魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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目標

 紫電一閃を受けたティーノは、叩きつけられるように倒れ伏せた。

 その姿を見たティーノの対戦相手をしていたシグナムは、レヴァンティンを軽く振るう。

 カートリッジが排莢されるのを確認すると、レヴァンティンを鞘に納め待機モードにし、バリアジャケットを解除した。

 

「荒削りではあるが、存外悪くは無いな」

 

 シグナムがそう言うと、リインは捕らわれのお姫様の演技を終え、倒れているティーノの傍に寄る。

 

「あらら……、完全に気絶してますね」

 

 リインは、目をくるくる回しているティーノの頬を楽し気につつく。

 そんな様子を見ていたシグナムは、腕組むと言った。

 

「お前も随分と楽しそうであったな」

 

 片目を瞑り意地悪そうに言うとリインは頬を膨らませる。

 

「それですよ!シグナム酷いです、リインの首を落とすなんて~……」

「なに、冗談だ」

 

 そして、そんな様子をサーチャーを使い別室で見ていたティアナ、ユーノ、はやて、そしてクロノは満足そうにしていた。

 

「魔力制限をBまでかけてた言うても、ティーノも中々善戦したやん。うん、さすがユーノ君やクロノ君、アルフが教育しただけはあるな♪」

「これで、聖王協会に対してもアピールすることが出来る」

「次はクロノの戦いだね」

「そうは言うがなユーノ……、騎士カリムに見せて聖王協会も将来有望者として期待していると、言葉をもらうだけだ。そんなに難しいことじゃない」

「そうかい」

 

 そして笑いあう中、ティアナは勢いよく立ち上がると、三人に向け頭を精一杯下げた。

 

「よろしくお願いします!」

 

 すると、さらに三人は笑顔になった。

 

「可愛いリインの弟のためやし、お安い御用や♪」

「先生として当然のことをしているだけだよ」

「子供の将来を案じるのは大人として当然だろう。安心すると良い、君とティーノを離れ離れにさせるようなことはしないさ」

 

 ティアナはそんな三人をみながら、目尻に涙を貯めながら笑う。

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 

 

「う、く……」

 

 本局の医務室にティーノはいた。

 純白の布団に包まれながら、時折苦しそうに声を上げ、額には脂汗が浮き上がり、それでも目を覚ますことを拒絶しているかのように、目覚めずにいた。

 

「シグナムやりすぎですよっ!」

「むっ……、ちゃんと加減はしたのだがな」

 

 医務室のティーノの寝るベッドの隣には、ティーノの顔を覗き込むようにしてリインとシグナムがいた。

 二人は医者にティーノを見せ、問題ないことを知るとティーノが目覚めるまで傍を離れずにいようと決めていた。

 だが、そのティーノが予想を超えて中々目を覚まさず、そればかりか悪夢を見ているように苦しんでいた。

 リインは、即座にシグナムを りつけるが、当のシグナムは、頭に?を浮かべるばかりであった。

 すると、病室の自動扉が開きティアナとはやてが入って来た。

 

「はやてちゃん、ティアナ!」

「お疲れ様です。主はやて、ティアナお前も」

「うん、二人ともお疲れさまや」

「ありがとうございます。リインさん、シグナムさん」

 

 ティアナがそう言って頭を下げると、シグナムはティアナの肩を優しく叩いた。

 

「なに、気にするな。私も久々に楽しい思いが出来た」

 

 すると、リインが心配そうな顔ではやてを呼び、ティーノの様子を伝えた。

 

「随分と辛そうやね……」

 

 はやては、そう言うと右手をティーノにかざす。

 

「癒しの風よ……」

 

 優しく暖かな風が吹くと、ティーノの呼吸は落ち着いていた。

 

「うん、大丈夫やね」

 

 はやてはそう言うと、ティーノの額を優しく撫でた。

 その時、ティーノの瞼がゆっくりと持ち上がる。

 

「あ、あれ……?」

 

 ティーノが目を覚ますと、リインはティーノに抱き着いた。

 

「ティーノ!」

「うわぁあッ!」

「心配したですよ!」

 

 リインは、私怒ってます、と頬を膨らませた。

 それに対し、ティーノは目を丸くする。

 

「リイン?」

「はいです!」

「大丈夫だったの……?」

「ティーノが守ってくれたおかげです♪」

 

 リインがそう言うと、今度はティーノが力一杯リインを抱きしめた。

 

「ぐぇっ……」

 

 リインの口から乙女が出してはいけない声が出るが関係が無い。

 そこにあることを確かめるように、力任せに抱きしめる。

 

「もうその辺りで許してやれ」

 

 聞きなれない声が聞こえたティーノが顔を上げるとそこには、あの騎士がいた。

 その瞬間、ティーノは言い知れぬ感情が溢れかえるのを理解し、気が付けばバリアジャケットを展開し、シグナムとリインの間に入り構えていた。

 

 その突然の行動に皆が驚く中、シグナムはだけは凛々しい表情を変えずにティーノを見つめた。

 

「どうしてお前がここにいるッ!?」

 

 普段ではありえない言葉遣いにティアナが驚く。

 シグナムは考え込むように一瞬瞼を閉じる。

 

「……貴様の名は?」

「ティーノ……、ティーノ・ランスターだ」

「そうか……、私の名は、シグナムと言う。ティーノ、お前は弱いな」

 

 ティーノはその言葉にカッとなり顔が赤くなる。

 

「うるさいッ!次こそは負けない!!」

「戦いに二度目は無い―――」

 

