「ウイングロード!」
「エアライナー!」
陸戦場のフィールドの空を青と黄色の線路が敷き詰められていく。
それぞれのチームの組み合わせは、赤組にフェイト、キャロ、ノーヴェ、アインハルト、コロナ、ティアナ、ティーノ。
そして、青組はなのは、エリオ、ヴィヴィオ、リオ、スバル、ルーテシア、ガリューで構成され、それぞれに与えられた役割に準じて行動を始めた。
ガードウィングのポジションを与えられたティーノは、線路犇めく空を駆けていく。
「僕の相手になるのは、ルーテシアの召喚獣のガリューだったよね?」
「その通りです。マイフレンド」
相手となるガリューとはすでに顔を合わせている。
人型の召喚獣で近接戦を大元にした戦闘スタイルであると、事前に教えてもらった。
ティーノが戦術を頭の中で編み出していると、エテルナシグマが注意する。
「マイフレンド、戦いの主旨を思い出して下さい」
その言葉にティーノは、ハッとする。
「……分かってる。今はチーム戦をしてるんだってことは」
「だから……」
勝負が動くのは数の均衡が崩れたとき―――
その篝火は―――
「僕が作る!」
赤組の頭脳を務めるティアナは、戦場の全体を見つめながら、どこか嬉しそうに笑っていた。
「ティアナさん、嬉しそうですね」
フルバックを務めるキャロが、ティアナの笑顔が伝染したかの様に笑いながら訪ねた。
「分かる?」
「えぇ、すごく楽しそうです」
「あの子とこうやって模擬戦をするとは思ってもいなかったからかしら、情けないところを見せたくないのと同時に、あの子の頑張る姿を見続けていたい」
そう言いながら、目線でティーノを追うティアナを見つめながら、キャロは頑張ろうと自分に言い聞かし、両腕を胸の前で力一杯握った。
空を飛ぶティーノとフェイトは、誰よりも早く敵陣の内部に入り込んでいた。
「ティーノ、気を付けてね」
「それはお互い様です。フェイトさん―――ッ!!」
それは突然のことだった。
気が付けばティーノの眼前にフェイトがいて、突如として現れたエリオの攻撃から守っていた。
「くっ!」
「はぁああああ!」
決めにかかったのだろうエリオは、必中の突撃を防がれ生まれた隙を、フェイトのバルディッシュで逆に弾かれる。
そのフェイトの頭上に影が差せば、そこには人型の昆虫が風の如きしなやかさで、フェイトに蹴りを浴びせようとする。
「エテルナシグマ!」
「ブリッツアクション」
しかし、ガリューは攻撃モーション中にティーノに殴り飛ばされる。
ビルに突っ込むガリューを見ながら、ティーノは左手の銃口を構えた。
そしてティーノとフェイトはそれぞれの敵に向かっていく。
「ディバインバスター!」
「くっ……」
ヴィヴィオとアインハルトは、それぞれが戦うに適した大人の体へと変身し、すでに戦いの火ぶたを切っていた。
「魔法の打ち合いなら!」
ヴィヴィオは、周囲に展開したソニックシューターをアインハルトに向け放つ。
それと同時に、吶喊を始めた。
だがしかし、ソニックシューターを防ぐことで隙が出来ると思い込んでいたヴィヴィオは驚愕する。
「覇王流、旋衝破」
「いっ!?」
こともあろうに、アインハルトはヴィヴィオが放ったソニックシューターを一塊に集め、それをヴィヴィオに投げ返したのだ。
「反射技!?」
ヴィヴィオが叫ぶ中、懐に入り込んだアインハルトの右拳がヴィヴィオの胴体を捕え吹き飛ばす。
勝った―――
そう思ったアインハルトの頬に突然痛みが走った。
「カウンター……?」
ヴィヴィオが殴られる瞬間に、魔力弾を放っていたのだ。
「やはり、ヴィヴィオさんは―――」
アインハルトが未だライフポイントの残るヴィヴィオに追撃を駆けようとしたところでティアナから待ったの通信が入った。
「アインハルト、ヴィヴィオは下げられる。その代わりアナタは先陣突破で斬り込んで、青組のセンターガード、なのはさんの所に!」
「はいっ!」
「スティンガーレイ」
ビル群が次々と蜂の巣に変えられていく。
その様はまるで模様替えをしているかの様に、鮮やかだった。
「当たらない……ッ」
ビルの内部をまるで壁が無いかのように移動しているガリューは、ティーノの弾幕から逃れると、一瞬にしてティーノの背後に移動し、両手から飛び出した角で突きを放つ。
ティーノはその突きを、空に舞う枯葉のように回避し逆に蹴り飛ばす。
ガリューはそれを両手でガードし耐える。
ティーノはガードの上から叩き潰すように拳を振り上げる。
「ブレイクインパルス」
必倒の一撃を加えようとするが、その手をガリューに取られ、ビルの壁に叩きつけるようにして投げ飛ばされた。
ビルの窓を突き破り、盛大に砂埃を巻き上げるティーノの姿を見て、ガリューは構えをとる。
「ブレイズキャノン」
