お待たせしました。
約一か月も間が空いてしまいました。
これまでより若干多めです。
そして、今回から視点切り替えが入ります。
最初は士道視点です。
では、どうぞ。
「それで、スバルの方が深刻っていうのはどういうことなんだ?」
さっきベアトリスに言われたことが引っかかり、聞いた。
「.....呪いをかけられたのよ」
「でも、ベアトリスは、解呪できるんだろ?」
「はっきり言って、無理かしら。複数の魔獣に噛まれてかけられた呪いが複雑に絡まり合って、解呪が難しくなってしまったのよ」
嘘だろ?
呪いが解けないってことは、スバルは死んでしまうということだ。
「何か、方法はないのか⁉︎」
「あるにはあるかしら。.....術者である魔獣.....ジャガーノートを殺せばいいのよ。術者が死ねば、呪いも消える。簡単なことかしら」
それで、スバルが助かるのなら.....。
俺はスバルを死なせたくない!
「シドウくん」
「!.....レム。.....もう、大丈夫なのか?」
「はい。シドウくんの方こそ」
「俺は大丈夫だ」
互いの無事を確かめ合うだけの短い会話。
だけど、それだけで十分だった。
「あなたも行くのかしら?」
「はい、ベアトリス様。わたしもスバルくんを助けたいですし.....。シドウくんを、死なせたくありませんから」
面と向かって言われた。
レムの決意も固い。
もう、何を言ってもついてくるのだろう。
「わかった。.....狂三も出て来てくれ」
俺の声を聞いて、狂三が影の中から出てきた。
「士道さん。<四の弾>は使わないんですの?」
「それも考えた。けど、疑問に思ったんだよ。天使の力は、呪いにも適用されるのか.....って。もしかしたら、傷は元通りになっても呪いは天使の時間の干渉を受け付けないかもしれない。いや、それだけならまだいいけど、最悪.....」
「.....わかりましたわ。確かに、呪いなんてものはこの世界にきて初めて見ましたし、どうなるか分からないですわね.....」
どうなるか分からない。
それだけで、他の手段を選ぶ。
確実に、助けられる道を進む。
ただ、死なせたくないという気持ちが渦を巻く。
「士道。あくまで冷静に行きましょう。冷静さを欠いたら、まともな判断ができなくなりますよ」
「.....ああ、そうだな」
冷静さは保つ。
この後、戦闘中に鞠亜に一喝されないように。
「行こう、みんな。スバルを助けるために」
再び、森の中へと入っていく。
-side out-
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-スバルside-
強制的に意識を遮断されて、こうして目覚めるのは一体何度目なのか。
それが、目覚めた俺が最初に思ったことだった。
そして、思い出したかのように体を激痛が走る。
「ぉぉう、いってぇ.....」
痛いということは、死んでいないということ。
なんとか生きていられたらしい。
激痛のでどころである脇腹を左手で触ろうとして、その左手に違和感を抱く。
傷だらけだった。
指先から手首まで。
そしてその傷は不恰好な糸で塞がれていて、まるで子供がめちゃくちゃに縫ったとでもいうような有様だった。
それが、左手だけではなく複数の箇所が同じように縫われていた。
「絶対死んだと、思ったんだけどな.....」
レムがやられそうになって、それをかばうために飛び出して。
そして、魔獣供に噛みつき引っ掻かれた。
「そう......だ。レムや子供たちは.....」
やっとの事で大事な事に思い至り、痛みを我慢しながら寝台から体を起こして周囲を見渡す。
入口近くに、木製の椅子に腰掛けて眠っている銀髪の少女が目に止まった。
「エミリア.....たん.....」
思わず、名前を呼んでしまった。
そこにエミリアがいるというだけで、何かしらの安堵感が得られた。
その服には、血や泥が付いている。
ということは、つまり。
「俺はまた、エミリアたんに借りを作っちまったってことか」
「それはどうかな?多少なりともリアに感謝すべきだとは思うけど、もっと他にも感謝すべき相手がいると思うよ、僕は」
エミリアの髪の奥から出てきたのは、パックだ。
何故かはわからないが、腰に手を当てて踏ん反り返っている。
「なんかしたのか?」
「そりゃあもう。体の隅々を縫いまくりましたとも」
「この下手な縫合お前がやったのかよ.....。まあ、男の子だし、痕とかは気にしないけどさ。.....まあ、素直に礼を言っておくよ。ありがとな、パック」
「うんうん、素直なのは良いことだ。スバルがあれだけのことをしたんだ。だから、僕も一肌脱いだのさ」
パックの言う、あれだけのこと。
あの後.....俺が気を失った後、どうなったのか?
