魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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再戦

 

 月夜に走る銀閃。

 

 壁際まで追い詰められていたティーノはそれを躱すと背にしたビルの壁を足場に空高く飛び上がる。

 見下ろす眼下の炎の騎士が振るった剣閃は、先程ティーノが足場にしたビルを切り崩した。

 

 空の優位を活かす。

 

 ティーノはシグナムを捕えた瞳を逸らさない。

 両手首から甲にかけて突き出す形である銃口を向けると、まるで豪雨の如くスティンガーレイを放ち続けた。

 巻き上がる砂埃でシグナムを見失わないように、なのはに教えられた通りに常に落ち着いて確実に勝利を取りに行く。

 だがしかして、相手は烈火の将であった。

 その身を貫く弾丸を受けたまま、のそりと重たそうに重心を落とすとレヴァンティンを鞘に納めた。

 

「レヴァンティン!」

「シュランゲフォルム」

 

 抜刀と同時に姿を現した剣はまるで蛇のように剣先が空を飛んでいく。

 その速度はもはや直射砲撃のそれと変わらず。

 己が技量だけで操っているのか疑問に思わせるほどであった。

 空に浮かぶティーノの真下から突き刺す勢いで迫る剣の蛇を躱す。

 だが、躱した先には同じく空に浮かんだシグナムがいた。

 シグナムがティーノを蹴り抜く。

 その重さはいままで受けたどんな打撃よりも重くティーノは耐えきれずに蹴り飛ばされた。

 だがそこはクロノ達に師事を受けていたティーノである。

 予めセットしておいたバインドがシグナムを束縛しようと現れた。

 だがそれらは、シグナムの領域に入ったと同時に切り裂かれる。

 さらにシグナムの領域の外側にスティンガーブレイドの群れが姿を現すが、それらすらシュランゲフォルムのレヴァンティンに叩き落とされた。

 

「何度も同じ手が通用すると思うな」

 

 シグナムがそう呟きティーノを見つめる。

 その先では、すでにティーノは紅い闇を出現させていた。

 

「闇に染まれッ!!」

「デアボリック・エミッション」

 

 ティーノを中心に爆発的に膨れ上がった紅い闇が結界内を染め上げていく。

 

「ほぅ……」

 

 シグナムは息を少し吐き出すと、レヴァンティンを握る右腕を振り上げた。

 

「飛竜一閃!!」

 

 シグナムの魔力がシュランゲフォルムのレヴァンティンを包み込み炎の鞭となった。

 

「はあっ!」

 

 振り抜かれたその一撃はまさに敵を薙ぎ払う騎士に相応しいものであった。

 球状に膨れ続けるティーノのデアボリック・エミッションを縦に切り裂いたのだ。

 

「なッ!?」

 

 これにはティーノも驚くことしか出来ない。

 デアボリック・エミッションはランクS-の魔法である。

 そこに込められた魔力は、ランクに恥じないものであった。

 だがシグナムは、その魔力の塊をただ魔力を乗せただけの剣で切り裂いたのだ。

 

 ありえない―――

 

 ティーノの心がその言葉で埋め尽くされる。

 その壁の高さを改めて理解させられてしまう。

 

「でも僕だってぇえええええッ!!」

「モード2形状変化―――ストレングス」

 

 レヴァンティンが鞘に収まる。

 それと同時にティーノがシグナムに肉薄し殴り飛ばした。

 

「ぐっ……」

 

 殴られたと同時に体を撃ち抜いた貫通性の高い魔力弾がシグナムの後方の空間を歪ませる。

 歪んだ空で吹き飛ばされたシグナムが体制を立て直すと、コンマ一秒とかからずに抜刀し頭上の脅威を振り払う。

 

「くそ!」

 

