魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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魔法戦

 紅の閃光が宙を舞う、目測50メートル先の目標に向け吸い込まれるように突き進む。

 狙うは必中、当は必然、届けば必殺。

 一つ一つのか細い光が、一つ一つの的を撃ち砕いていく。

 

「エテルナシグマ!」

 

 子供特融の声色が響けば、相棒が電子音で答える。

 

「スティンガーレイ」

 

 それは初歩的な魔法であり、ミッドチルダ式の魔法を扱う管理局員であれば誰もが扱える射撃魔法である。

 だがそれは撃つことが出来るだけであり、的に当て続けるとなれば話は変わってくる。

 物を投げるだけなら赤子だって出来る。

 だが、狙った箇所に当てるとなれば話は変わってくる。

 それは大人でも難しい。

 それを、無理な体制から放ち当て、時折格闘戦を交えてなど正気の沙汰じゃない。

 その正気の沙汰じゃないことをやれと言っている者もおかしければ、それをやれてしまう者もおかしい。

 ただ、やれと言われて出来てしまう者達の事を、過去から未来まで、変わることなく皆はこう言う。

 

 天才と―――。

 

「それじゃ、今日はここまでにしようか」

 

 両手をパンと打ち鳴らしそう言ったのは、ティーノの魔法の先生をしているユーノであった。

 ユーノはそう言うと、ティーノに向け自身が得意としている補助魔法の一つヒールを

ティーノにかける。

 ティーノはその淡い光が強張った筋肉を解し、疲労を取り除いていくのは気持ちいいのか時折艶めかしい声を発する。

 ユーノがティーノに見出したのは、どんな状況下でも活躍することが出来、どんな相手であっても対処することが可能なオールラウンダーなスタイルであった。

 その何でも屋として、良い見本としてまた目指すべき形として、ユーノはクロノ・ハラオウンをあげた。

 クロノ・ハラオウンとは、フェイトの義兄であり現在は、次元航行隊にてクラウディアの艦長をしている。

 クロノは、ユーノがなのはと出会ったPT事件からの付き合いであり、時たま訓練場でストレス発散を兼ねて、訓練をしていた。

 そのため、すぐにティーノにあったスタイルを見抜くことが出来た。

 

「ユーノ先生、僕まだ出来るよ!」

 

 瞳を輝かせそう言うティーノに対し、ユーノは苦笑しながら答えた。

 

「訓練に熱心なのは良いことだけど、何事もやりすぎは良くないよ。成長の阻害になってしまうからね」

「……はい」

 

 しゅんとしたティーノに対し、ユーノはくすりと笑う。

 その姿は、年の離れた弟に困っている兄のようだった。

 そして二人は訓練場を退出していく。

 管理局本局の廊下を歩きながら、ティーノはユーノの顔を見ながら問いかけた。

 

「ユーノ先生!」

 

 それに対し、ユーノは優しく聞く。

 

「なんだい?」

「今日も無限書庫に行っていい?」

 

 ティーノは訓練が終わると、ユーノについて行き無限書庫内で暇を潰していた。

 これは、ティーノの迎えが来るまでの時間つぶしの意味があった。

 ほぼ毎日通っているのに、変わらず聞いてくるティーノの律義さにユーノは微笑みながら、毎度の如くOKと答えるのだ。

 無限書庫内のユーノのデスクの隣には、ティーノが行儀よく椅子に座りながら、映像を見ていた。

 それは、なのはやフェイトにはやて達が戦技披露を行っている映像だった。

 その映像内では、なのはの必殺技であるスターライトブレイカーも映されており、フェイトの高速移動技術の一つであるソニックムーブ、はやての広域魔法のデアボリックエミションも映されていた。

 そのどれもが、ド派手で男心をくすぐるカッコよさがあった。

 

「ほぁ~~~」

 

 ティーノは時折、驚いたように感心したように、変な声を出す。

 ユーノは、そんなティーノに慣れた様子で、黙々とデスクワークを片付けていく。

 デスクワークが粗方片付くと、ユーノは未だに真剣に映像を見ているティーノの肩を揺らした。

 

