デートから始める異世界生活   作:シークレット/K

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サブタイトルからわかると思いますが、士道がいなくなった後の十香や琴里達の様子です。

次回から三章に入ります。


第三十話 幕間:天宮市

これは、士道が天宮市から姿を消した、数十分後の話である。

 

-琴里side-

 

士道にジュースを買ってきて、と命令して、三十分以上が経過した。

ただジュースを買って帰るだけなのに、遅すぎる。

十香たちも、戻って来ない士道に、不安げだ。

 

「.....琴里」

 

令音が電子機器を持って、手招きしている。

その表情は険しいものだった。

令音の下へと駆け寄り、精霊達がいない部屋へと移動する。

 

 

「どうしたのよ?」

「.....落ち着いて、聞いてくれ。.....シンの行方がわからなくなった」

「..........え?」

 

いきなりの言葉に、理解が遅れてしまう。

 

「おにーちゃんが、消えた.....?」

 

わけがわからなかった。

どうして、ジュースを買いに行くだけで行方が分からなくなるのか。

 

「落ち着くんだ、琴里。シンが死んだわけじゃない」

「どうしてそんなことが分かるのよ!」

「.....精霊達に霊力が戻っていないからだ」

 

私は押し黙った。

考えてみれば簡単だった。

士道が死んだのであれば、経路(パス)を通じて霊力が精霊達に戻るはずなのだ。

だから、私や精霊達に霊力が戻ってきていない今、士道が死んだというのはありえない。

 

冷静になった私は、令音に状況を報告するように命令する。

 

「インカムの反応を追う限り、シンは自販機前でぱったり消えている。初めは何者かによってインカムを破壊されたのか、それともシンが転んでもして事故で壊れたかのどちらかと思っていた」

「過去形なの?」

「ああ。まず後者の場合、シンは数十分前にでも家に戻ってきているはずだ。よって違う」

「ええ、それは分かるわ。で?前者の場合は?」

「前者の場合、襲撃者で考えられるのは、そういう犯罪者か、AST、DEMの機関員。そして、狂三ぐらいのものだ。犯罪者なのであれば、ラタトスクの精鋭たちによって発見、救出したが、そういう情報もない。AST、DEMも同様に動きがない。後は、狂三だが、彼女が襲撃者の場合は確認できない」

「じゃあ、士道は!」

 

再び焦り始める私に、令音は首をふる。

 

「そこで、調べたんだ。今の琴里達精霊に、まだパスは通っているのか。結果は、通っているよ。逆流させて限定霊装を纏うことも可能なはずだ。.....ただ」

 

令音が言葉を濁すのを見て、私は続けて、と言い、先を促す。

 

「そのパスの先.....シンに繋がっているはずの霊力の繋がりが、不自然に消えているんだ」

「どういうことよ?」

「.....信じられないが、仮説としては、シンは今、この世界にはいない。臨界かそれともまた違う世界.....この世界に近い場所に存在する世界にいる、ということになる」

 

到底信じられない話だった。

この世界ではない別の世界にいるなどと、誰が想像できるだろうか?

.....できた人物が目の前にいるが。

 

「どうにかできないの?」

「無理だ。世界、という単位で異なる以上、干渉できるはずもない。正直、手詰まりだよ」

 

令音が言うのだ。

嘘はない。

 

「.....もうそろそろ出てきてもいいのではないかな.....?」

「え.....?」

 

突如令音が扉に向かって話しかけたのを見て、そちらに視線をうつす。

十香や折紙.....精霊達が、聞き耳を立てていたらしく、扉を開けて入ってきた。

 

「何か、私たちに出来ることは?」

「何かないのか、令音!?シドーのためならば、なんでもするぞ!」

 

折紙と十香が令音に詰め寄る。

 

「君たちに出来ることは、シンが死ぬことがないように祈るだけさ。先程も言ったが、干渉できないからね」

「.....そう」

 

令音の言葉に失望する折紙。

だが一応納得はしたようだ。

 