 そこにはすでにティーノがいた。

 ティーノは防がれた左拳を引き戻し、踵落としを振るう。

 噴射され続ける水が速力を高め、撃滅の一撃をシグナムに叩き落とした。

 シグナムは咄嗟にシールドを張るが、それは水流に削り取られてしまう。

 そして踵落としを受けてしまったシグナムは大地に叩き落とされた。

 まるでミサイルでも降って来たかのように大地に爆音が響き砂埃が巻き上がる。

 ティーノは流れるように高速移動し、砂埃の中にいるシグナムに向け殴りかかった。

 シグナムはティーノの拳をレヴァンティンで受け止めるが、ティーノの拳が触れた瞬間に魔力弾により再度吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされたシグナムは頭からビルの窓に突っ込みガラス片を撒き散らした。

 数秒後、ティーノに熱風と爆音が襲い掛かりビルが内側から燃やし尽くされた。

 溶かされていくビルの中から出て来たシグナムの視線は、今まで感じていた冷たいものではなく。

 逃げ出したくなる程に、熱かった。

 

「……その攻撃は?」

 

 シグナムからの問いに、半歩後退してしまったティーノであったが、それを誤魔化すために構えを取る。

 

「僕の拳はどんな盾も貫通し、蹴りはどんな盾も削り飛ばす!」

 

 シグナムはティーノ両手両足に展開している魔法陣を視認する。

 

「なるほど……、どおりで防いだ上からでも攻撃が届くはずだ」

 

 ―――だがそこには焦りが見えない。

 ―――むしろ楽しんでいるようであった。

 

「なら、その四肢に当らぬように斬り伏せれば良いわけか」

「そんな事させる筈がないだろ!」

 

 ティーノはストレングスを解除すると、一足飛びで距離を開けた。

 その距離は互いが踏み込むには離れすぎている距離であった。

 

「ここは僕の距離だ!」

 

 ティーノが右手の銃口をシグナムに向ける。

 さらに魔法陣が生まれ円陣を炎が走る。

 右手の前には八枚のプレートが姿を現し、軋み音を出しながら静かに回転する。

 

 アウトレンジからの一方的な砲撃。

 近接戦では勝てないときのための、逃げ道。

 本来であれば、こんな方法ではなく正々堂々と戦い勝ちたかった。

 だが、今の実力ではまだ勝てないと理解してしまった。

 理解したのなら、勝てる手段を取るほかない。

 このままアウトレンジから弄り潰す。

 

 この時、ティーノは勘違いしていた。

 シグナムの戦闘スタイルやその出で立ちから、シグナムは近接戦しか出来ない。

 精々がミドルレンジまでだと思い込んでいた。

 思い込んでしまっていたが故に忘れていた。

 

 ティーノにとってシグナムとはその思い込みを叩き潰す存在であると言うことを―――

 

「レヴァンティン……」

「ボーゲンフォルム」

 

 シグナムが徐に鞘とレヴァンティンの柄を重ね合わせる。

 するとレヴァンティンの形状が変化し、弓となった。

 シグナムがその弓をティーノに向け、まるで照準を合わせるかのように沿わせていた右手を引くと、炎の鳥が生まれその内部から一本の矢が姿を現す。

 ティーノとシグナム、互いの熱気が空間内の空気を燃焼し、息苦しさを感じながらもティーノは焦った。

 

 ありえない、と―――

 

 だからこそ、今残存する魔力のすべてをこの一撃に込める。

 

 そして―――

 

「打ち砕けッ!」

「駆けよ隼……」

 

 放った―――

 

「ブレイズイレイザー!」

「シュツルムファルケン!」

 

 長く開けた道路のアスファルトを吹き飛ばしながら、炎弾と炎の矢が突き進みぶつかりあった。

 両者は音速を超えぶつかり合ったことで、周囲一帯を根こそぎ吹き飛ばす。

 ただその中心点では、互いに速力を弱めることなく相手を押しつぶすかのように火花を散らす。

 ティーノは全ての魔力を込めたことにより膝から崩れ落ち、最後の一撃を見守る。

 ブレイズイレイザーは自壊することも無視しながらシュツルムファルケンを崩壊に導く。

 だが互いが拮抗していたのは、数秒のことであった。

 

「くそったれ……」 」

 