「なのは達は、カッコイイかい?」

 

 ティーノはそう聞かれると、興奮しているのか頬を僅かに赤らめながら、元気よく頷いた。

 

「うん!」

 

 その時、ユーノとティーノの眼前にホログラムが映し出された。

 そこに映っていたのは、クロノ・ハラオウンであった。

 

「クロノ師匠!」

 

 そう叫ぶティーノに対し、クロノは一瞬目配せすると、まずはユーノと言葉を交わす。

 

「いきなりですまないなユーノ」

「今ちょうどオフの時間帯だから問題ないよ。それで、今回の要件は?」

「ティーノのことでね……」

 

 そこで、クロノはティーノに声をかける。

 

「ティーノ、ちゃんとユーノ先生の指示通りに魔法の訓練をしているか?」

「はい師匠!ユーノ先生の言われた通りにやっています!」

 

 ティーノがそう言うと、ユーノは困ったように頬を掻いた。

 

「君と僕とで考案した訓練メニューの大半はもう終えてしまってね。魔法に関しては、この年にしては、出来過ぎているくらいでね。後は、体術くらいかな」

 

 ユーノはそう言葉を濁しながら、体術はどうも苦手でね、と零した。

 

「その件に関しては問題ない。適任者をこちらで選んだ。君は引き続き、魔法に関しての知識と力の方を頼む」

「わかったよ。それより……」

 

 ユーノはチラリとティーノを見て、一瞬考えるように瞳を揺らす。

 

「ティーノ」

「はい、なんですかユーノ先生?」

「ごめん、先生はこれから、少しクロノ師匠とお話があるんだ。訓練場で魔法の訓練の続きをしていてくれるかな?」

 

 ティーノはユーノにそう言われると、瞳を輝かせ頷くと、駆け足で訓練場に向かった。

 静かになった室内でクロノが口を開く。

 

「管理局上層部の方で、ティーノの進路について疑問視する声が再燃焼してきた」

 

 ユーノはその言葉に眉を寄せる。

 

「上の連中は、まだそんなことを考えているんだね……」

「あぁ、ティーノをティーノのまま、ジェイル・スカリエッティのレベルまで到達させるための教育方法とやらを、今議論しているよ」

「でもそれは、ティーノの意思じゃない……」

「恐らく、彼らの元にティーノを渡せば、二度と自分の意志で取捨選択をすることが出来なくなってしまうだろう」

「それは……、余りにも……酷すぎる」

「子供はいつだって、大人のエゴに振り回され、走らされる」

 

 暗い雰囲気が二人を包み込むが、何故だか二人の口元は余裕を携えているように、笑っていた。

 

「でもその解決策はすでにあるんだろ、クロノ?」

「あぁ、今の方針で自分の望む道に進んだティーノが、将来管理局に利する人物であると目に見えてわからせる」

 

 訓練場では、空を鋭い音と小さく呼吸をする音がしていた。

 

「ふっ―――はっ―――」

 

 その音を出していたのは、ティーノでありティーノは格闘術の訓練をしていた。

 拳を振るたびに汗が飛び散り、蹴りを放つと風を生み出す。

 その時、訓練場の扉が開く音がした。

 だが、ティーノはそれに気が付かない。

 

「なんだいそれは、点でダメじゃないか」

 

 ティーノはその声がした方に声を向ける。

 すると、扉の前にアルフがいた。

 

「アルフ!」

 

 ティーノはそう名を呼ぶと、飛行魔法を使いアルフの元まで行くと、首元に抱き着いた。

 そして、抱きしめたままアルフの頭を撫でる。

 すると、耳元から声がした。

 

「あんな格闘術じゃ話にならないよ」

 

 ティーノはどこから声がしたのかわからず、そして初めて聞く声色に少し緊張しながら、辺りを見回す。

 だが誰もいない。

 自然と、アルフに抱き着く力が増していた。

 

「男の子だろ?甘えてばかりじゃ、進歩がないよ」

 

 そして、等々ティーノは声の発信源を特定した。

 

「アルフ……?」

「なんだい?」

 

