遅れて申し訳ないです。
最近、睡魔が襲ってくるのが早くて.....。
それではどうぞ。
-スバルside-
青年団の一人に譲り受けた片手剣を腰に差し、ラムと共に森の中を駆ける。
村の子供たちには、石や菓子や.....
「うおおおおう⁉︎虫が入ってやがった⁉︎」
現在の手持ちはそれぐらいだ。
「どさくさにまぎれてとんでもねぇガキ共だ。あとでお説教だな!」
「慕われているという証拠じゃないの。.....バルスのどこがいいのか甚だ疑問なのだけれど」
「子供に好かれるセンスが俺にはあるんだよ。.....それに、今回の場合、レムや士道、狂三に向けたお礼も混じってる。むしろ、俺はついでみたいなもんだ。.....いや、ついで、は言い過ぎか」
自分が言ったことに悲しくなって、やんわりと否定する。
それに気づいたのか、ラムはジト目で俺を睨んでくる。
まあ、とにかく、と俺は続ける。
「子供たちからのお礼を、しっかり三人に届けてやらねぇとな」
「.....そうね」
日が昇った後の捜索で、夜だった時よりも遥かに視界はいいが、それでも木々や草は生い茂っており、見通しは悪い。
もはや今どこに向かっているのか分からないから、見当違いの方向に進んでいる可能性もある。
「バルス、少し待って。.....千里眼、開眼」
ラムがしばしば千里眼を用いてレムたちを探すが、未だに見つからない。
そもそも、レムと士道、狂三がそれぞれ単独行動をしているとしたら、時間がどれだけあっても足りなくなる。
最悪、もう.....。
全力で浮かんだ考えを否定するように首を横に振る。
そんなことを考えてちゃ、ダメだと自分を一喝し、千里眼を終えて再び走り出すラムについていく。
そして、再び止まって千里眼、の繰り返し。
ラムが千里眼を使っている時は無防備になってしまうから、俺が剣を構えて警戒する。
.....ちょっと練習していよう、と思い至り、木々の枝に向かって異世界召喚される前にやっていた剣道の感覚を思い出しつつ剣を振る。
スパスパと斬れていく枝。
それを見て調子を良くした俺は、思いきり大振りしてみた。
すると、剣は木の幹の方へと吸い込まれていき、そして幹の半ばまでいったところで止まった。
..........抜けない。
「しまった⁉︎なんてかっこ悪りぃことしちまったんだ⁉︎まだ魔獣とも合間見えてねぇのにこんなことで剣無くすとかダサすぎる!抜けろ、最悪半分になってもいいから抜けーー」
「バルス、何かがこっちを見ているわ」
ラムの声に反応して、黙る。
千里眼を使用しているラムは、真近の視界を失って、波長の合う存在と視界を共有している。
ということは、俺達を視認できるところに、何かがいるということ。
抜けない剣をそのままにして、周りを見渡す。
すると、左の方から凄まじいスピードで迫る、昨晩に見飽きた四足獣を見つけた。
剣は抜けない。
であれば、他の武器を見いだすしかない。
地面に転がっていた片手サイズの石を拾い、これでも喰らえ、というように魔獣に向かって投げつける。
石はまっすぐに飛んでいき、奇跡的に魔獣にクリーンヒットした。
.....が、威力が足りていなかったのか、一瞬の時間稼ぎにしかならなかった。
だが、それでも役にはたった。
「ナイスよ、バルス」
ラムの声が聞こえた。
その瞬間に暴風が巻き起こり、魔獣が吹き飛ばされ、そして絶命した。
「.....ラム、何したんだ?」
「森に入る前に言わなかった?風の魔法が少し使えると。風の刃で四肢を切って、喉を塞いで絶息させただけよ」
確かに、おそるおそる近寄って見てみると、四肢の先から血が滴り、無呼吸による苦悶の表情をしていた。
.....どこが『少し』なのだろうか?
そんな疑問を残しつつも、他にもいないかを周りを見回して確認する。
何もいないことが分かり、一息つく。
「あれぐらいは一人で倒してくれないと、この先が思いやられるわよ、バルス」
「まぁ、そう言うなって。いくら死に.....」
いくら死に戻りして、戦闘経験がそこらの人々よりもあるとはいっても、俺はもともと引きこもりだったんだからさー。
疲れていたのか、口がすべって死に戻りについてを織り交ぜて、そんなことを言おうとしたその時だった。
違和感を感じて、言葉を止める。
それがなんなのかは、すぐにわかった。
音が、止んだ。
風に揺れる草木の音も、自分の心拍の音すらも。
全ての音が、消失したのだ。
悪寒が走る。
静寂、とはまた違う、真の無音。
不快感が駆け巡り、どうにかなってしまいそうになる。
そしてそれは、異変のはじまりに過ぎなかった。
次は、動きが停止した。
ラムはまばたきをせず、自身も同様にどこも動く気配がなかった。
理解が追いつかない。
なぜこうなったのか?
