。

 

「カープ。どうしたのこれ」

 

「お頭、帰ってきたんですね。いやぁ、俺らにも何が何だか。なんか勝手に手伝われちまって。言葉が分かればいいんすけどねえ」

 

「ふうん」

 

私はひとりの砂漠の民を呼んで、彼に話しかけてみた。

砂漠の民の言葉は分からないけど、私は見聞色の覇気を使えば相手の考えていることを大体読み取れる。

その結果、彼らは私たちを神の一行のようにとらえていて、超常の力(悪魔の実や覇気のこと)を使い、見たこともない綺麗な白い石を使って何かを作っているので、是非とも手伝いたい、という心境なのがわかった。

加えて、クックが作る料理などの私たちが持つ文化についてもいたく感銘を受けているようだった。

 

なんだかここまで懐かれると土の民との初接触を思い出してこそばゆい。

タージ・マハルもどきの宮殿をつくるためにはしばらく滞在しなきゃならないし、その間くらいは面倒見てあげてもいいかなぁ。

 

とりあえず言葉と文字を教えるところかなぁ。

私は相手の思考を読み取れるけど、意思疎通ができないとどうしようもないし……。

 

 






細かいネタ解説とか。

・幻覚剤になるサボテン
原作のメスカルサボテンのこと

・香水の元になる植物
砂漠にそんな植物生えるって結構珍しいと思う。もちろん原作ナノハナの街から

・フランの匂い
なんとなく甘いお菓子の匂いがしそう。作者の勝手な妄想

・海ネコ
フランが可愛いと言ったがためだけに、のちにこのあたりで神聖な生き物として扱われるようになる勝ち組生物。4000年前なので原作よりも可愛いかった可能性もある(子海ネコは原作扉絵でも可愛かったけど)

・砂漠のイチゴ
原作ではエースが食べた(食べてない)もの。3日間症状なしで潜伏して突然死に至らしめる上に、死体がその後3日間感染源になるとかいう凶悪過ぎる毒を持つ蜘蛛。死体が感染源ってもしかして空気感染?ヤバすぎませんかねぇ。

・クンフージュゴン
なぜカンフーも何もありそうにない砂漠の国であんな生物がいるのか。それは誰かが教えたから。代々受け継がれた武術は中国ならぬカンフー4000年の歴史を誇る……といいなぁ



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