 狼の口から、人の声がした。

 ティーノはずっとアルフが狼であると信じていた。

 そして、狼は人語を話すことは出来ないとも考えていた。

 そのため、思考が一瞬フリーズする。

 

「なんだい、アタシが話すのがそんなに、驚くことなのかい?」

 

 ティーノは、その問いにぎこちなく首を縦に振った。

 

「そう言えば、この姿も見せたことがなかったね」

 

 アルフはそう言うと、ティーノから距離をとった。

 そして、アルフの足元に魔法陣が浮かび上がり茜色がアルフの全身を包み込む。

 光が収まると、そこには一人の女性が立っていた。

 一見では、年は16歳ほど、髪型はお尻のあたりまで伸びたロングヘアーであり、目は勝気な性格を表しているように少し吊り上がっている。

 身長も人型になったためか随分と高くなった。

 ただし、元が狼なためか犬耳と尻尾は健在であった。

 その姿を見たティーノは、信じられないと目を点にし口は半開きだった。

 そんなティーノを見たアルフは、腰に手を当てると前かがみになる。

 

「なんだい、そのだらしない顔は、しゃんとしないかい」

 

 その言葉にハッとしたティーノは震える声で尋ねた。

 

「アルフ?」

 

 ティーノの問いにアルフは何を言っているんだと頭に?を浮かべ、良く分からないがために、愛想笑いで答えた。

 

「ティーノには、アタシが誰に見えているんだい?」

 

 すると、余りにも不安だったのかティーノは人型のアルフの首元に抱き着いた。

 

「なんだい、だから甘えてばかりじゃいけないって……」

「う~~~……」

 

 ティーノはつま先立ちになりながらも、精一杯にアルフの首を抱きしめる。

 まるで、本当にアルフであるのか確かめるように―――。

 すると、アルフは困ったように頬を掻くと、ティーノを抱き上げいつも狼の姿をしていた時のように、頬をティーノ頭に擦り付ける。

 そして、安心したティーノが抱き着く力を弱めると、再び訓練場の扉が開いた。

 そこには、ユーノとクロノがいた。

 ティーノはアルフに抱き上げられながら、ユーノとクロノの姿を視界に収める。

 それに続くようにして、クロノは口を開いた。

 

「いいかティーノ、補助魔法に並列処理の効率向上などは、いつも通りユーノが、中距離遠距離の戦闘に関しては僕が、そして近接戦に関してはアルフが教育することになった。教えられる時間は僅かだが、その分全力で叩き込んでやる。わかったか?」

 

 そして、クロノ等によるスパルタ訓練の日々が始まった。

 

 スパルタ訓練から一か月、お風呂に仲良く入るティアナとティーノは湯船に肩まで体を入れくつろぐ。

 

「ティアナ」

「うん?」

「もうお風呂出て良い?」

「あと、100秒数えてからね~」

 

 ティーノが律儀に一秒目から数え出したのを見ながら、ティアナはふと思い出したようにティーノに言った。

 

「そういえばティーノ、言い忘れてたわ」

「3~2~……、なにを~?」

「明日、私も本局に行くから一緒に行こうか?」

 

 その言葉に、ティーノは身を乗り出す程に喜ぶ。

 

「本当!?やったーーーーっ!」

「あ、リイン曹長も訓練場に顔を出すって言ってたわよ~」

「わかった!」

 

 ティーノはそう言うと、風呂から出て行く。

 ティアナに訓練の成果を見て貰えるのが嬉しくて、仕方がなかったのだ。

 翌日、ティアナとティーノは仲良く手を繋いで本局の廊下を歩いていた。

 本局についてからティアナの口数がめっきり減ってしまった。

 それが不思議だったティーノは、歩きながらティアナの表情を見上げる。

 その表情はいつもより硬い気がした。

 そして、訓練場の前に到着する。

 ティアナは、ティーノの手を放す。

 

「私はこれから、少し仕事を片付けてくるからそれまで訓練場で良い子にしてるのよ。たぶん、リイン曹長も中にいると思うから仲良くね」

「うん!」

 