 ブレイズイレイザーは、発射前に魔力を込め打ち出す一般的な直射型魔法であった。

 そのため、拮抗する力をぶつけられれば当然のごとくその威力は徐々に失われていく。

 それに対して、シグナムのシュツルムファルケンにはその常識が通用しなかった。

 

「ハァアアアアアアッ!!」

 

 シグナムはシュツルムファルケンに向け右手を翳し、魔力を送り込んでいく。

 魔力を送り込むことが出来た。

 シュツルムファルケンが魔力を上乗せされたことでさらに勢いをつけだす。

 その様は、まるで炎の鳥のように美しい。

 そして炎の鳥が倒れ伏すティーノ目掛けて飛翔していく。

 それを止めることはもうティーノには出来ない。

 

 ティーノには―――

 

「防げ!イスベルグ・プルガトワール!!」

 

 地中より生まれしは、氷山の群れ。

 氷山の群れは炎の鳥と化したシュツルムファルケンを包み込む。

 貫かれ、溶かされ、砕かれてもそれを上回る勢いで生成されていく氷は遂にシュツルムファルケンを圧死させた。

 蒸気が立ち込め次第に雨が降り始めた。

 

「貴様は……?」

 

 シグナムはボーゲンフォルムを解除し、レヴァンティンを正眼に構えた。

 それに対し、デュリンダナを地面に突き刺したままのオルランドはデュリンダナを抜くと鞘に納めた。

 

「オルランド・グランディス……、ここで寝転んでいる阿呆の友達だ」

 

 その言葉を聞いたときに、シグナムは懐かしい何かを感じた。

 そう、フェイトと始めて相見えた時と似ている。

 いつのまにか、自身が悪者になっているのだと気が付いたシグナムは、ならあの時と同じで悪に徹してやろうかと、口元を歪めた。

 それは戦いに悦楽を見出したシグナムだからこその思考だった。

 そんなシグナムに対し、オルランドは残念そうにしていた。

 

「あなたとは、一度きちんとした形で戦ってみたいが、今はその時ではない」

「なに―――?」

「すまないが、行かせてもらう。と、言うことだ―――」

 

 そしてシグナムは気が付いた。

 いつの間にか月明りが消えていることに。

 シグナムが空を見上げると、そこには入道雲のように大きく美しい氷山があった。

 

「逆巻き連なり天に座せ―――落ちろ、ヘイムダル」

 

 その言葉を合図に、空にあったヘイムダルが落下を始める。

 そして氷山は結界内を踏みつぶした。

 

 

 

 

「なんで、お前がここに……?」

 

 結界から抜け出したオルランドとティーノは、繁華街の裏道で座り込んでいた。

 

「アンジェリカから、貴様が何か無茶をすると連絡があってな」

「そうか―――あイタ!!」

「拳骨を落としたのだから当然だろう。まったく、あれだけ人に相談しろと私に言っておきながら、自身は私に一言も無くとはな―――悲しみの前に怒りが湧き上がってくる」

 

 そう言ってさらに拳を振り上げたオルランドに向けティーノは両手を上げた。

 

「ストップ、ストップ!!仕方がないだろ?さっき思いついたことなんだから!」

「貴様―――そこまで、阿呆だとはな―――もっと、計画性を持て」

 

 オルランドはそう言いながら、ティーノを立たせる。

 

「そんなことより、お前の方は良いのかよ。更生施設を抜け出して……」

「友の危機だ、構わんよ」

「お前も対外に計画性がないよ」

 

 ティーノとオルランドはそう言いあうと、笑いあった。

 

「―――では、話してくれるんだろ?今から、何をしに行くのかを」

 

 オルランドにそう言われたティーノは口を開こうとした。

 その時、予想外の人物が二人の前に現れた。

 

「その話、私も聞きたいです♪」

 

 ティーノが驚きに耳を疑いながらも、声の方に目を向けるとそこには銀髪の少女がいた。

 

「リ、リイン……?!」

 

 ティーノのその心底驚いた声を聞いたリインは、対照的に花が咲いたように笑った。

 

「ハイです♪」

 


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