デートから始める異世界生活   作:シークレット/K

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第三十七話 帰れない事実

-士道side-

 

何が何だか分かっていない士道に、琴里が近づいてくる。

 

「.....気分はどう、士道?」

「琴里.....!?よく見れば、みんなも.....。どうして、ここに.....」

「そんなの、士道を助けるために全力を出しただけよ。ねぇ、みんな?」

 

そんな琴里の問いかけに、精霊達は頷いて肯定する。

士道はそんな精霊達に苦笑を漏らし、そして。

 

「苦労かけたな、みんな」

 

そうして、士道と精霊達の問題は解消された。

 

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ラインハルト達が事態の収束に向けて忙しい中、士道達はいろいろと話をしていた。

 

「.....士道さん」

 

呼ばれて振り返ると、狂三がいた。

その表情は、どこか苦虫を噛み潰したように歪んでいる。

 

「どうしたんだ、狂三」

 

【開】(ラータイブ)で元の世界に帰ることが出来るということで、スバルには悪いが精霊達に押し切られて帰ることとなった、その瞬間に、狂三が出てきたのだ。

何かがあったのだろう。

精霊達も狂三の様子に警戒半分、疑問半分と言った感じだ。

 

「.....元の世界に戻ることは出来ないようですわ」

 

そんな中狂三がもたらした情報は、驚くべき.....そして、予兆はあったことだった。

 

「どうしてそう言えるのよ?」

 

当然、疑問を持つ。

これが絶対に信じられる相手ならまだしも、相手は最悪の精霊。

そう簡単に信じられるわけがなかった。

 

代表して言った琴里が今そんな心中なのだろうと士道は察するが、対する士道は狂三をほぼ信じていた。

理由は単純。

この世界にやってきた時点でした、約束があったから。

 

"天宮市に戻るまでは、協力する"という、破ることなど簡単な口約束。

それでも、士道は狂三を信じるのだ。

 

琴里の質問に対して、狂三が答える。

 

「.....わたくし、琴里さん達が士道さんを助けるために使った穴を用いて、戻ろうとしましたの」

「なっ!?あんたねぇ!戦闘中にいないと思ったらそういうことだったのね!?」

「まあまあ、琴里。落ち着けって。それで?」

 

琴里の怒りを沈めて、先を促す。

折紙達も不満気だが、静かに聞こうとしている。

 

「ええ。それで穴に近づいて、いざ出ましょう、という時に.....。時間が止まったんですわ。.....わたくしの能力を関係無しに」

「時が、止まった?」

 

士道は一瞬首を傾げる。

そして、ある事を思い出した。

 

スバルの呪いを解くために魔獣を狩っていた時に起きた、一瞬の出来事。

何も聞こえなくなり、一歩も動けなくなって、黒い霧が立ち込めていた、あの瞬間。

何事もなくすぐに元に戻ったが、それが何か関係あるのか。

 

「そして、時が止まった後に.....黒色の、腕がわたくしのそばまで来ましたの。さらに.....」

「心臓を握りつぶされそうになった.....か?」

 

その声の主は、スバルだった。

 

「俺も同じよーな体験、今日ので二回目だぜ。ってか、あの時一瞬世界が止まったのって、狂三のせいだったのか」

「あの時.....?あの時っていつよ?」

 

身に覚えのない出来事のため、琴里が首を傾げる。

 

「いや、土壇場だったし、ゴタゴタの中でお前はわかんねえかもだけど、そこのオレンジの子を助けた時の直前だよ。あれのおかげで見つけたから結果オーライって感じだけど」

「俺も、一回体験した。と言っても、琴里達がここに来る前だけど。っていうかスバル、耶倶矢を助けてくれてたんだな。ありがとな」

「気にすんなって」

 

話が脱線しかけるが、さっきまでの事実を加味すると、見えてくる事があった。

 

「.....異世界から来たやつが条件を満たすと、あの時が止まった瞬間に招待されるってことかも知れねぇな。最悪、途中参加のお前らももう戻れねぇかもしれない」

 