 そう言って訓練場に入ろうとするティーノに対し、ティアナは歩み始めた足を止め、再びティーノの傍までよると、目線を合わせるようにしゃがみ、ティーノを抱きしめた。

 

「どうしたの、ティアナ?」

「……なんでもない、頑張りなさい」

 

 ティアナはそれだけ言うと、今度こそ歩みを進めた。

 ティーノは良く分からないと、一度首を傾げると、今度こそ扉を開いた。

 すると、瞬時に感じたことのない寒気に襲われた。

 理解できなかった。

 足が竦んでしまった。

 ただそれが、一人の人物から放たれていると言うことは理解できた。

 

「ふむ……、来たか……」

 

 その人物は訓練場の中心で腕を組んで立っていた。

 桃色の髪をリボンで一括りにし、その顔はまるで物語に出てくる騎士のように凛々しい、ただ放たれていた空気は、どこまでも冷たい。

 出したことのないような汗が背中を伝う。

 心臓が早打ち、脳味噌がすぐにティアナに伝えに行くべきだと告げていた。

 だが、その騎士の瞳から逃れることが出来ない。

 まるで縫い付けられているように、視線を外すことが出来なかった。

 

「あ……う……」

 

 あなたは誰ですか?

 どうしてここにいるんですか?

 聞きたいことが次から次へと溢れてくる。

 それがまるで洪水のように口から出ようとした瞬間、ティーノは見つけてしまう。

 その騎士の隣にバインドで身動きを封じられたリインがいることに―――。

 リインとティーノの視線が交差する。

 ティーノは信じられないといった瞳でリインを見た。

 リインは、そんなティーノを見ると叫ぶ。

 

「きゃ~~~、悪い騎士さんに捕まってしまったですよ~。ひどい事されるですよ~」

 

 その叫びを聞いた騎士は、まるで示し合わせていたように顎を持ち上げたリインの首元に剣が収められた鞘を当てる。

 

「ほぅ……」

 

 騎士は、まるでリインのことなどどうでも良いように、感嘆の声を上げる。

 その視線の先には、怒りに染まったティーノがいた。

 

「ひどい事するな……」

 

 ティーノがそう言うと、騎士は片眉を上げる。

 

「するさ、貴様が止めないのであればな……」

「ひどい事するな」

「今この場で、首を落としてやっても良いぞ?」

 

 騎士のその言葉にリインは抗議の声を上げるが途中で口にバインドをされたことで黙らされる。

 それを見た瞬間にティーノは行動していた。

 

「エテルナシグマッ!」

「始めますマイフレンド」

「セットアップ!」

 

 バリアジャケットを展開したティーノは、右手を相手に向け構え即座にスティンガーレイを撃つ。

 放たれたのは一発の魔法弾、だが騎士はそれを首を捻ることで回避した。

 回避されたのを予測していたティーノは、左手を構えると今度はスティンガーレイを高速連射する。

 そして、飛行魔法を使い距離を詰めていく。

 すると、騎士はぼそりと呟いた。

 

「レヴァンティン」

「了解」

 

 剣が答えると騎士は炎に包まれた。

 構わずにティーノはスティンガーレイを放ち続け接近し、リインから距離を離すために蹴りを放った。

 すると、炎の中から銀色に光る何かが振り下ろされた。

 

 肉眼では追えない―――。

 

 そう感覚で理解したティーノは、バク宙でそれを躱し、リインを抱え上げると訓練場の端に移動しリインを置いた。

 

「ちょっと、待っててね。大丈夫、僕が守るから―――」

 

 瞳が潤んでいるリインに向け、ティーノはそう言うと炎の塊に向け突貫する。

 すると、炎が振り払われ中からバリアジャケットを身に纏った騎士が姿を現した。

 

「はぁぁあああああああッ!」

 

 速力の乗った右拳が騎士に振り下ろされる。

 騎士はそれを、半身下げ躱すと鞘から剣を抜刀し斬りかかってくる。

 回避は不可能、ならばと振り上げていた左拳で殴り弾く。

 騎士の方が力が強い、弾いたはずの剣が再度振られようとしていた。

 ティーノは崩れた体制のまま、飛行魔法で騎士の頭上に移動し、右腕の銃口を向ける。

 