今しがた砕け散った窓ガラスを溶かす勢いで放たれたブレイズキャノンは熱量を伴ってガリューを襲う。
それを間一髪背中から四対の羽を生やし空に逃げたガリューを紅い鎖が拘束する。
「チェーンバインド」
ビルの中から見えない敵に対してバインドで拘束すると言う離れ業をやってのけたティーノはボロボロの体を引き吊りながら、姿を現す。
「フィジカルヒール」
エテルナシグマが即座に回復魔法を発動し、ライフポイントの回復を行う。
ティーノはチェーンバインドに拘束され身動きが取れなくなっているガリューに向け、右手を掲げた。
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト」
空に縫い付けられたガリューを囲む様に、合計100本のスティンガーブレイドが姿を現す。
「放て!」
ティーノのその言葉を皮切りに、処刑専用の剣達は、ガリューに殺到する。
そして、刑は執行された。
―――かの様に思えた。
「ッぐあぁああ」
「マイフレンド!」
ティーノの叫びとエテルナシグマの叫びが響く。
空には何もなく、ガリューの姿もなかった。
ただ、鎖が引きちぎられていることだけは理解できた。
ティーノはその様を眺めながら強打の連撃を受け続ける。
減り続けるライフポイント、ガリューの姿はどこにも見えない。
まるで透明人間に殴り回されているかの様に、次々にティーノのライフポイントは減っていく。
だが、ティーノは諦めない。
「エテルナシグマッ!」
ティーノは殴られながらも、左手を地面に向けた。
「ブレイズキャノン」
砲撃がティーノの真下のコンクリートを砕き、大穴を開け、周囲一帯を砂埃で埋め尽くす。
「ブリッツアクション」
さらに、ブリッツアクションを唱えたティーノは、瞬間的に砂埃の中から脱し、その中を凝視した。
そして見つける。
砂埃を切り裂く人型を―――。
「そこッ!」
ティーノはスティンガーレイを放ち適格にガリューに当てることに成功する。
「!!?」
今度はガリューが驚く番だった。
「よし!」
攻略法を見つけたティーノは、ブリッツアクションで移動しながら、次々にブレイズキャノンで周囲を破壊していく。
さらに、追撃を始めたガリューに対しスティンガーレイを確実に当てていく。
ただし、ガリューも戦士である。
子供に良いようにされてはいられない。
ガリューは、スピードをさらに高めブリッツアクションの合間に攻撃をしかけていく。
「もう少し、もう少しなんだ……」
そう呟いた瞬間にティーノはガリューに蹴り飛ばされる。
「ぐわッ」
大きく蹴り飛ばされたティーノは、コンクリートの地面を三回バウンドすると、立ち上がる。
目線の先にはガリューはいない。
ただし、ティーノはこのポジションを狙っていた。
「ティーノさん!」
そう上空では、先陣突破を果たしなのはと戦っていたアインハルトがいた。
そして、そのアインハルトになのはは砲撃を加え止めを刺そうとしている。
ティーノは二人の正確な位置を把握しながら、理解していた。
ガリューも焦り、止めを刺しに来ると―――。
その考えは当たっており、上空からまるで流星のような速さで飛び蹴りをガリューはしている。
運が良かっただけだ。
だが、運はティーノに味方した。
ティーノは肩で息をしながら、顔を空に向けることすら出来ない程に疲れ切った体に鞭を打って、右手を空に掲げる。
この魔法は、オリジナル程の威力は無い。
だが、入り乱れるチーム戦の状況下では最適であった。
ティーノの足元にベルカ式の魔法陣が広がる。
掲げた右手の先には、紅い魔力の塊が脈動していた。
まるで卵から孵るのを今か今かと待ち望むように脈動を繰り返す塊に、ティーノとエテルナシグマは、産声を上げた。
「―――闇に……染まれ……」
「デアボリック・エミッション」
解放された魔力の塊は、震源地から生まれる衝撃波のように周囲すべてを紅く染め上げていく。
紅い闇が世界を染め上げ、終わりを迎えると、ガリューのライフポイントは一桁になっており、ルーテシアによって後方に下げられていた。
さらに、デアボリック・エミッションが発動する前になのはの砲撃により撃墜間近となっていたアインハルトは、エテルナシグマにより、デアボリック・エミッションによるダメージは無かったもののキャロにより後方に下げられる。
そして、全てがうまく行ったと思っていたティーノには、相応の洗礼が舞っていた。
「ふぅ~……、危ない危ない」
「ど、どうして……」
なのはは、デアボリック・エミッションをプロテクションで防ぎ切っていた。
「ティーノの魔法のレパートリーの豊富さには本当に驚かされるよ。でも、考えが少し浅はかだね」
なのはは、そう言うとレイジングハートを、ティーノに向ける。
「ディバインバスター!」