魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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基礎トレ

 上る太陽が、約45度上方の角度から前面を照らし、後方に大きく影が伸びる。

 

 両側面には、縦長なビル群が檻の様に並び、檻を囲う様にさらにビル群が迷路を作り出していた。

 

 太陽の真下、光から生み出された影の中の蜃気楼から生まれ出でたのは、炎の騎士。

 

 あの時と変わらぬ、凍えるような空気を全身から発し、威圧の籠った視線を向けてくる。

 

 朝焼けを薙ぎ払う剣を鞘から抜き放ち、正眼に構えた。

 

 対するティーノ・ランスターは、自身の周囲にスティンガーブレードを八本生み出し空間に固定した。

 

「準備はいいですか、マイフレンド?」

 

 エテルナシグマがそう問いかけてくる。

 

 無論だ―――。

 

 全身の筋肉を眠りから呼び覚まし、リンカーコアから送られる魔力も全身に染み渡った。

 

「お願い、エテルナシグマ……」

 

 ティーノがそう言うと、空中にホログラムが現れ、時を刻みだす。

 その時が、ゼロから一になった瞬間、ティーノは右手と左手の銃口を騎士に向け魔弾を放った。

 

「だ、はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 ティーノはコンクリートの地面に横たわりながら、大粒の汗を全身から流していた。

 

「今日……は……何分……いった……?」

 

 息も絶え絶えに言うと、エテルナシグマは点滅しながら答える。

 

「30分です。前回よりも2分30秒伸びています」

「そっか……」

 

 ティーノがしていたのは、仮想模擬戦である。

 エテルナシグマがシグナムの幻影を作り出し、ティーノはそのシグナムと毎日模擬戦をしていた。

 今のところ、全戦連敗記録を更新中であり、どれだけ長く戦い続けることが出来るかに重点を置かれていた。

 

「もう少しだったね」

「はい、惜しい点が何点かありました。後、一息です」

 

 ティーノは、寝そべるのを止め笑う足に力を入れ立ち上がる。

 

「うん、僕も見えて来たかもしれないんだ。……後少しで勝てる」

 

 その時、空から声が降り注いできた。

 

「皆に内緒であんな事してたんだ♪」

 

 ティーノはその声を聞くと、イタズラがバレた様にそっぽを向いた。

 

「……別に内緒とかじゃないもん」

「ふふっ、そっか……」

 

 ティーノに声をかけて来た人物、高町なのはは、微笑むとティーノの前に降り立つ。

 ティーノは拗ねた様に唇を尖らせる。

 

「どうしてこんな所にいるんですか……?」

 

 するとなのはも、イタズラがバレた子供のように誤魔化す様に笑う。

 

「私は空を飛ぶのが好きだから、こんなに天気が良いならって我慢できなかったの……そしたらティーノの姿が見えたから、何をしてるんだろうって上から見てたんだ」

「そうですか……」

 

 ティーノはそう言うと、考え込むように顎に手を置いた。

 

「?」

 

 なのはが、その様子に頭をコテンと傾げる。

 すると、ティーノはどこまでも真剣な瞳でなのはを見上げた。

 

「なのはさんは、戦技教導隊で仕事をしてるんですよね?」

「そうだよ」

「なのはさんから見て、僕はどうでしたか……?」

 

 ティーノの瞳が語っていた。

 

 答えを提示するまで逃がさないと―――。

 

 なのはは、その瞳に身震いした。

 魔法戦技の教導官の性か、ここまで一途に教えを請われてNOと言える訳がない。

 なのはは、嬉しそうに笑うと答えた。

 

「ティーノは、シグナムさんに勝つために対近接戦を主眼に置いて戦術を組み立てて、それに合わせて魔法のバリエーションを増やしてるでしょ?」

 

 何を当たり前のことを―――。

 

 ティーノはそう思いながら答える。

 

「はい、その通りです。僕はあの騎士に勝つことを一つの目標としています」

「うん、それも良いことだけど、ティーノにはまだ基礎が足りてないかな?」

「基礎は十分だと思います。ユウノ先生、クロノ師匠、アルフに教え込まれましたから」

「でもそれは所詮急造でしょ?私が見た限りだと、まだまだだし粗が目立っていたように思うな」

 

 ティーノは思う。

 

 今さらそんな事が必要なのかと―――。

 

 近・中・遠、全ての基礎を自分は終えていると思っている。

 だからこそ、それで足りない事を応用で補うために様々な魔法を身に着けて来た。

 

 だから―――

 

「僕には今更基礎なんて必要ありません。それよりも、あの魔法を教えて下さい」

「あの魔法?」

「アナタの最強の魔法技、スターライトブレイカーを、僕に教えて下さい」

 