「.....もしかしたら、の話なのだけれどね」

 

不意に、意気消沈していた私たちに向かって、令音は再び言葉を発した。

 

「パスを通して、シンと話すことが可能かもしれない。確証はないがね」

「どういうこと?」

 

令音の言葉に対して、折紙が聞き返す。

 

「今、シンとこちらの世界を繋いでいるのは、君たち精霊とのパスだけだ。要は、パスは確実にシンの下まで届いているんだ。そのパスを通して君たちのシンへの思いを乗せれば、その思いをシンに届かせることができるかもしれない」

 

令音の説明はどこか難しく、理解をするのに時間がかかったが、なんとなく言いたいことはわかった。

要は、士道への思いをパスから思念として士道に送ることが出来るかもしれない、ということだ。

 

「みんなでやってみる?」

 

私が精霊達に聞くと、全員が頷いた。

 

「むう.....。シドー、返事をしてくれ,,,,,」

「違う。士道は私に返事をしてくれる」

「やっぱり一番最初は妹である私よね」

「何を言う!士道は我が眷属。一番最初は主である我に決まっている!」

「否定。耶倶矢ではなく、夕弦が先です」

「ダーリンは私に応えてくれるに決まってますぅー!」

「みんなして、何競っているのよ.....」

「わたしは、いつでもいいです.....。士道さんの、声が、聞ければ.....」

『わーぁお、四糸乃にしては積極的だねぇ〜』

 

全員が全員、思い思いの言葉を口にする。

 

そして、精霊達は見た。

どこかの蔵らしきところ。

士道の姿が、全員ほぼ同時に網膜に直接写ったかのように、はっきりと視界に入った。

 

ただし。

 

首を切られて死んだ、その瞬間を。

 

『ッ!?』

 

「い、今のは.....?」

「シドーが、殺されて.....」

「う、嘘でしょ.....?」

 

精霊達の感情が不安定になる中、琴里と折紙は冷静に自分の姿を見た。

霊力が戻ってきていない。

 

「みんな、落ち着いて!」

 

琴里は理解した瞬間に、みんなが反転化しないように落ち着かせにかかる。

 

「今のがなにかは分からないけど、霊力が戻って精霊の力が戻ってきていない以上、士道は生きてるわ。だから、負の感情に身を任せないで!」

「本当か.....?本当にシドーは生きているのか?」

「ええ。だから大丈夫だから」

 

どうにか全ての精霊達を説得できた。

とはいえ、先程の光景が頭から離れない。

 

一体、今現在、士道の身に何が起きているのか?

確かめる術を持たない自分達に、嫌気がさす。

 

とにかく私たちには、士道が無事帰ってくることを祈ることしかできなかった。

 

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士道が世界から消えて、約二週間程経過した。

 

そんなある日。

再び令音が、今度は焦りを伴って私のもとにやって来た。

 

「琴里、少し.....いや、かなりまずい状況となった」

「士道についてなにか分かったの!?」

「.....ああ。シンの状態が、厄介なことになっているんだ。パスを観察することで、シンの状態を推測していたが、そのパスが、狭まっているんだ」

「狭まって.....?」

 

言われても、それが何を意味するのか、分からない。

.....しかし。

 

「このままでは、今シンがいる世界と私たちがいる世界を唯一結びつけているものがなくなって、最悪、こちらに戻って来られなくなるかもしれない」

 

令音の言葉に凍りつく。

士道が戻らない、という事態は絶対に回避しなければならない。

 

「どうにかできないの!?」

「シンがこちらにいた時にこの状態になったのならば、再びキスをすることにより改善を望めるが、それは違う世界にいる以上、それもできない。.....現時点で、シンを元に戻す方法は見つからない」

「そんな.....」

 

精霊達には、伝えないようにしなければならない。

そう思いつつ、士道の身を心配する。

 

.....どうか、無事でいて、おにーちゃん.....。

 

そう願わずにはいられなかった。


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