デートから始める異世界生活   作:シークレット/K

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遅くなりました。
今回は、全体的に戦闘回.....だと思います。
それではどうぞ。


第二十三話 逃走

魔獣の一匹を倒した俺たち。

だが、安堵した時間はそう長く続かなかった。

 

女の子の無事を確認した後、女の子には呪いがかかっていないこともあって、レムと狂三を待つことにした。

 

魔獣を倒す時に上がった息を整えて、一息つく。

その時、茂みが揺れる音が聞こえた。

一度は風の音かと思ったが、再び聞こえた。

その方角は、レム達と別れた方だ。

となると、来たのはレム達か。

 

「待ちくたびれたぜ.....あいにく、お前らの相手は残ってねぇよ」

 

スバルが言うが、茂みの奥で立ち止まる気配がする。

どうしたんだ、と思った次の瞬間、.....むせ返るような獣臭さが再び俺たちの嗅覚を支配した。

 

茂みが揺れて、奥から出てくる四足の影。

 

「おいおい、嘘だろ.....」

「これは.....本当にシャレにならないぞ.....」

「どうしますか、士道.....」

 

暗い夜の森の中、幻想のように浮かび上がる、赤い双眸。

その光点がおびただしい数.....数えきれないほど存在していた。

 

それがなんなのか。

そんなことはもう分かりきっていた。

 

「.....死んだな、これ」

 

スバルがそう呟いた。

実際、絶望的だ。

スバルは疲労が濃く、俺も体がボロボロ。

今のところレム達が来る気配もない。

それにもかかわらず、三十匹以上くらいいる魔獣。

 

今俺たちにできることと言ったら、女の子をかばうことくらいだろう。

最後の意地で<鏖殺公>を顕現して戦うにしても、すぐにでも限界がくる。

逃げても捕まる。

ここまで絶望的なことが他にあるだろうか?

 

仲間を失った怒りなのか、単純に獲物としてしか見ていないのか。

どちらでもいいが、濃密な殺気が俺たちを襲う。

 

だが、大人しく死ぬつもりはない。

再び<鏖殺公>を顕現する。

 

スバルが、大声で叫びながら魔獣に向かっていく。

同時に、魔獣達も飛びかかってくる。

 

「スバル、しゃがめぇぇぇぇ‼︎」

 

スバルがしゃがむのを見届けた後、<鏖殺公>を横薙ぎに振るう。

斬撃が飛び出し、魔獣の第一波を一刀両断した。

 

だが、その反動で体に声にならないほどの痛みが走る。

即座に回復の炎が俺を包む。

 

「大丈夫ですか、士道!」

「ああ.....」

 

鞠亜が心配してくる。

この絶望的な状況で大丈夫もなにもないが、少しでも安心させるように答える。

 

「一匹だけでも仕留めてやらぁーー‼︎」

 

俺の攻撃によって倒された魔獣を見て、少し冷静になったらしいスバルが、若干怯んでいた魔獣の一匹を蹴り上げた。

そして、その魔獣の顔面に上着を被せて視界を無くし、目処をつけていた鋭く尖ったちょうどいい大きさ、太さの倒木の破片を掴み、それを魔獣の顔面にぶち込む。

すると、魔獣はぐったりと動かなくなった。

 

その際、我に返った魔獣たちがスバルを狙うが、俺が前に出て立ち塞がる。

<鏖殺公>を振り、再び斬撃を飛ばす。

スバルもまた、飛びかかって来たさらなる魔獣の一匹を、さっき持っていた倒木の破片を突き出し、偶然にも顔面に当たって絶命させた。

 

だが、多勢に無勢。

未だに魔獣はたくさんいる。

一匹がスバルの方へと抜けていった。

 

「スバル.....!」

 

意識を逸らした瞬間に、俺にも三匹くらい迫って来た。

 

「士道!よそ見はダメです!」

「しまっ.....」

 

だが、魔獣の牙が、俺やスバルに届くことはなかった。

 

スバルの目前に迫っていた魔獣は頭部が破裂し、俺に迫っていた魔獣は頭に銃弾が突き刺さって失速。

 

これは、まさか。

 

「遅くなってしまい、申し訳ありませんわ」

「ですが、間に合ってよかったです」

 

狂三とレムが、戻ってきたのだ。

 

「タイミング良すぎだろ.....」

「ああ.....。でも、よかった.....」

 