聞くところによると、レムは鬼化の影響で無事。
士道たちも疲労だけでたいした怪我もなし。
子供たちも無事解呪が成功した。
良いことずくめで、困る。
この後、何か起こるんじゃないかと思うくらいに。
「表に出て見て良いか?」
「いいと思うよ。その状態の体を動かして確かめてみた方がいいからね。ちなみに、糸は体に馴染めば勝手に体内に吸収されて消えるから」
パックのお墨付きも貰ったことだし、外に出てみる。
村人たちは、みんな広場にかたまっていた。
村人たちを守るように囲んでいるのは、青年団。
考えてみれば当たり前だ。
魔獣はどこに潜んでいるかわからない。
まあ、結界も直したらしいので安全ではあるのだが。
だが、士道やレムたちがいない。
他の建物に居るのか、と疑問に思いながら進もうとして。
「バルス、起きたのね」
ラムが、声をかけてきた。
彼女が持っている蒸かした芋のようなものを目にし、俺の腹の虫が鳴る。
そんな俺に、ラムは「ハッ」と鼻を鳴らす。
「重症で心配させておきながら、目が覚めたらすぐに食糧を求めるなんて浅ましいわ、バルス」
「いやぁ、だって激しい運動をしてカロリー消費したんだもんよ。ってか、心配してくれたんだぁ?」
ドヤ顔をしつつ、ウザさ全開で問いかけた俺に対して、ラムは持っていた蒸かした芋の一つを俺の口に強引に押し込んだ。
「あつッ⁉︎」
どうにか、外の冷たい空気を取り込みながら、しっかりと食べきる。
「死ぬかと思ったわ!うまかったけど!」
「おいしかったでしょう。できたて.....いえ、蒸かしたてよ」
「決め顔で言うなよ!腹立つわ!うまかったけど!」
「はいはい、もう一つあげるから貪っていなさい」
もう一つ芋を貰った後、ラムからパックが言っていたことと同じような話をして、その後再び村内を散策する。
追加された情報は、ベアトリスにも借りを作ってしまったということと、ロズワールが帰ってきたときに魔獣.....ジャガーノートを掃討するということの二つ。
それにしても、士道や狂三、レムの姿が見えない。
ふと足音が聞こえて、その方を見る。
「.....ベアトリス?」
「ちょうどいいところにいたのよ。話があるかしら。ちょっと付き合うのよ」
ベアトリスの後をついていく。
やってきたのは、魔獣の森のすぐ側の建物の裏だった。
そこで、告げられた。
俺の命はもってあと半日。
原因はジャガーノートによる呪い。
複数の魔獣に噛まれたおかげで呪いどうしが絡み合って解呪不可能。
唯一の助かる方法は、術者であるジャガーノートを片っ端から殺していくこと。
ここまでは、まだよかった。
多分そうだろうな、と予測できていた。
だけど。
士道やレムたちが、俺を助けるために森の中へと入っていったと聞いたとき、俺はまた絶望の淵に落とされたような感覚がした。
そこに。
「ああ、二人ともこんなところに。悪いんだけど、レムを知らない?」
ラムが姿を現した。
明らかに取り乱している俺と、話していた場所。
この二つがヒントとなったのか、ラムは「まさか」と表情を曇らせる。
「千里眼、開眼」
片目を隠したラムがそう呟く。
その瞬間に、ラムの顔の右目周辺が変貌した。
血管がびっしりと浮かび上がる。
驚愕して声を漏らす。
そんな俺をよそにラムは。
「.....見えない。そんな、まさかレム、結界の向こう⁉︎」
そのままラムは結界がはりなおされた森へと向かう。
俺はそれをラムの腕を掴むことで止める。
「待てよ!場所は分かるのか⁉︎」
「結界の中にさえ入れば.....止めないで、バルス!」
「止める気なんてさらさらねぇよ!.....ベアトリス!レムは、士道は本当に.....」
「.....あんたを救うために森の中に入っていったのよ」
はっきりとした言葉で言われた。
こうなったら、一刻を争う。
「確かに、レムは強いし狂三なんてそれ以上。士道も俺とは違って攻撃手段を持ってる.....。でも、俺の呪いが解呪できたってどうやって確かめるんだ。片っ端から殺して、それが俺に呪いをかけた相手であるとは限らねぇ。ただ単に闇雲ってレベルじゃねぇんだぞ⁉︎」
「どういうこと?バルスの呪いは解呪されたはずじゃ.....」
ラムの疑問に、ベアトリスが答えた。
俺の呪いが、複雑になって解呪できないことと、唯一の解呪法をラムにも話した。
それを聞いて、再び走ろうとするラム。
それをもう一度引き止める。
「バルス、離しなさい!」
「待てって!止める気はねぇって言っただろ!俺もいく。こんなところで一人でも欠けさせねぇ。絶対、全員で生き残る!」
待ってろよ。
行ってもう死んでました、なんて、もう沢山なんだよ!
自分の決意を示すように、俺は空を見上げた。