なぜ遅れたのかというとですね.....。
普通に遊んでました、お正月。
今回は、少しだけ戦闘があります。
それでは、どうぞ。
俺たちは今、森の中で子供達を探し回っている。
未だに一人も見つかっていない。
暗く、木々が生い茂った道無き道を走っているせいで、体の所々に擦り傷や切り傷ができる。
「正直、こんだけ暗いのは予想外すぎた。レムも狂三も、よく大丈夫だな」
「森の中、山の中なら加護が働くので」
「士道さんは知っていると思いますが、わたくしは影を操ることもできますの。その関係か、夜目はよくききますのよ」
「やっぱり狂三だけ規格外じゃねぇか?士織」
「失礼ですわね、スバルさん。女性にはそういうことを言ってはいけないものですのよ?」
こんなに話していて大丈夫なのか、と思い始めた。
.....それにしても、暗い。
数メートル先すらも見えない状況で、レムや狂三を見失わないように走り続けるのはきつい。
不意に、二人が止まる。
それによって、俺たちの足も止まる。
今、俺たちは、レムの嗅覚に頼っている状況だ。
だから、レムが止まれば、俺たちも止まらなければならない。
「ーー!近い、生き物の臭いです」
レムが、顔を右に向けて言った。
「子供達の臭いか⁉︎」
「わかりません。ですが、獣臭くはありません」
「言ってみるしかないな」
「そうですわね」
「こっちです」
身を低くして駆け出すレムに続いて、走る。
レムと狂三が木々をなぎ倒して道を作り、俺とスバルはその道に沿って進む。
不意に、俺の視界が開けた。
森の中であることに変わりはないが、木々が一部ない所に出たのだ。
そして、その先には小高い丘が月明かりに照らされていて、そこには。
「子供達だ!」
スバルが叫ぶ。
見た目は五体満足でぐったりと寝転がる子供達がいた。
「生きてる!」
「本当か!.....よかった」
「.....いえ、今はまだ息はありますが、衰弱が酷すぎます。このままじゃ.....」
「衰弱というと.....」
「呪いか!」
よく見れば、子供達の顔は蒼白になっていて、汗がひどく、苦しい表情だ。
「どうにかできないのか、レム」
「レムの腕ではとても.....。せめて、姉様がこの場を見ていてくれていれば.....」
「くそっ!どうすればいいんだよ⁉︎」
子供達の様子を見て、スバルは焦る。
レムがダメとなると、狂三は.....。
そう思い視線を向けるが、狂三は首を横に振った。
「気休めでも癒しの魔法をかけます。スバルくんは子供達を一か所に集めて下さい」
「わかった」
「わたくしは辺りの警戒をしていますわ」
「ああ。俺も行く」
レムが、癒しの魔法を唱える。
青い光が子供達を包み、苦しげだった表情が穏やかなものへと変わり始めた。
正直、すごいと思った。
「これでも、気休めにしかなりません。根本的な所をどうにかしなければ.....」
「解呪、か。パックかベアトリスに頼るしかねぇな」
「どうするスバル。子供達を担いで行くか?」
「ああ、それしか.....」
その時。
「スバ、ル.....?」
と、子供の声が聞こえた。
「リュカか。お前は強い子だな。でも、無理すんな。すぐに屋敷に運んで、苦しいのとはさよならさせてやる。だから、今は大人しく休んで.....」
「一人、まだ奥に.....」
「おい、今なんてった?」
衝撃の言葉が聞こえて、思わず聞き返すスバルだったが、リュカはまた意識を失ったので、返事は来ない。
「スバル。気づいたよな?」
「ああ、士織。.....あのおさげの子が見あたらねぇ」
おさげの女の子。
今日、夕方に屋敷に帰る前に仔犬の所まで導いてくれた女の子だ。
その女の子が、いない。
「クソッタレ!」
スバルが悪態をつく。
リュカは、自分のことを顧みず、他人の、友達の安否を気にしたのだ。
俺は単純にすごいと思った。
だからこそ、あの女の子を絶対に助けて、リュカを安心させてやりたいと思った。
