魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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温泉

 迫りくる炎―――。

 

 猛雷―――。

 

 振り下ろされた刃―――。

 

 流れる血潮―――。

 

 別け隔つ河川―――。

 

 紅い、どこまでも紅い川を挟んで、僕は私と会った。

 

「君と会うのも、これで何度目かね?」

 

 私は僕に言った。

 

「数えてないからわからない」

 

 僕は答えた。

 

「それもそうだね」

 

 私はそう言って、僕から目を逸らした。

 

「どうしたの?」

 

 僕がそう言うと、私は不敵な笑みを作った。

 

「ありがとう」

 

 僕は礼を言われる覚えがないので首を傾げた。

 

「嫌、何でもない忘れてくれて構わないよ」

 

 その時、僕は意識が落ちていくのを感じた。

 

「もう時間だね。また、会おう」

 

 その言葉を最後に僕は私と別れた。

 

 

「う~ん……」

「お、目が覚めたか?」

「ノーヴェさん?」

 

 ティーノはノーヴェに膝枕をされた状態で目を覚ました。

 

「ティーノも中々良い、腕をしてるじゃないか」

 

 ノーヴェにそう言われ、悪い気はしなかったがティーノはカラ返事を返して起き上がる。

 

「皆は……?」

「ヴィヴィオとアインハルトは、ティーノとエリオの模擬戦に触発されてどこかに行っちまったよ。他の連中は、ほらあそこだ」

 

 ノーヴェが顎で指し示す先には、なのは達の訓練風景を見ているコロナ、リオ、ルーテシアの姿があった。

 その姿を見て、どこか安心したのか。

 ティーノはぺたんと地面に座り込んだ。

 

「……負けちまったな」

「うん……」

「悔しいか?」

「悔しい……」

 

 ティーノがそう言って三角座りをすると、その頭をノーヴェはくしゃくしゃと乱暴に撫でた。

 

「頑張れ、男の子―――」

 

 ノーヴェに言われると、何故だか知らないが途轍もなく恥ずかしくなった。

 負けてしまう姿、情けない姿を見られたくないと思ってしまった。

 

「うん、頑張る!」

 

 だから、もっと頑張ろうと、そう思った。

 

 

 大人組の訓練が終わり、皆でお風呂に入ることになった。

 エリオは男の子と言うことで、メガーヌさんの晩御飯の手伝いをして女組の後に入ることになった。

 

「あ、あの!」

「どうしたんですか、アインハルトさん?」

 

 脱衣所で皆がワイワイとする中、アインハルトは頬を赤に染めモジモジとしていた。

 中々服を脱がないアインハルトと違い、ヴィヴィオはさっさと服を脱いでいく。

 

「ティ、ティーノ君も一緒に入るのですか?」

 

 そう聞かれたヴィヴィオは頭に?を浮かべた。

 

「そうですよ?」

 

 アインハルトは、今日この頃中々に驚かされることばかりであったため、慣れてきていると言っても、花も恥じらう乙女である。

 いくら年下と言っても男子の前で裸体になるのは恥じらわれた。

 

「ティーノのことなら大丈夫ですよ?」

 

 突然ヴィヴィオはそう言った。

 

「ティーノは男である前に弟ですから!」

 

 その自信たっぷりの言葉は良く分からないが、汗をかいて肌に張り付いた服は早く脱いで体を洗いたい。

 そう葛藤していると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

 

「ほらほら~、どんどん脱いじゃおうね~」

「ふわっ、ルーテシア止めて!一人で脱げるから!」

「うわっ、筋肉ついてきてるね!男の子だね~」

「くすぐったいから、お腹を触らないで!」

 

 脱衣所の別の場所から、男の子の叫び声が聞こえてくる。

 その声を聞いたアインハルトは、ヴィヴィオの言ってる意味を感覚で理解し、さっさと服を脱いだ。

 

 アルピーノ家のお風呂は、どこぞの旅館よりも凄かった。

 源泉かけ流しのお風呂に、健康や美容で割り振られた大小様々な湯船があった。

 湯気の先に広がるそんな光景を見た子供達は、大はしゃぎで走り出す。

 幻想的なまでの風景。

 まるで霧の様な湯気の先に見える露天風呂の数々に子供達は歓声を上げる。

 

「私、いっちば~~ん!」

 

 リオがそう言いながら、一番熱いとルーテシアに説明された湯船に向かいダイブした。

 

「もうリオったら~~~!」

 

 その後コロナ達が続く。

 広く数ある温泉の中でアインハルトは、比較的入りやすい温度の露天風呂に体を滑り込ませた。

 湯船に肩までつかると、全身の強張った筋肉が解れていくのが分かる。

 

「ふぅ~~……」

 

 そう声を漏らしてから、アインハルトが周囲を見回すと、大人組が来てないことに気が付いた。

 そして入り口から何やらガヤガヤとした音が聞こえそちらに顔を向けると、そこには大人組の中心でティアナに抱かれたティーノがいた。

 

「……っ!」

 

 アインハルトだけでは無い、先に湯船に浸かっていた子供組は一瞬、頬が紅潮したのを自覚した。

 そこにはバスタオルに体を包まれたティーノがいた。

 タオルが纏われた事により、男なのかと疑問に思うほどの曲線美に、粉雪のように白く透き通った肌が覗き、紫色の髪が白い肌と合わさり堕天使の如き二律背反を体現している。

 紅くなった頬は子供特有の丸みを帯び、大きな瞳は微かに潤み湖の乙女を思わせる。

 悪魔染みたある種の美しさに、皆が声を無くした。

 

