デートから始める異世界生活   作:シークレット/K

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第四十三話 交渉

-スバルside-

 

現在のスバルの心情は惨憺たるものだった。

死に戻りした時点でラインハルトは王都を離れていて、プリシラは結局協力してくれず、アナスタシアにもユリウスに会うかもしれないことをこの際我慢して会いに行ったが、戦闘面での協力はやはり得られなかった。

最終的に狂三と二人で行くしか選択肢がなくなり、同じような光景を見て死に戻りした。

 

前回と違ったのは、白鯨にメイザース領前に襲われたのと、大罪司教とかいう頭がいかれている魔女教の幹部らしき人物にあったこと、士道が死ぬ前に屋敷にたどり着いて白鯨の存在を教えたことの三つくらいだ。

白鯨は狂三の<一の弾>でさっさと逃げさせてもらった。

それはともかく、大罪司教という存在によってスバルが目指すハッピーエンドまでの道はまた少し遠ざかった。

 

達成すべき課題は三つ。

白鯨をどうにかすること、大罪司教をどうにかすること、襲われるメイザース領を防衛することだ。

これらのことからスバルが考える道筋は、まず前回で遭遇したフリューゲルの大樹にて白鯨を撃破、次に大罪司教を撃破の二つ。

村人達は士道達が守ってくれるだろう。

 

そしてこれらを達成するにはスバルと狂三だけでは不可能に近い。

やはりどうしても協力が欲しい。

だが、交渉材料もスバルの言葉の信憑性もない中で交渉しようと、クルシュもアナスタシアも頷いてはくれないだろう。

 

「どうすりゃあいいんだよ!?」

 

考えれば考えるほど時間は過ぎていき、それで焦って考えが纏まらないという悪循環。

スバルは頭を抱えた。

 

でもそこで、妙案を思いついた。

狂三が、そしてフェリスがいることで交渉材料になりうること。

王都が危険となる、白鯨ではない脅威。

 

そうと決まれば、早速行動しなければならない。

思考を終えて意識が現実に舞い戻るスバル。

そんなスバルを迎えたのは、一向にその場を動かないスバルに怒って罵声を浴びせてくるカドモンだった。

 

#

 

リンガを買って機嫌を直したカドモンの下を後にして、クルシュ邸に再び戻ってきたスバルはフェリスにクルシュとの会談を取り次いでもらった。

 

「それでは、用件を聞こうか。ナツキ・スバル」

「ああ」

 

改まって話しかけてくるクルシュに緊張を感じながら、スバルも応じる。

談話室にいるのは、スバルとクルシュ、狂三、フェリス、ヴィルヘルムの五人だ。

 

「まずは、率直に。白鯨討伐の為に協力してくれないか?」

 

白鯨という名前を聞いて少し目を見開くクルシュ。

やはり、白鯨に何かしら因縁があるのだろう。

ヴィルヘルムの反応が中でも顕著だった。

 

「.....二つ返事では承諾しかねる提案だな。そもそも、卿は白鯨が出現する時間、場所まで正確に分かるのか?」

「ああ。分かる」

 

即答するスバルに疑いの目を向けるクルシュ。

まあ、今までに白鯨の出現を予測した人物がいないのであれば疑われても仕方ない。

だが、ここで疑われることを避ける為に何かしようとすればそれだけその分信用も失って行くだろう。

そっちの方が問題だった。

 

「それだけじゃねえ。最近、魔女教の動きもメイザース領周辺であることぐらい、お前らも掴んでんだろ?」

「.........ああ、活動は確認されている。卿がどうやってそれを知ったのかは知らないが」

「別に信用出来ないってならそれでもいい。本当に問題なのは白鯨や魔女教じゃないからな」

「どういうことだ?」

 

白鯨が本命ではないと言われて困惑するクルシュ。

ヴィルヘルムやフェリスも怪訝そうにしている。

 

「フェリス、士道の暴走を覚えてるよな?」

「え?んー、まあ、逆にあんにゃに印象に残る出来事ってそうそうにゃいと思うけど」

「あれは士道の中に封印された"精霊"の霊力が暴走して起きた出来事らしい。んで、精霊達も士道も今はロズワール邸だ」

「.....何が言いたい?」

 