「ブレイズキャノン」

 

 エテルナシグマがそう叫ぶと、紅い砲撃が騎士に襲い掛かり炎を伴って爆ぜる。

 爆炎が訓練場を包みこんだ隙に、ティーノは一端距離を取り、肺の中から空気を吐き出した。

 深呼吸も出来ない、短く呼吸することも出来ない。

 そんな不思議な感覚だった。

 苦しくて、痛くて、今すぐにへたり込んでしまいたい。

 だが、自分の後ろには守らなければいけない人がいる。

 ティーノはその思いだけで拳を構える。

 爆炎が収まり、煙が晴れた。

 だがそこに騎士はいなかった。

 

 倒したのか?

 

 そう思った瞬間、ティーノはなぜだか腕を頭上でクロスさせた。

 

 世界が歪むほどの衝撃―――。

 両腕を通じて全身を流れ、それが大地を揺らしている。

 そう思えるほどの衝撃がティーノを襲った。

 一瞬、すべての空気が肺から押し出されそうになるもそれを我慢し、後ろにいるであろう騎士に向け蹴りを放つ。

 だが、それも空振りに終わっていた。

 そして軸足だけで立っていたティーノに向け剣は横なぎに振られ、それをプロテクションで封じたティーノは大きく吹き飛ばされる。

 壁に向け、頭から突っ込んでいくティーノはそれでも右手の銃口を騎士に向けていた。

 そして、今自分が出来る躱すことの出来ない一撃を放つ。

 

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト」

 

 エテルナシグマがそう発すると、騎士の全方位にまるで取り囲むかのように、魔力刃が鋭い刃を騎士に向けていた。

 ティーノが叫ぶ。

 

「放て!」

 

 魔力刃の数は百を超えている。

 それが全方位から同時に襲ってくるのだ、回避することは不可能である。

 そして、この魔力刃には相手のバリアを抜く効果が付与されている。

 まるで罪人を処刑するかのように次々と刃が突き刺さって爆ぜる。

 だがそれでも、騎士は無傷でそこに立っていた。

 騎士の全身は、淡く紫色に光っていた。

 

「パンツァーガイスト」

 

 恐らく騎士のデバイスだろう声がティーノには聞こえた。

 そう、デバイスの音声が聞こえる位置にまでティーノは肉薄していた。

 ティーノは、スティンガーブレイドが防がれることを、予め予想出来ていたため、すでに騎士の懐に入り込んでいた。

 騎士が動こうとするが、動くことは出来ない。

 

「なにッ!?」

 

 なぜなら、吹き飛ばされる瞬間にティーノが設置したバインドに捕らわれているからだ。

 初めて騎士の焦る声を聞いたと思うが、関係ない。

 ここに全ての準備は整った。

 ティーノはリインを守るために、自身の必倒魔法を使う。

 

 その名は―――。

 

「ブレイク」

 

 紅く染まった拳が騎士の腹部に叩きこまれる。

 

「インパルス!」

 

 そして、ティーノの必倒魔法は、騎士のバリアジャケットの上から内部を直接粉砕した。

 ブレイクインパルスにより、騎士の体に浸透した魔力ダメージは、騎士の体を超え床を砕く。

 その威力により煙が巻き上がる。

 今度こそはと、ティーノは考えた。

 当たれば必倒の魔法をぶつけたのだ。

 自身の奥の手であり、切り札だった。

 それをくらって無事であるとは思えない。

 ティーノは、背を向けるとリインの傍に寄りバインドを外していく。

 そして、口元のバインドを外すとリインが叫んだ。

 

「ティーノッ!」

「……中々に楽しめた。見事、と言っておこう」

 

 そこには、所々バリアジャケットが破れた騎士が立っていた。

 

「褒美だ、よく見ておけ……」

 

 そして、騎士は剣を上段に構える。

 剣に炎を纏わせこう言った。

 

「紫電一閃」

 

 振り下ろされる炎剣を見ながら、そこでティーノは意識を手放した。

 


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