「いい加減に機嫌を直しなさい」

 

 困ったように言うのはティーノを抱くティアナだった。

 

「ティーノはやっぱり、可愛いね~」

 

 そう言いながら、ティーノの頬をつつくスバルにティーノは僅かに身を捩る。

 その光景がよほど良かったのか、なのははカメラを構えていた。

 そしてその姿を見たフェイトから、電光石火の如き速さでカメラを奪われ涙目になるなのは。

 そんな姿を見て、恥ずかしいやら情けないやら複雑な感情になるノーヴェ。

 それぞれがそれぞれ、思うところはあるがそれでも皆、温泉に浸かってしまえばそんな粗末なことは忘れてしまう。

 

「わぁ、スバルまた大きくなった!?」

 

 なのははそう言うと、寛いでいたスバルの胸を指さした。

 

「えへへへ、そうですか?」

 

 そして、スバルは照れたように頬を赤くし、その様子を見ていたキャロは己の胸を触り気落ちした。

 

「気持ちいいね」

 

 肩まで温泉に浸かるティーノがそう言えば、ティアナは笑い相槌を打った。

 すると、フェイトがティーノ達の傍まで来ると、ティアナから離れようとしないティーノの肩をちょんちょんと叩いた。

 

「ほら、皆のところに行っておいで」

 

 フェイトが指さす先にはヴィヴィオ達がいた。

 ヴィヴィオがそれに気が付くと、ティーノに向け来い来いと手を振る。

 

「う~~~……」

 

 だが、ティーノは動こうとはしなかった。

 なんと言ったって、そこにはヴィヴィオがいるのだ。

 行けば何をされるか分かったものじゃない。

 だが、さらなる天敵はすぐそこにいた。

 

「えい♪」

「はうあっ!」

 

 大人組に交じっていたルーテシアに突然温泉の湯をかけられたのだ。

 

「うわっぷ!」

「ほらほら~、皆と仲良くしない悪い子にはお姉さんが、お仕置きしちゃうぞ~」

 

 さらに湯を掬い出すルーテシアの姿を見たティーノは、脱衣所で強引にすっぽんぽんにされたのを思い出し、慌てて逃げ出した。

 

 もちろん、ヴィヴィオ達がいる湯船とは別のところに―――。

 

「あっこら、逃げるな!」

 

 そんな姿を見たヴィヴィオがティーノを追いかけだす。

 ティーノは魔法を使って逃げようとはしない。

 こういった場で魔法を使うことをティアナに注意されているからだ。

 だから、自力での逃走となるわけだが、そこは普段から走り込みをやっているヴィヴィオである。

 たやすくティーノを捕まえると、文字通り抱き上げアインハルト達がいる湯船に向け放り投げた。

 

「ひゃああああああ~~~!」

 

 叫び声を上げながら、湯船に落とされたティーノが慌てて顔を出す。

 すると、右が紫で左が青の虹彩異色の瞳と目があった。

 一度目をパチクリさせたアインハルトは、慌てて体を隠すように両手で抱きしめる。

 その動作や恥じらうような態度、紛れもなくそれはティーノを一人の男として認識している証である。

 ティーノはそれが堪らなく嬉しかった。

 男と見て貰えるのが嬉しかった。

 だから、ついつい言ってしまった。

 

「あの……綺麗な瞳だね!」

「!!!!ッ」

 

 その純真無垢な笑顔でそう言われたアインハルトは溜まらず顔を桜色に染めてしまった。

 無口になり下を向くアインハルト、それを不思議そうに見ていたティーノの後ろには修羅がいた。

 

「ティーノ~~~~!」

 

 その声を聞いた瞬間、ティーノの体は一瞬飛び跳ねる。

 

「なに、アインハルトさんを口説いてるかぁあああ!」

「や、止めて……そんな所、触らないで……」

 

 ヴィヴィオはティーノに飛び掛かると、ティーノの体のあちこちを触り始めた。

 また始まったと頬を赤らめる子供達に、スバルが声をかける。

 

「あれ、セクハラしてるように見えるでしょ?」

「「「うんうん」」」

 

 子供達は勢いよく首を振る。

 

「実はアレね、マッサージをしてるんだよ?」

「へっ?」

 

 確かに良く見てみれば、微かにヴィヴィオの手から魔力が出ており、触っている部分も体の状態を確かめるのに必要な個所であることはヴィヴィオと同じくストライク・アーツを習う子供達は理解した。

 

「でも、なんでそんなことを?」

 

 コロナが疑問に思い口にする。

 

「う~ん、それはね」

 

 スバルが口にしようとすると、それを聞きつけた大人組も参加してきた。

 

「それ、私達も聞いて良い?」

 

 ルーテシアがヴィヴィオ達を見ながら、そう言うとヴィヴィオは抗議の声を上げようとした。

 

「まぁ、良いじゃない。なんど聞いても嬉しいことなんだから」

 

 だが、なのはにそう言われてしまえば黙るしかない。

 そして気を見計らったスバルが語り出す。

 

「そう、あれは私達がティーノと出会ってから間もない頃―――」

 

 それは、一人の少女と少年の出会いの話―――。

 過去の傷と向かい合い、それでもその小さな背中に光を見た。

 

 そんなお話―――。

 


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