 ティーノがそう言うと、なのはは可笑しそうに笑った。

 それがティーノの癇に障る。

 

「……なにが可笑しいんですか?」

「ごめんごめん……、あの魔法はティーノにはまだ早いよ。それよりも、基礎が大事!土台をしっかりしないで、大きな魔力を必要とする魔法を使うと体を壊すことになるよ」

 

 そうかもしれない、そうかもしれないが―――

 それでも―――

 

「僕は強くなるんだ!だからッ!!」

 

 すると、なのははティーノの両肩に手を置いてくるりと一回転させるといくつもの的を用意した。

 

「まぁまぁ、騙されたと思って私に教導されてみなさい!」

 

 そう言われるが、ティーノはムスッと頬を膨らませるばかりだ。

 

 まったく男の子だなぁ……

 

 なのはは、そんな事をしみじみ思うとティーノの耳元に口を近づけた。

 

「……今日、皆で模擬戦をするんだけど、そこで私に一撃入れることが出来れば教えて上げる♪」

 

 その言葉に、ティーノはバッと振り返ると満面の笑みを浮かべるなのはがいた。

 

「分かりました。それで強くなるなら、教えてくれるなら……」

 

 そしてティーノはなのはから数歩離れると頭を下げた。

 

「よろしくお願いします!」

 

 その姿を見たなのはは、本当に嬉しそうに答えた。

 

「うん。私に任せなさい!!」

 

 

 眠りから覚めていたティアナとスバルは、洗面所で顔を洗っていた。

 

「おはようございます」

 

 用意されていたふかふかのタオルで顔を拭けば、歯ブラシを手に持ったエリオが洗面所にやって来た。

 

「おはようエリオ!」

「おはよ~……」

 

 スバルとティアナがそれぞれ挨拶すると、エリオは歯ブラシを濡らし歯磨き粉をチューブから絞り出す。

 

「そう言えば、お二人は陸戦場の話しを聞かれましたか?」

「知らないよ、何の話?」

「なんでも、なのはさんとティーノが朝練をもう始めてるそうですよ」

 

 エリオのその話を聞き、ティアナとスバルは顔を見合わせ慌てて洗面所を後にした。

 

 スバルとティアナが陸戦場に顔を出すと、そこにはバリアジャケットを身に纏ったなのはとティーノがいた。

 なのはが桃色の魔弾、ディバインシューターを八発縦横無尽に操り、ティーノはそれを空中で躱し続け、時折スティンガーレイで破壊していた。

 その姿は、過去機動六課で訓練に明け暮れていたティアナの姿を彷彿とさせる。

 

「はぁあああああ!!」

 

 ティーノが突然の加速、足を止めてディバインシューターの操作に集中しているなのはに詰め寄る。

 拳に魔力を込め、重い一撃を叩き込もうとしてなのはのプロテクションに防がれていた。

 その姿は、過去機動六課でのスバルを見ているようであった。

 ただそれも数発のディバインシューターにティーノが撃墜された所で終わりを見せる。

 砂埃が盛大に巻き上がり収まると、砂埃の中から倒れ伏すティーノの姿が見えた。

 

「はい、今日はここまでね!」

「はぁ……はぁ……まだまだ、次……お願いします」

「やり過ぎはダメって言ったでしょ?今日はここまで!」

 

 なのはにそう言われたティーノは、体力の限界だったのだろう立ち上がることすら出来ずにいた。

 すると、二つの足音が聞こえてくる。

 ティーノが仰向けになったままそちらに顔を向ければ、ティアナとスバルが反転した世界に姿を現した。

 

「家の子がお世話になりました、なのはさん」

 

 ティアナがそう言うと、なのはは嬉しそうに笑った。

 

「お世話しました♪」

 

 スバルとなのはが会話を始めると、ティーノは脇に手を入れられティアナに抱き上げられた。

 

「いっぱい汗掻いたわね」

 

 ティアナはそう言いながら、ティーノの額にへばり付いた前髪を整えていく。

 

「ティアナ、ティーノの汗流してあげて、それから朝ごはんまで休憩させてあげてね」

「はい、なのはさん」

「ティアナ、私はこれから予定通りエリオとなのはさんとで、朝練を始めるから」

「分かってるわよスバル」

 

 そうして、各々が早朝の僅かな時間を有意義に使っていく。

 

 

 朝食を食べ終えたティーノ達は、模擬戦までの時間を使い体を休めていた。

 

「どこも異常は無い?」

「うん♪」

 

 皆がリビングで寛ぐ中、ティーノはティアナの膝の上でマッサージを受けていた。

 だがヴィヴィオと違う点は、ティーノが恥ずかしがったり、くすぐったそうにしていない点である。

 寧ろ、ティアナの優しい手つきに、ティーノは瞳を細め気持ちよさそうにしていた。

 その様子を見ていたアインハルトが、ティアナの横に腰を落とすと、問いかける。

 