スバルは一つの事実を口にした。

 

「魔女教によって士道が殺された場合、封印された霊力はどうなる?」

「.....!?」

 

驚愕したのはクルシュではなくフェリスだった。

あの暴走を真近で見て、マナについての知識をもつ分、具体的な想像が出来るのだろう。

 

死に戻りしたスバルはともかく、士道の世界の人物でなければどうなるのかわからない。

精霊に霊力が逆流するのか、それとも.....王都を巻き込むレベルで大爆発という形で現れるのか。

 

「狂三、どうなんだ?」

 

ここで士道の世界の住人、精霊である狂三の出番だ。

前の世界で精霊達の黒い姿について知っている様子だったから適任だろう。

 

「.....士道さんが死んだら、あの暴走よりもまずい状況になりますわ」

「今回の件よりもか?話を聞いたところ、剣聖が介入したのにも関わらず、本気で倒そうとはしていなかったとはいえ、結構な被害を出したと聞いたが」

「ええ。士道さんが死んでしまった場合、精霊の霊力がそれぞれの持ち主のもとに戻って行くんですの」

「それだけであれば、大丈夫だろう。少なくとも、こちらに被害は及ばない。精霊達は人に危害を加えないのだろう?」

 

クルシュの言うことは正しい。

だが、スバルは前回、前々回で二回も経験したから知っている。

あの精霊達の破壊力があれば、容易だろうことを。

 

「.....そうですわね。普通でしたら」

「何?」

 

狂三は遂にはっきりと言葉にした。

 

「士道さんが死んだら、精霊達の属性が反転し、より強力な力を得て地上を蹂躙していきますわ。.....そうなったら、王都もただではすみませんわね」

 

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-天宮市-

 

「困りましたね、戻れなくなるとは思ってませんでした」

 

宇宙から天宮市まで戻ってきた空中艦のサーバーにて、そう呟いたのは、電子の為に嫉妬の魔女に邪魔されずに元の世界に戻ってきた或守鞠亜だ。

 

「.....ふむ。なぜ君が存在しているのかは見当もつかないが、その様子だと向こうに行っていたようだね。鞠亜」

「はい。異世界、という表現がぴったり合うところでした」

 

モニターに映る鞠亜の言う事に、令音は顎に手を当てて何かを考えている。

鞠亜には令音が何を考えているのか想像もつかない。

 

.....と、艦内に警報のアラームが鳴り響く。

 

「上空に霊力反応!!」

「すぐに発生源をモニターに映してくれ」

 

数瞬の後、映し出されたのは.....。

 

 

仮識別名<ゾディアック>.....宇宙にて発見された精霊だった。

 

 

やるだけやって退散した琴里達が原因だろう。

モニター越しで見える精霊に、クルー達は一瞬固まる。

このままでは天宮市の人々が危ない。

空間震を伴わない出現のせいで、避難などしていないのだから。

令音は何処か遠い目をしていた。

 

そんな中、<ゾディアック>を止めたのは、ノイズに包まれている謎の精霊.....<ファントム>だった。

 

『悪いけど、止めさせてもらうよ』

 

ノイズがかった声でそう言った<ファントム>は、<ゾディアック>の天使<封解主>(ミカエル)を掴んで止めた。

 

「令音さん、どうしますか.....」

「.....しばらく様子を見よう。こちらには今、戦力というものがこの艦しかないからね」

 

クルーの一人、椎崎が指示を仰いでくるも、令音は現状維持を伝えるしかできなかった。

そして、二人の精霊の争いは、DEMの介入で終わることとなった。

 

エレン・M・メイザースとアルテミシア・アシュクロフトが、二人の戦いに割って入った。

それだけじゃない。

前方にて、DEMの空中艦が確認される。

 

「っ!?DEMより、通信の要請が来ています」

「.....繋いでくれ」

 

そして、画面に映るのは.....。

 

アイザック・レイ・ペラム・ウェストコットの姿だった。


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