力が抜けて、その場に座り込む俺たち。

 

「無理無茶はしないのではなかったのですの?」

「う.....。ごめん、二人とも。スバルを止められなかったんだ」

「いや、だって俺が出て行かなかったら女の子死んでたかもしれないんだぜ?後悔はしてねぇ」

「そうだな」

「それでも、スバルくん達が死んでしまったら元も子もないんです。少しは反省してください」

「「はい.....」」

 

怒られてしまった。

しかも、レムも狂三も戦いながらのことなので、本当に強いと思う。

 

「レムさんは右をお願いしますわ」

「では、狂三さんは左を」

「ええ、<刻々帝>(ザフキエル)<一の弾>(アレフ)

 

狂三がその場から消えたように早く動き始め、歩兵銃を急所に向けて撃つ。

レムも鬼の力を利用し、モーニングスターを振り、魔獣を頭、胴体諸共爆散させる。

 

だが、それも永遠には続かない。

レムにも狂三にも、体力の限界は必ずある。

だから、ここから逃げなければならない。

 

スバルが女の子を背負い、立ち上がる。

回復の炎によって<鏖殺公>を扱うことができるくらいになった俺は、<鏖殺公>を地面に突き刺し、それを支えにして立ち上がる。

 

レムと狂三がまた一体ずつ倒したのを最後に、一旦退く。

 

「準備はいいんですの?二人とも」

「ああ。この子は必ず村に送り届ける」

「大丈夫だ」

 

狂三が聞き、スバルが意気込み、俺も答える。

 

「では、行きますわよ。わたくしたち!」

 

その瞬間、狂三の分身体が大量に影から出てくる。

さらに狂三は<時喰みの城>を展開し、魔獣たちの動きを鈍らせる。

その隙に、魔獣の間を走り抜けて、一気に村の方へと向かう。

 

だがさすが魔獣と言うべきか、<時喰みの城>の中にいるのにもかかわらず、しっかりとした足どりで逃さまいと迫ってくる。

それを、レムと狂三が捌き、俺もたまに斬撃を飛ばして援護する。

 

暗く、足取りはおぼつかないが、それでもできるだけ速く走り続ける。

 

不意に、俺たちの目に、かすかな光が見えた。

言わずもがな、村の光だ.....!

 

「レム、士道、狂三!もうちょっとで村に.....結界に辿り着くぞ!」

「ああ.....!.....でも」

 

俺は、さっきからモーニングスターを操り続けるレムを見る。

銃で戦う狂三とは違い、体力を断然使う武器を操るレムは、血をかぶり、赤く染まっていた。

ところどころに、決して浅くない傷も負っている。

 

狂三の分身体によって魔獣の数が減り、負担が軽減されているが、それでも出てくる魔獣たちは決して少なくない。

 

「レム.....!」

「走ってください!私のことは気にせず!」

 

スバルが呼ぶ声にそう返すレム。

俺は、何かないか、と考える。

 

「.....狂三。スバルに<一の弾>を撃ってくれ。.....先に行かせ.....」

 

思いついた案を口にした、その時だった。

 

狂三の方を見て話していた俺は、その視界の片隅に、見覚えのあるあの仔犬を見つけた。

ずっと前を見て走っていたスバルは、もっと早くに気づいていたようだが。

 

そして、次の瞬間には、土砂流が迫ってきていた。

 

「くっ⁉︎」

「おおおああああ⁉︎」

 

俺は、<鏖殺公>を地面に突き刺して走っていた速度を急激に殺して真横に転がるようにして避ける。

スバルは、急ブレーキをかけて、横に進もうとするが間に合わず、レムによって弾き飛ばされることで、生き延びた。

女の子も、狂三も大丈夫だったようだ。

 

だが、スバルを飛ばして助けたレム自身は、無事では済まなかった。

一人土砂流に飲み込まれたレムは、地面に倒れていた。

 

無事.....だよな.....?

 

俺もスバルも狂三も、そろって顔を見合わせる。

再びレムに視線を向けた、その時。

濃密な殺気が、レムから発せられた。

 

そしてゆっくりと、レムは立ち上がった。

 

体を見ると、さっきまであった傷がふさがって行っている。

さらに、理性を失った瞳をしていた。

 

そんなレムを見て、俺にもスバルにも、不安がよぎったのだった。


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