「ティアナさん」

「どうしたのアインハルト?」

「昨日、聞きそびれてしまったのですが、どうしてマッサージを?」

「あぁ、それはね」

 

 ティアナは語る。

 ヴィヴィオを助けるために盾になったティーノは非殺傷設定にされていない魔力攻撃を直に受けてしまったこと。

 小さな体にそれは毒以外の何物でもなく、体中をマッサージすることで、体内を流れる魔力素の流れを定期的にマッサージすることで促進させ後々に後遺症が出てこないようにするための処置であると。

 アインハルトはその話を聞き、一人納得するとティアナの手を見つめる。

 ティアナの手からは、絶妙な量の魔力が出ており、それがティーノの体を優しく撫でていた。

 その魔力の調整力には目を見張るものがあり、簡単に出来ることでは無い。

 そしてアインハルトは考える。

 ヴィヴィオの絶妙な魔力調整力と、維持する力はこのマッサージをすることで培ったのではないかと。

 アインハルトは一度頷くとティアナの耳元に口を寄せ何かを囁いた。

 それを聞いたティアナは、困ったように笑う。

 そして鼻歌を歌い出しそうな程にご機嫌のティーノを抱き上げアインハルトの前に置いた。

 

「???」

 

 ティーノは突然のことに対応出来ない。

 困ったように固まるティーノの瞳を見つめるアインハルトは、意を決して両手を伸ばす。

 

「ティーノさん、失礼します」

「??!?ッ」

 

 アインハルトは、両手に僅かに魔力を出すとティーノの体を触り出した。

 その突然の行動にリビングで寛いでいた皆が驚く。

 だがそんな事は関係が無いと、アインハルトはティーノの体を次々にマッサージしていく。

 アインハルトの冷たい手が、肌を撫でていくにつれヴィヴィオの時以上にティーノの口から淫らな音が漏れ出す。

 その音を聞かれたくないティーノは涙目になりながらも、唇を噛みしめてそれを耐えていた。

 その光景を見て、ヴィヴィオがガタッと音を立てながら椅子から立ちがるが、それをリオとコロナとルーテシアに防がれる。

 

「はいはい、お姉ちゃんは少し大人しくしてようね~」

「ヴィヴィオ、落ち着いて!」

「どうどう!」

 

 その様子が楽しいのか、なのははビデオカメラを回していた。

 

「な、なのは良いの……?」

 

 フェイトが心配そうに尋ねた。

 だが、関係が無いとばかりになのはは、カメラを回し続ける。

 

「フェイトちゃん……」

「なにかな、なのは!」

「私ね……今、寝取り物の良さが少し分かった気がするの……」

「な、なのは……?ど、どういうこと……?」

「つまりね……。全然興奮出来るよっ!!」

 

 その言葉を聞いたフェイトは思う。

 

 どこで間違えてしまったのか、と―――

 

 そんな中、ティーノの体がビクっと跳ねると、突然アインハルトにもたれ掛かるように倒れて来た。

 

「ティ、ティーノさん?」

「はぁはぁはぁ……」

 

 アインハルトの耳元で荒い息遣いが聞こえる。

 ティーノはまるで、体全体で息をしているようであった。

 

「ありゃ、少し刺激が強すぎたみたいね」

 

 ティアナはそう言うと、アインハルトからティーノを受け取る。

 すると、ティーノは安心したように静かに寝息を出し始めた。

 

「あ、あの!」

 

 アインハルトが困ったように声を出す。

「大丈夫よアインハルト、溜まってた疲れが出ただけだから、寧ろありがとうって言わせて頂戴」

「は、はい……」

 

 途中から夢中になってしまっていたアインハルトは、そう言うと、ティアナの胸の中で眠るティーノの寝顔を見つめて微笑んだ。

 一部始終をカメラに収めたなのはは、カメラを終うと、手を叩いた。

 

「それじゃ、ティーノの目が覚めたら模擬戦をしようか!」

 

 

 ティーノが目を覚まし、準備運動を終えてから皆は陸戦場に集まっていた。

 そしてノーヴェが皆を代表してルールを説明する。

 

「えぇ~、これより青組と赤組に解れたフィールドマッチを始めます。ライフポイントは、今回もDSAA公式試合用タグで管理します。それでは皆さん、ケガが無いよう全力を出しましょう」

 

 ティーノは、エテルナシグマをポケットから出す。

 

「頑張ろう」

「はい!」

 

 僕の友達は答えてくれる。

 やるべきことはやって来た。

 どこまでやれるのか、分からない。

 

 それでも―――

 

「今日は勝ちに行くよ!!」

 

 

 セットアップ――――

 


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