「レム。このまま癒しの魔法をかけ続けることで制限時間を伸ばすことは可能か?」
スバルがそう聞く。
「.....現状は可能です。ですが、本当にただの時間稼ぎにしかなりませんし、私はここにかかりっきりになってしまいます」
「いや、それで十分だ。.....みんな、聞いてくれ。この奥にもう一人、子供が連れてかれてる。俺は一人残らず助けたい。協力して、くれるか?」
そんなスバルの問いに、俺たちは満場一致で肯定の意を示した。
「レムと狂三は子供達を村まで運んでくれ。その後に飛んで戻ってきてくれればいい。
「じゃあ、俺たちが?」
「ああ、俺と士織で奥に行く。無理無茶はしないから、安心してくれ」
作戦は決まった。
後は実行するだけだ。
「.....すぐに戻ります」
「ああ」
「死んだら承知しませんわ」
「わかってる。.....絶対に死なない。約束しよう。レム、狂三」
「ちょっとそれ俺のセリフ!」
ここまで来たんだ。
死にたくないし、戻りたくもない。
「じゃあ、また後で」
スバルが言ったこの言葉で、俺達は走りだした。
さらに森の奥へと進む。
さっきまでとは違って、レムや狂三が道を作ってくれることがないため、雑草による切り傷が足に目立つようになっていく。
だが、その痛さを気にしている場合ではない。
「しお.....いや、こんな状況なんだ。ふざけてる場合じゃあないか。.....士道」
「なんだ?」
「あの仔犬が魔獣だとしたら、俺でも勝てそうな気がするんだけど、どう思う?」
「.....魔獣っていうくらいだし、でかくなったりとかするんじゃないか?」
「.....そうだよな.....」
色々と思考を回転させていると、ふいに違和感を感じて足を止める。
レムではなく、俺やスバルでもわかるほどの獣臭さが辺りに充満していた。
息を殺して木々の間からそっと覗くと、そこには、大型犬くらいの大きさの純粋なまでに脅威を抽出したような存在.....魔獣が、いた。
レムと狂三を待った方がいい。
そう判断した俺たちは、ゆっくりと音を立てずに離れようとした。
だが、スバルが、ふと止まった。
どうした、とスバルの目線の先を見ると、魔獣の傍らに一人の女の子が打ち捨てられていた。
「ーーう」
という、うめき声が聞こえたような気がした。
女の子は、まだ生きてる。
スバルを見ると、彼は拳を握っていた。
自分に我慢をしろ、と言い聞かせているように見えた。
だが、無理だったようだ。
スバルは執事服を脱ぎ、それを左腕に巻いた。
そして、俺が何をいう暇もなく、飛び出していった。
叫び、自分を奮い立たせながら。
「鞠亜!アシスト頼めるか⁉︎」
「お任せください、士道」
俺もスバルに続いて飛び出す。
絶対に死なないし、死なせない!
力を貸してくれ、<鏖殺公>!
すると、<鏖殺公>が現れた。
迷いなく掴み、魔獣に迫っていく。
「何を余裕かましてやがる!ほら、こい!こ.....」
スバルの声が聞こえなくなる。
理由は、魔獣が闇に紛れて消えたからだ。
「士道、スバルの足です!」
「スバル!足だ!」
「ッ!」
スバルが右足を一歩引くと同時に、その右足があったところを魔獣がかみくだいた。
一歩遅ければ、足は完璧に食べられていただろう。
「ざまぁみろぉぉぉッ!」
スバルはそのまま隙が出来た魔獣を全力で蹴りつけた。
そして、スバルは少し魔獣から離れる。
魔獣は怒り、牙を剥きだしにして、唸り声をあげる。
「スバル、一回もうちょっと離れろ!.....はぁぁぁァァッ!」
<鏖殺公>を振り、斬撃を飛ばす。
形を持った奇跡である天使のパワーは、魔獣を倒すのには十分すぎた。
魔獣は、一直線に斬れて、絶命した。
「痛.....」
だがやはり、天使を扱った影響で体はボロボロとなった。
「大丈夫か、士道」
「ああ。なんとか」
俺たちは、無事である女の子を見て、微笑みあった。