スバルがそう締めくくったことで、士道達のこれからは決まった。

 

「取り敢えず、傷を癒してからどうにかあの瞬間に遭わずにここから脱出する方法を見つけるしかない。.....琴里」

「しょうがないわね。私達も残るわ。みんなもそれでいい?」

 

精霊達の答えも決まっていた。

 

「当たり前。士道が残るなら私も残る」

「そうですよぉ〜。ようやくダーリンに会えたんですから〜」

「うむうむ!我が眷属が往く道を進むのみよ!」

「肯定、離れたくありません」

「わたしも、士道さんに、ついて、行きたい、です.....!」

「よ、四糸乃が残るっていうから残るだけだから.....」

 

「だ、そうよ。それで、二亜はどうするのよ?」

 

精霊達の確認が取れた後に琴里が聞いた相手は、まだ士道が封印していない精霊.....二亜だった。

 

「いやぁ、秋葉に行けないってのはちょっと.....いや、かなりくるものがあるけど、帰れないんじゃしょうがないしねー。封印されないまま、君たちについて行くよ。.....少年のことも気になるしね」

 

こうして、士道達は未だ帰ることが出来ないのだった。

 

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士道とレム、精霊達は一旦ロズワール邸にいくことになった。

ラムをひとりで屋敷に残したままなのはあまり良くない。

下手したら、邸内が大変なことになっている事もありうる。

それだけ、ラムの仕事ぶりは不安なのだ。

 

「ほんとにスバルは残るのか?」

「ああ。俺はエミリアたんについて行くって決めたからな。王選絡みのこともバッチリ関わってくるぜ!」

「そうか。.....あまり迷惑にならないようにしろよ?」

 

スバルのテンションの高さが不安で、つい口を挟んでしまう士道に苦笑を漏らすスバル。

 

「大丈夫だって」

「じゃあ、俺は行くな」

「おう!またな」

 

.....狂三の姿が見当たらないが、狂三のことだし、誰かの影に潜り込んでいるのだろう。

 

 

屋敷に戻って来た士道とレムは、屋敷に何事もなくて安堵していた。

 

「帰りました、姉様」

「ただいま、ラム」

「あら、戻ってきたの。ドウシ、体調は大丈夫なの?」

「ああ。もう問題ないよ。それで.....」

 

士道が後ろを見るのにつられて、ラムも士道の後ろを見る。

そして、ラムは驚いた表情をする。

 

「あら、ドウシ。こんなにも連れてきて。レムという人がいながら.....」

「誤解されるような事言わないでくれ!?」

「そんな.....姉様ったら、レムと士道くんはそんな関係では無いですよ」

「.....ちょっと説明が欲しい、士道」

「うわぁっ!?折紙!?」

 

いきなり折紙が背後からものすごい不満そうに目の前までやって来たのが原因で、士道は盛大に驚く。

さらに、背後にいる琴里たちの様子を見てみれば、心なしか全員が不満そうにしているようだった。

 

「ま、まあまあ.....。落ち着けって。まだ寝てる十香もいるんだし、まずは休もう。な?」

「.....なんか誤魔化された気しかしないんですけど」

「うっ.....」

「まあ、言ってることはその通りだから、良しとしましょう。みんなも疲れたでしょう?」

 

七罪に追求されそうになって焦るも、琴里が持ち直してくれたことで難を逃れた。

別に追求されても士道的には良かったのだが、雰囲気的にまずい状況になりそうだったのでほっとする。

 

「それじゃあ、大部屋に案内するから着いて来なさい。布団はレムが敷いてくれるし、お風呂もレムが入れてくれるわ」

「驚愕、ちょっとは自分でやろうとしないのですか!?」

「うるさいわね。人様の家に上がり込んでおいて文句なんて、片腹痛いわよ、ドウシ」

「なんかこっちに飛び火してきた!?」

 

士道はなんだか暴走が止められた時以上に疲れた心地がして、頭を痛めるのだった。


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