そしてさらに変化が訪れる。
何もないところから、黒い靄が現れる。
まばたきをすることができない今、それが現れたのは本当に唐突だった。
その靄は、ゆっくりと形を変えていく。
ただ拡散していくだけだった靄が、だんだんと形あるものへと収束していく。
そしてそれは、黒い掌の形となった。
黒い腕、指。
肘の先までしかないソレは、見ていて気分がいいものでは決してない。
黒い掌はゆっくりと俺に近づき、そして胸の中へと、するりと入っていった。
.....内臓を触られる感覚をはっきりと感じた。
恐怖の感情だけが脳内を駆け巡る。
そして、最後に人体における一番大切な臓器に達した。
.....マジかおい、ちょっと待て。
それは、本当に洒落にならな.....
胸中で言い切るよりも早く、掌は心臓を握りつぶした。
衝撃が走る。
この世のものとは思えない激痛が、苦痛が俺を襲う。
声も出せず、もがくこともできない。
ただただ痛みが俺を襲っている。
あまりの痛さに、思考を保つことさえできない。
そして.....。
「バルス、どうしたの?」
「ッ⁉︎」
「.....大丈夫そう、と言いたいところだけど、そんなひどい顔をしているのをみると、大丈夫じゃなさそうね」
ラムの言葉はちゃんと聞こえているが、今の出来事が心に深く刻まれて反応ができない。
.....しばらく立ち止まっていると、草木をかき分けるような音がいろんな方向から聞こえてきた。
「ッ!バルス、魔獣よ!」
「⁉︎」
気がつくと囲まれていた。
-side out-
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-士道side-
スバルが恐怖を体験した時と同時刻、魔獣を狂三とレムと狩っていた士道にも、異変があった。
何を言ったわけでもないのに、いきなり時が止まったように体が動かなくなった。
そして、魔獣の匂いを追って狩っていく正気を失っているレムや、<刻々帝>で<時喰みの城>を展開し、歩兵銃で動きが鈍った魔獣を狩っていく狂三、風で揺れて木々の葉が重なり、出る音すらも静止したように動かない。
そして黒い掌が現れた。
なんだよ、あれ.....
近づいてくる掌に、疑問を覚える。
その掌は何をすることもなく、俺の周りをゆらゆらと彷徨い、消えた。
その瞬間に時が進む。
何が何だかわからず混乱していると、魔獣が目の前に迫っており、狂三が<一の弾>による高速移動で俺を助けてくれた。
「しっかりしてくださいまし、士道さん」
「あ、ああ、ありがとな.....」
さっきのがなんだったのかはわからないが、それを考えるのは後回しにすることにする。
狂三に礼を言って、<鏖殺公>を握りしめる。
だが、異変に気づく。
明らかに、さっきよりも魔獣が集中的に俺を狙い、攻撃してくる。
さらには。
レムが、俺に飛びかかってきた。
「なッ⁉︎れ、レム⁉︎」
咄嗟に<氷結傀儡>で盾をつくり、身を守る。
なんでレムが攻撃してくるのかがわからない。
レムは正気を失って、魔獣の匂いを嗅ぎ分けて狩っていた。
確かに俺からは魔女の匂いなるものがあるとはいっても、さっきまでは狙われてもいなかった。
なのに今は狙ってくる。
やはり、さっきの時間停止状態が関係しているのか?
今のところ、それしか思いつかない。
「何をしていますの、レムさん!」
「ダメだ、狂三!」
「撃つ気はありませんわ!」
狂三がレムに抗議する。
だが、レムは止まらない。
「くっ.....!おいでなさい、わたくしたち!」
影から複数の分身体が現れ、レムを組み伏せようとする。
だが、レムはモーニングスターを飛ばし、分身体たちを潰していった。
もちろん、魔獣も一緒に。
ここは、退くしかない。
狂三に合図をして、周りの魔獣を狩りつつ、レムから逃げる。
.....その先に、二人の人物がいるとも知らずに。
やっと出せました。黒い掌。
補足ですが。
今回の場合、死に戻りについて言葉を発したのはスバル。
士道はそれに巻き込まれただけです。
そのため、士道はスバルよりも黒い掌の影響が軽いです。
というか、ほとんどありませんね。
その後が大変ですが。
士道も死に戻りのことを話したら、心臓を掴まれます。
それと、次はもっと早くに更新するようにします。