 シグナムのその言葉に、ティーノは何かを叫ぼうとするが言葉が口から出てこず、悔しそうに唇を噛んだ。

 俯くティーノの頭にシグナムがその大きな手を乗せると、慣れてないのか乱雑に一撫でした。

 

「だから強くなれティーノ・ランスター、他者からも自分からも、すべての害悪から大切な者を守れるようになるために、強く」

 

 シグナムはそれだけを言うと、病室を後にした。

 

「ふふ、もうシグナムも不器用やな~」

「ま、待ですよ!」

 

 リインもはやても、ティアナやティーノになにも言わずにシグナムについて行った。

 それは、ティーノを気遣ってのことだった。

 

「くっ……ぐっ……ぅう……」

 

 ティーノは俯いたまま、涙を流していた。

 ただ、今までのように泣き叫んだりしない。

 悔しくて情けなくて恥ずかしくて、だから泣いているのだ。

 その涙は、男として成長した証でもあった。

 

「ティーノ……」

 

 だが、ティアナに抱きしめられた時に、その我慢も終わる。

 ティーノはティアナの胸の中で静かに泣き叫んだ。

 泣き止んだティーノの頭を撫でながら、ティアナは問いかける。

 

「ティーノ、もう魔法の戦う練習止める?」

 

 ティアナは問うた。

 もっと、別の道もある。

 なにも痛くて怖い道に進む必要もない。

 なにかあれば守ってあげるから、好きな事を勉強すればいいと―――。

 だが、ティーノは折れなかった。

 

「僕、もっと強くなる……」

「強くなって、どうしたいの?」

 

 ティーノはその問いかけに、ティアナの目を真っすぐに見つめ言った。

 

「最低でも大切な女の子を守れるくらいには、絶対に強くなる!」

 

 その言葉に胸がキュンとしたティアナは嬉しくてティーノを強く抱きしめた。

 ただし、こうも思った。

 

 将来、この子は女たらしになってしまうのじゃないか、と―――。

 

 なるべき目標を見つけたその日から、ティーノはさらに訓練に磨きをかけていった。

 そんなある日のこと、ティーノがいつも通り訓練を終えティアナが来るまで無限書庫で古代ベルカ式の魔法について勉強しながら時間を潰していると、そこにティアナではなく、なのはがやってきた。

 

「ティーノ~」

 

 ほんわかした声を出しながら、フワフワと無重力空間を泳いできたなのはは、ティーノの目の前に行くと、人差し指を上に向けこう言った。

 

「ねぇティーノ、皆で旅行行こ?」

「いえ、訓練がありますので結構です」

「あれま……」

 

 高町親子はここ最近、ヴィヴィオの学期末試験や、管理局での仕事でティーノに会うことが出来なかった。

 そのため、ティーノの雰囲気や言葉遣いが大人びたものになっていることに驚いた。

 だが、そこは高町なのはである。

 

 諦めない、挫けない、やって見せる―――。

 

「ねぇ、ティーノ一緒に旅行に―――」

「結構で―――、がはっ……」

 

 なのはは、ニコニコ笑いながら、ティーノの首に手刀を落とし気絶させていた。

 そしてバインドでティーノを簀巻にすると、引き吊りながらフワフワと無限書庫を泳いでいく。

 

「ユーノ君、ティーノ借りてくね」

「うん、話はティアナから聞いてるから、わかってるよ。なのは」

 

 ユーノとその語少し話をすると、最後にウインクしながらなのはは言った。

 

「今度は、二人で旅行に行こうね♪」

 

 なのはは、そう言うと、バイバ~イ、と泳いで行ってしまった。

 取り残されたユーノは考える。

 

「二人で……、う~ん……、ヴィヴィオがいるし三人の間違いかな?」

 

 なのはがアタックすれば、それは躱され、ユーノがアタックすればそれは天然バリアーで防がれる。

 この二人、仲は良いが男女の関係になるにはもう少し、大人にならなければいけないようであった。

 

 

 良い匂いがする―――。

 この匂いは、とても大切な人の匂い、ティアナの匂いだ―――。

 

 ティーノはゆっくりと瞼を開く。

 すると、そこは見知らぬ世界であった。

 風が花の香りを運び、空が透き通り、大地には緑が溢れている。

 鳥がさえずり、兎が飛び跳ね、鹿が駆けていた。

 人の手が入っていないのに、まるで人が作ったような美しさに言葉を失う。

 

「おはようティーノ」

 

 ティアナはそう言うと、微笑みかけてきた。

 ティーノはティアナに抱かれているようだった。

 

「災難だったねティーノ、痛くない?」

 

 近くにいたスバルがそう言うと、ティーノの首を撫でた。

 

「ここは……?」

「ここは無人世界カルナージ、ここに住んでる私達の友達の家に少しの間、お世話になるからね」

 

 ティーノが周囲を見回すとかなり立派な家の庭先にいることが分かった。

 一体全体何がどうなっているのか。

 混乱している頭をどうにかしようとしていた時、どこか聞き覚えのある声がした。

 

「初めまして……、そして我が家へようこそティーノ・ランスター君」

 

 ティーノはその声の先に目を向けると、一瞬目の前をノイズが走り、見たこともない女の子と声をかけてきた人が重なったような気がした。

 だがそれは一瞬で、気持ち悪さもすぐに無くなる。

 

「私の名前は、ルーテシア・アルピーノ……よろしくね♪」

 

 そう言ってウインクするルーテシアを見ながらティーノは理解した。

 先ほどの気持ち悪さの原因を。

 

 きっと、この女は―――。

 

 メンドクサイ―――。

 


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